決勝プレーボール
「決勝プレーボール」
大阪府大会決勝。
大阪タイタンズ対鶴橋ライオンズ。
勝ったチームが全国大会へ進む。
準決勝までの数字を見れば、両チームの性格は対照的だった。
鶴橋ライオンズのチーム打率は**.310**。チーム防御率は3.85。
大阪タイタンズのチーム打率は**.285**。チーム防御率は1.98。
点を取られても、それ以上に打ち返してきた鶴橋。
投手陣を中心とした守りで相手の得点を抑えてきたタイタンズ。
先攻は鶴橋ライオンズ。
後攻は大阪タイタンズ。
試合開始を前に、両チームのベンチ入り選手が発表された。
鶴橋ライオンズ ベンチ入り選手
先発
打順
選手
守備
1
藤田悠生
中堅手
2
西川颯太
二塁手
3
高瀬蓮
遊撃手
4
岡田大翔
一塁手
5
宮原航平
左翼手
6
石田琉生
三塁手
7
森川拓海
右翼手
8
片岡陸
捕手
9
大西晴斗
投手
控え
選手
主なポジション・役割
松田蒼真
投手
北村怜央
投手
久保田悠真
投手・外野手
山崎海斗
捕手
小野寺颯
内野手
福本大河
内野手
吉川蓮司
内野手
中谷航
外野手
前田陽向
外野手
杉本琉偉
外野手・代走
木下悠斗
内外野・代打
鶴橋は一番から九番まで、どこからでも得点につなげられる打線を持つ。
特に特徴的なのは、速球への対応力だった。
これまで対戦したチームの投手が力勝負を挑むと、一巡目で球速を確認し、二巡目からタイミングを修正する。
そして甘く入った速球を一気に仕留める。
その積み重ねが、チーム打率.310という数字につながっていた。
大阪タイタンズ ベンチ入り選手
先発
打順
選手
守備
1
梶原和樹
中堅手
2
加藤亜由美
二塁手
3
朝倉美羽
三塁手
4
三宅奈緒
一塁手
5
藤原航
捕手
6
宮本さくら
右翼手
7
川上眞子
遊撃手
8
村瀬涼太
左翼手
9
河内正則
投手
控え
選手
主なポジション・役割
池永智雄
投手
星野慎一
投手
有村恒一郎
捕手
松浦悠斗
内野手
石川拓海
内野手
長谷川颯真
内野手
西岡蓮
外野手
藤本海翔
外野手
坂口大地
外野手
中井悠真
内外野・代走
相原颯太
外野手・代走
スコアラーは森下真央と新田絵里。
二人は決勝前までに、鶴橋のスタメンだけでなく、控え選手まで徹底的に調べていた。
代打で出てくる可能性の高い選手。
初球から振る選手。
追い込まれると右方向を意識する選手。
バントを得意とする選手。
代走として起用される可能性のある選手。
投手についても同様だった。
先発・大西晴斗。
二番手候補の松田蒼真。
北村怜央。
投手兼外野手の久保田悠真。
球速だけではなく、カウント別の球種、走者を背負ったときの配球、疲労したときに甘くなりやすいコースまで共有されている。
川原監督は最後に選手たちへ言った。
「決勝はスタメン九人だけで戦う試合やない。途中から出る一人が試合を決めることもある。全員、頭に入れとけ」
控え選手たちも真剣な表情でうなずいた。
そして投手陣には、もう一つ重要なデータが伝えられていた。
鶴橋は速球に強い。
だからといって、速球を捨てる必要はない。
重要なのは、同じ速度、同じ高さ、同じコースを続けないことだった。
正則が監督に聞いた。
「おちょくりスローボール、行きますか?」
川原監督は即答した。
「使え。ただし、多投はするな」
「はい」
「効くからいうて何球も続けたら、それに目が慣れる。いつ来るか分からん状態にしとけ」
140キロ前後の速球。
そして60キロ前後の超スローボール。
最大で80キロ近い速度差。
だが、それだけが正則の武器ではない。
内角。
外角。
高め。
低め。
速球そのものにも速度差をつける。
打者に狙いを絞らせない。
それが決勝の基本方針だった。
試合開始
両チームがグラウンドへ並んだ。
「お願いします!」
一礼。
タイタンズの選手たちがそれぞれの守備位置へ走っていく。
二塁には亜由美。
三塁には美羽。
遊撃には眞子。
一塁には奈緒。
外野は左から村瀬、梶原、さくら。
藤原航がマスクをかぶる。
そしてマウンドへ向かったのは――
河内正則。
正則はプレート付近の土を足で軽くならした。
ロージンバッグに触れる。
藤原を座らせ、軽く投げ込んだ。
一球。
二球。
三球。
腕が自然に振れる。
余計な力も入っていない。
藤原から返ってきたボールを受け取った正則が、肩を軽く回した。
「うん。今日も肩が軽い」
すると二塁から声が飛んできた。
「おーい、正則〜!」
正則が振り向いた。
亜由美がグラブを振っている。
「気負いすぎたらあかんで〜!」
正則も笑って返した。
「任せとけ〜!」
「その返事が一番心配やねん!」
