日本一の表彰式、涙と爆笑のヒーローインタビュー
河内正則 栄光への道
第40話「日本一の表彰式、涙と爆笑のヒーローインタビュー」
第一章 東京ドームに響く、勝者と敗者への拍手
全国大会決勝。
延長八回裏、無死一塁。
大阪タイタンズの池永智雄と博多リトルスターズの柳川悠翔は、十五球にわたって激しい勝負を繰り広げていた。
そして十六球目。
真ん中よりやや低めに入った直球を、悠翔がすくい上げるように振り抜いた。
白球はライトポールのすぐ内側へ飛び込んだ。
逆転サヨナラツーランホームラン。
博多リトルスターズは4対3で大阪タイタンズを破り、全国大会優勝を決めた。
全国大会決勝・最終結果
チーム12345678計
大阪000020013
博多10000012×4
優勝:博多リトルスターズ 準優勝:大阪タイタンズ
試合終了からしばらくしても、東京ドームには熱気が残っていた。
博多の選手たちは、互いに抱き合いながら涙を流している。
その一方、大阪タイタンズの選手たちも、悔し涙を拭いながら表彰式の準備を始めていた。
河内正則は、グラブを抱えたままスコアボードを見上げた。
「……ほんまに、あと一歩やったな」
隣にいた加藤亜由美がうなずく。
「せやな。あと一つアウト取ったら勝ちやったのに」
二人はしばらく黙っていた。
しかし、正則はやがて口を開いた。
「でもな、亜由美」
「何や?」
「俺、あの試合でいろんなことを覚えた気がするわ」
亜由美は正則を見た。
「速い球を投げるだけでは勝てへん。相手が何を考えとるかも見なあかんし、自分が思っとる以上に、世の中にはすごい選手がおる」
亜由美は静かに笑った。
「……そうやな」
そこへ川原監督がやってきた。
「二人とも、そろそろ整列だ」
「はい!」
川原監督は、正則と亜由美の肩に手を置いた。
「胸を張っていこう。全国準優勝だ。立派な成績だぞ」
正則はうなずいた。
「ありがとうございます!」
亜由美も深く頭を下げた。
そして大阪タイタンズの選手たちは、表彰式の舞台へ向かった。
第二章 全国準優勝、大阪タイタンズ
東京ドームの場内アナウンスが響いた。
「ただいまより、全国大会の表彰式を行います」
両チームが整列した。
まず表彰されるのは、準優勝の大阪タイタンズ。
「準優勝、大阪代表・大阪タイタンズ!」
東京ドームから大きな拍手が起きた。
川原監督を先頭に、選手たちが前へ進む。
主将の梶原悠真が準優勝の表彰状を受け取り、チームを代表して深く一礼した。
続いて、選手たちにメダルが授与される。
河内正則。
加藤亜由美。
池永智雄。
星野慎一。
有村恒一郎。
藤原航。
宮本さくら。
西村奈緒。
藤本颯太。
そして、全国大会を一緒に戦った仲間たち。
選手たちは、一人ずつメダルを受け取った。
池永智雄の目には、まだ涙が残っていた。
正則が隣から声をかける。
「智雄、顔上げようや」
智雄は小さくうなずいた。
「……せやな」
正則は続けた。
「俺たち、ここまで来たんやで」
智雄は少しだけ笑った。
「うん。そうやな」
亜由美も二人へ声をかけた。
「悔しいけど、胸張ろうな」
正則がうなずいた。
「おう!」
すると観客席から声が飛んだ。
「大阪タイタンズ! よう頑張った!」
「素晴らしい試合をありがとう!」
正則たちは顔を上げた。
博多の応援席からも、温かい拍手が送られていた。
正則は、ゆっくりと頭を下げた。
(……ありがとう)
勝てなかった悔しさは消えない。
しかし、それと同時に、ここまで戦ってきたことへの誇りも確かにあった。
第三章 博多リトルスターズ、全国の頂点へ
続いて、優勝チームの表彰が始まった。
「優勝、福岡代表・博多リトルスターズ!」
その瞬間、東京ドームに大歓声が響き渡った。
篠田正孝監督を先頭に、選手たちが前へ進む。
坂井雄二。
牧田和美。
岸田誠一。
立花朋輝。
柳川悠翔。
森下悠一。
松本航。
村瀬杏奈。
岡部結菜。
そして、坂本大地、黒木海翔、大原颯真をはじめとする選手たち。
全員が笑顔だった。
