↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
河内正則・栄光への道  作者: リンダ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
112/116

継投策、そして反撃の始まり


河内正則 栄光への道

第38話「継投策、そして反撃の始まり」

第一章 四回、博多が仕掛ける秘密の継投

全国大会決勝。東京ドームのスコアボードには、大阪タイタンズ0点、博多リトルスターズ1点という数字が刻まれていた。


三回を終えて、博多が一点をリードしている。


大阪の先発・河内正則は、初回こそ三十六球を投げさせられ、柳川悠翔に先制タイムリーを許したものの、二回から投球を修正した。三回には無死一、二塁のピンチを迎えたが、加藤亜由美の好守による併殺もあり、追加点を与えていない。


一方、博多の先発・岡部結菜は、三回を投げて被安打二本、無失点。


強烈なバックスピンのかかった直球で、大阪打線を封じ込めた。


しかし、四回表を迎える前、篠田正孝監督は予定どおり投手交代を告げた。


「結菜、よく投げた。ここからは次の投手に任せよう」


結菜は大きくうなずいた。


「はい! ありがとうございました!」


監督は、次の投手を呼んだ。


「坂本大地、準備はいいか?」


「はい! いつでもいけます!」


坂本大地。


右投げの投手で、内外角への正確な直球の投げ分けを得意としている。


派手な球速こそないものの、落ち着いたマウンドさばきと制球力に定評があった。


しかし、大地にはもう一つ、これまで全国大会で一度も披露していない秘密の武器があった。


それを知っているのは、篠田監督とコーチ陣、そして一部の選手たちだけだった。


篠田監督が声を落とした。


「大地、いよいよ使うときが来たな」


大地は笑った。


「はい。ずっと練習してきたけん、楽しみです」


「ただし、投げすぎるなよ。相手に慣れられたら意味がない」


「分かっとります!」


そして、大地は捕手の森下悠一を見た。


悠一がニヤリと笑う。


「大地、あれ、いくか?」


「おう。ランダムに織り交ぜて、もっと分からんようにしてやろうぜ!」


二人は拳を合わせた。


その会話を聞いていた柳川悠翔が、笑いをこらえながら言った。


「正則君たち、びっくりするやろうね」


大地がうなずいた。


「そりゃ、びっくりしてもらわんと困るばい!」


三人は笑い合った。


しかし、その表情には真剣な闘志が宿っていた。


第二章 投球練習では絶対に見せない球

四回表。


東京ドームの場内アナウンスが響いた。


「博多リトルスターズ、選手の交代をお知らせします。ピッチャー、岡部君に代わりまして、坂本君」


大阪タイタンズの選手たちは、ベンチから坂本大地の投球練習を見つめていた。


最初の一球。


外角低めへの直球。


森下悠一のミットから、乾いた音が響く。


二球目は内角。


三球目は高め。


その後も、大地は直球だけを投げ込んだ。


加藤亜由美が資料を確認した。


「坂本大地か。データでは制球型のピッチャーやったな」


池永智雄がうなずいた。


「せやな。球速は正則ほど速くないけど、内外角への投げ分けがうまいらしい」


藤原航も投球練習を見ながら言った。


「今のところ、資料どおりやな」


マネージャーの森下真央も、投球フォームを注意深く観察していた。


しかし、気になるところは見つからなかった。


投球練習は、すべて通常の直球だった。


「今のところ、事前に確認した映像と大きな違いはありません」


真央がそう報告すると、川原監督はうなずいた。


「分かった。まずは様子を見よう」


誰も気づいていなかった。


坂本大地が、試合前の投球練習では秘密の球を一球も投げないようにしていたことを。


そして、博多がその球を全国大会の最後の最後まで隠し通してきたことを。


第三章 伝家の宝刀、まさかの登場

四回表。


大阪の先頭打者は、三番・有村恒一郎。


大地はマウンドで捕手のサインを確認した。


初球。


外角への直球。


「ストライク!」


恒一郎は見送った。


(なるほどな。コントロールはええな)


二球目。


大地は大きく振りかぶった。


踏み出す足。


上体の動き。


腕の振り。


それまでと変わらないように見えた。


ところが、指先から離れた白球は、驚くほどゆっくりと進み始めた。


ふわり。


大きな弧を描きながら、ホームベースへ向かう。


恒一郎は目を丸くした。


(……はっ!?)


