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河内正則・栄光への道  作者: リンダ


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62/107

四球から始まる攻撃

「四球から始まる攻撃」


一回表。


河内正則が鶴橋ライオンズの上位打線をわずか6球で三者凡退に抑えた。


そして一回裏。


大阪タイタンズの最初の攻撃が始まる。


鶴橋のマウンドには先発・大西晴斗。


一番・梶原和樹が右打席へ向かった。


一回裏 大阪タイタンズ

一番・梶原和樹


梶原は、最初から打ち急がなかった。


スコアラーの森下真央と新田絵里から、大西についての事前データは聞いている。


しかし、今日の大西がデータ通りとは限らない。


実際に打席へ立って、球筋を見る。


初球。


見送る。


二球目。


これも見る。


三球目。


梶原は少しだけ目を細めた。


球威はある。


だが、制球はかなりアバウトだった。


狙ったところからボール一個、二個とずれる。


さらにもう一つ気づく。


「ずっと全力やな……」


一球ごとに腕を強く振り、身体を大きく使う。


ほぼ常に全力投球。


これを続ければ、長いイニングでは必ず負担になる。


ならば、答えは簡単だった。


球数を投げさせる。


追い込まれてからも梶原は粘った。


ファウル。


またファウル。


ボール球には手を出さない。


八球目。


ファウル。


九球目。


見送る。


そして十球目。


外れた。


「ボール、フォア!」


梶原が一塁へ歩く。


10球粘って四球。


ノーアウト一塁。


ヒットはない。


だが大西は、まだ一つもアウトを取らないまま10球を使った。


二番・朝倉美羽


二番には朝倉美羽が入っていた。


美羽は打席へ入りながら守備位置を見る。


三塁手が少し後ろ。


一塁手も極端には前へ出ていない。


美羽が構える。


大西が投球動作へ入った瞬間――


バットを寝かせた。


「バント!」


セーフティバント。


三塁側へ絶妙に転がる。


三塁手・石田琉生が猛然と前へ出た。


梶原は二塁へ走る。


石田がボールをつかんだ。


一塁を見る。


だが美羽は速い。


一瞬迷う。


そして二塁へ送球した。


「セカンド!」


梶原が滑り込む。


送球がわずかに遅れた。


「セーフ!」


打者走者の美羽も一塁へ到達する。


フィルダースチョイス。


記録上、ヒットにはならない。


しかしタイタンズにとっては大きな結果だった。


ノーアウト一、二塁。


大西はまだアウトを一つも取れていない。


三番・加藤亜由美


三番・加藤亜由美。


亜由美が打席へ入る。


今度は確実に走者を進める。


送りバント。


大西が投げる。


亜由美が一塁側へ転がした。


一塁手が前へ出て処理する。


一塁へ送球。


「アウト!」


その間に梶原が三塁へ。


美羽が二塁へ。


ワンアウト二、三塁。


ここまで、タイタンズはまだ一本もヒットを打っていない。


しかし二人の走者が得点圏にいる。


四番・三宅奈緒


四番の奈緒が打席へ入った。


必要なのはホームランではない。


外野まで運べば一点。


奈緒がセンター方向へ打ち上げた。


センター・藤田悠生が下がる。


捕球。


「タッチアップ!」


三塁の梶原がスタート。


二塁の美羽も三塁を狙う。


センターから本塁へ返球される。


梶原がホームを駆け抜けた。


セーフ!


