大阪タイタンズ最後の冬、別れと旅立ちの準備
河内正則 栄光への道
第45話「大阪タイタンズ最後の冬、別れと旅立ちの準備」
第一章 大阪タイタンズ、最後の冬
二月下旬。
大阪の朝は、まだ厳しい寒さに包まれていた。
河川敷の野球場には冷たい北風が吹き、外野の芝生には朝露が残っている。
そんな中、大阪タイタンズの選手たちが続々と集まってきた。
河内正則。
加藤亜由美。
池永智雄。
宮本さくら。
西村奈緒。
藤原航。
有村恒一郎。
梶原悠真。
藤本颯太。
星野慎一。
そして、五年生や四年生の選手たち。
今日は大阪タイタンズの卒団記念紅白戦だった。
六年生にとって、このユニフォームを着て真剣勝負をする最後の試合となる。
全国大会では、決勝で博多リトルスターズに延長八回の末、3対4で敗れた。
しかし、全国準優勝という結果は、選手たちが積み重ねてきた努力の証しでもあった。
その六年生たちが、今日を最後に卒団する。
川原監督がグラウンド中央へ選手たちを集めた。
「みんな、おはよう!」
「おはようございます!」
「今日は卒団記念の紅白戦だ。六年生にとっては、大阪タイタンズで戦う最後の試合になる」
選手たちの表情が少し引き締まった。
「ただし、最後だからといって遠慮する必要はない。四年生も五年生も、全力で六年生に挑んでくれ」
四年生たちが元気よく返事をした。
「はい!」
川原監督は笑った。
「よし。まずは体を温めよう。寒いから、いきなり全力で投げたり打ったりするなよ」
正則が隣の智雄へ話しかけた。
「智雄、いよいよ最後やな」
智雄はうなずいた。
「せやな。タイタンズでお前とガチンコ勝負できるんも、今日が最後や」
正則は笑った。
「ほな、遠慮せんと投げるで」
「こっちの台詞や!」
亜由美が横から突っ込んだ。
「二人とも、まだ準備運動も終わってへんのに、もう勝負始めとるやん!」
三人は声を上げて笑った。
しかし、今日が特別な一日であることは、全員が理解していた。
第二章 六年生の背中を追いかけて
まずはランニングから始まった。
グラウンドをゆっくり二周。
その後、ストレッチと肩甲骨周辺の運動。
下半身を温めるための軽いダッシュも行った。
川原監督が声をかける。
「四年生、無理に六年生と同じ速さで走らなくていいぞ。自分の体をしっかり温めることが大事だ」
四年生の河野晴斗が答えた。
「はい!」
その隣では、同じ四年生の香坂葵が懸命に体を動かしていた。
宮本さくらが近づいた。
「葵、寒いやろ?」
「はい! めちゃくちゃ寒いです!」
「ほな、しっかり温めときや。今日は紅組で一緒やからな!」
葵が笑った。
「はい! よろしくお願いします!」
一方、正則は四年生の安井陽太とキャッチボールをしていた。
「陽太、肩は温まってきたか?」
「はい!」
「ほな、少しずつ距離を伸ばしていこう」
「分かりました!」
正則は、相手が捕りやすい位置へ丁寧にボールを投げた。
陽太が尋ねる。
「正則先輩、今日もあの速い球を投げるんですか?」
正則は笑った。
「投げるで。でも、今のキャッチボールでは投げへんよ」
「どうしてですか?」
「まだ体が完全に温まっとらんし、キャッチボールは相手が捕れる球を投げることも大事やからな」
陽太は大きくうなずいた。
「はい!」
そんな二人の様子を、川原監督が遠くから見つめていた。
全国大会の頃、正則は自分の投球に夢中になり、時には相手を打ち取ることばかり考えていた。
しかし今は、後輩の体格や技量に合わせて、投げる球を調整している。
監督は小さく微笑んだ。
「……成長したな、正則」
その声は、冬の風に消えていった。
第三章 発表された紅白戦の先発メンバー
準備運動とキャッチボールが終わると、川原監督は選手たちを集めた。
「それでは、今日の先発メンバーを発表する」
選手たちが前方へ集まった。
「今日の試合は七回制。紅組と白組に分かれて戦う。勝負にはこだわってほしいが、怪我をしないことも大切だ。投手は球数と体調を確認しながら交代させる」
そして、ホワイトボードに先発メンバーが書き出された。
大阪タイタンズ・卒団記念紅白戦
打順紅組白組
1藤本颯太(中)加藤亜由美(二)
2香坂葵(二・4年)河野晴斗(中・4年)
3宮本さくら(右)西村奈緒(一)
4池永智雄(投)河内正則(投)
5梶原悠真(遊)藤原航(捕)
6星野慎一(三)椎名美桜(右・4年)
7北川奏太(一・5年)八木大和(左・5年)
8西口莉央(左・4年)小西裕人(三・5年)
9有村恒一郎(捕)安井陽太(遊・4年)
先攻は紅組、後攻は白組。途中交代や守備位置の変更も行う卒団記念試合。
先発投手は、紅組が池永智雄。
白組が河内正則。
全国大会決勝で投げ合うことはなかった二人が、最後の紅白戦で直接対決することになった。
智雄が正則を見た。
「……正則」
「何や?」
「今日こそ負けへんで」
正則はニヤリと笑った。
「こっちも負けるつもりないわ!」
すると亜由美が割って入った。