「ストライク!」


見逃し。


カウント0ボール2ストライク。


大阪ベンチがざわついた。


「何や、今の!?」


亜由美が立ち上がった。


智雄も驚いた表情を浮かべる。


「……嘘やろ?」


正則はマウンドを見つめたまま、ぽつりと言った。


「……おちょくりスローボールやんけ」


三球目。


大地は今度、通常の直球を投げ込んだ。


恒一郎は慌ててバットを出した。


しかし、先ほどの遅い球の感覚が残っていた。


打球は力のない三塁ゴロ。


村瀬杏奈が捕球し、一塁の立花朋輝へ送球した。


「アウト!」


一死。


実況席の藤沢真紀アナウンサーが驚きの声を上げた。


「坂本大地、三球で有村恒一郎を打ち取りました! しかし、二球目は何だったのでしょうか!」


解説の斉藤薫が答えた。


「非常に遅い直球ですね。大きく弧を描いていましたが、変化球ではありません。球速を極端に落としたスローボールです」


「大阪の河内正則投手も、準々決勝で同じような球を投げていましたね!」


「そうなんです。しかも、投球動作の途中までほとんど見分けがつきません。打者にとっては相当厄介ですよ」


大阪ベンチ。


正則は、思わず苦笑した。


「……俺たちと同じこと、やりよるやん」


亜由美も呆れたように笑った。


「まさか、向こうにもおちょくりスローボールがあるとはなぁ!」


しかし、川原監督の表情は真剣だった。


「これは、完全に想定外だな」


真央が慌てて資料を確認する。


「監督、過去の試合映像にはありません。地方大会でも全国大会でも、確認できた範囲では一度も投げていません!」


監督はうなずいた。


「そうか。最後まで隠していたんだな」


第四章 自分たちが仕掛けてきた恐ろしさ

一死走者なし。


打席には四番・河内正則。


正則は、マウンドの大地を見つめた。


(なるほどな……。こっちもやられたら、こんな気分になるんか)


大地は捕手の森下悠一とサインを交換した。


初球。


外角への速い直球。


正則が振り抜く。


ファウル。


二球目。


大地は再び、同じような投球動作に入った。


正則は慎重に球を見た。


しかし、指先から離れた瞬間、球がふわりと浮かぶような軌道を描いた。


(また来たか!)


正則はバットを止めた。


ボールはストライクゾーンへ落ちてくる。


「ストライク!」


カウント0ボール2ストライク。


正則は思わず笑ってしまった。


(おもろいやん。俺も同じことしとったんやな)


三球目。


大地は通常の直球を投げ込んだ。


正則は反応した。


しかし、わずかにタイミングが遅れた。


カンッ!


打球は左翼方向へ高々と上がった。


岸田誠一が落下点へ入る。


捕球。


「アウト!」


二死。


正則はベンチへ戻りながら、苦笑していた。


亜由美が尋ねた。


「正則、どうやった?」


「……やりにくいわ!」


「そらそうやろ!」


正則は頭をかいた。


「俺たちと対戦したほかのチームは、こんなやりにくいピッチャー相手にしとったんか……」


智雄も笑った。


「今ごろ気づいたんか!」


「いや、投げる側と打つ側では、全然ちゃうわ!」


亜由美が大笑いした。


「正則、これからはおちょくりスローボール投げるとき、相手の気持ちも考えなあかんな!」


「勝負なんやから、そこは遠慮せえへんわ!」


笑いが起きた。


しかし、次の打者を迎えると、全員の表情は再び引き締まった。


第五章 四回表、わずか九球で三者凡退

二死走者なし。


五番、藤原航。


航は打席へ向かう前、正則に尋ねた。


「どっちが来るか、分かったか?」


正則は首を横に振った。


「いや。リリースする直前まで、ほとんど同じに見えた」


航が苦笑した。


「そら厄介やな」


「気いつけや!」


「分かっとる!」


初球。


大地は外角低めへの直球を投げ込んだ。


ストライク。


二球目。


今度は超スローボール。


航は見送った。


「ストライク!」


二死、0ボール2ストライク。


三球目。


大地はまたも球速を落とした直球を投げた。


航はタイミングを合わせようとした。


しかし、待ちきれなかった。


打球は二塁方向へ、ぼてぼてのゴロとなった。


牧田和美が前進して捕球する。


一塁へ送球。


「アウト!」


三アウト!


