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河内正則・栄光への道  作者: リンダ


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55/107

56球の代償

「56球の代償」


二回を終えて、神崎拓海の球数は56球。


大阪タイタンズが奪った得点は、まだ一点だけだった。


しかし、その一点のために神崎は二回で56球を投げている。


対するタイタンズ先発・池永智雄は、力感のないフォームから伸びのある速球を内外角へ投げ分けていた。


二回裏。


天王寺は四番・城戸大雅からの攻撃。


長打力のある城戸に対し、智雄と藤原航のバッテリーは慎重に入った。甘い内角には絶対に投げない。外角を中心に、高さも変えて的を絞らせない。


城戸は強振したものの、打球はセンターへのフライ。


ワンアウト。


五番・松永航平には内角を見せてから外角へ。


打球はショートゴロとなり、川上眞子が処理する。


ツーアウト。


六番打者も粘ってきたが、最後は伸びのある速球で詰まらせた。


セカンドゴロ。


宮本さくらが一塁へ送ってスリーアウト。


天王寺は二回も無得点。


大阪タイタンズ 1-0 天王寺ゴールデンスターズ。


試合は三回へ入った。


三回表 大阪タイタンズ


先頭は八番・村瀬涼太。


神崎は三回も続投する。


だが、タイタンズの作戦は何一つ変わっていなかった。


際どい球はカットする。


ボール球を見極める。


甘い球以外は無理に打ちにいかない。


村瀬もファウルで粘った。


追い込まれてからも外角球をカット。


内角の厳しい球にも食らいつく。


神崎が投げても、投げても、打席が終わらない。


そして最後は外角へ外れた。


「ボール、フォア!」


村瀬が一塁へ歩く。


ノーアウト一塁。


タイタンズが、この回も先頭打者を出した。


続く九番。


ここでタイタンズは、さらに神崎を揺さぶる。


打者はすぐにはバントの構えを見せない。


初球。


ストライク。


二球目。


ボール。


三球目。


ファウル。


1-2。


四球目をカット。


五球目。


低めへ外れてボール。


2-2。


そして六球目。


神崎が投球動作に入った瞬間――


一塁走者の村瀬がスタートした。


「走った!」


藤原航もベンチから身を乗り出す。


神崎の投球を捕手が捕る。


すぐさま二塁送球。


村瀬が滑り込む。


「セーフ!」


盗塁成功。


ノーアウト二塁。


カウントは六球目がボールとなり、3-2。


そして七球目。


九番打者がバントの構え。


神崎が投げる。


一塁側へ転がした。


神崎がマウンドを降りて処理する。


一塁へ送球。


アウト。


その間に村瀬は三塁へ。


送りバント成功。


ワンアウト三塁。


タイタンズが、また一つずつ塁を進めてきた。


一番 梶原和樹


一回の第一打席では8球を投げさせた梶原。


今度は三塁に走者がいる。


内野は一点を防ぐ態勢を取る。


梶原は初球から飛びつかない。


神崎の球を見極めながら、打てる球を待った。


そしてストライクゾーンへ入ってきた球を振り抜いた。


打球はセンターへ高く上がった。


センター・藤崎陸が後退する。


三塁の村瀬がベースへ戻る。


藤崎が捕球。


「タッチアップ!」


村瀬がスタート。


センターから本塁へ返球される。


村瀬がホームへ滑り込んだ。


「セーフ!」


犠牲フライ。


大阪タイタンズ、追加点。


2-0。


ヒットを連ねたわけではない。


四球。


盗塁。


送りバント。


犠牲フライ。


それだけで一点を奪った。


ツーアウト、走者なし。


二番 宮本さくら


神崎が投げる。


さくらも狙い球を絞る。


外角。


内角。


神崎は慎重にコースを突いてくる。


そしてストライクゾーンへ入った球を、さくらが振り抜いた。


鋭い打球がライト方向へ飛ぶ。


しかし――


ライト・松永航平の正面。


松永が捕球した。


ライトライナー。


スリーアウト。


三回表終了


大阪タイタンズ 2-0 天王寺ゴールデンスターズ。


タイタンズは、この回も大量点を狙わなかった。


八番・村瀬がファウルで粘って四球。


盗塁で二塁。


九番の送りバントで三塁。


一番・梶原の犠牲フライで生還。


わずか一本の安打もなく、一点を追加した。


ベンチへ戻ってきた選手たちを、川原監督が迎える。


「それでええ。一点ずつや」


真央と絵里は、神崎の投球データを更新していた。


三回に入って、球速そのものに大きな低下はない。


だが、投球数が増えるにつれて、リリースポイントにわずかなばらつきが出始めている。


そして試合前から注目していた内角。


真央が画面を拡大した。


「やっぱり少しずつ中に入ってきてる」


絵里もうなずく。


「一回より増えてる」


まだ神崎は崩れていない。


タイタンズが奪ったのも二点だけ。


だが、毎回のように粘られ、ファウルを打たれ、走者を動かされる。


防御率1.56の投手陣を力任せに打ち崩すのではない。


一球ずつ削る。


その作戦が、少しずつ神崎に重くのしかかり始めていた。


次回予告


第○話「内角が甘くなる」


三回を終えて、タイタンズが2-0とリード。


四球。


盗塁。


送りバント。


犠牲フライ。


ヒットなしで奪った二点目だった。


しかし天王寺も、これ以上の失点は許されない。


神崎拓海を続投させるのか。


それとも、タイプの異なる二人目を投入するのか。


一方、タイタンズ先発・池永智雄にも、天王寺打線が二巡目を迎える。


一巡目で見せた球。


まだ見せていない球。


そして、あの60キロ前後の超スローボール。


両ベンチの読み合いが、さらに深くなっていく。


次回、


「内角が甘くなる」


全国大会まで、あと二勝。

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