「正則! うちは白組やから、ちゃんと援護したるで!」
正則が笑った。
「頼んだわ!」
智雄は少し悔しそうな顔をした。
「うわっ、亜由美が正則のチームかい!」
宮本さくらが智雄の肩をたたいた。
「何言うとんねん! こっちにはうちがおるやろ!」
「せやな!」
そして、さくらは正則へ向かって叫んだ。
「正則! 今日もホームラン打ったるからな!」
正則が笑った。
「全国大会の決勝で打ったからって、毎回打てると思うなよ!」
「ほな、打って証明したるわ!」
選手たちから笑い声が起きた。
川原監督も笑いながら告げた。
「よし。全員、思い切ってやってこい!」
第四章 一回、亜由美がつくった先制点
試合が始まった。
一回表。
先攻の紅組は、正則の直球を前に無得点。
藤本颯太が粘って球数を投げさせたものの、最後は遊撃ゴロに倒れた。
香坂葵も懸命にバットを振ったが、二塁フライ。
宮本さくらは鋭い打球を放ったものの、一塁の西村奈緒がしっかり捕球した。
三者凡退。
正則はマウンドから笑顔で戻ってきた。
「よっしゃ!」
智雄が声をかける。
「正則、ええ球やったな!」
「ありがとう! でも、お前にも負けへんで!」
一回裏。
白組の先頭打者は加藤亜由美。
智雄がマウンドに立つ。
亜由美が打席へ向かうと、智雄が笑った。
「亜由美、簡単には打たせへんで!」
亜由美は即答した。
「うちも簡単にはアウトにならへんよ!」
初球。
外角低めへの直球。
ストライク。
二球目。
亜由美がファウルで粘る。
三球目。
内角への直球。
亜由美は踏み込んだ。
カキーン!
打球は一、二塁間を抜けた。
「ライト前ヒット!」
白組、無死一塁。
亜由美は一塁上で拳を握った。
「よし!」
続く二番は、四年生の河野晴斗。
晴斗は送りバントの構えを取った。
初球を見送る。
二球目。
バットを寝かせた。
コンッ!
打球は投手前へ転がった。
智雄が捕球し、一塁へ送球。
アウト。
一死二塁。
川原監督が声をかける。
「晴斗、いいバントだったぞ!」
晴斗は笑顔で一礼した。
「ありがとうございます!」
そして三番、西村奈緒。
智雄が投げ込んだ直球を、奈緒が鋭く打ち返した。
カキーン!
センター前へ抜けるヒット。
二塁走者の亜由美が三塁を回る。
本塁へ滑り込んだ。
「セーフ!」
白組が一点先制。
1対0。
亜由美が笑顔で奈緒を迎えた。
「奈緒! ナイスバッティング!」
奈緒も笑った。
「亜由美の出塁があったからやで!」
しかし、続く四番の正則は、智雄の低めへの直球を打って遊撃ゴロ。
梶原悠真が二塁へ送球し、香坂葵から一塁へ転送された。
ダブルプレー。
三アウト。
正則は苦笑しながら戻ってきた。
「うわぁ、やられた!」
智雄が笑った。
「正則! まずは俺の勝ちやな!」
正則が突っ込んだ。
「まだ一回やろ!」
ベンチは笑いに包まれた。
第五章 三回、四年生がつないだ同点劇
二回は両チーム無得点。
迎えた三回表。
紅組の先頭打者、五年生の北川奏太がセンター前ヒットで出塁した。
続く四年生の西口莉央が、きっちり送りバントを決める。
一死二塁。
九番、有村恒一郎。
正則が投げた外角の直球を、恒一郎が逆方向へ打ち返した。
カキーン!
打球はライト線へ抜けた。
二塁走者の北川が三塁を回る。
ホームイン!
1対1。
同点タイムリーツーベースヒット。
紅組のベンチが沸いた。
「恒一郎! ナイス!」
「奏太もよう走った!」
正則は少し苦笑した。
「……やるやんけ」
続く藤本颯太は内野ゴロ。
二死三塁。
二番、香坂葵。
葵は四年生ながら、思い切りのいい打撃を持っていた。
正則は慎重に投げ込んだ。
初球は外角低め。
ストライク。
二球目。
葵はファウルで粘った。
三球目。
正則が投げ込んだ直球を、葵はコンパクトに打ち返した。
しかし、打球は二塁手の亜由美の正面。
亜由美が捕球し、一塁へ送球した。
「アウト!」
三アウト。
葵は悔しそうにベンチへ戻った。
「うわぁ、打てたと思ったのに!」
さくらが笑顔で迎えた。
「葵、ええスイングやったで!」
「ありがとうございます!」
さくらは続けた。
「次はもっと打球を強くできるように練習しような!」
葵は力強くうなずいた。
「はい!」
正則は、その様子をマウンドから見つめていた。
六年生が卒団すれば、四年生や五年生が次のチームを支えていく。
そのことを、改めて感じていた。
第六章 四回、正則が勝ち越しの犠牲フライ
四回裏。
白組の攻撃。
先頭は四年生の河野晴斗だった。
智雄は初球から外角へ直球を投げ込んだ。
ストライク。
二球目。
晴斗がファウルで粘る。
三球目は外角低めに外れる。
ボール。
四球目。
晴斗は、きわどい球を見送った。
ボール。
五球目。
智雄の直球が高めへ外れた。
フルカウント。
六球目。
晴斗は見送った。
「ボール!」
フォアボール。
晴斗は一塁へ向かった。
続く西村奈緒。
初球の直球を打ち返した。
カキーン!