東京ドームが大きく沸いた。


藤沢アナウンサーが声を張り上げた。


「三者凡退! 坂本大地、なんと四回表をわずか九球で終えました!」


4回表・坂本大地の投球


打者


球数


結果


有村恒一郎


3球


三塁ゴロ


河内正則


3球


左翼フライ


藤原航


3球


二塁ゴロ


合計


9球


三者凡退


斉藤解説者が驚いたように話した。


「これは見事な緩急ですね。しかも、速い直球と遅い直球を規則的に投げているわけではありません。打者は次に何が来るのか予測しづらいんです」


「大阪は、まさに自分たちが使っていた投球術を相手に使われた形ですね」


「そうですね。しかも、博多はこの秘密兵器を決勝まで隠していた。戦術としても非常に興味深いです」


博多ベンチでは、大地が仲間たちから拍手で迎えられていた。


「大地! ナイスピッチング!」


「めちゃくちゃ効いとったばい!」


悠翔も笑いながら声をかけた。


「正則君、完全にびっくりしとったね!」


大地はうなずいた。


「うん。でも、次は対応してくると思うけん、油断せんごといこう」


森下悠一も真剣な表情になった。


「そうたい。次はもっと考えて配球せんとね」


篠田監督は満足そうにうなずいた。


「よし。ここまでは作戦どおりだ。しかし、まだ一点差だぞ」


選手たちが声をそろえた。


「はい!」


第六章 四回裏、悠翔が再び出塁

四回裏。


博多の先頭打者は五番・柳川悠翔。


大阪のマウンドには、引き続き河内正則。


正則は、先ほどのスローボールのことを一度頭から追い出した。


(今は投げるほうや。まず、ここを抑えなあかん)


悠翔が打席に入る。


初球。


外角低めへの直球。


ストライク。


二球目。


内角への速い直球。


悠翔はファウルにした。


三球目。


正則が外角高めへ投げ込んだ。


悠翔は見送る。


ボール。


四球目。


今度は内角低め。


悠翔は慎重にバットを出した。


ファウル。


五球目。


正則は球速を抑えた直球を投げた。


悠翔はタイミングを合わせ、打ち返した。


しかし、打球は三塁側へのファウル。


六球目。


外角へ外れる。


ボール。


2ボール2ストライク。


七球目。


正則が外角いっぱいへ直球を投げ込んだ。


悠翔は踏み込んだ。


カキーン!


鋭い打球がセンター前へ飛んだ。


「ヒット!」


柳川悠翔、二打席連続安打!


博多リトルスターズ、無死一塁。


藤沢アナウンサーが実況した。


「柳川悠翔、またしても河内正則の直球を捉えました!」


斉藤解説者がうなずいた。


「悠翔君は本当に対応力が高いですね。初回とは違う攻め方をされても、しっかり自分の打撃をしています」


正則はマウンドで小さく息を吐いた。


(……ほんま、よう打つな)


しかし、表情は崩さなかった。


続く六番、森下悠一。


初球から送りバントを試みる。


正則が投球すると、悠一は確実にバットを当てた。


打球は一塁方向へ転がる。


西村奈緒が前進して捕球。


一塁へ送球。


アウト。


一死二塁。


続く七番、松本航。


正則の直球を右方向へ打ち返した。


打球は二塁ゴロ。


亜由美が捕球して一塁へ送球する。


その間に、悠翔は三塁へ進んだ。


二死三塁。


そして八番、村瀬杏奈。


準決勝ではスリーランホームランを放っている強打者だった。


正則は慎重に投げ込んだ。


初球、外角低め。


ストライク。


二球目。


内角への直球。


杏奈が鋭く振り抜いた。


カキーン!


打球は三塁方向へ。


有村恒一郎が素早く反応した。


グラブで捕球。


一塁へ送球!


「アウト!」


三アウト!


