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河内正則・栄光への道  作者: リンダ


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初めての対外試合、レギュラーへの挑戦

 

 河内正則 栄光への道

 第51話「初めての対外試合、レギュラーへの挑戦」

 第一章 五月、新しいユニフォームで迎える朝

 五月上旬。


 福岡市では、新緑が鮮やかさを増し、初夏を思わせる日差しが降り注いでいた。


 博多南中学校へ進学して一か月。


 河内正則と加藤亜由美は、寄宿舎での生活にも少しずつ慣れ、授業と野球の練習を両立する毎日を送っていた。


 中学野球の最初の紅白戦では、二人そろって四打数ノーヒット。


 正則は二三振、亜由美は一三振という厳しい結果だった。


 しかし、その後、柳川悠翔や柳川優子、青柳光子たちから観察力について学び、さらに青柳翼や陽翔、燈真、彩羽からも、異なる競技に共通する判断力の大切さを教わった。


 その成果は、少しずつ現れ始めていた。


 三年生エースの藤岡蓮司を相手に、正則と亜由美がそろって初安打を記録したのである。


 ただし、打撃で一本安打が出たからといって、課題がすべて解決したわけではない。


 投手としての制球。


 中学生の強い打球への対応。


 変化球を交えた配球への理解。


 上級生との連係。


 覚えなければならないことは、まだいくらでもあった。


 そんな二人に、今度は新しい挑戦が待っていた。


 中学生になって初めての対外練習試合。


 対戦相手は、福岡県内の強豪、筑紫野フェニックス。


 城戸直哉監督は、練習の終わりに選手たちを集めて告げた。


「次の土曜日、筑紫野フェニックスと対外練習試合を行います。上級生だけでなく、一年生にも出場機会を設けます」


 一年生たちの表情が引き締まった。


 正則も亜由美も、期待と緊張が入り交じった表情をしていた。


 城戸監督は続けた。


「ただし、試合に出られるかどうかは、これまでの実績だけでは決まりません。現在の技術、練習への姿勢、体調、チーム全体の構成を見て判断します」


 そして、正則へ視線を向けた。


「河内君」


「はい!」


「今回は、先発投手を任せます」


 正則の目が大きく開いた。


「……ほんまですか!?」


「はい。ただし、予定は二回まで。球数や体調によっては、その前に交代することもあります」


 正則は姿勢を正した。


「ありがとうございます!」


 城戸監督は静かに続けた。


「小学生の全国大会では、素晴らしい投球を見せたと聞いています。しかし、中学では打者の体格も打球の強さも違います。まずは、自分の直球と制球がどこまで通用するか確かめてください」


「はい!」


 続いて、亜由美の名前が呼ばれた。


「加藤さん」


「はい!」


「今回はベンチスタートです」


 亜由美は、少しだけ息をのんだ。


 しかし、すぐに頭を下げた。


「分かりました!」


 城戸監督は続けた。


「あなたには、もう一つ課題があります」


「何でしょうか?」


「相手投手の球筋をじっくり観察してください。どのカウントで、どんな球を投げてくるのか。直球と変化球では軌道にどんな違いがあるのか。見て気づいたことを記録してください」