しかし、目を赤くしている選手も少なくなかった。
優勝旗が授与される。
続いて、優勝カップ。
そして、表彰状。
篠田監督は、選手たちを代表して深く一礼した。
「ありがとうございました」
観客席から拍手が続く。
優勝カップを受け取った悠翔は、隣の立花朋輝へ声をかけた。
「朋輝、これ、めちゃくちゃ重かね!」
立花が笑った。
「当たり前たい! 日本一のカップやけん!」
坂井雄二も横からのぞき込んだ。
「ちょっと持たせて!」
牧田和美が笑った。
「雄二、落とさんごとね!」
「落とすわけなかろうもん!」
そんなやり取りに、選手たちから笑いが起きた。
だが、篠田監督が声をかけると、全員が自然に姿勢を正した。
「みんな。改めて、おめでとう」
選手たちは監督を見た。
「日本一だ」
その一言を聞いた瞬間、村瀬杏奈の目から涙がこぼれた。
岡部結菜も、思わず顔を覆った。
坂本大地は、拳を握り締めていた。
そして悠翔は、優勝旗を見つめながらつぶやいた。
「……本当に勝ったっちゃね」
森下悠一が笑顔で答えた。
「そうたい。僕たち、日本一になったとよ!」
再び拍手が湧き起こった。
第四章 優勝チーム全員に聞く、全国制覇の喜び
表彰式が終わると、今度は優勝チーム全員への特別インタビューが始まった。
担当するのは、女性アナウンサーの宮原彩子。
これまで何度も悠翔のインタビューを担当し、そのたびに不可解な料理理論によって笑い崩れてきた人物だった。
しかし、今回はまず全選手へ話を聞く。
最後に、決勝のヒーローである悠翔への個別インタビューを行う予定だった。
宮原が笑顔でマイクを持った。
「それでは、博多リトルスターズの皆さんに、一人ずつお話を伺いたいと思います!」
選手たちから拍手が起きた。
「まずは、今日の先発投手、岡部結菜選手です」
結菜が前へ出た。
「はい!」
宮原が尋ねる。
「岡部選手、今日は三回を無失点に抑えました。どんな気持ちで投げていたのでしょうか?」
結菜は笑顔で答えた。
「大阪の打者はみんなすごかけん、怖さもありました。でも、自分の直球を信じて投げようと思っとりました」
「二回には大きなレフトフライもありましたね」
「あれは本当に怖かったです! 入ったと思いました!」
会場から笑いが起きた。
結菜は続けた。
「でも、誠一が捕ってくれたけん、助かりました。投手一人では勝てんって、改めて思いました」
宮原はうなずいた。
「素晴らしい言葉ですね。ありがとうございました!」
続いて、坂本大地。
「坂本選手、四回から登板して、あの超スローボールを投げましたね」
大地が笑った。
「はい。ずっと練習しとった秘密兵器です!」
「なぜ今まで使わなかったんでしょう?」
「決勝で使おうって、監督たちと決めとったけんです」
「それはすごい作戦ですね!」
しかし大地は少し照れながら続けた。
「でも、さくらさんにはホームラン打たれてしまいました。あれは僕の投げた球が甘く入ったけん、まだまだ練習せんといかんです」
宮原がうなずく。
「それでも、その後は粘り強く投げ続けましたね」
「みんなが守ってくれたおかげです!」
大地は仲間たちへ頭を下げた。
会場から大きな拍手が起きた。
第五章 投手陣、それぞれの思い
続いて、決勝では登板しなかった投手たちにもマイクが向けられた。
まず大原颯真。
宮原が尋ねた。
「大原選手、決勝ではベンチから仲間たちを支えましたね」
「はい。正直、僕も投げたかったです。でも、今日は結菜と大地がよう頑張ってくれたけん、僕は自分にできることをしようと思いました」
「どんなことをしていたんですか?」
「大阪の打者がどげんな球を狙っとるか、ベンチから見て伝えとりました」
続いて黒木海翔。
「黒木選手は、いつでも登板できるよう準備していましたね」
「はい! ブルペンでもずっと投げとりました」
「出番が来なかったことについては?」
海翔は笑った。
「そりゃ投げたかったです。でも、チームが勝ったけん、今はめちゃくちゃうれしかです!」
そして神谷颯。