博多、追加点ならず。


正則は大きく息を吐いた。


「よっしゃ……」


航が駆け寄った。


「正則、よう抑えた!」


「ありがとう!」


亜由美も声をかけた。


「まだ一点差や! 絶対に取り返すで!」


正則は力強くうなずいた。


「頼んだわ!」


第七章 五回表、大阪タイタンズの逆襲

五回表。


大阪タイタンズの攻撃。


先頭は六番・梶原悠真。


マウンドには、引き続き坂本大地。


四回にはスローボールを交えた投球で、大阪の三番から五番をわずか九球で打ち取っている。


しかし、大阪の打者たちも、ベンチで対策を練っていた。


川原監督が梶原に声をかけた。


「悠真、球速を決めつけるな。来た球を最後まで見て、自分の打撃をしてこい」


梶原はうなずいた。


「はい!」


初球。


大地は外角への直球を投げ込んだ。


ストライク。


二球目。


今度は超スローボール。


梶原は見送った。


ボール。


三球目。


通常の直球。


梶原はファウルにした。


1ボール2ストライク。


四球目。


大地が投げ込んだのは、少し球速を落とした直球だった。


梶原はコンパクトにバットを出した。


カキーン!


打球は三遊間へ。


ショートの柳川悠翔が横っ跳びする。


しかし、打球はわずかにグラブの先を抜けた。


「レフト前ヒット!」


大阪タイタンズ、先頭打者が出塁!


梶原は一塁上で小さく拳を握った。


「よし!」


大阪ベンチが沸いた。


「悠真、ナイス!」


「よう打った!」


続く七番。


宮本さくら。


この試合、二回にはレフト前ヒットを放っている。


そして、準決勝でも長打を記録した勝負強い女子選手だった。


さくらは打席へ向かう前、亜由美と目を合わせた。


「亜由美、絶対に打ってくるわ」


亜由美が笑った。


「頼んだで!」


第八章 宮本さくら、逆転の一振り

無死一塁。


打席には宮本さくら。


坂本大地は、捕手の森下悠一とサインを交換した。


初球。


通常の直球。


外角いっぱい。


ストライク。


さくらは見送った。


二球目。


大地は同じような投球動作に入った。


しかし、今度は超スローボール。


さくらはバットを出さなかった。


球は低めに外れた。


ボール。


カウント1ボール1ストライク。


さくらは小さく息を吐いた。


(焦ったらあかん。自分の打てる球を待つんや)


三球目。


大地が投げ込んだのは、内角寄りの直球だった。


さくらの目が鋭くなった。


(これや!)


カキィィィン!


強烈な金属音が東京ドームに響いた。


打球は左中間方向へ高々と舞い上がった。


「打った! 大きい!」


実況の藤沢アナウンサーが叫んだ。


センターの坂井雄二が後退する。


レフトの岸田誠一も追う。


しかし、打球は二人の頭上を越えた。


フェンスが迫る。


さらに伸びる。


そして、白球は左中間スタンドへ飛び込んだ。


「ホームラン!」


東京ドームが大歓声に包まれた。


「宮本さくら! 逆転ツーランホームラン! 大阪タイタンズ、ついに逆転しました!」


梶原悠真がホームイン。


続いて、宮本さくらが一塁を回る。


二塁を回る。


三塁を回る。


そして、ホームベースを踏んだ。


2対1。


大阪タイタンズ、逆転!


ベンチの選手たちが総立ちになった。


「さくらー!」


「最高や!」


河内正則が真っ先に迎えた。


「さくら! よう打った!」


さくらは満面の笑みで答えた。


「やったで! 逆転したで!」


亜由美も駆け寄った。


「さくら、ほんまにすごいやん!」


西村奈緒も笑顔を見せた。


「ナイスバッティング!」


さくらは少し照れくさそうに笑った。


「ありがとう!」


実況席では斉藤解説者が話した。


「素晴らしい一打でしたね。二球目のスローボールを見送って、三球目の直球を仕留めました。大阪はあの独特の緩急にも、少しずつ対応し始めています」


一方、博多ベンチ。


坂本大地は悔しそうにマウンドを見つめた。


(……打たれた)