ライト前ヒット。
晴斗は一気に三塁へ進んだ。
無死一、三塁。
そして四番、河内正則。
智雄はマウンドで笑った。
「正則、今度こそ打ち取ったる!」
正則も笑った。
「俺も負けへんで!」
初球。
内角への直球。
ストライク。
二球目。
正則はファウルにした。
三球目。
外角低め。
ボール。
四球目。
智雄が直球を投げ込んだ。
正則が振り抜いた。
カキーン!
打球はセンター方向へ高々と上がった。
藤本颯太が後退する。
落下点へ入る。
捕球!
一死。
その瞬間、三塁走者の晴斗がスタートした。
「走った!」
藤本が本塁へ送球する。
しかし、晴斗の足が一瞬早かった。
「セーフ!」
白組が勝ち越し。
2対1。
正則の犠牲フライだった。
川原監督が声をかける。
「正則、いい打撃だったぞ!」
正則はうなずいた。
「ありがとうございます!」
晴斗もベンチへ戻ってきた。
亜由美が笑顔で迎える。
「晴斗! よう走った!」
晴斗は少し照れた。
「ありがとうございます!」
その後、藤原航の遊撃ゴロが併殺となり、攻撃は終了した。
しかし、白組は再び一点をリードした。
第七章 五回、紅組も簡単には譲らない
五回表。
紅組の攻撃。
先頭は六番、星野慎一。
正則が投げ込んだ直球を、慎一が鋭く打ち返した。
カキーン!
打球は左中間を抜けた。
ツーベースヒット!
無死二塁。
続く七番、北川奏太。
正則の外角直球をライト前へ運んだ。
無死一、三塁。
そして八番、西口莉央。
四年生の女子選手だった。
さくらがベンチから声をかけた。
「莉央! 思い切っていきや!」
莉央は大きくうなずいた。
「はい!」
正則が初球を投げ込んだ。
内角への直球。
莉央はコンパクトに振り抜いた。
カキーン!
打球はセンター方向へのフライ。
河野晴斗が後退し、落下点に入った。
捕球。
その瞬間、三塁走者の星野慎一がスタートした。
「走った!」
晴斗は素早く本塁へ送球した。
しかし、慎一の足が早かった。
「セーフ!」
2対2。
紅組が再び同点に追いついた。
莉央は犠牲フライを記録した。
ベンチへ戻ると、さくらが笑顔で迎えた。
「莉央! ナイスバッティング!」
莉央は満面の笑みを見せた。
「ありがとうございます!」
智雄も拍手した。
「よう打ったな!」
莉央は照れくさそうに笑った。
「先輩たちと一緒に試合できる最後の日やから、絶対に打ちたかったんです!」
その言葉に、さくらの表情が少し変わった。
そして、優しく微笑んだ。
「……そうやな」
今日を最後に、六年生は卒団する。
四年生たちと同じチームで戦う機会も、これが最後になる。
さくらは、改めてそのことを感じていた。
第八章 六回、亜由美が決めた勝ち越し打
六回表。
正則は、最後のイニングを三者凡退に抑えた。
その後、川原監督は正則をベンチへ呼んだ。
「正則、ここまでだ。よく投げたな」
正則はうなずいた。
「ありがとうございます!」
「七回は後輩に任せよう。お前は最後の守備を左翼で見守ってくれ」
正則は少し驚いた。
しかし、すぐに笑顔になった。
「はい!」
そして六回裏。
白組の攻撃。
先頭は九番、四年生の安井陽太。
智雄は慎重に投げ込んだ。
しかし、陽太はきわどい球を見極め、フルカウントまで粘った。
そして七球目。
外角へ外れる。
「ボール!」
フォアボール。
無死一塁。
智雄は苦笑した。
「……四年生、ほんまによう粘るな」
続く一番、加藤亜由美。
亜由美は打席へ向かった。
智雄が声をかけた。
「亜由美、最後の勝負やな」
亜由美が笑った。
「そうやね。遠慮せんといくで!」
智雄もうなずいた。
「望むところや!」
初球。
外角への直球。
ストライク。
二球目。
亜由美はファウルで粘った。
三球目。
内角高め。
ボール。
四球目。
智雄が外角低めへ直球を投げ込んだ。
亜由美が踏み込んだ。
カキィィン!