 亜由美はうなずいた。


「はい!」


「試合途中からの出場も考えています。ただし、そのときまで何もせずに待つのではありません。ベンチにいる時間も、試合に参加している時間です」


 その言葉に、亜由美の表情が変わった。


「分かりました。しっかり観察します!」


 こうして、二人の中学生として初めての対外試合が決まった。


 第二章 寄宿舎の朝、二人の決意

 試合当日の朝。


 博多南中学校の寄宿舎。


 正則は、いつもより少し早く目を覚ました。


 窓の外には明るい朝日が差し込んでいる。


 同室の寺島湊は、まだ少し眠そうな顔をしていた。


「正則君、今日は試合だったよね?」


「せや!」


 正則は笑顔で答えた。


「中学で初めての対外試合や。しかも先発を任されたんや!」


 湊は目を輝かせた。


「すごいね! 頑張って!」


「ありがとう!」


 しかし、正則は少し真剣な表情になった。


「でもな、湊。正直、緊張しとる」


 湊は笑った。


「正則君でも緊張するんだね」


「当たり前やろ! 小学生のときとは相手が全然違うんや」


 そして、机の上に置いたグラブを手に取った。


 大阪タイタンズ時代から使っている、大切なグラブだった。


 正則は革の状態を確認し、軽く握り直した。


「……よし」


 朝食の時間。


 食堂では、亜由美が桐原澪と一緒に食事を取っていた。


 正則が近づくと、亜由美が声をかけた。


「おはよう、正則!」


「おはよう!」


「今日は先発やね!」


「せや!」


 亜由美は少し笑った。


「二回やからって、最初から飛ばしすぎたらあかんで」


 正則は笑い返した。


「分かっとる!」


 そして、正則が尋ねた。


「亜由美はベンチスタートやけど、どうするん?」


 亜由美は、鞄から小さな野球ノートを取り出した。


「今日はこれや」


「何や?」


「相手投手の観察記録」


 ノートには、あらかじめ記入欄が作られていた。


 球種。


 投球コース。


 カウント。


 打者の反応。


 そして、気づいたこと。


 亜由美は笑った。


「前に悠翔君から教わったこと、実際の試合でやってみるつもりやねん」


 正則は大きくうなずいた。


「ええやん!」


 澪も笑顔になった。


「予想と実際の結果を分けて書くと、あとで振り返りやすいと思うよ」


 亜由美はうなずいた。


「そうやね!」


 湊も正則へ声をかけた。


「試合が終わったら、結果を聞かせてね」


 正則は笑った。


「もちろんや!」


 朝食を終えた二人は、試合に必要な用具を確認した。


 そして、寄宿舎の職員へ活動予定を伝え、チームの集合場所へ向かった。


 第三章 博多フューチャーズ、先発メンバー発表

 午前九時過ぎ。


 爆笑発電所スポーツ事業部の野球施設。


 三面のグラウンドのうち、第一グラウンドが今回の対外練習試合に使用されることになっていた。


 筑紫野フェニックスの選手たちも、すでに到着して準備運動を始めている。


 選手の中には、体格の大きな三年生が何人もいた。


 正則は、相手選手たちを見つめた。


「……亜由美」


「何や?」


「やっぱり、中学生はでかいな」


 亜由美もうなずいた。


「ほんまやね。でも、体格だけ見て怖がっても仕方ないやろ?」


 正則は少し笑った。


「せやな!」


 やがて城戸監督が、選手たちを集めた。


「それでは、今日の先発メンバーを発表します」


 対外練習試合・博多フューチャーズ対筑紫野フェニックス


 打順


 博多フューチャーズ


 筑紫野フェニックス


 1


 早良夏美・3年/中堅


 宮野颯太・3年/遊撃


 2


 三浦康平・3年/二塁


 稲永結衣・3年/二塁


 3


 篠崎玲奈・3年/三塁


 佐伯晴斗・3年/中堅


 4


 南条悠斗・3年/一塁


 大沢蓮・3年/一塁


 5


 早田航・3年/左翼


 長谷部美月・3年/三塁


 6


 秋山紘太・3年/遊撃


 森田悠吾・3年/捕手


 7


 相原健悟・3年/捕手


 宮崎歩・2年/左翼


 8


 桑野光・3年/右翼


 竹内澪・2年/右翼


 9


 河内正則・1年/投手


 石田翔・3年/投手


 先攻:筑紫野フェニックス/後攻:博多フューチャーズ。七回制の練習試合。


 城戸監督は、続いてベンチ入り選手を紹介した。


 博多フューチャーズ・ベンチ入り二十人


 学年


 選手名


 主なポジション


 3年


 藤岡蓮司


 投手


 2年


 水上遼太


 投手


 2年


 土屋悠真


 捕手


 2年


 江本哲也


 一塁


 2年


 川野颯太


 二塁


 2年


 久保田航輝


 遊撃


 2年


 江尻栞


 三塁


 2年


 田所恭介


 左翼


 2年


 松崎結月


 中堅


 2年


 大浦凛太


 右翼


 1年


 加藤亜由美


 二塁


 1年


 坂井雄二


 中堅


 1年


 牧田和美


 二塁・遊撃


 1年


 岸田誠一


 左翼


 1年


 立花朋輝


 一塁


 1年


 森下悠一


 捕手


 1年


 国分颯斗


 投手


 1年


 長谷川日菜


 右翼


 1年


 早瀬伊織


 三塁


 1年


 藤崎大輝


 遊撃


 筑紫野フェニックスも、投手の大坂颯真(二年)、捕手の平野直樹(二年)、内野手の山瀬柊斗(二年)、川端奈々(一年)、外野手の小田晴樹(二年)、福本莉央(一年)らを控えに置き、試合途中から起用する予定だった。


 城戸監督は、全員を見渡した。


「今日は練習試合ですから、途中からできるだけ多くの選手に実戦経験を積んでもらいます。ただし、試合中は一球一球、真剣に勝負してください」


 選手たちが力強く答えた。


「はい!」


 続いて平松真帆コーチが、正則へ声をかけた。


「河内君、登板予定は二回です。今日の目標は?」


 正則は少し考えた。


「ストライクを先行させること。それから、打者の反応を見て、自分で配球を考えたいです」


 平松コーチはうなずいた。


「いいですね。ただし、考えすぎて投球のテンポを崩さないようにしてください」


「はい!」


 今度は亜由美へ向き直った。


「加藤さん。あなたは今日、ベンチから何を学びますか?」


 亜由美はノートを持って答えた。


「相手投手の球種と球筋、カウントごとの投球傾向を見ます。それから、相手の内野手が打球にどう反応するかも観察したいです」


 平松コーチは微笑んだ。


「分かりました。では、実際に出場したとき、その情報をどう生かすか考えておいてください」


「はい!」


 正則はマウンドへ向かった。


 亜由美はベンチへ腰掛け、ノートを開いた。


 二人にとって、中学生になって初めての対外試合が、いよいよ始まる。


 第四章 一回表、正則が受けた中学野球の洗礼

 午前十時。


 両チームがグラウンド中央へ整列した。


「よろしくお願いします!」


 挨拶を終えると、正則はマウンドへ向かった。


 捕手の相原健悟が、ミットを構えて待っている。


「正則君、落ち着いていこう!」


「はい!」


 正則は、マウンドの土を軽くならした。


 全国大会決勝の東京ドーム。


 大阪タイタンズのエースとして投げた、あの日の光景が脳裏をよぎった。


 しかし、今日は違う。


 新しいユニフォーム。


 新しい仲間。


 そして、中学生の打者たち。


 正則は大きく息を吐いた。


(……よし。まずは自分の球を投げよう)


 先頭打者は宮野颯太。


 相原からのサインを確認する。


 初球。


 外角低めへの直球。


 バシッ!


「ストライク!」


 正則は小さくうなずいた。


(……入った)


 二球目は外角へ外れる。


 ボール。


 三球目。


 宮野が振り抜いた。


 カキーン!


 打球は遊撃手の秋山紘太の正面へ転がった。


 秋山は落ち着いて捕球し、一塁へ送球した。


「アウト!」


 一死。


 正則は、少し緊張がほぐれた。


 続く二番、稲永結衣。


 初球の直球を見送る。


 ストライク。


 二球目。


 正則が外角へ投げ込んだ直球を、稲永が鋭く打ち返した。


 カキーン!


 センター前ヒット。


 一死一塁。


 正則は打球の速さに目を見開いた。


(……あんな低い球でも、きっちり打ち返してくるんか)


 三番、佐伯晴斗。


 正則は慎重に投げ込んだ。


 外角低めへの直球。


 佐伯が打ち上げた。


 センターフライ。


 二死一塁。


 そして四番、大沢蓮。


 相原はマウンドへ歩み寄った。


「正則君、四番やけど、必要以上に警戒せんでよかよ」


「はい」


「打者をよう見て、一球ずつ勝負しよう」


 正則はうなずいた。


 大沢が打席へ入る。


 初球。


 内角への直球。


 ファウル。


 二球目。


 外角低め。


 ボール。


 三球目。


 正則は、もう一度直球を投げ込んだ。


 しかし、少し高く入った。


 カキィィン!


 鋭い打球が左中間へ飛んだ。


 中堅手の早良夏美と左翼手の早田航が追いかける。


 しかし、打球は二人の間を破った。


「長打だ!」


 一塁走者の稲永結衣が二塁を回る。


 三塁を蹴った。


 ホームイン!


 筑紫野フェニックスが一点先制した。


 0対1。


 大沢は二塁へ到達した。


 タイムリーツーベースヒット。


 正則は、少し悔しそうにボールを受け取った。


(……甘く入った)


 しかし、ここで崩れるわけにはいかない。


 相原が声をかけた。


「正則君! まだ二死たい!」


 正則はうなずいた。


「はい!」


 五番、長谷部美月。


 正則は初球から低めへ直球を投げ込んだ。


 長谷部が打ち返す。


 三塁ゴロ。


 篠崎玲奈が丁寧に捕球し、一塁へ送球した。


「アウト!」


 三アウト。


 正則は、ゆっくりとマウンドを下りた。


 一回を終えて、一失点。


 決して満足できる内容ではない。


 しかし、四番に長打を許したあとも、落ち着いて後続を打ち取ることができた。


 ベンチへ戻ると、城戸監督が声をかけた。


「河内君、どうでしたか?」


 正則は答えた。


「四番の大沢君に、高めへ甘く入った直球を打たれました」


「そうですね」


「次は、低めへ丁寧に投げたいです」


 城戸監督はうなずいた。


「いいですね。ただし、低めに投げようとするあまり、腕の振りが小さくならないようにしてください」


「はい!」


 そして、正則は亜由美の隣へ腰掛けた。


 亜由美はすでにノートへ記録を書いていた。


「正則、四番の大沢君、踏み込んでくるのが早かったね」


 正則が顔を上げた。


「そうやった?」


「うん。高めの直球を狙っとったように見えたわ」


 正則は少し考えた。


「……なるほど。そういうところも見とったんやな」


 亜由美は笑った。


「今日のうちの仕事やもん!」


 二人は、もう一度グラウンドへ視線を向けた。


 第五章 一回裏、上級生たちが見せた攻撃

 一回裏。


 博多フューチャーズの攻撃。


 筑紫野フェニックスの先発は、三年生の石田翔。


 直球とスライダーを中心に、低めへ丁寧に投げ込む投手だった。


 先頭の早良夏美が四球を選んで出塁した。


 二番、三浦康平。


 三浦は送りバントを決め、一死二塁。


 続く三番、篠崎玲奈。


 石田の直球を、鋭く左方向へ打ち返した。


 カキーン!


