56球の代償
「56球の代償」
二回を終えて、神崎拓海の球数は56球。
大阪タイタンズが奪った得点は、まだ一点だけだった。
しかし、その一点のために神崎は二回で56球を投げている。
対するタイタンズ先発・池永智雄は、力感のないフォームから伸びのある速球を内外角へ投げ分けていた。
二回裏。
天王寺は四番・城戸大雅からの攻撃。
長打力のある城戸に対し、智雄と藤原航のバッテリーは慎重に入った。甘い内角には絶対に投げない。外角を中心に、高さも変えて的を絞らせない。
城戸は強振したものの、打球はセンターへのフライ。
ワンアウト。
五番・松永航平には内角を見せてから外角へ。
打球はショートゴロとなり、川上眞子が処理する。
ツーアウト。
六番打者も粘ってきたが、最後は伸びのある速球で詰まらせた。
セカンドゴロ。
宮本さくらが一塁へ送ってスリーアウト。
天王寺は二回も無得点。
大阪タイタンズ 1-0 天王寺ゴールデンスターズ。
試合は三回へ入った。
三回表 大阪タイタンズ
先頭は八番・村瀬涼太。
神崎は三回も続投する。
だが、タイタンズの作戦は何一つ変わっていなかった。
際どい球はカットする。
ボール球を見極める。
甘い球以外は無理に打ちにいかない。
村瀬もファウルで粘った。
追い込まれてからも外角球をカット。
内角の厳しい球にも食らいつく。
神崎が投げても、投げても、打席が終わらない。
そして最後は外角へ外れた。
「ボール、フォア!」
村瀬が一塁へ歩く。
ノーアウト一塁。
タイタンズが、この回も先頭打者を出した。
続く九番。
ここでタイタンズは、さらに神崎を揺さぶる。
打者はすぐにはバントの構えを見せない。
初球。
ストライク。
二球目。
ボール。
三球目。
ファウル。
1-2。
四球目をカット。
五球目。
低めへ外れてボール。
2-2。
そして六球目。
神崎が投球動作に入った瞬間――
一塁走者の村瀬がスタートした。
「走った!」
藤原航もベンチから身を乗り出す。
神崎の投球を捕手が捕る。
すぐさま二塁送球。
村瀬が滑り込む。
「セーフ!」
盗塁成功。
ノーアウト二塁。
カウントは六球目がボールとなり、3-2。
そして七球目。
九番打者がバントの構え。
神崎が投げる。
一塁側へ転がした。
神崎がマウンドを降りて処理する。
一塁へ送球。
アウト。
その間に村瀬は三塁へ。
送りバント成功。
ワンアウト三塁。
タイタンズが、また一つずつ塁を進めてきた。
一番 梶原和樹
一回の第一打席では8球を投げさせた梶原。
今度は三塁に走者がいる。
内野は一点を防ぐ態勢を取る。
梶原は初球から飛びつかない。
神崎の球を見極めながら、打てる球を待った。
そしてストライクゾーンへ入ってきた球を振り抜いた。
打球はセンターへ高く上がった。
センター・藤崎陸が後退する。
三塁の村瀬がベースへ戻る。
藤崎が捕球。
「タッチアップ!」
村瀬がスタート。
センターから本塁へ返球される。
村瀬がホームへ滑り込んだ。
「セーフ!」
犠牲フライ。
大阪タイタンズ、追加点。
2-0。
ヒットを連ねたわけではない。
四球。
盗塁。
送りバント。
犠牲フライ。
それだけで一点を奪った。
ツーアウト、走者なし。
二番 宮本さくら
神崎が投げる。
さくらも狙い球を絞る。
外角。
内角。
神崎は慎重にコースを突いてくる。
そしてストライクゾーンへ入った球を、さくらが振り抜いた。
鋭い打球がライト方向へ飛ぶ。
しかし――
ライト・松永航平の正面。
松永が捕球した。
ライトライナー。
スリーアウト。
三回表終了
大阪タイタンズ 2-0 天王寺ゴールデンスターズ。
タイタンズは、この回も大量点を狙わなかった。
八番・村瀬がファウルで粘って四球。
盗塁で二塁。
九番の送りバントで三塁。
一番・梶原の犠牲フライで生還。
わずか一本の安打もなく、一点を追加した。
ベンチへ戻ってきた選手たちを、川原監督が迎える。
「それでええ。一点ずつや」
真央と絵里は、神崎の投球データを更新していた。
三回に入って、球速そのものに大きな低下はない。
だが、投球数が増えるにつれて、リリースポイントにわずかなばらつきが出始めている。
そして試合前から注目していた内角。
真央が画面を拡大した。
「やっぱり少しずつ中に入ってきてる」
絵里もうなずく。
「一回より増えてる」
まだ神崎は崩れていない。
タイタンズが奪ったのも二点だけ。
だが、毎回のように粘られ、ファウルを打たれ、走者を動かされる。
防御率1.56の投手陣を力任せに打ち崩すのではない。
一球ずつ削る。
その作戦が、少しずつ神崎に重くのしかかり始めていた。
次回予告
第○話「内角が甘くなる」
三回を終えて、タイタンズが2-0とリード。
四球。
盗塁。
送りバント。
犠牲フライ。
ヒットなしで奪った二点目だった。
しかし天王寺も、これ以上の失点は許されない。
神崎拓海を続投させるのか。
それとも、タイプの異なる二人目を投入するのか。
一方、タイタンズ先発・池永智雄にも、天王寺打線が二巡目を迎える。
一巡目で見せた球。
まだ見せていない球。
そして、あの60キロ前後の超スローボール。
両ベンチの読み合いが、さらに深くなっていく。
次回、
「内角が甘くなる」
全国大会まで、あと二勝。