鋭い打球が右中間へ飛んだ。
「大きい!」
ライトのさくらが追う。
センターの藤本も走る。
しかし、打球は二人の間へ落ちた。
そのままフェンス方向へ転がっていく。
「ツーベースヒット!」
一塁走者の安井陽太が二塁を蹴った。
三塁へ向かう。
三塁コーチが腕を回す。
「陽太! 回れ!」
陽太は全力で走った。
ホームベースへ滑り込む。
「セーフ!」
白組、勝ち越し!
3対2。
亜由美のタイムリーツーベースヒットだった。
白組ベンチが沸いた。
「亜由美! ナイス!」
「陽太もよう走った!」
正則も立ち上がった。
「亜由美! 最高や!」
亜由美は二塁上で拳を握った。
「やったで!」
智雄は少し悔しそうに笑った。
「……またお前に打たれたわ」
亜由美は笑顔で答えた。
「今日だけは負けられへんもん!」
その後、智雄は立て直し、追加点を許さなかった。
六回を終えて、白組が3対2とリードした。
第九章 七回表、最後の守備
七回表。
紅組の最後の攻撃。
川原監督は、投手交代を告げた。
白組の三塁手として出場していた五年生・小西裕人がマウンドへ上がる。
正則は左翼へ回り、八木大和に代わって五年生の高田奏が三塁へ入った。
小西は少し緊張していた。
そこへ正則が声をかけた。
「裕人、落ち着いていきや!」
「はい!」
「自分の球を信じて投げたらええ!」
小西は力強くうなずいた。
「ありがとうございます!」
先頭打者は五番、梶原悠真。
初球。
外角への直球。
ストライク。
二球目。
梶原が振り抜いた。
カキーン!
打球はセンター前へ抜けた。
無死一塁。
続く六番、星野慎一。
送りバントを試みる。
小西が前進して捕球し、一塁へ送球した。
アウト。
一死二塁。
七番、北川奏太。
小西の直球を打ち返した。
打球は遊撃手の安井陽太の正面へ。
陽太が捕球して一塁へ送球。
アウト。
二死三塁。
続く八番、西口莉央。
莉央は、粘って四球を選んだ。
二死一、三塁。
一打同点。
長打なら逆転の場面だった。
打席には九番、有村恒一郎。
白組のベンチから、川原監督が声をかけた。
「裕人、落ち着いて!」
小西はうなずいた。
「はい!」
初球。
外角への直球。
ストライク。
二球目。
内角高め。
ボール。
三球目。
恒一郎がファウルで粘った。
1ボール2ストライク。
四球目。
小西が投げ込んだ直球を、恒一郎が鋭く振り抜いた。
カキーン!
打球はセンター方向へ大きく上がった。
「大きい!」
センターの河野晴斗が後退する。
さらに後退。
しかし、最後まで打球から目を離さなかった。
グラブを構える。
そして。
パシッ!
「捕った!」
三アウト!
試合終了!
白組が3対2で勝利した。
晴斗は捕球したグラブを高く掲げた。
白組の選手たちが駆け寄る。
「晴斗! ナイスキャッチ!」
「よう捕った!」
正則も左翼から駆け寄った。
「晴斗! 最高や!」
晴斗は少し照れた。
「ありがとうございます!」
正則は笑った。
「最後、ほんまに助かったで!」
一方、紅組の智雄は、帽子を取って笑っていた。
「……負けたわ」
さくらが肩をたたいた。
「惜しかったな!」
「せやな。でも、ええ試合やった」
正則が近づいてきた。
「智雄」
「何や?」
「最後の勝負、楽しかったで」
智雄は笑った。
「俺もや」
そして、二人は力強く握手した。
大阪タイタンズ・卒団記念紅白戦 結果
チーム1234567計
紅組00101002
白組100101×3
白組 3-2 紅組
白組・河内正則、紅組・池永智雄が先発。決勝点は六回裏、加藤亜由美の適時二塁打。
第十章 卒団式、六年生それぞれの言葉
試合終了後。
選手たちはグラウンド中央へ整列した。
川原監督が前へ進み出た。
「みんな、今日は素晴らしい試合だった」
選手たちが深く頭を下げた。
「ありがとうございました!」
監督は続けた。
「特に四年生、五年生は、六年生を相手によく頑張った。これからは君たちが大阪タイタンズを支えていくことになる」
下級生たちの表情が引き締まった。
そして、監督は六年生たちを見渡した。
「では、卒団する六年生から、一人ずつ挨拶をしてもらおう」
最初に前へ出たのは、梶原悠真だった。
「僕は、大阪タイタンズで野球ができて、本当によかったと思っています。全国大会では準優勝でしたけど、みんなと最後まで戦えたことは一生忘れません。後輩のみんなも、絶対に諦めずに頑張ってください!」
拍手が起きた。
続いて、藤本颯太。
「僕は守備が大好きです。全国大会の決勝では、フェンスにぶつかりながら打球を捕った場面が一番印象に残っています。後輩のみんなも、最後までボールを追いかけてください!」
有村恒一郎。
「僕は、仲間と声をかけ合うことの大切さを学びました。エラーしても、打てなくても、次のプレーがあります。これからも、みんなで支え合ってください!」
藤原航。
