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河内正則・栄光への道  作者: リンダ


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41/49

大阪府大会・準々決勝 当日

大阪府大会・準々決勝 当日


朝から空気が違った。


真夏の強い日差し。

スタンドにはすでに多くの観客が集まり、金属バットの音と声援が球場に響いている。


ベスト4をかけた大一番。


大阪タイタンズ


vs


岸和田キャッスルズ


“データ野球”同士の激突だった。



タイタンズベンチ


真央と絵里が、試合前の最終データを確認している。


「岸和田、かなりインハイ狙ってきます」


真央が真剣な顔で言う。


絵里もうなずく。


「特に3番と4番。

完全に引っ張り狙いです」


川原監督は腕を組み、ホワイトボードの前に立った。


「よし、スタメン発表するぞ」


選手たちが集まる。



■大阪タイタンズ 先発メンバー


1番 センター 梶原和樹


俊足巧打のリードオフマン。

出塁と守備範囲が武器。


2番 セカンド 宮本さくら


つなぎ役兼チャンスメイカー。

小柄だがパンチ力もある。


3番 サード 朝倉美羽


強肩と反応速度を買われ、この試合はサードへ。

ソフトボール経験を活かした打球判断が武器。


4番 ファースト 三宅奈緒


チームの主砲。

勝負強いバッティングと安定守備。


5番 キャッチャー 藤原航


タイタンズの頭脳。

配球とキャッチングで投手陣を支える。


6番 ライト 加藤亜由美


肩の強さを活かしライトへ配置転換。

ムードメーカーでもある。


7番 ショート 川上眞子


“女イチロー”の異名を持つ韋駄天。

広い守備範囲と俊足が武器。


8番 レフト 村瀬涼太


堅実な守備とつなぎの打撃。


9番 ピッチャー 星野慎一


豪速球右腕。

この日は先発として短期決戦仕様で全開投球。



川原監督が続ける。


「今日は継投でいく」


「先発、星野」


星野が静かにうなずく。


「最初から飛ばす」


「クローザー、正則」


正則が帽子のつばに触れる。


「最後、締めます」



岸和田キャッスルズ ベンチ


一方の岸和田。


こちらもデータを並べ、徹底分析していた。


監督がホワイトボードに赤字で書く。



『インハイを振り切れ』



「タイタンズは最後、内角で詰まらせに来る」


「だったら最初からそこを狙う」


選手たちが真剣な顔でうなずく。



■岸和田キャッスルズ 先発メンバー


1番 センター 西岡隼人


俊足巧打。

初球から積極的に振ってくる。


2番 セカンド 森口悠斗


右打ちと小技が得意なつなぎ役。


3番 ショート 高瀬蓮


広角打法の好打者。

インコース高めに強い。


4番 ファースト 黒川大雅


チーム最強打者。

長打力抜群の主砲。


5番 ライト 藤堂陸


勝負強い中距離打者。


6番 サード 井坂優真


引っ張り中心の強打者。


7番 レフト 片山蒼


守備型だがパンチ力もある。


8番 キャッチャー 柴崎亮


岸和田の頭脳。

分析と配球読みを担当。


9番 ピッチャー 御堂悠真


高回転ストレートが武器の右腕。

球速以上に“伸びる”球を投げる。



試合開始


両チーム整列。


「よろしくお願いします!!」


球場に声が響く。



1回表 岸和田キャッスルズの攻撃


マウンドには――


星野慎一


短いイニングを全力で押し切るため、肩はすでに出来上がっていた。


藤原航がミットを構える。


初球。



ズバァン!!



球場がどよめく。


「速っ……!」


岸和田ベンチがざわつく。


データでは分かっていた。


だが、実際に見ると想像以上。



1番・西岡隼人。


(インハイを振り抜け――)


ベンチの指示を思い出す。


二球目。


インハイ。


西岡は迷わず振る。


だが――


詰まった。


打球は三塁線へ。


サード・朝倉美羽が素早く前へ出る。


低い姿勢で捕球。

そのまま一塁送球。


アウト。


ワンアウト。



タイタンズベンチ。


川原監督が静かにうなずく。


「よし」


「まず一人や」


準々決勝。


読み合いと意地がぶつかる戦いが、幕を開けた。




1回表 岸和田キャッスルズの攻撃(続き)


ワンアウト。


打席には2番・森口悠斗。


岸和田ベンチから声が飛ぶ。


「低め捨てろ!