 レフト前ヒット。


 二塁走者の早良夏美が三塁を回った。


「回れ!」


 早良が本塁へ滑り込む。


「セーフ!」


 1対1。


 博多フューチャーズが同点に追いついた。


 ベンチから拍手が起きた。


「玲奈先輩! ナイスバッティング!」


 正則も立ち上がった。


「よっしゃ!」


 亜由美は、スコアブックへ記録を書き込みながらつぶやいた。


「……三浦先輩のバントも大きかったな」


 正則がうなずいた。


「せやな。二塁へ進めたから、シングルヒットで点が入ったんやもんな」


 続く四番の南条悠斗は一塁フライ。


 五番の早田航は左翼フライに倒れ、追加点は入らなかった。


 しかし、初回から試合は振り出しに戻った。


 正則はベンチを出る前に、もう一度相原へ尋ねた。


「相原先輩。次の回、まず何を気をつけたらええですか?」


 相原は笑った。


「相手打者の反応を見よう。正則君の直球に振り遅れとるのか、タイミングが合い始めとるのか。それだけでも大事な情報たい」


 正則は力強くうなずいた。


「はい!」


 第六章 二回表、正則が見つけた小さな変化

 二回表。


 先頭は六番、森田悠吾。


 正則は初球から外角へ直球を投げ込んだ。


 ストライク。


 二球目は低めへ外れる。


 ボール。


 三球目。


 森田は際どい球を見送った。


 ボール。


 そして、四球目も外角へ外れた。


 フルカウントまで粘られ、最後は四球。


 無死一塁。


 正則は小さく息を吐いた。


(……先頭打者を歩かせてもうた)


 続く七番、宮崎歩。


 相原がマウンドへ歩み寄った。


「正則君、次は送りバントがあるかもしれんよ」


「分かりました」


 宮崎は初球からバントの構えを見せた。


 正則は慎重に投げ込む。


 コンッ!


 宮崎が送りバントを決めた。


 正則が前進して捕球し、一塁へ送球。


 一死二塁。


 八番、竹内澪。


 正則は、打者の構えを見た。


 バットを少し短く持っている。


 直球を待ち、コンパクトに振ろうとしているように見えた。


(……無理に長打を狙っとるわけやないんやな)


 相原のサインを確認する。


 正則は、外角へ丁寧に投げ込んだ。


 竹内が打ち返した。


 打球はライト方向へ。


 桑野光が捕球した。


 ライトフライ。


 二死二塁。


 そして九番、石田翔。


 正則は、ここまでの打席を振り返った。


 初回は大沢に強く打たれた。


 二回は先頭に四球を与えた。


 しかし、低めへ投げ込んだ球は、比較的打ち損じを誘えている。


(……無理に速い球を投げようとせんでもええ)


 正則は深呼吸した。


 相原がミットを構える。


 初球。


 外角への直球。


 ストライク。


 二球目。


 低めへ外れる。


 ボール。


 三球目。


 石田はファウルで粘った。


 1ボール2ストライク。


 そして四球目。


 正則は、外角低めへ直球を投げ込んだ。


 石田は見送った。


 バシッ!