森下悠一が近づいた。


「大地、大丈夫たい」


大地がうなずく。


「うん。今のは甘く入ったね」


「まだ一点差や。ここから抑えよう」


「そうやね!」


篠田監督も声をかけた。


「大地、気持ちを切り替えろ。まだ試合は終わっていないぞ!」


「はい!」


その後、大地は立て直した。


八番・西村奈緒を右翼ライナー。


九番・西岡湊を三塁ゴロ。


一番・加藤亜由美を二塁フライに打ち取り、追加点を許さなかった。


しかし、スコアは2対1。


大阪タイタンズが、ついに試合をひっくり返した。


第九章 五回裏、正則がリードを守る

五回裏。


博多リトルスターズの攻撃。


先頭は九番・坂本大地。


坂本は、先ほど逆転ホームランを打たれたばかりだった。


それでも、打席へ向かう表情は真剣だった。


正則は初球から外角へ直球を投げ込んだ。


ストライク。


二球目。


坂本が打ち返した。


しかし、打球は遊撃手の梶原悠真の正面。


梶原が捕球して一塁へ送球。


アウト。


一死。


続く一番、坂井雄二。


ここまで二打席連続安打を放っている。


正則は慎重に投げ込んだ。


初球。


内角への直球。


ストライク。


二球目。


外角低め。


ボール。


三球目。


坂井はファウルで粘った。


四球目。


正則が外角へ直球を投げ込んだ。


坂井が打ち返した。


打球はセンター前へ抜けた。


「ヒット!」


坂井雄二、三打席連続安打!


博多ベンチが沸いた。


「雄二! ナイスバッティング!」


坂井は一塁上で小さく拳を握った。


(まだまだこれからたい!)


続く二番、牧田和美。


篠田監督が送りバントのサインを出した。


牧田は初球からバントの構えを取った。


正則が投球する。


コンッ!


打球は投手前へ転がった。


正則が前進して捕球。


一塁へ送球。


アウト。


二死二塁。


そして三番、岸田誠一。


正則は、マウンドで大きく息を吐いた。


(ここで止めるで)


初球。


外角への直球。


ストライク。


二球目。


岸田は内角の直球を打ち返した。


カキーン!


打球は左翼方向へ。


西岡湊が前進する。


落下点に入る。


捕球!


「アウト!」


三アウト!


博多は得点できなかった。


大阪タイタンズ、2対1のリードを守り切った。


正則はマウンドで大きく息を吐いた。


「ふぅ……」


藤原航が声をかけた。


「正則、よう抑えた!」


「ありがとう!」


亜由美も笑った。


「まだ一点差や。次も集中していこうな!」


正則がうなずいた。


「おう!」


第十章 六回表、両チームの意地

六回表。


大阪タイタンズの攻撃。


先頭は二番・藤本颯太。


博多のマウンドには、引き続き坂本大地。


篠田監督は、投球数と内容を確認しながら、継投のタイミングを見極めていた。


藤本は初球の直球を打った。


しかし、打球は遊撃手の柳川悠翔の正面。


悠翔が捕球し、一塁へ送球。


アウト。


一死。


三番、有村恒一郎。


大地は初球に超スローボールを投げ込んだ。


恒一郎は見送った。


ストライク。


二球目。


通常の直球。


恒一郎が振り抜いた。


カキーン!


打球はセンター前へ抜けた。


「ヒット!」


大阪タイタンズ、一死一塁。


しかし、博多もここから踏ん張った。


四番、河内正則。


大地の直球を鋭く打ち返した。


打球はレフト方向へ。


岸田誠一が後退する。


しかし、落下点へ入った。


捕球。


二死一塁。


五番、藤原航。


大地の外角直球を打ち返した。


鋭い打球が二塁方向へ飛んだ。


牧田和美が反応する。


グラブを伸ばした。


パシッ!


「捕った!」


セカンドライナー!


三アウト!


大阪タイタンズ、追加点ならず。


実況席の藤沢アナウンサーが話した。


「博多リトルスターズ、坂本大地が五回に逆転ホームランを許したものの、その後は粘り強く投げ続けています」


斉藤解説者もうなずいた。


「そうですね。大阪打線が少しずつ対応してきていますが、坂本君も配球を工夫しています。どちらも簡単には譲らない展開ですね」


第十一章 六回裏、悠翔の大きな一打

六回裏。


博多リトルスターズの攻撃。


先頭は四番・立花朋輝。


正則は、マウンドで慎重にサインを確認した。


初球。


外角への直球。


ストライク。


二球目。


立花が打ち返した。


しかし、打球はセンター方向へのフライ。


藤本颯太が落下点に入る。


捕球。


一死。


そして五番。


柳川悠翔。


東京ドームの空気が、再び変わった。


悠翔は、ここまで二打席連続安打。


正則の直球を確実に捉えている。


正則は、マウンドで悠翔を見つめた。


(またお前か……)


悠翔も静かにバットを構えた。


(正則君、今度も勝負たい)


初球。


外角低めへの直球。


ストライク。


二球目。


内角高め。


ボール。


三球目。


正則が力強く腕を振った。


直球。


悠翔はバットを振り抜いた。


カキィィン!