インハイ一本でええ!」


だが。


藤原航は、その指示を読んでいた。


ミットを外角低めへ構える。


星野が投げる。



ズバン!!



完璧なアウトロー。


森口、見逃す。


ストライク。


「うわっ……」


岸和田ベンチがざわつく。


際どい。


だが入っている。



二球目。


今度は内角高め。


森口は反応する。


だが――


ファウル。


完全に差し込まれている。


0-2。


追い込んだ。


航が小さく笑う。


(高低差、効いてる)


三球目。


今度は真逆。


外角低めへ沈むようなボール。


森口はバットを止めきれない。


空振り。


三振。


ツーアウト。



続く3番・高瀬蓮。


岸和田の中心打者。


インコース高めを得意とする難敵。


だが星野は、一球ごとにコースを変えていく。


外角低め。


見逃しストライク。


次は高め。


ファウル。


さらに今度は内角低め。


詰まりながらもカット。


高瀬の表情が険しくなる。


(全部違う……!)


球速だけではない。


* 内外角

* 高低

* テンポ


そのすべてが噛み合っている。


藤原航が最後に要求したのは――


外角高め。


星野が腕を振る。


高瀬は振った。


だが、完全に泳がされた。


打球は浅いセンターフライ。


梶原和樹が前進して捕球。


スリーアウトチェンジ。



岸和田キャッスルズ


1回表、三者凡退。


しかも――


まともに芯へ当てさせていない。



岸和田ベンチ。


監督が腕を組む。


「……想像以上やな」


柴崎亮も険しい顔。


「高低差がえぐいです」


「インハイ待ってても、そこに来るまでに崩される……」



一方タイタンズベンチ。


真央がデータを見ながら言う。


「星野、今日は特に回転数高いです」


絵里もうなずく。


「低めの伸びがすごい」


川原監督はニヤッと笑った。


「せやろ」


「今日は“真っ直ぐで押し切る日”や」



そして。


タイタンズの攻撃が始まる。


岸和田の先発・御堂悠真が、静かにマウンドへ向かった。





1回裏 大阪タイタンズの攻撃


岸和田キャッスルズの先発は――


御堂悠真


右オーバースロー。


試合前の分析通り、


* 回転数の多いストレート

* 内角へ鋭く食い込む球

* 外角へ伸びてくる軌道


が武器の本格派だった。


マウンドへ向かう姿には、強豪のエースらしい落ち着きがある。


捕手・柴崎亮がミットを構える。



打席には1番・梶原和樹。


初球。



ズバァン!!



球場がどよめく。


梶原が思わず目を見開く。


(……伸びるっ!!)


数字以上に速く感じる。


まるで最後にホップしてくるような軌道。



二球目。


今度は内角。


鋭く食い込んでくる。


梶原はなんとかカット。


だが、完全に押されている。


0-2。


追い込まれる。


三球目。


外角低め。


振った。


しかしバットの先。


打球はセカンドゴロ。


ワンアウト。



2番・宮本さくら。


小柄な体を少し沈め、集中して構える。


ベンチから真央が呟く。


「さくら、球見えてます」


だが御堂は簡単に甘い球を投げない。


初球、外角いっぱい。


ストライク。


二球目、インロー。


ファウル。


岸和田バッテリーは、完全に内外を使い分けている。


さくらは粘る。


五球目。


高めの速球。


振り抜く。


だが――


打球はライトへの浅いフライ。


藤堂陸が前進して捕球。


ツーアウト。



3番・朝倉美羽。


強肩を活かしてサード起用された女子選手。


だが打撃も鋭い。


御堂は、美羽相手にも容赦なく攻める。


初球。


内角高め。


美羽、のけぞりながら避ける。


「うわっ……!」


かなり厳しいコース。


二球目。


今度は外角低め。


見逃し。


ストライク。


完全に翻弄されている。


美羽はバットを短く持ち直す。


(食らいつけ……!)