内野から笑いが起こった。
だが、打者が打席へ入ると空気が変わった。
一回表 鶴橋ライオンズ
一番・藤田悠生。
チーム打率.310を誇る強力打線の先頭打者。
藤原がしゃがむ。
ミットを外角低めへ。
正則がセットポジションに入った。
決勝戦。
最初の一球。
正則の右腕が振り抜かれた。
ボールが一直線にミットへ飛び込む。
「ズバッ!」
外角低めいっぱい。
「ストライク!」
そして球速表示が出た。
145キロ。
鶴橋ベンチがざわついた。
「速っ!」
「145?」
「めっちゃ速いやん!」
正則自身の最速だった。
亜由美も二塁からスコアボードを見る。
「いきなり自己最速出しとるやん……」
だが正則本人は淡々としていた。
145キロをもう一度投げる必要はない。
二球目。
今度は120キロ台。
内角へ。
藤田が振った。
「カッ!」
完全に詰まった。
打球は二塁上空へ。
亜由美が数歩下がる。
「オーライ!」
捕球。
セカンドフライ。
ワンアウト。
二球で一人。
二番・西川颯太
西川は先ほどの145キロを頭に入れて打席へ入った。
しかし正則は同じ速度を続けない。
初球。
130キロ前後。
外角高めいっぱい。
「ストライク!」
西川の目線が外へ向く。
二球目。
今度は内角。
高さも変える。
西川が振った。
鈍い音。
完全に差し込まれた。
三塁側へ力のないフライが上がる。
美羽が前へ出た。
「オーライ!」
捕球。
サードフライ。
ツーアウト。
ここまでわずか四球。
三番・高瀬蓮
鶴橋の三番打者が打席へ入る。
速球への対応力ではチームでも上位。
高瀬はマウンドの正則をじっと見る。
145キロ。
120キロ台。
130キロ前後。
同じ速球系だけで、すでに20キロ以上の幅がある。
しかも内外角だけではない。
高さまで変えている。
何より――
まだ、あの60キロ前後の超スローボールを一球も使っていない。
正則が五球目を投じる。
外角。
高瀬が振る。
「カッ!」
ファウル。
ストライク。
藤原がボールを返す。
正則が受け取る。
六球目。
藤原のミットは内角。
正則が投げ込んだ。
高瀬が振る。
「カキッ!」
詰まった。
打球が一塁側へ高く上がる。
奈緒が落下地点へ入った。
グラブを構える。
捕球。
「アウト!」
スリーアウト。
わずか六球
一番・藤田悠生。
セカンドフライ。
二番・西川颯太。
サードフライ。
三番・高瀬蓮。
ファーストフライ。
三者凡退。
しかも三人とも詰まった内野フライ。
河内正則。
一回表を――
わずか6球。
森下真央がすぐに記録する。
新田絵里は球速、コース、打球方向を書き込んでいく。
145キロ。
120キロ台。
130キロ前後。
外角低め。
内角。
外角高め。
さらに高さを変えながら、ストライクゾーンを目いっぱい使った。
そして二人が共通して注目したことがある。
真央が記録用紙へ書き込む。
超スローボール使用数――0球。
絵里が小さく言った。
「まだ見せてない」
真央もうなずいた。
「それでいい」
鶴橋は速球に強い。
だからこそ、最初から超スローに頼らない。
まず速球だけでも速度とコースを変えれば、これだけ抑えられることを確認する。
正則がベンチへ戻ってきた。
亜由美がその隣を歩く。
「正則」
「ん?」
「145キロって何なん?」
「知らん。出た」
「自分の球やろ」
「肩軽かったから」
「軽いで済ませる速度ちゃうわ!」
正則が笑った。
しかしベンチへ入ると、すぐに表情を戻した。
試合はまだ一回表が終わっただけ。
鶴橋は一巡目で投手を観察し、二巡目から修正してくるチームだ。
六球で終わったからといって、このまま七回まで続く保証などない。
そして今度は――
タイタンズが攻撃する番だった。
一回裏。
先頭は一番・梶原和樹。
鶴橋の先発、大西晴斗がマウンドへ向かう。
打撃の鶴橋。
投手力のタイタンズ。
全国大会への最後の七イニングは、まだ始まったばかりだった。
次回予告
第○話「四球から始まる攻撃」
一回表。
河内正則、自己最速145キロ。
それでも力任せにはならない。
120キロ台から130キロ前後の速球を織り交ぜ、内外角と高低を目いっぱい使う。
結果は三者連続の内野フライ。
わずか6球。
しかも、おちょくりスローボールはまだ一球も投げていない。
迎える一回裏。
鶴橋ライオンズの先発は大西晴斗。
防御率3.85という数字だけを見て、簡単に打てると考えてはいけない。
真央と絵里から共有されたデータを頭に入れ、一番・梶原和樹が打席へ向かう。
全国への最後の一戦。
今度は大阪タイタンズ打線が、最初の一点を奪いにいく。
次回、
「四球から始まる攻撃」
決勝戦。
先制点を巡る攻防が始まる。