打球は左中間へ。


「大きい!」


レフトの西岡湊が追う。


センターの藤本颯太も後退する。


しかし、打球は二人の間を抜けた。


フェンスへ到達する。


悠翔は一塁を蹴った。


二塁へ向かう。


そして滑り込んだ。


「セーフ!」


ツーベースヒット!


博多リトルスターズ、一死二塁。


東京ドームが沸いた。


実況席の藤沢アナウンサーが叫んだ。


「柳川悠翔、またしても長打! 河内正則から三打席連続安打です!」


斉藤解説者が話した。


「本当にすごいですね。正則君も決して甘い球ばかり投げているわけではありません。それでも悠翔君は、しっかり自分のスイングをしています」


正則は、マウンドで小さく息を吐いた。


(……ほんま、何投げても打たれる気がするわ)


しかし、すぐに気持ちを切り替えた。


(まだ一死二塁や。ここから抑えるで)


続く六番、森下悠一。


初球は外角低め。


ストライク。


二球目。


森下が鋭く打ち返した。


カキーン!


打球は左翼方向へ。


西岡湊が前進する。


しかし、打球は思ったより伸びた。


西岡が一歩後退する。


グラブを伸ばした。


捕球!


「アウト!」


二死二塁。


二塁走者の悠翔は戻った。


そして七番、松本航。


正則は慎重に投げ込んだ。


初球。


外角への直球。


ボール。


二球目。


内角いっぱい。


ストライク。


三球目。


松本が振り抜いた。


打球は三塁方向へ。


有村恒一郎が素早く反応した。


捕球。


一塁へ送球。


「アウト!」


三アウト!