「ストライク、バッターアウト!」


 見逃し三振。


 三アウト。


 正則は、マウンドで小さく拳を握った。


「……よっしゃ!」


 相原が駆け寄った。


「正則君、ナイスピッチング!」


「ありがとうございます!」


「最後、よう投げきったね」


 正則は笑った。


「低めへ丁寧に投げることを意識しました」


 相原がうなずいた。


「そうたい。あれでよかよ」


 二回を投げ終え、正則の予定された登板は終了した。


 河内正則・中学初対外試合の投球成績


 投球回

 2回

 失点

 1

 奪三振

 1

 被安打2、与四球1、自責点1。予定どおり二回で降板。


 ベンチへ戻ると、城戸監督が声をかけた。


「河内君、お疲れさまでした」


 正則は深く頭を下げた。


「ありがとうございました!」


「二回一失点。初めての中学生相手の対外試合として、よい経験ができたと思います」


「はい」


「ただ、初回の四番打者への投球と、二回の先頭打者への四球は、あとで振り返ってみましょう」


 正則はうなずいた。


「分かりました」


 そして、少し笑った。


「でも監督、めちゃくちゃ楽しかったです!」


 城戸監督も微笑んだ。


「それならよかった。次につなげてください」


 二回裏、博多は六番の秋山紘太、七番の相原健悟、八番の桑野光が打ち取られ、無得点だった。


 1対1。


 試合は三回へ進む。


 正則に代わって、藤岡蓮司がマウンドへ向かった。


 亜由美は、相手投手の石田翔から目を離さなかった。


 まだ自分の出番は来ていない。


 しかし、ベンチでの仕事は続いていた。


 第七章 博多リトルスターズ、全国大会への第一歩

 同じ土曜日。


 福岡市内の別の野球場では、博多リトルスターズが地区予選の初戦を迎えていた。


 この大会は、地区予選、県内の上位大会、さらにその先の大会を勝ち進むことで、全国大会へつながっていく。


 新チームのキャプテンは柳川悠翔。


 四番打者を任され、ショート、セカンド、サードの三つのポジションを守る。


 そして、今年は新しく入団した四年生たちにとって、初めての公式戦でもあった。


 試合前のベンチ。


 四年生の辻本晴斗、岡野芽衣、平尾翔、日高莉奈、久米蒼士、塚本奈々が、少し緊張した表情で座っていた。


「……全国大会につながる予選って、こんなに緊張するんやね」


 岡野芽衣が小さくつぶやいた。


 隣の平尾翔もうなずいた。


「うん。もしエラーしたら、どうしよう……」


 その声を聞いた悠翔が、二人の前にしゃがんだ。


「芽衣ちゃん、翔君。緊張しとると?」


 二人はうなずいた。


「はい」


 悠翔は微笑んだ。


「そりゃ緊張するよね。僕も最初の公式戦は緊張したけん」


 岡野が顔を上げた。


「悠翔先輩もですか?」


「そうたい!」


 そして、悠翔はほかの四年生たちも呼んだ。


「みんな、ちょっと聞いてね」


 六人が集まった。


 悠翔は、一人一人の顔を見つめて話し始めた。


「今日、初めて公式戦に出る人もおると思う。でもね、ミスをすること自体を怖がらんでよかよ」


 辻本が尋ねた。


「エラーしてもいいんですか?」


 悠翔はうなずいた。


「もちろん、エラーせんように練習することは大切たい。でも、エラーするのが怖くて、捕れそうな打球を追いかけんのはもったいなかろ?」


 岡野は静かにうなずいた。


 悠翔は続けた。


「打球が来たら、思い切って捕りにいってほしか。失敗したら、次にどうしたらよかか一緒に考えよう」


 日高莉奈が尋ねた。


「じゃあ、三振したときは?」


「三振したら、どげんな球で三振したか覚えとこう。次の打席の勉強になるけんね」


 そして、少し笑った。


「打席では相手の投球をよう見て、守備では相手の打ち方や走者の動きを見よう。何も考えずに振ったり投げたりするんやなくて、一球ずつ考えてプレーしていこう!」


 塚本奈々が笑顔になった。


「はい!」


 久米蒼士も力強く答えた。


「頑張ります!」


 悠翔は立ち上がった。


「よし! みんなで頑張ろう!」


 その様子を見ていた篠田正孝監督が、穏やかに微笑んだ。


 そして選手たちを集めた。


「全員、集合!」


 いよいよ、博多リトルスターズの新しい全国大会への挑戦が始まる。


 第八章 四番・柳川悠翔、先発発表

 地区予選初戦の対戦相手は、福岡市東区を拠点とする東区マリナーズ。


 投手力と守備力に定評があり、地区大会でも上位進出を狙うチームだった。


 篠田監督は、選手たちの前で先発メンバーを読み上げた。


 全国大会につながる地区予選・初戦


 打順


 博多リトルスターズ


 東区マリナーズ


 1


 川島蒼空・6年/中堅


 石橋湊・6年/遊撃


 2


 松岡凛太・6年/遊撃


 藤村晴斗・6年/二塁


 3


 村瀬杏奈・6年/三塁


 安永凜・6年/中堅


 4


 柳川悠翔・6年/二塁・主将


 瀬戸大輝・6年/一塁


 5


 山内翔吾・6年/一塁


 土井紗英・6年/三塁


 6


 西野美優・6年/左翼


 橋田空・6年/捕手


 7


 岡部結菜・6年/投手


 宮田琉生・5年/左翼


 8


 有田蓮・6年/捕手


 大津ひより・5年/右翼


 9


 高原紗季・6年/右翼


 木村航・6年/投手


 博多リトルスターズ・ベンチ入り十七人


 学年


 選手名


 主なポジション


 6年


 黒木海翔


 投手


 6年


 坂本大地


 投手


 6年


 大原颯真


 投手


 5年


 神谷颯


 投手


 5年


 藤堂琉生


 遊撃・三塁


 5年


 橘颯太


 二塁・三塁


 5年


 山下結斗


 一塁・三塁


 5年


 中島ひなた


 外野


 5年


 松本航


 右翼


 5年


 奥村理央


 捕手


 5年


 篠原陸


 左翼


 4年


 辻本晴斗


 投手


 4年


 岡野芽衣


 二塁


 4年


 平尾翔


 捕手


 4年


 日高莉奈


 三塁


 4年


 久米蒼士


 一塁


 4年


 塚本奈々


 中堅


 東区マリナーズのベンチには、救援投手の宮田蓮、外野手の宮内紗季、内野手の森木蓮太と坂下結月、捕手の萩原陽斗らも控えていた。


 悠翔は先発表を確認した。


 今日は四番・セカンド。


 そしてキャプテン。


 篠田監督が話しかけた。


「悠翔、四年生たちには何と話した?」


「ミスを怖がって消極的なプレーをせんこと。それから、打席でも守備でも相手をよく見ることです」


 篠田監督はうなずいた。


「いいね。ただし、試合中は悠翔自身も無理に何でも背負おうとしないこと。仲間を信じることも大切だよ」


 悠翔は力強く答えた。


「はい!」


 そして両チームが整列した。


「よろしくお願いします!」


 地区予選初戦。


 全国大会へ向けた新たな挑戦の幕が上がった。


 第九章 悠翔、四番としての最初の仕事

 一回表。


 東区マリナーズの攻撃。


 先頭の石橋湊が、岡部結菜の直球をセンター前へ打ち返した。


 無死一塁。


 続く藤村晴斗が送りバントを決め、一死二塁。


 三番、安永凜。


 岡部が投げ込んだ直球を、安永がレフト前へ運んだ。


 二塁走者の石橋が三塁を回る。


 ホームイン!


 0対1。


 東区マリナーズが先制した。


 しかし、岡部はその後、瀬戸大輝をセンターフライ、土井紗英を三塁ゴロに打ち取り、最少失点で切り抜けた。


 ベンチへ戻った岡部へ、悠翔が声をかけた。


「結菜、ナイスピッチング!」


 結菜は少し苦笑した。


「でも、先に点取られてもうた」


 悠翔は首を横に振った。


「まだ一回たい! 今度は打つほうで取り返そう!」


 結菜が笑顔になった。


「うん!」


 一回裏。


 博多リトルスターズの攻撃。


 先頭の川島蒼空が四球で出塁。


 松岡凛太が送りバントを決め、一死二塁。


 続く村瀬杏奈は二塁ゴロに倒れたが、川島は三塁へ進んだ。


 二死三塁。


 そして四番、柳川悠翔。


 東区マリナーズの先発は木村航。


 悠翔は打席へ入り、投手の動きをじっと見つめた。


 初球。


 外角への直球。


 ストライク。


 二球目。


 内角へ外れる。


 ボール。


 三球目。


 木村が投げ込んだ直球は、やや外角寄りだった。


 悠翔が踏み込んだ。


 カキィィン!


 鋭い打球が右中間を破った。


「長打だ!」


 センターの安永凜が追う。


 しかし、打球はフェンス方向へ転がっていった。


 三塁走者の川島蒼空がホームイン。


 1対1。


 悠翔は二塁へ滑り込んだ。


 タイムリーツーベースヒット。


 ベンチから歓声が起きた。


「悠翔! ナイス!」


「キャプテン、よう打った!」


 悠翔は二塁上で小さく拳を握った。


「よっしゃ!」


 続く山内翔吾は一塁フライに倒れ、攻撃終了。


 それでも、博多リトルスターズはすぐに同点へ追いついた。


 ベンチにいた岡野芽衣が、目を輝かせていた。


「……すごい」


 隣の辻本晴斗がうなずいた。


「悠翔先輩、あんな球を打てるんやね」


 すると、悠翔がベンチへ戻ってきた。


「芽衣ちゃん、晴斗君」


「はい!」


「今の打席、木村君がどこへ投げよったか見とった?」


 二人は少し考えた。


「外角が多かったです!」


 悠翔は笑った。


「そうたい。じゃあ、次は内角も使ってくるかもしれんね。相手も考えて投げてくるけん、こっちもよう見とこう」


 岡野と辻本は大きくうなずいた。


「はい!」


 勝負の中でも、後輩に学ぶ機会をつくる。


 悠翔は、少しずつキャプテンとしての役割を果たし始めていた。


 第十章 三回から五回、先輩たちの勝負

 博多フューチャーズの試合は、三回表へ進んでいた。


 正則に代わって登板したのは、三年生の藤岡蓮司。


「蓮司、頼むばい!」


 相原健悟が声をかけた。


「任せんしゃい!」


 藤岡は、初球から力強い直球を投げ込んだ。


 相手の上位打線にも臆することなく攻め、三回と四回を無失点に抑えた。


 正則はベンチで、その投球をじっと見つめていた。


「……やっぱり、すごいな」


 隣の亜由美がうなずいた。


「うん。でも、ただ速い球を投げとるだけやないね」


「せやな。打者が振り遅れとるときは直球を続けるし、タイミングが合ってきたら変化球を使っとる」


 亜由美はノートへ書き込んだ。


「それに、二ストライクから必ず変化球ってわけでもないね」


 正則が笑った。


「ほんまやな」


 相原健悟に教わった、捕手の目線で配球を考えるという練習。


 柳川悠翔に教わった、事実と予想を分けるという考え方。


 二人は、それらを意識しながら試合を見ていた。


 ただし、すべてを理解できるわけではない。


 亜由美が予想した球種が外れることもあった。


 正則も、相手打者の狙いを読み違えることがあった。


 それでも、二人は一球ごとに気づいたことを書き残した。


 そして四回裏。


 博多フューチャーズが勝ち越しのチャンスをつくった。


 先頭の四番、南条悠斗がセンター前ヒット。


 五番の早田航が送りバントを決め、一死二塁。


 続く秋山紘太の二塁ゴロで、南条は三塁へ進んだ。


 二死三塁。


 打席には相原健悟。


 相手投手の石田翔が、外角へ直球を投げ込んだ。


 相原が鋭く打ち返す。


 カキーン!


