投手戦
1回裏 大阪タイタンズの攻撃
岸和田キャッスルズの先発は――
御堂悠真
右オーバースロー。
試合前の分析通り、
* 回転数の多いストレート
* 内角へ鋭く食い込む球
* 外角へ伸びてくる軌道
が武器の本格派だった。
マウンドへ向かう姿には、強豪のエースらしい落ち着きがある。
捕手・柴崎亮がミットを構える。
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打席には1番・梶原和樹。
初球。
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ズバァン!!
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球場がどよめく。
梶原が思わず目を見開く。
(……伸びるっ!!)
数字以上に速く感じる。
まるで最後にホップしてくるような軌道。
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二球目。
今度は内角。
鋭く食い込んでくる。
梶原はなんとかカット。
だが、完全に押されている。
0-2。
追い込まれる。
三球目。
外角低め。
振った。
しかしバットの先。
打球はセカンドゴロ。
ワンアウト。
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2番・宮本さくら。
小柄な体を少し沈め、集中して構える。
ベンチから真央が呟く。
「さくら、球見えてます」
だが御堂は簡単に甘い球を投げない。
初球、外角いっぱい。
ストライク。
二球目、インロー。
ファウル。
岸和田バッテリーは、完全に内外を使い分けている。
さくらは粘る。
五球目。
高めの速球。
振り抜く。
だが――
打球はライトへの浅いフライ。
藤堂陸が前進して捕球。
ツーアウト。
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3番・朝倉美羽。
強肩を活かしてサード起用された女子選手。
だが打撃も鋭い。
御堂は、美羽相手にも容赦なく攻める。
初球。
内角高め。
美羽、のけぞりながら避ける。
「うわっ……!」
かなり厳しいコース。
二球目。
今度は外角低め。
見逃し。
ストライク。
完全に翻弄されている。
美羽はバットを短く持ち直す。
(食らいつけ……!)
三球目。
真ん中高め。
振り抜く。
しかし――
詰まった。
打球はショート正面。
高瀬蓮が落ち着いて捕球し、一塁送球。
スリーアウトチェンジ。
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タイタンズ
1回裏、三者凡退。
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タイタンズベンチ。
亜由美が思わず言う。
「……めっちゃ球伸びてへん?」
藤原航も険しい顔。
「回転数、高いな」
真央がデータを見ながらうなずく。
「予想以上です」
「特に高めが浮き上がって見えてます」
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一方、岸和田ベンチ。
御堂は淡々としていた。
だが柴崎が笑う。
「タイタンズでも簡単には打てへんやろ」
御堂は静かにうなずく。
「こっちも、負ける気ないからな」
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準々決勝は、予想通り――
完全な投手戦の空気になり始めていた。
2回表開始前 タイタンズベンチ
1回を終えて、両チーム無得点。
だが、空気はすでに張り詰めていた。
岸和田の打者たちは、明らかに狙いを絞ってきている。
そして御堂の球は、想像以上に厄介。
そんな中――
ベンチの奥では、
森下真央
新田絵里
二人のスコアラーが、必死にデータを整理していた。
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真央がタブレットを高速で操作する。
「……やっぱりです」
絵里が横から覗き込む。
「何かわかった?」
真央が画面を拡大する。
そこには、御堂の投球コース図。
赤い点が、高め外角付近へ集中している。
「高めのストレート、回転数がかなり高いです」
「しかもリリース位置が少し前」
絵里もうなずく。
「だから“浮き上がる”ように見えるんだ」
さらに映像をスロー再生。
真央が止める。
「あとこれ」
「内角に来る時、腕の振りがほんの少し強い」
「だから食い込んで見える」
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その会話を、藤原航と正則が聞いていた。
航が言う。
「つまり?」