「神谷颯選手、決勝を見て何を感じましたか?」
「全国大会って、ほんの一球で流れが変わるんやなって思いました。自分ももっと制球力を磨いて、どげんな場面でも任せてもらえる投手になりたかです」
宮原がうなずいた。
「皆さん、投手としての向上心が素晴らしいですね」
選手たちから拍手が起きた。
第六章 捕手たちの目に映った決勝戦
続いて、捕手陣。
まず六番打者として出場した森下悠一。
「森下選手、今日の投手リレーをリードした立場として、どんなことが印象に残っていますか?」
悠一は笑った。
「岡部の直球は、相手がタイミングを合わせきれんうちに勝負できました。でも大地のスローボールは、正直、僕も捕るのが難しいことがあるとです!」
宮原が驚いた。
「捕手でも難しいんですか?」
「そうなんです。遅すぎて、待ちすぎてしまうことがあるけん!」
会場から笑い声が起きた。
続いて、有田蓮。
「有田選手、控え捕手としてどんな仕事をしていましたか?」
「相手の打者の反応を見て、ブルペンの投手たちに伝えたり、投手交代に備えて準備したりしとりました」
「印象に残った場面は?」
「七回裏の雄二の内野安打です。あの粘りを見て、まだ終わらんって思いました!」
続いて、村瀬杏奈。
「村瀬選手、準決勝ではスリーランホームラン。決勝では三塁手として素晴らしい守備を見せましたね」
杏奈は少し照れた。
「ありがとうございます!」
「控え選手から先発に抜擢されたことについては?」
「最初はびっくりしました。でも、監督が私の肩と送球を信じてくれたけん、その期待に応えたかったです」
「決勝で一番印象に残った場面は?」
杏奈は笑った。
「七回裏、あと一つアウトで負けるところから追いついた場面です!」
「なるほど」
「それと、悠翔の最後のホームラン! あれはもう、すごすぎて何も言えんかったです!」
宮原が微笑んだ。
「ありがとうございました!」
第七章 内野手たちが語る、日本一の守備
続いて、内野手たちへのインタビューが始まった。
二番打者、牧田和美。
宮原が尋ねた。
「牧田選手、七回裏には同点タイムリーツーベースを放ちました。あの打席では、どんなことを考えていたのでしょうか?」
和美は笑顔で答えた。
「雄二が十一球も粘って塁に出てくれたけん、絶対に返したかったです!」
「しかも、二死からの同点打でしたね」
「はい! もう後がなかったけん、緊張しました。でも、絶対に打つって決めとりました!」
宮原がうなずいた。
「素晴らしい勝負強さでした!」
続いて四番、立花朋輝。
「立花選手、八回裏には先頭打者としてヒットを放ちましたね」
「はい。自分が出塁せんと始まらんと思っとりました」
「その後、悠翔選手のホームランで生還しました」
立花は笑った。
「悠翔が打った瞬間、もう夢中で走りました! ホームランって分かってからも、足が止まらんかったです!」
会場から笑いが起きた。
続いて、神谷蓮。
「神谷選手は、今回は控えから仲間を支えましたね」
「はい。悠翔がショートを守ることになったけん、僕はベンチから相手打者の特徴を伝えたりしとりました」
「悔しさはありませんでしたか?」
「もちろん試合には出たかったです。でも、チームが勝つために自分ができることをするのも大切やと思いました」
宮原は大きくうなずいた。
「素晴らしいですね」
続いて、松岡凛太。
「松岡選手、決勝のベンチでは何を意識していましたか?」
「大阪の内野守備をよう見とりました。特に亜由美さんの守備は本当にすごかったです。自分もあんなふうになりたかです」
続いて、山内翔吾。
「山内選手、全国大会を通して成長したと思うところは?」
「打撃だけじゃなく、守備位置や走者の動きまで考えるようになりました。強いチームは全員がよう考えとるんやなって思いました」
藤堂琉生もマイクを受け取った。
「僕は、最後まで準備することの大切さを学びました。試合に出るかどうか分からんでも、いつ呼ばれても大丈夫なようにしとくことが大事やと思いました」
続いて橘颯太。