 打球はセンター前へ抜けた。


 南条がホームイン!


 2対1。


 博多フューチャーズが勝ち越した。


 正則が声を上げた。


「相原先輩! ナイスバッティング!」


 相原は一塁上で小さく拳を握った。


「よっしゃ!」


 亜由美はノートへ書き込んだ。


 そして、ふと気づいた。


「……正則」


「何や?」


「石田君、さっきから二ストライクを取るまでは変化球も使っとるけど、走者を得点圏に置くと直球が増えとる気がせえへん?」


 正則は少し考えた。


「……ほんまやな」


「もちろん、次もそうとは限らんけど」


「うん。でも、面白い発見やな」


 亜由美は笑顔になった。


 そして、ノートに小さく書き加えた。


『得点圏では直球の比率が上がる可能性。まだ要確認』


 観察した情報を、すぐに絶対的な答えにしない。


 以前の亜由美なら、そこまで考えられなかったかもしれない。


 五回表。


 博多は藤岡から二年生の水上遼太へ継投した。


 しかし、筑紫野フェニックスも簡単には引き下がらなかった。


 九番の石田翔が安打で出塁。


 続く宮野颯太も二塁打を放ち、無死二、三塁。


 そして二番の稲永結衣が、外野へ犠牲フライを打ち上げた。


 三塁走者がホームイン。


 2対2。


 再び同点となった。


 水上はその後の打者を抑え、追加点を許さなかった。


 試合は、どちらが勝ってもおかしくない展開となっていた。


 第十一章 「亜由美、準備して」

 五回裏。


 博多フューチャーズの攻撃が始まろうとしていた。


 そのとき、城戸監督が声をかけた。


「加藤さん」


 亜由美が立ち上がった。


「はい!」


「次の三浦君の打順で、代打として出てもらいます。その後は二塁守備に入ってください」


 亜由美の表情が変わった。


「……はい!」


 城戸監督は続けた。


「ここまで、相手投手を観察できましたか?」


「はい!」


「では、何が分かりましたか?」


 亜由美は少し考えた。


「直球は外角低めに集まっています。それから、走者がいるときは、早いカウントで直球を使うことが多いように見えました」


 城戸監督はうなずいた。


「よく見ていますね。ただし、それが次も当てはまるとは限りません」


「はい!」


「自分の狙いを決めて、思い切って打席へ立ってください」


 亜由美は力強く答えた。


「分かりました!」


 そのとき、ベンチの三浦康平が近づいてきた。


「亜由美さん」


「はい!」


「思い切っていきんしゃい。俺の代わりやからって、気負う必要はなかよ」


 亜由美は深く頭を下げた。


「ありがとうございます!」


 正則も声をかけた。


「亜由美! 頑張りや!」


 亜由美は振り返った。


 そして、ニヤリと笑った。


「正則、うちの観察力、よう見ときや!」


 正則が吹き出した。


「おう! 期待しとるで!」


 五回裏。


 先頭の桑野光がライト前ヒットで出塁した。


 続く水上遼太が送りバントを決め、一死二塁。


 一番の早良夏美は四球を選ぶ。


 一死一、二塁。


 そして二番、代打・加藤亜由美。


 場内アナウンスが響いた。


「二番、三浦君に代わりまして、加藤さん」


 亜由美はヘルメットをかぶり、打席へ向かった。


 筑紫野フェニックスの石田翔は、捕手の森田悠吾とサインを交換した。


 亜由美は静かに深呼吸した。


(……まず、狙いを決める)


 初球。


 外角低めへの直球。


 ストライク。


 亜由美は見送った。


(……やっぱり、低めに集まっとる)


 二球目。


 内角へ外れる変化球。


 ボール。


 三球目。


 外角低め。


 亜由美は、きわどい球を見送った。


「ボール!」


 2ボール1ストライク。


 亜由美は、バットを握り直した。


(……次は何が来る?)


 しかし、すぐに思い直した。


(全部考えすぎたらあかん。狙うのは、打てる高さの直球や)


 四球目。


 石田が投げ込んだ。


 外角寄りへの直球。


 亜由美は、しっかり踏み込んだ。


 カキーン!


 鋭い打球が右方向へ飛んだ。


 二塁手の稲永結衣が反応する。


 しかし、打球はその横を抜けた。


「ライト前ヒット!」


 二塁走者の桑野光が三塁を回る。


 ライトの竹内澪が本塁へ送球する。


 しかし、桑野の足が一瞬早かった。


「セーフ!」


 3対2!


 博多フューチャーズが勝ち越した。


 亜由美は一塁上で拳を握った。


「やったぁ!」


 ベンチが沸いた。


「亜由美! ナイスバッティング!」


 正則も立ち上がって叫んだ。


「亜由美! 最高や!」


 亜由美は、嬉しそうに笑った。


 しかし、すぐに一塁コーチの指示を確認した。


 まだ試合は終わっていない。


 続く篠崎玲奈は三塁方向へのゴロを放った。


 三塁手の長谷部美月が捕球し、二塁から一塁へ転送。


 併殺打となり、この回の攻撃は終了した。


 それでも、亜由美の一打は貴重な勝ち越し点を生んだ。


 ベンチへ戻ると、三浦康平が笑顔で迎えた。


「亜由美さん、ナイスバッティング!」


 亜由美は頭を下げた。


「ありがとうございます!」


 三浦は続けた。


「よう観察しとったね。あの球、しっかり狙えてたばい」


「はい!」


 しかし、亜由美は少し真剣な表情になった。


「でも、次の打席でも打てるとは限りませんよね」


 三浦は大きくうなずいた。


「そうたい!」


 そして笑った。


「それが分かっとるなら、もっと上手くなると思うよ」


 亜由美は、もう一度深く頭を下げた。


「ありがとうございます!」


 ベンチスタート。


 その時間を、ただ出番を待つために使ったわけではなかった。


 相手の投球を観察し、考え、自分の打席で試した。


 その積み重ねが、中学初の対外試合での安打につながったのである。


 第十二章 亜由美の二塁守備、最初の試練

 六回表。


 亜由美は二塁の守備位置についた。


 大阪タイタンズ時代から慣れ親しんだポジション。


 しかし、相手は中学生の強力打線だった。


 マウンドには水上遼太。


 先頭打者は三番、佐伯晴斗。


 水上の直球を、佐伯が鋭く打ち返した。


 カキーン!


 打球は二塁方向への強いゴロ。


(……来た!)


 亜由美は、打球が飛ぶ直前から準備していた。


 小さく足を動かし、一歩目を踏み出す。


 ボールが予想より少し速く転がってきた。


 しかし、慌てない。


 体を低くして捕球した。


 パシッ!


 そして、一塁へ送球。


「アウト!」


 亜由美は小さく拳を握った。


「よし!」


 一塁の南条悠斗が声をかけた。


「亜由美さん、ナイスプレー!」


「ありがとうございます!」


 正則もベンチから拍手した。


「亜由美! よう捕ったな!」


 続く四番の大沢蓮はセンター前ヒット。


 一死一塁。


 五番、長谷部美月。


 亜由美は、もう一度守備位置を確認した。


 走者が一塁にいる。


 打球が来たら二塁封殺を狙える。


 ただし、強い打球が来れば、まず確実に捕球することが大切だ。


 長谷部が打ち返した。


 打球は三塁方向へのゴロ。


 篠崎玲奈が捕球し、二塁の亜由美へ送球した。


「二塁!」


 亜由美がベースを踏みながら捕球する。


「アウト!」


 そして、素早く一塁へ転送した。


 南条が捕球する。


「アウト!」


 ダブルプレー!