三球目。


真ん中高め。


振り抜く。


しかし――


詰まった。


打球はショート正面。


高瀬蓮が落ち着いて捕球し、一塁送球。


スリーアウトチェンジ。



タイタンズ


1回裏、三者凡退。



タイタンズベンチ。


亜由美が思わず言う。


「……めっちゃ球伸びてへん?」


藤原航も険しい顔。


「回転数、高いな」


真央がデータを見ながらうなずく。


「予想以上です」


「特に高めが浮き上がって見えてます」



一方、岸和田ベンチ。


御堂は淡々としていた。


だが柴崎が笑う。


「タイタンズでも簡単には打てへんやろ」


御堂は静かにうなずく。


「こっちも、負ける気ないからな」



準々決勝は、予想通り――


完全な投手戦の空気になり始めていた。




2回表開始前 タイタンズベンチ


1回を終えて、両チーム無得点。


だが、空気はすでに張り詰めていた。


岸和田の打者たちは、明らかに狙いを絞ってきている。

そして御堂の球は、想像以上に厄介。


そんな中――


ベンチの奥では、


森下真央


新田絵里


二人のスコアラーが、必死にデータを整理していた。



真央がタブレットを高速で操作する。


「……やっぱりです」


絵里が横から覗き込む。


「何かわかった?」


真央が画面を拡大する。


そこには、御堂の投球コース図。


赤い点が、高め外角付近へ集中している。


「高めのストレート、回転数がかなり高いです」


「しかもリリース位置が少し前」


絵里もうなずく。


「だから“浮き上がる”ように見えるんだ」


さらに映像をスロー再生。


真央が止める。


「あとこれ」


「内角に来る時、腕の振りがほんの少し強い」


「だから食い込んで見える」



その会話を、藤原航と正則が聞いていた。


航が言う。


「つまり?」


真央が即答する。


「高めを無理に振ると差し込まれます」


「逆に、低めはそこまで強くない」


絵里が補足する。


「あと、変化をつけたい時だけ、グラブを握り直してます」


正則が目を細める。


「クセか」


「はい」



川原監督も近づいてくる。


「何かわかったか?」


真央が画面を見せる。


「御堂投手、追い込むまでは高め主体です」


「でもカウント不利になると、外低めへ逃げたがる傾向があります」


絵里がさらに続ける。


「あと、ランナー出るとセットが少し速くなります」


「タイミング取りやすくなるかも」


監督がニヤッと笑う。


「よし」


「かなり見えてきたな」



一方その頃。


岸和田ベンチでも分析が続いていた。


柴崎亮が言う。


「星野、外角低めを見せてからインハイ来ます」


「狙うなら初球」


だが監督は険しい顔。


「いや……」


「簡単には来んぞ」


タイタンズ側にも、間違いなく“頭脳”がいる。


それを感じ始めていた。



ベンチに戻った星野慎一がタオルで汗を拭く。


真央が資料を渡す。


「岸和田、インハイかなり振ってきます」


星野が目を通す。


「なるほど」


「じゃあ逆に、低め増やす」


航も笑う。


「完全に読み合いやな」



グラウンドでは、2回表開始のアナウンス。


投手戦。


だがその裏では、


スコアラーたちによる“頭脳戦”も、激しく火花を散らしていた。




岸和田ベンチ


1回、2回と攻撃を終えても、岸和田打線はまだ星野を捉えきれない。


だが――


岸和田側にも優秀な分析班がいた。


ベンチ裏。


スコアラーたちがノートPCとタブレットを並べ、必死に映像を解析している。


「星野、リリース位置ほぼ一定です」


「外低め見せてから、インハイ率上がります」


「初球ストライク率、かなり高い」


データが次々とホワイトボードへ書き込まれていく。


柴崎亮も画面を見ながら言う。


「タイタンズ、完全に配球で崩しに来てるな」


監督が腕を組む。


「でも攻略できんわけちゃう」


「インコースを振り負けるな」


「高めを叩け」



さらに。


岸和田の分析班は、タイタンズ投手陣のデータを細かく分類していく。


河内正則


* 内外の出し入れ型

* 決め球はインハイ速球

* カウント有利で低め増加


星野慎一


* 高回転ストレート主体

* 高低差を使う

* テンポ速い


ここまでは、かなり正確だった。


だが――


彼らは一つだけ、重大なポイントを見逃していた。



池永智雄


あの男の、


“超スローボール”


