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河内正則・栄光への道  作者: リンダ


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43/49

投手戦

1回裏 大阪タイタンズの攻撃


岸和田キャッスルズの先発は――


御堂悠真


右オーバースロー。


試合前の分析通り、


* 回転数の多いストレート

* 内角へ鋭く食い込む球

* 外角へ伸びてくる軌道


が武器の本格派だった。


マウンドへ向かう姿には、強豪のエースらしい落ち着きがある。


捕手・柴崎亮がミットを構える。



打席には1番・梶原和樹。


初球。



ズバァン!!



球場がどよめく。


梶原が思わず目を見開く。


(……伸びるっ!!)


数字以上に速く感じる。


まるで最後にホップしてくるような軌道。



二球目。


今度は内角。


鋭く食い込んでくる。


梶原はなんとかカット。


だが、完全に押されている。


0-2。


追い込まれる。


三球目。


外角低め。


振った。


しかしバットの先。


打球はセカンドゴロ。


ワンアウト。



2番・宮本さくら。


小柄な体を少し沈め、集中して構える。


ベンチから真央が呟く。


「さくら、球見えてます」


だが御堂は簡単に甘い球を投げない。


初球、外角いっぱい。


ストライク。


二球目、インロー。


ファウル。


岸和田バッテリーは、完全に内外を使い分けている。


さくらは粘る。


五球目。


高めの速球。


振り抜く。


だが――


打球はライトへの浅いフライ。


藤堂陸が前進して捕球。


ツーアウト。



3番・朝倉美羽。


強肩を活かしてサード起用された女子選手。


だが打撃も鋭い。


御堂は、美羽相手にも容赦なく攻める。


初球。


内角高め。


美羽、のけぞりながら避ける。


「うわっ……!」


かなり厳しいコース。


二球目。


今度は外角低め。


見逃し。


ストライク。


完全に翻弄されている。


美羽はバットを短く持ち直す。


(食らいつけ……!)