「僕はキャッチャーとして、たくさんのピッチャーと組ませてもらいました。正則も智雄も慎一も、みんな違う特徴を持っています。その違いを生かしてリードすることが、すごく楽しかったです。後輩のみんなも、自分と仲間の長所を大切にしてください!」
星野慎一。
「僕は、安定した投球をすることを目標に練習してきました。でも、全国大会ではまだまだ足りないことがあると分かりました。中学でも練習を続けます。みんなも自分の目標を大切にしてください!」
池永智雄。
智雄は少し緊張した表情で前へ出た。
「僕は、全国大会決勝で最後のホームランを打たれました」
グラウンドが静かになった。
「正直、めちゃくちゃ悔しかったです。でも、あの十六球で、自分に足りないことが分かりました」
智雄は続けた。
「僕は中学でも野球を続けて、もっと制球力を磨きます。次に柳川悠翔と対戦するときは、絶対に抑えたいです!」
そして、正則を見た。
「正則! 今度対戦するときは、絶対に負けへんからな!」
正則が笑った。
「望むところや!」
拍手と笑いが起きた。
続いて宮本さくら。
「私は、女子でも男子と一緒に本気で野球ができることを、このチームで学びました。全国大会でホームランを打てたことも、みんなと一緒に決勝まで行けたことも、最高の思い出です!」
さくらは後輩たちを見た。
「四年生、五年生のみんな! これからも、男女関係なく、野球を楽しんでください!」
続いて西村奈緒。
「私は、打撃も守備も、考えてプレーすることを大切にしてきました。全国大会では、あと少しでホームランという打球もありましたけど、届きませんでした。中学でも、もっと強い打球を打てるように頑張ります!」
そして、加藤亜由美。
亜由美は、ゆっくりと前へ進み出た。
「私は、小さい頃から正則と一緒に野球をしてきました」
正則が顔を上げた。
「大阪タイタンズでは、たくさんの仲間と出会って、全国大会の決勝まで行くことができました」
亜由美は続けた。
「春からは博多へ行きます。博多フューチャーズで、もっと高いレベルの野球に挑戦します」
そして、後輩たちを見た。
「でも、大阪タイタンズで学んだことは、絶対に忘れません。みんなも、自分の目標を大切にして頑張ってください!」
大きな拍手が起きた。
最後に、河内正則。
正則は、しばらくグラウンドを見渡していた。
ここで何度も投げた。
何度も打たれた。
悔しくて泣いたこともある。
しかし、それ以上に、仲間たちと笑った時間があった。
正則は、ゆっくり口を開いた。
「俺は、大阪タイタンズで野球ができて、本当によかったです」
そして、深く頭を下げた。
「川原監督、コーチの皆さん、保護者の皆さん、今まで本当にありがとうございました!」
正則は顔を上げた。
「春からは博多へ行きます。あの柳川悠翔たちと、今度は同じチームで全国制覇を目指したいです」
そして、少し笑った。
「でも、大阪タイタンズで学んだことは、絶対に忘れません」
正則は後輩たちを見た。
「みんなも、俺らを超えるくらい強くなってください!」
大きな拍手が響いた。
正則は、最後に一言付け加えた。
「それから、智雄!」
「何や!」
「次に対戦するときは、俺も絶対に負けへんからな!」
智雄が笑った。
「望むところや!」
再び笑いが起きた。
しかし、その笑いの中には、少しだけ寂しさが混ざっていた。
第十一章 後輩たちからの言葉
六年生の挨拶が終わると、今度は下級生たちが前へ進み出た。
四年生の河野晴斗が、代表して口を開いた。
「六年生の皆さん、今までありがとうございました!」
続いて香坂葵。
「私たちが分からないことを、いつも丁寧に教えてくれて、ありがとうございました!」
安井陽太も続けた。
「正則先輩! 博多へ行っても、絶対にレギュラーを取ってください!」
正則が笑った。
「ありがとう!」
そして、陽太は少し声を震わせながら続けた。
「また大阪へ帰ってきたら、僕たちの練習を見に来てください!」
正則の表情が変わった。
「……うん」
続いて、椎名美桜。
「亜由美先輩! 私も亜由美先輩みたいに、守備のうまい選手になりたいです!」
亜由美は、少し涙を浮かべた。
「ありがとう!」
美桜は続けた。
「博多でも頑張ってください! でも、たまには大阪にも帰ってきてください!」
亜由美は何度もうなずいた。
「もちろんや!」
そして、五年生の小西裕人が前へ出た。
「六年生の皆さん。僕たちは、皆さんが全国大会で準優勝したことを誇りに思っています」
六年生たちは静かに聞いていた。
「でも、僕たちは来年、もっと強くなって、全国制覇を目指します!」
川原監督が大きくうなずいた。
裕人は続けた。
「だから、正則先輩、亜由美先輩。博多でもレギュラーを取ってください。そして、また帰ってきて、僕たちの練習を見てください!」
正則と亜由美は、そろって深く頭を下げた。