真央が即答する。
「高めを無理に振ると差し込まれます」
「逆に、低めはそこまで強くない」
絵里が補足する。
「あと、変化をつけたい時だけ、グラブを握り直してます」
正則が目を細める。
「クセか」
「はい」
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川原監督も近づいてくる。
「何かわかったか?」
真央が画面を見せる。
「御堂投手、追い込むまでは高め主体です」
「でもカウント不利になると、外低めへ逃げたがる傾向があります」
絵里がさらに続ける。
「あと、ランナー出るとセットが少し速くなります」
「タイミング取りやすくなるかも」
監督がニヤッと笑う。
「よし」
「かなり見えてきたな」
⸻
一方その頃。
岸和田ベンチでも分析が続いていた。
柴崎亮が言う。
「星野、外角低めを見せてからインハイ来ます」
「狙うなら初球」
だが監督は険しい顔。
「いや……」
「簡単には来んぞ」
タイタンズ側にも、間違いなく“頭脳”がいる。
それを感じ始めていた。
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ベンチに戻った星野慎一がタオルで汗を拭く。
真央が資料を渡す。
「岸和田、インハイかなり振ってきます」
星野が目を通す。
「なるほど」
「じゃあ逆に、低め増やす」
航も笑う。
「完全に読み合いやな」
⸻
グラウンドでは、2回表開始のアナウンス。
投手戦。
だがその裏では、
スコアラーたちによる“頭脳戦”も、激しく火花を散らしていた。
岸和田ベンチ
1回、攻撃を終えても、岸和田打線はまだ星野を捉えきれない。
だが――
岸和田側にも優秀な分析班がいた。
ベンチ裏。
スコアラーたちがノートPCとタブレットを並べ、必死に映像を解析している。
「星野、リリース位置ほぼ一定です」
「外低め見せてから、インハイ率上がります」
「初球ストライク率、かなり高い」
データが次々とホワイトボードへ書き込まれていく。
柴崎亮も画面を見ながら言う。
「タイタンズ、完全に配球で崩しに来てるな」
監督が腕を組む。
「でも攻略できんわけちゃう」
「インコースを振り負けるな」
「高めを叩け」
⸻
さらに。
岸和田の分析班は、タイタンズ投手陣のデータを細かく分類していく。
河内正則
* 内外の出し入れ型
* 決め球はインハイ速球
* カウント有利で低め増加
星野慎一
* 高回転ストレート主体
* 高低差を使う
* テンポ速い
ここまでは、かなり正確だった。
だが――
彼らは一つだけ、重大なポイントを見逃していた。
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池永智雄
あの男の、
“超スローボール”
の存在を。
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試合前。
タイタンズベンチでは、川原監督が投手陣に念押ししていた。
「智雄」
「絶対、見せるなよ」
智雄が静かにうなずく。
「はい」
「キャッチボールでも使うな」
「あれ見られたら終わる」
正則も笑いながら言う。
「初見殺しやからな、あれ」
星野も苦笑い。
「あんな60キロ見せられてから140キロ来たら、頭バグる」
航がミットを持ちながら言う。
「しかもフォーム同じやしな」
そう。
最大の恐ろしさはそこだった。
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智雄は、
* 超スローボール
* 140キロ近い速球
を、
“まったく同じフォーム”
から投げる。
さらに。
* プレートの左右いっぱいを使う
* 内外角へ投げ分ける
* 高低差も使う
ため、打者のタイミング感覚を完全に破壊する。
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だが岸和田は、
その“切り札”の存在をまだ知らない。
データにも出てこない。
なぜならタイタンズは、
本当に必要な場面まで隠していたから。
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真央が小さく呟く。
「……岸和田、智雄の本当の怖さ知らない」
絵里もうなずく。
「もし終盤で投入されたら、かなり混乱すると思う」
川原監督がニヤリと笑った。
「野球はな」
「情報戦でもあるんや」
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その頃。
岸和田ベンチでは、監督が選手へ指示を飛ばしていた。
「タイタンズの継投、絶対どこかで正則来るぞ」
「その前に点取る」
誰もまだ知らない。
本当に恐ろしい“変化球”は、
まだベンチで静かに肩を温めているだけだということを。