博多、またしても追加点ならず。


正則はマウンドで拳を握った。


「よっしゃ!」


大阪タイタンズ、2対1のリードを守り切った。


第十二章 六回終了、ついに最終回へ

東京ドームのスコアボードには、六回までの得点が並んでいた。


全国大会決勝・6回終了


チーム


123456計

大阪タイタンズ


0


0


0


0


2


0


2


博多リトルスターズ1000001

大阪 2-1 博多


最終回へ

大阪タイタンズは、五回表に梶原悠真の安打と宮本さくらの逆転ツーランホームランで二点を奪った。


一方、博多リトルスターズは初回に柳川悠翔のタイムリーヒットで先制したものの、その後は追加点を奪えていない。


しかし、試合内容は互角だった。


大阪は博多の継投策に苦しみ、四回には坂本大地の超スローボールに翻弄され、わずか九球で三者凡退。


博多は正則の直球を何度も捉えたが、あと一本が出なかった。


藤沢アナウンサーが話した。


「さあ、全国大会決勝も残すところ最終回のみとなりました!」


斉藤解説者がうなずく。


「本当に素晴らしい試合ですね。大阪は五回に逆転しましたが、まだ一点差です。博多にも十分にチャンスがあります」


「ここまでの両チームの戦いぶりを見ていると、最後の最後まで何が起きるか分かりませんね」


「ええ。一球、一つの打球、一つの守備。それが日本一を決めることになるかもしれません」


第十三章 大阪タイタンズ、あと三つのアウト

大阪タイタンズのベンチ。


川原監督は選手たちを集めた。


「みんな、あと一回だ」


正則がうなずいた。


「はい!」


「しかし、まだ勝ったわけではない。相手は博多リトルスターズだ。最後まで諦めないチームだからな」


亜由美も真剣な表情だった。


「分かってます」


監督は続けた。


「七回表、まずは追加点を狙う。そして、最後の守備では絶対に集中力を切らさないことだ」


宮本さくらが力強く答えた。


「はい!」


正則は、さくらを見て笑った。


「さくら、ほんまにありがとうな」


「何やねん、急に!」


「いや、あのホームラン、ほんまに助かったわ」


さくらは少し照れた。


「まだ終わってへんやろ。お礼は試合が終わってからにし!」


亜由美も笑った。


「そうや! 正則、最後までちゃんと投げきいや!」


正則はうなずいた。


「おう!」


一方、博多ベンチ。


篠田監督も、選手たちを集めていた。


「みんな、まだ一点差だ」


悠翔が力強く答えた。


「はい!」


「最後まで諦めるな。七回表をしっかり守って、七回裏の攻撃につなげよう」


村瀬杏奈がうなずいた。


「絶対に守ります!」


坂本大地も拳を握った。


「はい!」


森下悠一が言った。


「まだ三つアウト取られとらんけん! 最後まで分からんばい!」


悠翔も笑った。


「そうたい! 絶対に逆転するばい!」


しかし、その悠翔は、まだあることを考えていた。


正則の投球。


初回から何度も打席で向き合い、三打席連続で安打を放っている。


その球速、コース、緩急。


そして、ほんの小さなフォームの変化。


(正則君……次はどげん投げてくるんやろうね)


悠翔はマウンドの正則を見つめた。


そして、静かに笑った。


(最後まで勝負たい)


第十四章 母の祈り、そして決着のときへ

観客席。


柳川優子は、スコアボードを見つめていた。


大阪2。


博多1。


六回終了。


優子は静かに息を吐いた。


「……ほんと、すごい試合やね」


隣に座っていた女性が尋ねた。


「優子さん、緊張しますか?」


「そりゃするよ。だって、あと一回やもん」


そして、優子はグラウンドへ目を向けた。


正則がベンチで仲間たちと話している。


亜由美はグラブを手に、次の守備へ向けて準備をしていた。


一方、博多のベンチでは、悠翔がチームメイトたちと笑顔で言葉を交わしている。


優子は静かに微笑んだ。


「みんな、本当によう頑張っとるね」


そして、小さくつぶやいた。


「勝っても負けても、今日の試合はきっと忘れられんやろうね」


しかし、次の瞬間。


優子は立ち上がった。


「みんなー! 最後まで頑張りんしゃいよー!」


その声が東京ドームに響いた。


周囲の観客たちが笑った。


「優子さん! 最後まで元気ですね!」


優子は笑顔で答えた。


「当たり前たい! 決勝やけん!」


そして、もう一度グラウンドを見つめた。


大阪タイタンズ。


博多リトルスターズ。


日本一を懸けた最後の攻防が、いよいよ始まろうとしていた。


東京ドームの場内アナウンスが響いた。


「七回表、大阪タイタンズの攻撃は、六番、ショート、梶原君」


梶原悠真がバットを手に、打席へ向かった。


マウンドには坂本大地。


スコアは2対1。


大阪が一点リード。


しかし、誰もまだ勝敗を確信していなかった。


日本一の栄冠を懸けた最後の戦い。


その決着の瞬間が、刻一刻と近づいていた。


次回予告

第39話「最後の七回、栄冠は誰の手に」

全国大会決勝。


六回を終えて、大阪タイタンズが2対1とリード。


宮本さくらの逆転ツーランホームランによって、大阪は初めて試合の主導権を握った。


しかし、博多リトルスターズも最後まで諦めていない。


「あと一回たい! 絶対に逆転するばい!」


柳川悠翔の言葉に、選手たちがうなずく。


そして、七回表。


大阪タイタンズは、さらに追加点を狙う。


博多のマウンドには坂本大地。


おちょくりスローボールを武器に、最後まで大阪打線へ挑む。


一方、大阪のベンチでは、川原監督が最終回の守備を見据えていた。


「正則、最後まで行けるか?」


正則は力強く答えた。


「はい! 絶対に抑えます!」


しかし、博多リトルスターズの打線も、最後の最後まで勝負を諦めない。


七回裏。


先頭打者として打席に向かうのは、準決勝で大活躍した村瀬杏奈。


そして、後ろには坂井雄二、牧田和美、岸田誠一、立花朋輝、柳川悠翔らが控えている。


一球も、一打席も、無駄にはできない。


東京ドームの観客席では、柳川優子が祈るようにグラウンドを見つめていた。


「悠翔……みんな……最後まで頑張りんしゃい」


次回、第39話「最後の七回、栄冠は誰の手に」。


日本一を懸けた最後の七回。大阪タイタンズが逃げ切るのか、博多リトルスターズが逆転するのか。少年少女たちが積み重ねてきた努力のすべてが、最後の一球に託される。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。