「ありがとう!」
その瞬間、正則の頬を一筋の涙が伝った。
亜由美も涙を拭っていた。
全国大会で負けたときとは違う涙だった。
悔しさではない。
感謝と、別れの寂しさ。
そして、未来へ向かう決意が入り交じった涙だった。
第十二章 修司と恵子、息子の成長を見つめる
観客席では、河内修司と恵子が卒団式を見守っていた。
隣には一香もいた。
恵子はハンカチで目元を押さえていた。
「……大きくなったね、正則」
修司がうなずいた。
「ああ」
「最初に野球を始めた頃は、グラブも大きすぎて、うまくボールを捕れへんかったのに」
修司は静かに笑った。
「そうやったな」
恵子は続けた。
「毎日泥だらけになって帰ってきて、練習着を洗うのも大変やったわ」
一香が笑った。
「今は自分で洗うようになったやん!」
恵子も笑った。
「そうやね」
そして、再びグラウンドへ目を向けた。
正則は後輩たちと握手を交わしていた。
一人一人の顔を見ながら、言葉をかけている。
修司は静かに言った。
「……正則も、もうすぐ中学生か」
恵子がうなずいた。
「うん」
「春からは博多やな」
「そうやね」
二人は、しばらく黙っていた。
そして、修司が言った。
「寂しくなるな」
恵子は少し笑った。
「修司さんも、そう思うん?」
「当たり前やろ」
恵子は、夫の顔を見つめた。
修司はグラウンドから目を離さずに続けた。
「でも、あいつが自分で決めた道や。親として、応援してやりたい」
恵子は静かにうなずいた。
「そうやね」
そして、修司は小さく笑った。
「ただし、博多に行って掃除や洗濯をサボったら、帰省したときに説教やな」
恵子が吹き出した。
「修司さん! 今は感動の場面やろ!」
一香も大笑いした。
「お父さん、最後にそれ言うん!?」
修司は少し照れた。
「いや、大事なことやろ!」
三人は笑い合った。
しかし、その目には確かな誇りが宿っていた。
第十三章 博多リトルスターズでも、世代交代
一方、福岡市。
博多リトルスターズの練習場でも、六年生の卒団式が行われていた。
全国大会決勝で大阪タイタンズを破り、日本一に輝いたチーム。
その主力を担った六年生たちも、まもなく中学校へ進学する。
篠田正孝監督は、選手たちを集めた。
「みんな、今日は六年生の卒団式だ」
選手たちは姿勢を正した。
「これまでチームを支えてきた六年生に、感謝の気持ちを伝えよう」
そして、六年生たちが一人ずつ前へ出た。
最初は坂井雄二。
全国大会決勝では、七回裏二死走者なしから十一球粘り、三塁への内野安打で出塁した。
その執念が、博多の同点劇につながった。
「僕は、このチームで野球ができて、本当によかったです」
雄二は少し照れた。
「全国大会の決勝では、最後まで諦めんことが大切やって、改めて分かりました」
そして後輩たちを見た。
「これからも、どげんな場面でも最後まで諦めんでください!」
大きな拍手が起きた。
続いて牧田和美。
「私は、仲間を信じることの大切さを学びました。決勝の七回裏、雄二が塁に出てくれたから、私も絶対に打とうと思えました」
和美は笑った。
「みんな、ありがとう! 中学でも野球を頑張ります!」
続いて岸田誠一。
「僕は、決勝の七回裏にサヨナラホームランかと思う打球を打ちました。でも、大阪の藤本君に捕られました」
選手たちが静かに聞いていた。
「悔しかったけど、あれは本当にすごい守備やったと思います。僕も中学では、あんなプレーができる選手になりたいです!」
続いて立花朋輝。
「僕は、最後の八回裏にヒットで出塁できたことが、一番うれしかったです。悠翔がホームランを打ってくれたけん、日本一になれました」
朋輝は悠翔を見た。
「悠翔! 中学に入ってきたら、また一緒に全国制覇を目指そうな!」
悠翔が元気よく答えた。
「はい!」
そして、森下悠一。
「僕はキャッチャーとして、結菜や大地たちと一緒に試合をできたことが、本当に楽しかったです」
悠一は少し笑った。
「でも、大地のおちょくりスローボールだけは、最後まで捕るタイミングが難しかったばい!」
選手たちが大爆笑した。
坂本大地が突っ込んだ。
「そこ、卒団式で言わんでもよかろうもん!」
悠一も笑った。
「でも、本当にありがとう!」
最後に、悠一は真剣な表情になった。
「後輩のみんな。これからも、投手と捕手だけやなくて、野手もベンチも、全員で戦うチームでいてください!」
大きな拍手が響いた。
第十四章 新チームの四番、柳川悠翔
卒団式が終わると、篠田監督は残る選手たちを集めた。
「それでは、新年度へ向けたチーム編成について話す」
選手たちが前へ集まった。
新年度からは、現在の五年生が六年生になる。
全国大会で活躍した主力選手の多くが卒団するため、チームの構成も大きく変わる。
篠田監督は、まず柳川悠翔を見た。
「悠翔」
「はい!」