「僕は、一つのミスで試合が変わることを改めて感じました。だから、練習でも一球一球を大切にしていきたかです」
そして山下結斗。
「僕は、決勝の最後まで諦めない姿が一番心に残っています。二死走者なしから追いつくなんて、本当にすごかです。自分も諦めん選手になりたかです!」
会場から温かい拍手が起きた。
第八章 外野手たちの思い
続いて、外野手たちへのインタビュー。
まず一番打者の坂井雄二。
宮原がマイクを向けた。
「坂井選手、七回裏、二死走者なしから十一球粘って内野安打を放ちました。あの打席は本当に見事でしたね」
雄二は少し照れた。
「ありがとうございます!」
「どんな気持ちだったんですか?」
「もう、絶対に終わらせたくなかったです!」
「なるほど」
「ここで僕がアウトになったら、みんなの夏が終わるけん。絶対に塁に出てやるって思っとりました!」
宮原がうなずいた。
「素晴らしい執念でしたね」
続いて三番、岸田誠一。
「岸田選手、七回裏の大飛球は、あと少しでサヨナラホームランでしたね」
誠一は苦笑した。
「ほんと、入ったと思いました!」
「藤本颯太選手がフェンスにぶつかりながら捕球しました」
「はい。あれは相手の守備が見事でした。正直、悔しかったですけど、すごいプレーやったと思います」
「相手への敬意も忘れていないんですね」
「はい。野球は相手がおらんとできんけん!」
観客席から拍手が送られた。
続いて七番、松本航。
「松本選手、決勝ではどんなことを意識していましたか?」
「ライトの守備で絶対にミスせんことです。大阪の打者は長打力があるけん、一瞬も気を抜けんかったです」
「全国制覇の感想は?」
「最高です! でも、まだ実感が湧かんとです!」
会場から笑いが起きた。
続いて、川島蒼空。
「僕は、外野守備の準備をしながら試合を見とりました。大阪の藤本颯太さんが七回裏に見せた捕球、本当にすごかったです」
宮原がうなずいた。
「相手の選手のプレーからも学んだんですね」
「はい。僕もあんな守備をしたかです!」
続いて、西野美優。
「全国大会で一番印象に残ったことは?」
「チームの全員が、本当に仲間を信じとったことです。試合に出ていない選手にも役割があって、みんなで戦えたことがうれしかです」
次は高原紗季。
「私は、全国の強い選手たちを見て、自分ももっと練習したくなりました。特に大阪の女子選手たちの打撃は、すごく勉強になりました!」
そして、中島ひなた。
「私は、最後のホームランが入った瞬間、何が起きたか分からんかったです!」
宮原が笑った。
「そうだったんですか?」
「はい! みんなが走り出したけん、私も一緒に走ってしまいました!」
「どこへ走ったんですか?」
「ホームベースのほうです!」
会場が笑いに包まれた。
「でも、みんなで悠翔を迎えられて、最高にうれしかったです!」
大きな拍手が送られた。
第九章 二十三人の言葉、そして最後の一人
こうして、博多リトルスターズの選手たちへのインタビューが続いた。
先発として活躍した選手。
ベンチから仲間を支えた選手。
ブルペンで準備を続けた投手。
守備固めや代打に備えていた選手。
試合で目立つ場面があった選手も、なかった選手も、それぞれが自分の役割を果たしていた。
そして、二十三人目までのインタビューが終わった。
残る選手は、ただ一人。
柳川悠翔。
全国大会決勝、延長八回裏。
池永智雄との十六球に及ぶ勝負を制し、逆転サヨナラツーランホームランを放った少年だった。
宮原彩子は、ゆっくりと深呼吸した。
(……来たわね)
彼女の頭には、これまでのインタビューがよみがえっていた。
札幌アンビシャス戦。
筑前煮。
多摩川ドラゴンズ戦。
博多とんこつラーメン。
柏ブルーウィングス戦。
明太子弁当。
どれも野球の試合を説明しているはずなのに、最後はなぜか料理の話になってしまう。
しかも、本人は至って真剣だった。
宮原は心の中でつぶやいた。
(今日は日本一のインタビューよ。さすがに今日は、普通の野球の話になるわよね……?)