三球目。


真ん中高め。


振り抜く。


しかし――


詰まった。


打球はショート正面。


高瀬蓮が落ち着いて捕球し、一塁送球。


スリーアウトチェンジ。



タイタンズ


1回裏、三者凡退。



タイタンズベンチ。


亜由美が思わず言う。


「……めっちゃ球伸びてへん?」


藤原航も険しい顔。


「回転数、高いな」


真央がデータを見ながらうなずく。


「予想以上です」


「特に高めが浮き上がって見えてます」



一方、岸和田ベンチ。


御堂は淡々としていた。


だが柴崎が笑う。


「タイタンズでも簡単には打てへんやろ」


御堂は静かにうなずく。


「こっちも、負ける気ないからな」



準々決勝は、予想通り――


完全な投手戦の空気になり始めていた。




2回表開始前 タイタンズベンチ


1回を終えて、両チーム無得点。


だが、空気はすでに張り詰めていた。


岸和田の打者たちは、明らかに狙いを絞ってきている。

そして御堂の球は、想像以上に厄介。


そんな中――


ベンチの奥では、


森下真央


新田絵里


二人のスコアラーが、必死にデータを整理していた。



真央がタブレットを高速で操作する。


「……やっぱりです」


絵里が横から覗き込む。


「何かわかった?」


真央が画面を拡大する。


そこには、御堂の投球コース図。


赤い点が、高め外角付近へ集中している。


「高めのストレート、回転数がかなり高いです」


「しかもリリース位置が少し前」


絵里もうなずく。


「だから“浮き上がる”ように見えるんだ」


さらに映像をスロー再生。


真央が止める。


「あとこれ」


「内角に来る時、腕の振りがほんの少し強い」


「だから食い込んで見える」



その会話を、藤原航と正則が聞いていた。


航が言う。


「つまり?」


真央が即答する。


「高めを無理に振ると差し込まれます」


「逆に、低めはそこまで強くない」


絵里が補足する。


「あと、変化をつけたい時だけ、グラブを握り直してます」


正則が目を細める。


「クセか」


「はい」



川原監督も近づいてくる。


「何かわかったか?」


真央が画面を見せる。


「御堂投手、追い込むまでは高め主体です」


「でもカウント不利になると、外低めへ逃げたがる傾向があります」


絵里がさらに続ける。


「あと、ランナー出るとセットが少し速くなります」


「タイミング取りやすくなるかも」


監督がニヤッと笑う。


「よし」


「かなり見えてきたな」



一方その頃。


岸和田ベンチでも分析が続いていた。


柴崎亮が言う。


「星野、外角低めを見せてからインハイ来ます」


「狙うなら初球」


だが監督は険しい顔。


「いや……」


「簡単には来んぞ」


タイタンズ側にも、間違いなく“頭脳”がいる。


それを感じ始めていた。



ベンチに戻った星野慎一がタオルで汗を拭く。


真央が資料を渡す。


「岸和田、インハイかなり振ってきます」


星野が目を通す。


「なるほど」


「じゃあ逆に、低め増やす」


航も笑う。


「完全に読み合いやな」



グラウンドでは、2回表開始のアナウンス。


投手戦。


だがその裏では、


スコアラーたちによる“頭脳戦”も、激しく火花を散らしていた。




岸和田ベンチ


1回、攻撃を終えても、岸和田打線はまだ星野を捉えきれない。


だが――


岸和田側にも優秀な分析班がいた。


ベンチ裏。


スコアラーたちがノートPCとタブレットを並べ、必死に映像を解析している。


「星野、リリース位置ほぼ一定です」


「外低め見せてから、インハイ率上がります」


「初球ストライク率、かなり高い」


データが次々とホワイトボードへ書き込まれていく。


柴崎亮も画面を見ながら言う。


「タイタンズ、完全に配球で崩しに来てるな」


監督が腕を組む。


「でも攻略できんわけちゃう」


「インコースを振り負けるな」


「高めを叩け」



さらに。


岸和田の分析班は、タイタンズ投手陣のデータを細かく分類していく。


河内正則


* 内外の出し入れ型

* 決め球はインハイ速球

* カウント有利で低め増加


星野慎一


* 高回転ストレート主体

* 高低差を使う

* テンポ速い


ここまでは、かなり正確だった。


だが――


彼らは一つだけ、重大なポイントを見逃していた。



池永智雄


あの男の、


“超スローボール”


の存在を。



試合前。


タイタンズベンチでは、川原監督が投手陣に念押ししていた。


「智雄」


「絶対、見せるなよ」


智雄が静かにうなずく。


「はい」


「キャッチボールでも使うな」


「あれ見られたら終わる」


正則も笑いながら言う。


「初見殺しやからな、あれ」


星野も苦笑い。


「あんな60キロ見せられてから140キロ来たら、頭バグる」


航がミットを持ちながら言う。


「しかもフォーム同じやしな」


そう。


最大の恐ろしさはそこだった。



智雄は、


* 超スローボール

* 140キロ近い速球


を、


“まったく同じフォーム”


から投げる。


さらに。


* プレートの左右いっぱいを使う

* 内外角へ投げ分ける

* 高低差も使う


ため、打者のタイミング感覚を完全に破壊する。



だが岸和田は、


その“切り札”の存在をまだ知らない。


データにも出てこない。


なぜならタイタンズは、


本当に必要な場面まで隠していたから。



真央が小さく呟く。


「……岸和田、智雄の本当の怖さ知らない」


絵里もうなずく。


「もし終盤で投入されたら、かなり混乱すると思う」


川原監督がニヤリと笑った。


「野球はな」


「情報戦でもあるんや」



その頃。


岸和田ベンチでは、監督が選手へ指示を飛ばしていた。


「タイタンズの継投、絶対どこかで正則来るぞ」


「その前に点取る」


誰もまだ知らない。


本当に恐ろしい“変化球”は、


まだベンチで静かに肩を温めているだけだということを。


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