「新チームでは、お前に四番を任せたい」
悠翔は少し驚いた。
「……四番ですか!?」
「そうだ」
篠田監督は続けた。
「全国大会での打撃だけではない。相手投手をよく観察し、状況に応じて打撃を変えられるところを評価している」
悠翔は真剣な表情で聞いていた。
「ただし、四番になったからといって、ホームランばかり狙う必要はない」
「はい」
「走者を返すことも、塁に出ることも、仲間へつなぐことも大切だ」
悠翔は大きくうなずいた。
「分かりました!」
そして、監督は続けた。
「守備についても、これまで以上に幅広く任せたい」
悠翔が顔を上げた。
「守備ですか?」
「そうだ。ショート、サード、そしてセカンドだ」
周囲の選手たちが少し驚いた。
「三つも!?」
篠田監督はうなずいた。
「悠翔は守備範囲が広く、肩も強い。それに打球への反応もいい。チームの状況に応じて、三つのポジションを守ってもらいたい」
悠翔は、少し考えた。
そして、力強く答えた。
「はい! 頑張ります!」
そこへ村瀬杏奈が声をかけた。
「悠翔! サード守るときは、私と競争やね!」
悠翔は笑った。
「そうたい!」
杏奈も笑った。
「負けんよ!」
岡部結菜が横から言った。
「悠翔がショートでもサードでもセカンドでも、守ってくれたら安心たい!」
悠翔は少し照れた。
「いやいや、僕もまだまだ練習せんといかんけん!」
篠田監督は、そんな選手たちを見て微笑んだ。
「よし。その気持ちを大切にしてくれ」
第十五章 新キャプテンの選任
続いて、篠田監督は新チームの主将について話し始めた。
「次に、新年度のキャプテンを決めたいと思う」
選手たちの表情が引き締まった。
「キャプテンは、ただ野球がうまければいいというものではない」
篠田監督は続けた。
「仲間の話を聞き、困っている選手がいたら声をかける。そして、試合中に苦しい場面があっても、チーム全体を見て行動できることが大切だ」
選手たちは静かに聞いていた。
「今回は、選手たちの意見も聞きながら、新しい主将を決めようと思う」
事前に行われた推薦では、複数の選手の名前が挙がっていた。
その中でも、特に多かったのが柳川悠翔だった。
篠田監督が告げた。
「新年度のキャプテンは、柳川悠翔に任せたいと思う」
一瞬、静まり返った。
そして、選手たちから大きな拍手が起きた。
悠翔は目を丸くした。
「……僕ですか!?」
篠田監督がうなずいた。
「そうだ」
「でも、僕……」
悠翔は少し考えた。
「四番も任されるし、守備も三つのポジションを受け持つんですよね?」
「そうだな」
「それでキャプテンも……」
篠田監督は微笑んだ。
「もちろん、全部一人で背負う必要はない」
悠翔が顔を上げた。
「キャプテンは、何でも一人で解決する人間ではない。仲間を信じて、みんなの力を引き出すことが大切なんだ」
悠翔は静かにうなずいた。
そして、杏奈が声をかけた。
「悠翔! 私たちも支えるけん!」
結菜も続けた。
「そうたい! 一人で頑張らんでよかよ!」
松本航も笑った。
「みんなで日本一を目指そう!」
悠翔は、しばらく仲間たちを見つめていた。
そして、大きくうなずいた。
「……分かりました!」
篠田監督が尋ねた。
「引き受けてくれるか?」
悠翔は力強く答えた。
「はい!」
そして、全員の前へ進み出た。
「僕、新しいキャプテンとして頑張ります!」
拍手が起きた。
悠翔は続けた。
「でも、僕一人では何もできんと思います」
選手たちが静かに聞いていた。
「全国大会で日本一になれたのも、雄二先輩や和美先輩、誠一先輩、朋輝先輩、悠一先輩たちが、みんなで力を合わせてくれたからです」
そして、少し笑った。
「新しいチームでも、みんなで考えて、みんなで強くなりたいです!」
篠田監督が大きくうなずいた。
悠翔は最後に、はっきりと宣言した。
「新チームでも、全国制覇を目指すばい!」
選手たちが声をそろえた。
「おおっ!」
その声が、冬のグラウンドに響き渡った。
第十六章 新主将へ託された言葉
新キャプテンの発表を聞いていた卒団生たちが、悠翔のもとへ集まってきた。
坂井雄二が笑った。
「悠翔、おめでとう!」
悠翔は少し照れた。
「ありがとう、雄二先輩!」
雄二は、悠翔の肩へ手を置いた。
「キャプテンって、楽しいことばっかりじゃなかよ」
「うん」
「試合で負けたときも、練習がうまくいかんときも、みんなのことを考えんといかん」
悠翔は静かにうなずいた。
「分かっとる」
雄二は続けた。
「でも、一人で抱え込んだらいかん。困ったときは、仲間に相談しんしゃい」
悠翔は笑った。
「うん!」
牧田和美も声をかけた。
「悠翔、四番もキャプテンも頑張ってね!」
「はい!」
岸田誠一が笑った。
「でも、ホームランばっかり狙ったらいかんばい!」
悠翔は吹き出した。
「分かっとるって!」
立花朋輝も続けた。