その瞬間、悠翔がマイクの前に立った。
そして、宮原の顔をじっと見つめた。
「あの……」
「はい?」
悠翔は首をかしげた。
「宮原さん、なんか警戒してません?」
宮原の表情が固まった。
「……えっ?」
悠翔は笑った。
「なんか、めちゃくちゃ身構えとるように見えるとですけど」
宮原は思わず吹き出した。
「い、いや……分かります?」
悠翔が笑顔で答えた。
「分かるたい!」
宮原は観念したように笑った。
「だって、柳川選手のインタビューって、毎回とんでもないことになるじゃないですか!」
会場から笑い声が起きた。
「今日はどんな謎の料理理論が飛び出すんだろうって、ちょっと警戒してました!」
悠翔は満面の笑みを見せた。
「なるほどねぇ!」
宮原は慌てて続けた。
「でも今日は全国大会の優勝インタビューですからね! ちゃんと野球の話をしましょうね!」
悠翔は大きくうなずいた。
「もちろんたい!」
宮原はほっとした。
しかし、それはわずか数秒のことだった。
第十章 今日の料理は、長崎ちゃんぽん
宮原がマイクを向けた。
「では柳川選手、改めて全国制覇おめでとうございます!」
「ありがとうございます!」
「延長八回、十六球に及ぶ勝負の末に放った逆転サヨナラツーランホームラン。まずは、今のお気持ちを聞かせてください」
悠翔は、少し真剣な表情になった。
「めちゃくちゃうれしかです。みんなが最後まで諦めんかったけん、僕も絶対に打とうと思いました」
宮原はうなずいた。
(よかった。今日は普通のインタビューになりそう……)
「では、今日の試合全体を振り返って、どんな試合だったと思いますか?」
悠翔は一瞬考えた。
そして、満面の笑みで答えた。
「今日は長崎ちゃんぽんたい!」
宮原の動きが止まった。
「…………はい?」
悠翔は、もう一度はっきりと言った。
「長崎ちゃんぽんです!」
宮原は、ゆっくりと首をかしげた。
「……長崎ちゃんぽん?」
東京ドームの観客席から、早くも笑い声が起きた。
実況席の藤沢真紀アナウンサーも吹き出した。
「出ました! 今度は長崎ちゃんぽん!」
斉藤薫も笑いをこらえていた。
「筑前煮、とんこつラーメン、明太子弁当に続いて、今日は長崎ちゃんぽんですか!」
宮原は、必死に平静を保とうとした。
「ええと……柳川選手。長崎ちゃんぽんというのは、どういう意味でしょうか?」
悠翔は真剣な顔で説明を始めた。
「まず、ちゃんぽんって、いろんな具が入っとるやろ?」
「はい。野菜とか、お肉とか、海鮮とか……」
「そうたい! 野球も同じとよ!」
宮原は目を瞬かせた。
「……同じ?」
「そうたい! ピッチャーも、キャッチャーも、内野手も、外野手も、みんな違う役割があるやろ?」
「それはそうですね」
「その全員が一つの鍋に入って、ちゃんぽんになるとたい!」
宮原は絶句した。
「……全員が、鍋に?」
観客席から爆笑が起きた。
悠翔は気にせず説明を続けた。
「まず、岡部結菜と坂本大地がスープを作ったと!」
宮原は目を丸くした。
「スープですか!?」
「そうたい。結菜の高回転ストレートが豚骨のだしで、大地のおちょくりスローボールが鶏ガラのだし!」
宮原は、すでに笑いをこらえるのが難しくなっていた。
「な、何で高回転ストレートが豚骨なんですか!?」
「回転がえぐいけん、スープもグルグル回って濃厚になるとよ!」
「そんな作り方しませんよ!」
会場が大爆笑となった。
悠翔はさらに続けた。
「それから、雄二がキャベツたい!」
「坂井選手がキャベツ!?」
「七回裏に十一球粘ったやろ? 十一回も炒めて、キャベツがようやく甘くなったと!」
宮原は机に手をついた。
「十一回も炒めるんですか!」
「そうたい!」
「焦げませんか!?」
悠翔は即答した。
「焦げんごと、和美がちゃんと混ぜてくれたけん!」
宮原はとうとう吹き出した。
「牧田選手は料理人なんですか!」
「いや、和美はちゃんぽんの麺たい!」
「麺!?」
「七回裏にレフト線へタイムリーツーベース打ったやろ? あれが麺を投入した瞬間たい!」
宮原は腹を抱えた。