美羽も三塁へ到達。


三宅奈緒の犠牲フライ。


大阪タイタンズが先制した。


1-0。


ツーアウト三塁。


まだ大西は――


一本もヒットを打たれていない。


四球。


フィルダースチョイス。


送りバント。


犠牲フライ。


それだけで一点を失った。


大西の表情に、明らかな焦りが出た。


「打たれてへんのに……」


真央がすぐに気づく。


「投球間隔、速くなった」


絵里も記録する。


「制球もさらにばらついてる」


五番・藤原航


大西は三塁の美羽を意識する。


早く三つ目のアウトが欲しい。


しかし力が入る。


外れる。


また外れる。


藤原は手を出さない。


最後の球もストライクゾーンから外れた。


「フォアボール!」


藤原航、四球。


ツーアウト一、三塁。


そして藤原は、大西の投球モーションを見る。


大きい。


一塁走者への警戒も十分ではない。


大西が投球動作へ。


藤原がスタート。


「走った!」


捕手・片岡陸が二塁へ送球する。


しかし三塁には美羽がいる。


本塁も警戒しなければならない。


藤原が二塁へ滑り込んだ。


「セーフ!」


盗塁成功。


ツーアウト二、三塁。


六番・宮本さくら


さくらが打席へ入る。


大西は明らかに苦しくなっていた。


それでも三つ目のアウトを取れば、この回を一点で終えられる。


投球。


さくらがセンター方向へ振り抜いた。


「カキーン!」


この回、タイタンズ初のクリーンヒット。


打球がセンター前へ落ちる。


三塁の美羽が生還。


2-0!


二塁の藤原も三塁を回りかけるが、センターが素早く処理したのを見てストップ。


ツーアウト一、三塁。


タイタンズがもう一点を追加した。


ここまで大西が許したヒットは、ようやく一本。


それでもスコアは2-0。


七番・川上眞子


眞子も簡単には終わらせなかった。


大西の球数を増やす。


ボール。


ストライク。


ファウル。


またファウル。


追い込まれても粘る。


大西が投げる。


眞子がカット。


さらに投げる。


またファウル。


八球目。


まだ終わらない。


九球目。


大西が息を整える。


そして――


十球目。


眞子が振り抜いた。


打球は三塁へ。


三塁手・石田が捕球。


一塁へ送る。


「アウト!」


スリーアウト。


一回裏終了


大阪タイタンズ、2点先制。


鶴橋ライオンズ 0-2 大阪タイタンズ。


この回、大西晴斗が投じた球数は――


40球。


鶴橋ベンチが静かになる。


一方、タイタンズのスコアラー席では真央と絵里がすでに数字を整理していた。


真央が言う。


「一回で40球」


絵里が続ける。


「しかもタイタンズのヒットは、さくらのセンター前一本だけ」


それでも二点。


先頭・梶原が10球粘って四球。


美羽のセーフティバントがフィルダースチョイスとなり、ノーアウト一、二塁。


亜由美が送りバント。


奈緒が犠牲フライ。


藤原が四球を選び、盗塁。


さくらがセンター前へタイムリーヒット。


そして眞子が10球粘る。


タイタンズは、ただ打って点を取ったのではない。


大西にアウト一つを取らせるたび、体力を削った。


一回だけで40球。


常に全力に近いフォームで投げる大西にとって、この数字は重い。


ベンチへ戻った梶原がヘルメットを外した。


「やっぱり長くは投げさせられへんと思う」


真央が答える。


「同感。二回以降も早打ちは必要ない」


川原監督もうなずいた。


「ただし、甘い球まで見逃すな。粘ることが目的になったらあかん。打てる球は打つ。そのうえで、ボール球には手ぇ出すな」


その言葉を聞きながら、正則がグラブを手にした。


二点の援護。


しかし相手はチーム打率.310。


ここまで何度も、失点を打線で取り返してきた鶴橋ライオンズだ。


しかも二回表は――


四番から始まる。


正則がマウンドへ歩き出した。


まだ、おちょくりスローボールは一球も使っていない。


次回予告

第○話「四番からの鶴橋」


一回終了。


大阪タイタンズ、2-0。


わずか一本のヒットで二点。


一方、鶴橋先発・大西晴斗は、一回だけで40球を費やした。


しかし鶴橋の最大の武器は投手ではない。


チーム打率.310を誇る打線。


二回表は四番・岡田大翔から。


ここからが鶴橋打線の中核。


そして河内正則は、まだ60キロ前後のおちょくりスローボールを一球も投げていない。


145キロを記録した速球との速度差は最大80キロ以上。


だが川原監督からは、多投するなと釘を刺されている。


いつ使うのか。


誰に使うのか。


それとも、まだ使わないのか。


次回、


「四番からの鶴橋」


打撃のライオンズが、いよいよ牙をむく。

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