の存在を。



試合前。


タイタンズベンチでは、川原監督が投手陣に念押ししていた。


「智雄」


「絶対、見せるなよ」


智雄が静かにうなずく。


「はい」


「キャッチボールでも使うな」


「あれ見られたら終わる」


正則も笑いながら言う。


「初見殺しやからな、あれ」


星野も苦笑い。


「あんな60キロ見せられてから140キロ来たら、頭バグる」


航がミットを持ちながら言う。


「しかもフォーム同じやしな」


そう。


最大の恐ろしさはそこだった。



智雄は、


* 超スローボール

* 140キロ近い速球


を、


“まったく同じフォーム”


から投げる。


さらに。


* プレートの左右いっぱいを使う

* 内外角へ投げ分ける

* 高低差も使う


ため、打者のタイミング感覚を完全に破壊する。



だが岸和田は、


その“切り札”の存在をまだ知らない。


データにも出てこない。


なぜならタイタンズは、


本当に必要な場面まで隠していたから。



真央が小さく呟く。


「……岸和田、智雄の本当の怖さ知らない」


絵里もうなずく。


「もし終盤で投入されたら、かなり混乱すると思う」


川原監督がニヤリと笑った。


「野球はな」


「情報戦でもあるんや」



その頃。


岸和田ベンチでは、監督が選手へ指示を飛ばしていた。


「タイタンズの継投、絶対どこかで正則来るぞ」


「その前に点取る」


誰もまだ知らない。


本当に恐ろしい“変化球”は、


まだベンチで静かに肩を温めているだけだということを。





タイタンズが隠していた“秘密兵器”は、智雄だけではなかった。


実は――


河内正則


星野慎一


この二人も、


智雄から教わった“超スローボール”を投げられるのである。


ただし。


完成度が別格なのは智雄。


正則と慎一は、あくまで“見せ球”として使えるレベル。


だが、それでも十分脅威だった。



試合前のブルペン。


藤原航がミットを構える。


正則が軽く投げる。


ふわっ……


まるで浮くような軌道。


60キロ台。


航が思わず苦笑する。


「遅っ……!」


次の瞬間。


今度は全力。



ズドン!!



140キロ近い速球。


同じ腕の振り。


同じフォーム。


タイミング感覚が完全に狂う。


航がミットを見つめる。


「これ、打席で見たら絶対気持ち悪いわ……」


正則が笑う。


「智雄の見て覚えた」



さらに星野慎一。


慎一も試しに投げる。


ふわり。


完全に山なり。


だが次の球は、糸を引くような速球。


真央がタブレットを見ながら言う。


「……球速差、70キロ以上あります」


絵里も苦笑。


「打者、絶対タイミング壊れますね」



ただ。


川原監督は、そこに釘を刺していた。


「多用するな」


「“ここぞ”だけや」


三人とも、うなずく。


超スローボールは強力。


だが、見慣れれば対応される危険もある。


だからこそ、


“初見”


が重要。



そして何より。


岸和田キャッスルズは、


まだその情報を掴めていない。


分析班も、


* 配球

* 球速

* コース傾向


は徹底的に調べている。


だが、


“極端な緩急”


だけは、データに存在しない。


タイタンズが完全に隠していたからだ。



真央が静かに言う。


「……もし終盤、相手が速球に慣れたところで使ったら」


絵里が続ける。


「一気にタイミング崩れます」


藤原航がミットを叩く。


「つまり」


「最後の最後に、爆弾投げ込むってことやな」



ベンチの端。


智雄は静かにグラブをはめ直していた。


その表情は、いつも通り冷静。


だが目だけは鋭い。


野球しか頭になかった少年は、


今や“試合を壊せる武器”を手にしていた。


そしてその武器は、


まだ岸和田に一度も見つかっていない。






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