「もう……意味が分からないです……!」
東京ドームが笑いの渦に包まれ始めた。
第十一章 十六球目は、最後の仕上げ
しかし、悠翔の説明は終わらなかった。
宮原は涙を拭いながら尋ねた。
「じゃあ……八回裏の立花選手のヒットは何なんですか?」
悠翔は即答した。
「豚肉たい!」
「豚肉!?」
「ちゃんぽんは肉も入れんと、うまくならんやろ?」
宮原は笑いながらうなずいた。
「まあ……そうですね」
「朋輝がヒットで出てくれたけん、ようやくちゃんぽんの具がそろったと!」
「なるほど……」
宮原は必死に理解しようとした。
「では、最後の十六球に及ぶ勝負は、どういうことになるんでしょう?」
悠翔は、ここで急に真剣な表情になった。
「それはね、十六球かけて、じっくり煮込んだとです」
宮原は一瞬、感心した。
「……なるほど。十五球粘ったことで、最後の一球を仕留める準備ができた、ということですね?」
悠翔は大きくうなずいた。
「そうたい!」
宮原はようやく納得した。
「これは分かります! ちゃんと野球の話になっていますね!」
ところが、悠翔は続けた。
「でも、最後は火力を上げすぎたとよ」
宮原が首をかしげた。
「……火力?」
「そうたい。十六球目で、ちゃんぽんが鍋から飛び出してしまったと!」
宮原の頭の中に、再び疑問符が飛び交った。
「……飛び出した?」
悠翔は嬉しそうに答えた。
「そうたい! 鍋から飛び出して、ライトポール際まで飛んでいったと!」
宮原は一瞬、固まった。
そして、次の瞬間。
「ちゃんぽんをライトスタンドに飛ばさないでください!」
東京ドームが爆笑の嵐に包まれた。
実況席の藤沢アナウンサーは、完全に笑い崩れていた。
「だ、駄目です……! ちゃんぽんがライトスタンドに……!」
解説の斉藤も、机に突っ伏していた。
「何で……野球の決勝のインタビューが……ちゃんぽんの調理実況になるんですか……!」
悠翔はさらに付け加えた。
「でも、ちゃんとライトポールの内側に入ったけん、セーフたい!」
宮原は涙を流しながら叫んだ。
「セーフじゃありません! ホームランです!」
悠翔が笑った。
「あっ、そうやった!」
会場全体が再び大爆笑となった。
第十二章 優子、息子の料理理論に完全敗北
観客席。
柳川優子は、腹を抱えて笑っていた。
「悠翔ぉぉ! あんた、何ば言いよるとねぇ!」
隣の観客も笑い崩れていた。
「優子さん! 息子さん、すごいですね!」
「いや、うちも何が何だか分からんとよ!」
「でも、そっくりですね!」
優子が振り返った。
「何が!?」
「優子さんに!」
「なんでそうなるとぉぉ!」
周囲がさらに爆笑した。
グラウンドでは、博多リトルスターズの選手たちも笑い転げていた。
牧田和美が腹を抱える。
「ちょっと待って! なんでうちが麺になると!」
坂井雄二も叫んだ。
「僕はキャベツなん!? 十一回も炒められたと!?」
立花朋輝が笑った。
「俺は豚肉かい!」
村瀬杏奈も笑いながら言った。
「じゃあ、私は何ね!?」
悠翔はマイク越しに即答した。
「杏奈はエビたい!」
杏奈が目を丸くした。
「なんでエビ!?」
「三塁からの送球が速かけん!」
「エビと関係なかろうもん!」
再び爆笑。
岡部結菜も笑いながら叫んだ。
「じゃあ、私はスープなん!?」
悠翔はうなずいた。
「そうたい!」
結菜が大笑いした。
「じゃあ、私が一番大事ってことやね!」
悠翔が笑った。
「もちろんたい!」
すると坂本大地が横から突っ込んだ。
「待って! 僕もスープやろ!?」
「そうたい! 大地は鶏ガラたい!」
「僕、鶏ガラなん!?」
会場は再び笑いの渦に包まれた。
宮原彩子は、もはやインタビューを続けることすら難しくなっていた。
「もう……無理です……!」
しかし悠翔は、最後にマイクを持ち直した。
「でもね、宮原さん」
「……はい?」
悠翔は、今度こそ真剣な表情になった。
「今日の日本一は、僕一人で取ったわけじゃなかとです」
宮原は静かにうなずいた。
「はい」