 三アウト!


 亜由美は、思わず笑顔になった。


「やった!」


 篠崎が駆け寄った。


「亜由美さん、ナイス連係!」


「玲奈先輩も、ナイスキャッチでした!」


 二人は笑顔でグラブを合わせた。


 ベンチでは、平松コーチがその様子を見つめていた。


「監督、加藤さん、いい守備でしたね」


 城戸監督がうなずいた。


「はい。打球が来る前の準備が、以前よりよくなっています」


「ただ、まだ速い打球に対応しきれない場面もありますね」


「そうですね。そこはこれから練習を積む必要があります」


 そして、城戸監督は少し笑った。


「でも、今日の経験は本人にとって大きいでしょう」


 その言葉どおり、亜由美の胸には確かな手応えが生まれていた。


 第十三章 七回、今度は一年生がマウンドへ

 六回裏。


 博多フューチャーズは、南条悠斗の安打からチャンスをつくった。


 早田航が送りバントを決め、一死二塁。


 続く秋山紘太が右中間へ適時二塁打を放った。


 二塁走者がホームイン!


 4対2。


 博多フューチャーズがリードを二点に広げた。


 そして七回表。


 城戸監督は、新しい投手の名前を呼んだ。


「国分君、いきましょう」


 一年生の国分颯斗だった。


「はい!」


 国分は、少し緊張した表情でマウンドへ向かった。


 捕手も一年生の森下悠一へ交代した。


 正則はベンチから声をかけた。


「颯斗! 落ち着いていきや!」


 国分がうなずいた。


「うん!」


 森下もミットを構えた。


「颯斗、まずは一球ずつたい!」


 七回表。


 先頭の六番、森田悠吾。


 国分の直球を打ち返した。


 打球はセンター前ヒット。


 無死一塁。


 続く宮崎歩は送りバント。


 一死二塁。


 八番、竹内澪。


 国分が投げ込んだ球を、竹内がライト方向へ打ち上げた。


 岸田誠一に交代していた右翼手が捕球。


 二死二塁。


 そして九番、石田翔。


 国分は少し緊張していた。


 しかし、森下が声をかけた。


「大丈夫たい。自分の球を投げよう!」


 国分は深呼吸した。


 初球。


 外角への直球。


 ストライク。


 二球目。


 内角へ外れる。


 ボール。


 三球目。


 石田が振り抜いた。


 カキーン!


 打球は二塁方向へのゴロ。


 亜由美が一歩目を踏み出す。


 正面へ回り込み、丁寧に捕球した。


 そして、一塁へ送球。


「アウト!」


 三アウト!


 試合終了!


 博多フューチャーズが4対2で勝利した。


 対外練習試合・最終結果


 チーム1234567計

 筑紫野フェニックス10001002

 博多フューチャーズ


 1


 0


 0


 1


 1


 1


 ×


 4


 博多フューチャーズ 4-2 筑紫野フェニックス


 博多の投手リレー:河内正則(2回)、藤岡蓮司(2回)、水上遼太(2回)、国分颯斗(1回)。加藤亜由美は五回に代打で出場し、勝ち越し適時打と二塁守備で貢献。

 亜由美は二塁の位置で、静かに息を吐いた。


(……終わった)


 そして、グラブを握り直した。


 今日の試合で、少しだけ自信がついた。


 しかし、同時に課題も見つかった。


 正則も、ベンチからグラウンドを見つめていた。


 二回一失点。


 決して完璧な投球ではなかった。


 それでも、中学生として初めての対外試合を、自分の力で投げ切ることができた。


 二人は、試合終了の整列へ向かった。


「ありがとうございました!」


 大きな声が、春のグラウンドに響いた。


 第十四章 博多リトルスターズ、四年生の初めての失敗

 その頃、地区予選を戦う博多リトルスターズでは、試合が大きく動いていた。


 二回裏。


 山内翔吾の安打と西野美優の四球で無死一、二塁。


 打席には岡部結菜。


 岡部は東区マリナーズの木村航が投げた直球を、右中間へ打ち返した。


 カキーン!


 走者二人が次々とホームイン。


 3対1。


 博多リトルスターズが二点を勝ち越した。


 その後、三回は両チーム無得点。


 そして四回表。


 篠田監督は守備位置を変更した。


「岡野さん、二塁へ入りましょう」


 四年生の岡野芽衣が目を丸くした。


「……私ですか!?」


「そうです。練習してきたことを、試合で試してみましょう」


「はい!」


 それまで二塁を守っていた悠翔は、ショートへ移動した。


 松岡凛太はベンチへ下がり、岡野が二塁へ入る。


 岡野は、グラブを何度も握り直した。


(……絶対にエラーせんようにしないと)


 しかし、その気持ちが強すぎた。


 四回表。


 東区マリナーズの先頭打者が、二塁方向へ強いゴロを打った。


 岡野が反応する。


 しかし、体が少し硬くなっていた。


 ボールがグラブの先に当たり、後ろへ転がった。


「あっ!」


 岡野が慌ててボールを拾う。


 しかし、送球は間に合わなかった。


 二塁手の失策。


 無死一塁。


 岡野は、悔しそうに唇をかんだ。


(……やってもうた)


 そのとき、ショートの悠翔が近づいてきた。


「芽衣ちゃん」


 岡野が顔を上げる。


「……すみません」


 悠翔は首を横に振った。


「謝るより、次のプレーたい」


 岡野は少し驚いた。


「……はい」


 悠翔は続けた。


「今の打球、ちゃんと捕りにいったやろ?」


「はい」


「それでよかよ。次はもう少し早く足を動かしてみよう」


 岡野は静かにうなずいた。


「分かりました」


 そして、悠翔は笑った。


「まだ試合は終わっとらんけんね!」


「はい!」


 しかし、相手も強かった。


 続く打者が左中間へ二塁打を放ち、一塁走者がホームイン。


 3対2。


 さらに、犠牲フライで一点を加えられた。


 3対3。


 試合は同点に追いつかれた。


 岡野は、ベンチへ戻ると少し肩を落とした。


「……私がエラーしたから」


 そこへ村瀬杏奈がやってきた。


「芽衣ちゃん」


「はい……」


「失点につながったことは、ちゃんと振り返ればよか。でも、それで次の打球を怖がったらいかんよ」


 岡野は顔を上げた。


 杏奈は続けた。


「私も昔、エラーして点を取られたことがあるとよ」


「杏奈先輩もですか?」


「そうたい。今でも失敗することはあるよ」


 そして、優しく笑った。


「大切なのは、次にどうするかたい」


 岡野は、ゆっくりとうなずいた。


「……はい!」


 第十五章 五回裏、四年生がつないだ勝ち越し点

 五回裏。


 同点のまま、博多リトルスターズの攻撃が始まった。


 先頭は九番、高原紗季。


 高原は東区マリナーズの投手が投げた直球を、センター前へ打ち返した。


 ヒット。


 無死一塁。


 続く川島蒼空は四球を選んだ。


 無死一、二塁。


 そして、打席には岡野芽衣が入った。


 先ほど、二塁守備で失策を記録した四年生だった。


 岡野は、少し緊張していた。


 しかし、ベンチから悠翔が声をかけた。


「芽衣ちゃん! 落ち着いて!」


 岡野が振り返った。


「はい!」


 悠翔は続けた。


「練習どおりたい!」


 岡野は深呼吸した。


 篠田監督からのサインは送りバント。


 岡野は、初球を見送った。


 ボール。


 二球目。


 バットを寝かせた。


 コンッ!