「僕たちは中学へ行くけど、また一緒に野球できる日を楽しみにしとるけん!」
悠翔はうなずいた。
「僕もたい!」
森下悠一が笑った。
「それまでに、めちゃくちゃ強くなっときんしゃい!」
「もちろんたい!」
そして、坂井雄二が最後に言った。
「悠翔。僕たちがつくってきたチームを、頼んだよ」
悠翔は、まっすぐに先輩たちを見つめた。
そして、深く頭を下げた。
「はい! 任せてください!」
その姿を見ながら、篠田監督は静かに微笑んでいた。
第十七章 大阪と博多、それぞれの新しい春へ
その日の夕方。
大阪。
河内正則は、卒団記念紅白戦で使用したユニフォームを丁寧に畳んでいた。
母の恵子が声をかける。
「正則、今日はどうやった?」
「白組が勝ったで!」
「そうなんや!」
「三対二やった」
恵子は笑った。
「最後も接戦やったんやね」
正則がうなずいた。
「うん。智雄も、ほんまにええ球投げとった」
そこへ父の修司が帰宅した。
「正則、卒団式はどうやった?」
正則は少し考えた。
そして、静かに答えた。
「……めちゃくちゃよかった」
修司がうなずいた。
「そうか」
正則は続けた。
「後輩たちがな、博多へ行っても頑張ってくださいって言うてくれたんや」
恵子は微笑んだ。
「そうなんや」
「それから、また大阪に帰ってきたら、練習を見に来てくださいって」
正則は、少し笑った。
「……俺、絶対に帰ってこようと思った」
修司は静かにうなずいた。
「そうやな。ここは、お前が野球を始めた大切な場所やからな」
正則は力強く答えた。
「うん!」
一方、加藤家。
亜由美も、自室で卒団式の写真を眺めていた。
さくら。
奈緒。
智雄。
正則。
そして、後輩たち。
笑顔で並んだ集合写真。
亜由美は、その写真を見つめながらつぶやいた。
「……ありがとう、みんな」
そして、机の上に置かれた博多南中学校の入寮案内を開いた。
四月。
新しい生活が始まる。
知らない場所。
新しい学校。
新しい仲間。
そして、博多フューチャーズでの野球。
亜由美は、静かに笑った。
「……絶対に頑張るで」
そのころ、博多では。
新キャプテンに選ばれた柳川悠翔が、自宅で野球のノートを開いていた。
四番打者。
ショート。
サード。
セカンド。
そして、キャプテン。
新しい役割が一度に増えた。
悠翔は、しばらくノートを見つめていた。
そして、ゆっくりと書き始めた。
『みんなで考える。みんなで助け合う。最後まで諦めない』
その下に、もう一つ。
『新チームでも日本一を目指す』
そして、悠翔は少し笑った。
「……正則君たちも、もうすぐ博多へ来るっちゃね」
しかし、同じチームで戦えるのは、まだ一年先だった。
正則と亜由美は中学一年生。
悠翔は小学六年生。
それぞれが違う場所で、違う目標に向かって練習を続けることになる。
だが、その一年は決して無駄にはならない。
正則は投手として成長する。
亜由美は守備と打撃に磨きをかける。
そして悠翔は、四番打者とキャプテンとしてチームを引っ張る経験を積む。
一年後。
三人が同じチームで出会ったとき、どんな野球が生まれるのだろうか。
その答えは、まだ誰にも分からなかった。
しかし、確かなことが一つだけあった。
全国大会決勝で始まった三人の物語は、これからさらに大きく動き始める。
冬の空には、夕焼けが広がっていた。
大阪と博多。
離れた二つの街で、少年少女たちは新しい春を待っていた。
次回予告
第46話「博多南中学校、初めての寮生活」
三月。
大阪タイタンズを卒団した河内正則と加藤亜由美は、いよいよ博多への引っ越し準備を本格化させる。
河内家では、父・修司と母・恵子、姉・一香が荷造りを手伝っていた。
「正則! 忘れ物はないか?」
修司の言葉に、正則が答える。
「大丈夫や!」
しかし、その直後。
一香が机の下から野球のグラブを発見する。
「正則! 一番大事なもん忘れとるやん!」
「うわっ! ほんまや!」
一家、大爆笑。
一方、亜由美も加藤家で準備を進めていた。
新しい制服。
学習用具。
野球道具。
そして、家族との思い出の写真。
いよいよ四月。
二人は博多南中学校の寄宿舎へ入寮する。
そこには、全国各地から集まった新しい仲間たちが待っていた。
初めての共同生活。
初めての寮の食事。
初めての洗濯当番。
そして、博多フューチャーズの練習への参加。
城戸直哉監督と平松真帆コーチは、二人へ最初の課題を与える。
「全国準優勝の実績は、ここでは一度忘れてください。今日から全員が新しいスタートです」
一方、博多リトルスターズでは、新キャプテンとなった柳川悠翔が、四番打者として練習を重ねていた。
「正則君、亜由美さん! 博多へようこそ!」
次回、第46話「博多南中学校、初めての寮生活」。
慣れ親しんだ大阪を離れ、新たな夢を追って博多へ。正則と亜由美の中学校生活が、いよいよ始まる。