「雄二が最後まで諦めんで塁に出て、和美が同点にしてくれて、朋輝が最後にヒットで出てくれた。結菜と大地がよう投げてくれて、みんなが守ってくれたけん、僕が最後に打てたとです」
会場が静かになった。
悠翔は続けた。
「それに、大阪タイタンズのみんなも、本当にすごかったです。正則君も智雄君も、めちゃくちゃいい球を投げてくれました」
そして、少し笑った。
「ほんとに、最高の野球ができました」
宮原は微笑んだ。
「素晴らしいですね」
「だから、今日のちゃんぽんは、みんなで作ったちゃんぽんたい!」
宮原は感動しかけたまま、再び吹き出した。
「最後までちゃんぽんなんですね!」
悠翔は満面の笑みで答えた。
「もちろんたい!」
そして、最後に一言。
「ただし、替え玉はなかよ。ちゃんぽんやけん!」
宮原は完全に崩れ落ちた。
「そこだけ妙にこだわるんですかぁぁ!」
東京ドームは、三度目の大爆笑に包まれた。
第十三章 大阪タイタンズの宿舎、爆笑と悔しさ
その夜。
大阪タイタンズの宿舎。
選手たちは、テレビで全国大会決勝の特集番組を見ていた。
画面には、宮原彩子が腹を抱えて笑っている姿が映っていた。
そして、悠翔の声。
『今日は長崎ちゃんぽんたい!』
河内正則が、思わず吹き出した。
「……また料理かいな!」
加藤亜由美も大笑いした。
「今度はちゃんぽん!? 前は明太子弁当やったやろ!」
池永智雄は、少し複雑そうな表情をしていた。
しかし、悠翔の説明を聞いているうちに、思わず笑ってしまった。
「何やねん……十六球かけて煮込んだって……!」
藤原航も笑った。
「しかも最後は鍋から飛び出してライトポール際って……!」
宮本さくらは腹を抱えた。
「ちゃんぽん、どこまで飛んでいくねん!」
西村奈緒も、珍しく声を上げて笑っていた。
「野球のホームランを料理で説明する人、初めて見たわ」
正則は笑いながら首を振った。
「ほんま、わけ分からん奴やなぁ!」
しかし、次にテレビへ映ったのは、悠翔が大阪タイタンズへの敬意を語る場面だった。
『正則君も智雄君も、めちゃくちゃいい球を投げてくれました』
その言葉を聞いた瞬間、正則は静かになった。
智雄も画面を見つめた。
亜由美が口を開く。
「……ちゃんと相手のことも見とるんやな」
正則はうなずいた。
「ああ」
そして、少し笑った。
「……ほんまにええ奴やな」
智雄も静かに答えた。
「せやな」
部屋には、しばらく穏やかな空気が流れていた。
第十四章 敗戦から始まる、新しい目標
川原監督が会議室へ入ってきた。
「みんな、今日は本当にお疲れさま」
選手たちは姿勢を正した。
「ありがとうございました!」
監督は、テーブルに置かれた準優勝の表彰状を見つめた。
「悔しかっただろう」
正則が答えた。
「はい」
「亜由美も?」
「もちろんです」
智雄も静かにうなずいた。
「最後のホームラン、今でも悔しいです」
川原監督は穏やかな表情で答えた。
「その悔しさは、無理に忘れなくていい」
そして、選手たちを見渡した。
「しかし、今日の敗戦から何を学ぶか。それがこれからの成長につながる」
正則は、ゆっくりとうなずいた。
「監督、俺、もっと強くなりたいです」
「そうか」
「悠翔を抑えられるようになりたいです。それに、今よりもっといろんな投球ができるようになりたい」
亜由美も続けた。
「私もです。打撃も守備も、もっと上手になりたいです」
智雄が口を開いた。
「俺も、どんなに粘られても、最後に打ち取れる投手になりたいです」
監督は大きくうなずいた。
「いい目標だ」
そして、静かに続けた。
「今日、君たちは全国大会の決勝を戦った。しかし、君たちの野球人生は、まだ始まったばかりだ」
正則は、準優勝のメダルを手に取った。
しばらく見つめてから、静かに言った。
「……次は、絶対に日本一になる」
亜由美が隣でうなずく。
「うん。絶対になろうな」
二人は拳を合わせた。
今はまだ、誰も知らない。
この日、全国大会決勝で出会った二つのチームの選手たちが、やがて同じチームで戦う日が訪れることを。
そして、河内正則と柳川悠翔が、さらに大きな舞台を目指して歩き始めることを。