 打球は三塁方向へ転がった。


 岡野は一塁へ全力で走った。


 三塁手が捕球して一塁へ送球する。


 アウト。


 しかし、走者はそれぞれ進塁した。


 一死二、三塁。


 篠田監督が拍手した。


「岡野、ナイスバント!」


 岡野はベンチへ戻りながら、少し笑った。


「ありがとうございます!」


 続く三番、村瀬杏奈。


 東区マリナーズの投手は、慎重に投げ込んだ。


 初球。


 外角への直球。


 ストライク。


 二球目。


 内角へ外れる。


 ボール。


 三球目。


 杏奈が振り抜いた。


 カキーン!


 打球はセンター前へ抜けた。


 三塁走者の高原紗季がホームイン!


 さらに二塁走者の川島蒼空も三塁を回った。


 センターの安永凜が本塁へ送球する。


 しかし、川島の足が一瞬早かった。


「セーフ!」


 5対3!


 博多リトルスターズが二点を勝ち越した。


 ベンチが沸いた。


「杏奈! ナイス!」


「よう打った!」


 岡野も立ち上がった。


「杏奈先輩! すごいです!」


 杏奈は一塁上で笑った。


「芽衣ちゃんのバントがあったからたい!」


 岡野は少し驚いた。


「……私の?」


「そうよ。二人とも得点圏へ進めてくれたやろ?」


 岡野は、ゆっくりとうなずいた。


 そして、満面の笑みになった。


「……はい!」


 失策して失点につながった。


 しかし、今度は送りバントで勝ち越し点につながる仕事ができた。


 一つの失敗で、その日のすべてが決まるわけではない。


 岡野は、そのことを少しずつ理解し始めていた。


 第十六章 七回表、もう一度飛んできた打球

 試合は六回へ進んだ。


 東区マリナーズも反撃を試みたが、博多リトルスターズの投手陣が踏ん張った。


 岡部結菜が三回まで投げ、四回と五回は黒木海翔が登板。


 そして六回からは大原颯真がマウンドへ上がっていた。


 六回表。


 一死一塁。


 相手打者が二塁方向へ鋭いゴロを打った。


 岡野芽衣が反応した。


(……今度こそ!)


 しかし、打球は予想より少し速かった。


 岡野は横へ一歩踏み出した。


 グラブを差し出す。


 パシッ!


「捕った!」


 そして、すぐに二塁へ送球した。


 ショートの悠翔がベースを踏む。


「アウト!」


 悠翔は一塁へ転送した。


「アウト!」


 ダブルプレー!


 三アウト!