その未来は、まだずっと先にあった。
しかし、二人の心には、すでに小さな芽が生まれていた。
もっと強くなりたい。
もっと上手になりたい。
そして、もう一度、あの相手と野球がしたい。
全国大会決勝の敗戦は、正則にとって終わりではなかった。
新しい挑戦の始まりだった。
第十五章 優子が息子に伝えたかったこと
一方、博多リトルスターズの宿舎。
柳川悠翔は、母親の優子と一緒に全国大会決勝の映像を見ていた。
優子が尋ねる。
「悠翔、今日は本当に楽しかったね」
「うん!」
「最後のホームラン、すごかったよ」
悠翔は少し照れた。
「ありがとう」
優子は笑った。
「でもね、悠翔。お母さん、最後のホームランと同じくらいうれしかったことがあるとよ」
「何?」
「インタビューで、大阪タイタンズのみんなのことをちゃんと褒めてくれたこと」
悠翔はうなずいた。
「だって、本当にすごかったけん」
「そうね」
「正則君の球、めちゃくちゃ速かったし、智雄君も最後まで全然諦めんかった。亜由美さんも守備がうまかったし、さくらさんのホームランもすごかった」
優子は息子を見つめた。
「悠翔。勝ったときこそ、相手への感謝を忘れたらいかんよ」
「うん」
「自分たちが勝てたのは、相手が本気で戦ってくれたからでもあるんやけん」
悠翔は大きくうなずいた。
「分かっとるよ、お母さん」
そして、少し笑った。
「また正則君たちと野球したかね」
優子も微笑んだ。
「そうやね。また会えるとよかね」
悠翔は窓の外を見つめた。
東京の夜景が広がっている。
全国大会は終わった。
しかし、これから先にも、きっと新しい出会いや挑戦が待っている。
悠翔は静かにつぶやいた。
「……もっと強くなりたかね」
優子は、そんな息子の横顔を見つめた。
そして、優しく微笑んだ。
「そうね。これからも、いっぱい成長していきんしゃい」
その言葉を聞いて、悠翔は笑顔になった。
「うん!」
しかし、次の瞬間。
優子は突然思い出したように言った。
「ところで悠翔!」
「何ね?」
「長崎ちゃんぽん、食べたくなってきたねぇ!」
悠翔は吹き出した。
「お母さん! あれだけちゃんぽんの話したのに、まだ食べたかと!?」
優子は満面の笑みで答えた。
「そりゃ、食べたくもなるたい!」
「じゃあ明日は、ちゃんぽん食べに行く?」
「よかね!」
そして、優子が付け加えた。
「ただし、ライトスタンドには飛ばさんごとね!」
悠翔は腹を抱えた。
「お母さんまで何ば言いよるとぉぉ!」
親子の笑い声が、宿舎の部屋に響いた。
全国制覇という大きな夢をかなえた夜。
そこには、勝利の喜びと、仲間への感謝と、いつもどおりの明るい笑いがあった。
そして、二つのチームの少年少女たちは、それぞれの未来へ向けて、新しい一歩を踏み出そうとしていた。
次回予告
第41話「全国大会のその先へ」
全国大会が幕を閉じた。
優勝は博多リトルスターズ。
準優勝は大阪タイタンズ。
東京ドームでの激闘を終えた選手たちは、それぞれの故郷へ戻る準備を始める。
しかし、河内正則と加藤亜由美の胸には、まだ消えない思いがあった。
「正則、また悠翔君たちと試合したいな」
亜由美の言葉に、正則がうなずく。
「せやな。今度は絶対に勝ちたいわ」
そして、大阪タイタンズの選手たちは、全国大会で経験したことを振り返りながら、次の目標を考え始める。
一方、博多リトルスターズ。
柳川悠翔は、母・優子とともに全国大会の思い出を語り合っていた。
「悠翔、次はどんな目標があると?」
「もっと強くなりたか。それに、また正則君たちと野球したかね」
二つのチームの間に生まれた友情とライバル意識。
その出会いは、やがて少年少女たちの進路を大きく変えることになる。
そして、大阪では河内正則と加藤亜由美が、これからの野球人生について真剣に考え始める。
次回、第41話「全国大会のその先へ」。
全国大会は終わった。しかし、夢はまだ終わらない。準優勝という悔しさを胸に、河内正則たちは次の舞台を目指して歩き始める。