 岡野は、一瞬その場に立ち尽くした。


 そして、次の瞬間。


「やったぁ!」


 大きな声を上げた。


 悠翔が駆け寄ってきた。


「芽衣ちゃん! ナイスプレー!」


 岡野は笑顔で答えた。


「ありがとうございます!」


 悠翔は笑った。


「さっきより一歩目が速かったね!」


 岡野は何度もうなずいた。


「はい!」


 その後、七回表。


 東区マリナーズは最後まで粘ったものの、大原颯真が無失点に抑えた。


 試合終了。


 博多リトルスターズが5対3で勝利した。


 地区予選初戦・最終結果


 チーム1234567計

 東区マリナーズ10020003

 博多リトルスターズ


 1


 2


 0


 0


 2


 0


 ×


 5


 博多リトルスターズ 5-3 東区マリナーズ


 博多は岡部結菜、黒木海翔、大原颯真が継投。四番・柳川悠翔が初回に同点適時二塁打。村瀬杏奈が五回に決勝の二点適時打。

 試合終了後。


 選手たちが整列する。


「ありがとうございました!」


 篠田監督は、ベンチへ戻った選手たちを集めた。


「みんな、よく頑張った。まずは初戦突破、おめでとう」


 選手たちが笑顔になった。


「ありがとうございます!」


 しかし、篠田監督は続けた。


「今日の試合でも、守備のミスや連係の課題が見つかったね」


 悠翔がうなずいた。


「はい」


「次の試合までに、改善できるところを一つずつ練習しよう」


 そして、岡野芽衣へ向き直った。


「岡野、今日の試合はどうだった?」


 岡野は少し考えた。


「……最初はエラーしてしまって、すごく悔しかったです」


 篠田監督はうなずいた。


「うん」


「でも、悠翔先輩や杏奈先輩が、次のプレーを考えようって言ってくれました」


 岡野は続けた。


「それで、バントもできたし、最後はダブルプレーも取れました」


 篠田監督は微笑んだ。


「そうだね。今日の経験を忘れずに、これからも練習しよう」


「はい!」


 悠翔も笑顔で言った。


「芽衣ちゃん、次の試合も頑張ろうね!」


 岡野は力強く答えた。


「はい!」


 新チームは、地区予選の初戦を突破した。


 しかし、全国大会への道は、まだ始まったばかりだった。


 第十七章 試合後、二人が考えたこと

 夕方。


 博多フューチャーズの試合を終えた正則と亜由美は、グラウンドのベンチで今日の内容を振り返っていた。


 正則は野球ノートを開いた。


「……二回一失点か」


 亜由美が隣からのぞき込んだ。


「でも、ちゃんと予定の二回を投げ切ったやん」


 正則はうなずいた。


「せやな」


 そして、少し考えた。


「でも、四番に打たれた球、やっぱり甘かったわ」


 亜由美もうなずいた。


「うん。高めへ入った直球を、しっかり打たれたもんな」


 正則は、静かに書き込んだ。


『中学生の四番打者には、高めの甘い直球は通用しない』


 しかし、すぐに書き直した。


『大沢蓮への三球目は高めに甘く入り、強く打ち返された。ほかの打者にも同じとは限らないが、低めへの制球を安定させたい』


 亜由美が笑った。


「正則、書き方変えたん?」


「うん」


「何で?」


 正則は少し笑った。


「悠翔が言うとったやろ。分かったことと、まだ分からんことを分けるって」


 亜由美は、静かにうなずいた。


「……そうやね」


 そして、自分のノートを開いた。


 今日の打撃。


 五回裏、代打として出場。


 相手投手の直球を、ライト前へ打ち返した。


 勝ち越しの適時打。


 しかし、亜由美はその一打だけでなく、試合中の観察記録を見返していた。


「正則、うちな、今日ちょっと分かったことがあるねん」


「何や?」


「ベンチにおるときも、ちゃんと試合に参加できるんやなって」


 正則はうなずいた。


「せやな。亜由美、ずっと相手投手の球を見とったもんな」


 亜由美は笑った。


「うん。でも、これからは二塁の守備だけやなくて、ほかのポジションの動きも覚えたいと思うねん」


 正則が驚いた。


「何で?」


「もし試合途中で守備位置が変わったとき、何も分からんかったら困るやろ?」


 正則は少し考えた。


「……なるほどな」


 亜由美は続けた。


「レギュラーを取るためには、ただ打てるとか守れるとかだけじゃなくて、チーム全体のことを考えられるようになりたい」


 正則は、少し笑った。


「亜由美、何かめちゃくちゃ頼もしくなってきたな」


 亜由美も笑った。


「正則こそ、ちゃんと考えるピッチャーになってきたやん!」


 二人は顔を見合わせた。


 そして、声を上げて笑った。


 そこへ、三年生の藤岡蓮司がやってきた。


「二人とも、何しよると?」


 正則が答えた。


「今日の反省です!」


 藤岡はうなずいた。


「よかことたい」


 そして、少し笑った。


「正則君、今日の二回一失点、悪くなかったよ」


 正則は頭を下げた。


「ありがとうございます!」


「でも、これから先は、もっと強い打者も出てくるけんね」


「はい!」


 藤岡は続けた。


「亜由美さんも、今日はいい仕事したね」


 亜由美が頭を下げた。


「ありがとうございます!」


「でも、次の試合も同じように打てるとは限らんよ」


 亜由美は力強く答えた。


「分かっています!」


 藤岡は満足そうに笑った。


「よし。これからも頑張ろう!」


 第十八章 悠翔から届いた勝利の報告

 その夜。


 博多南中学校の寄宿舎。


 正則と亜由美は、夕食と入浴を終え、それぞれの部屋で自主学習をしていた。


 そのとき、正則のスマートフォンにメッセージが届いた。


 柳川悠翔からだった。


 悠翔:正則君、亜由美さん! 今日、地区予選の初戦に勝ったばい! 5対3やった!


 正則は笑顔になった。


「おおっ!」


 そして、すぐに返信した。


 正則:悠翔! おめでとう! こっちも今日、4対2で勝ったで!


 亜由美もメッセージを送った。


 亜由美:悠翔君、おめでとう! うちは今日、代打で勝ち越しのタイムリーヒットを打てたよ!


 悠翔から、すぐに返事が届いた。


 悠翔:すごかね! 亜由美さん、ナイスバッティング! 正則君はどうやったと?


 正則:二回投げて一失点やった。四番に長打を打たれてもうたけど、最後は三振も取れたで!


 悠翔:よかったね! 二人とも、少しずつ中学野球に慣れてきたっちゃね!


 正則は笑った。


 正則:まだまだやで! 先輩たちには全然追いつけへん!


 亜由美も続けた。


 亜由美:うちも、レギュラーを取るにはもっと練習せんといかんわ!


 そして、悠翔からもう一通届いた。


 悠翔:僕たちも、今日は四年生が初めて公式戦に出たんよ。エラーもあったけど、最後はみんなで勝てたけん、よかった!


 正則は少し考えた。


 そして、返信した。


 正則:そうか。悠翔もキャプテンとして頑張っとるんやな!


 悠翔から返事が届いた。


 悠翔:うん! でも、僕一人で勝ったわけじゃなかけんね。みんなが頑張ってくれたおかげたい!


 亜由美は、その文章を見つめていた。


 そして、静かに笑った。


「……悠翔君らしいな」


 正則もうなずいた。


「せやな」


 そして、二人はもう一度メッセージを送った。


 正則:悠翔! 次の試合も頑張りや!


 亜由美:全国大会まで、勝ち進めるといいね!


 悠翔から、すぐに返信が届いた。


 悠翔:ありがとう! 正則君たちも、中学野球頑張ってね! 一年後、一緒に全国制覇を目指そう!


 正則は、画面を見つめて笑った。


「……一年後か」


 亜由美もうなずいた。


「楽しみやね」


 正則は力強く答えた。


「おう!」


 第十九章 それぞれの第一歩

 大阪でも、新しい挑戦が続いていた。


 西九条中学校。


 池永智雄、宮本さくら、西村奈緒、藤原航、梶原悠真、藤本颯太らは、上級生と一緒に対外試合へ向けた練習を続けていた。


 智雄は、三年生の若狭大地から投球フォームや配球について教わりながら、自分の直球を磨いている。


 宮本さくらは、外野の守備範囲を広げるため、打球判断の練習に取り組んでいた。


 西村奈緒も、一塁守備で強い打球に対応するため、足の運び方や捕球姿勢を見直していた。


 それぞれが違う場所で、新しい仲間と出会い、新しい技術を学んでいた。


 そして博多。


 正則と亜由美は、中学生として初めての対外練習試合を終えた。


 正則は先発投手として二回一失点。


 亜由美は途中出場で勝ち越しの適時打を放ち、二塁守備でも好プレーを見せた。


 しかし、今日の結果だけでレギュラーが約束されたわけではない。


 三年生の藤岡蓮司。


 相原健悟。


 三浦康平。


 そして、同じ一年生の坂井雄二、牧田和美、岸田誠一、立花朋輝、森下悠一たち。


 チームには、実力と努力を兼ね備えた仲間が大勢いる。


 その中で、自分の役割を見つけなければならない。


 一方、博多リトルスターズでは、柳川悠翔が四番打者兼キャプテンとして、全国大会へつながる地区予選の初戦を突破した。


 しかし、新しい四年生たちには、まだ経験が足りない。


 エラーもする。


 三振もする。


 思いどおりにいかないこともある。


 それでも、失敗を恐れて何もしなければ、成長することはできない。


 打球を追いかける。


 バットを振る。


 仲間へ声をかける。


 そして、失敗したら原因を考え、次のプレーに生かす。


 正則と亜由美。


 そして悠翔。


 三人の野球人生は、少しずつ違う道を歩みながらも、確かにつながっていた。


 一年後、三人が同じチームで戦う日が来る。


 そのとき、どれほど成長しているのだろうか。


 答えは、まだ分からない。


 しかし、今日の試合は、三人にとって大切な一歩になった。


 勝つことだけが成長ではない。試合の中で何を学び、次にどう生かすか。それを積み重ねた先に、まだ見ぬ大きな舞台が待っている。


 次回予告

 第52話「レギュラー争いの本格化、譲れないポジション」

 中学生になって初めての対外練習試合を終えた河内正則と加藤亜由美。


 正則は二回一失点。


 亜由美は途中出場で勝ち越しの適時打。


 二人とも、初めての対外試合で確かな手応えをつかんだ。


 しかし、博多フューチャーズには全国制覇を経験した三年生や、実力のある二年生が数多く在籍している。


 城戸直哉監督は、次の大会へ向けてポジション争いを本格化させると告げる。


「これからは、練習での内容だけでなく、試合でどれだけチームに貢献できるかも見ていきます」


 投手陣では、三年生の藤岡蓮司を中心に、二年生の水上遼太、一年生の河内正則と国分颯斗が競い合う。


 二塁では、三年生の三浦康平、一年生の加藤亜由美と牧田和美が、それぞれの長所を生かそうと練習を重ねる。


 正則は言う。


「俺、先輩からもっといろんなことを学びたい。でも、いつかは先発を任される投手になりたい!」


 亜由美も力強く答える。


「うちも、誰かが出られへんから試合に出るんやなくて、自分の実力で選んでもらえる選手になりたい!」


 一方、大阪の西九条中学校では、池永智雄たちが上級生とのポジション争いに挑み始める。


 そして博多リトルスターズでは、柳川悠翔が地区予選の次戦へ向けて、守備の連係と新四年生たちの育成に取り組んでいた。


 しかし、勝ち進むにつれて、対戦相手も強くなっていく。


 次回、第52話「レギュラー争いの本格化、譲れないポジション」。


 仲間であると同時に、ポジションを争うライバルでもある。互いを尊重しながら実力を磨き、チームの勝利につなげる。正則と亜由美の挑戦は、さらに本格化していく。

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