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河内正則・栄光への道  作者: リンダ


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高回転ストレートへの挑戦

河内正則 栄光への道

第37話「高回転ストレートへの挑戦」

第一章 初回十球、岡部結菜が見せた衝撃

全国大会決勝。

東京ドームのスコアボードには、大阪タイタンズ0点、博多リトルスターズ1点という数字が刻まれていた。

まだ一回を終えたばかりだったが、両チームの攻防は早くも激しさを増していた。

大阪タイタンズの先発、河内正則は初回に三十六球を投げさせられた。

坂井雄二が八球粘ってセンター前ヒット。

牧田和美も七球目を捉えてライト前ヒット。

その後、二死一、二塁から柳川悠翔が七球目の直球をレフト前へ運び、博多が一点を先制した。

対照的だったのは、博多の先発・岡部結菜である。

一回表、大阪の上位打線をわずか十球で三者凡退。

しかも、三振を奪ったわけではない。

加藤亜由美は二塁フライ。

藤本颯太は三塁ゴロ。

有村恒一郎は一塁フライ。

いずれも、打者のタイミングを微妙に狂わせた結果だった。

大阪タイタンズのベンチでは、選手たちが岡部の投球映像を見直していた。

「……分からへんな」

亜由美が首をかしげた。

「球速は、正則ほど速くないんやろ?」

池永智雄がうなずく。

「せや。けど、球の回転が強烈なんや」

藤原航も言った。

「普通の直球やと思って振ったら、予想よりボールが上を通る感じやな」

正則は映像を見つめた。

「来るって分かっとっても、なかなか打てへん球か……」

川原監督が口を開いた。

「そうだ。しかし、打てない球ではない。大事なのは、自分の予測だけでスイングしないことだ」

そして、選手たちを見渡した。

「岡部の球は、強いバックスピンによって落下が抑えられている。打者からは伸び上がるように見えるが、実際に上昇しているわけではない」

亜由美がうなずいた。

「つまり、いつもの球と同じ感覚で振ったら、バットの下を通るわけですね」

「そのとおりだ」

監督は続けた。

「球速の数字に惑わされず、実際の軌道を最後まで見ること。そして、打撃フォームを崩さないことだ」

その説明を聞きながら、正則はマウンドの結菜を見つめた。

(おもろいやん。あんな直球、俺も打ってみたいわ)

だが、その前に博多の攻撃を抑えなければならない。

大阪タイタンズにとって、まだまだ厳しい戦いが続いていた。


第二章 岡部結菜、三回までの約束

一方、博多リトルスターズのベンチ。

岡部結菜は、タオルで汗を拭きながら篠田正孝監督の話を聞いていた。

「結菜、初回は素晴らしい投球だった」

「ありがとうございます!」

「ただし、予定どおり、長くても三回までだ」

結菜はうなずいた。

「はい。分かっています」

実は試合前、篠田監督は結菜に投手起用の方針を伝えていた。

「大阪の打線は、二巡目になると対応してくる可能性が高い。だから、打者が一巡したところで状態を確認する。調子がよければ三回まで投げてもらうが、そこで交代する予定だ」

結菜は迷わず答えていた。

「分かりました。任されたところまで、全力で投げます」

この決断には理由があった。

結菜の高回転ストレートは非常に強力だったが、相手が球の軌道に慣れてくれば、徐々に対応される可能性がある。

特に大阪タイタンズは、試合中に相手の特徴を見抜き、打撃を修正する能力に優れていた。

房総マリナーズ戦では正則が投球スタイルを変え、準決勝では打線全体が盛岡ウルブズの八重樫颯人に球数を投げさせた。

篠田監督は、その適応力を警戒していたのである。

「結菜、今の大阪はまだお前の球に慣れていない。しかし、二回、三回と進むうちに、少しずつタイミングを合わせてくるだろう」

「はい」

「そこで無理をして打たれるより、違う特徴を持つ投手へつないだほうがいい」

結菜は力強く答えた。

「分かりました!」

森下悠一も笑顔で声をかけた。

「結菜、次も一緒に抑えようね!」

「うん!」

そして結菜は、再びグラブを手に取った。

第三章 二回表、正則も岡部の球に挑む

二回表。

先頭打者は、大阪タイタンズの四番・河内正則。

ピッチャーとして全国屈指の実力を持つ正則は、打者としても優れた長打力を備えている。

岡部結菜は、マウンドで正則を見つめた。

(この人も、すごい打者なんよね……)

しかし、臆する様子はなかった。

森下悠一がミットを構える。

初球。

外角高めへの直球。

「ストライク!」

正則は見送った。

(なるほどな。ほんまに伸びるように見えるわ)

二球目。

今度は内角への直球。

正則が振り抜いた。

ファウル。

三球目。

岡部は外角低めへ直球を投げ込んだ。

正則は踏み込んだ。

カキーン!

打球はセンター方向へ高々と上がった。

「センターフライ!」

坂井雄二が落下点へ向かう。

捕球。

一死。

藤沢真紀アナウンサーが実況した。

「大阪の四番・河内正則も打ち取られました! 岡部結菜、見事な投球です!」

解説の斉藤薫がうなずいた。

「今の打席、正則君はかなり注意深く球を見ていました。しかし、最後は打球の下側を捉えてしまいましたね」

ベンチへ戻った正則が、亜由美に声をかけた。

「……ほんま、打ちにくいわ」

「やろ?」

「でも、少し分かった気がする」

亜由美が尋ねた。

「何が?」

「思っとるより、ほんの少し高いところに来るんや。あれを打つには、スイングの軌道を修正せなあかん」

亜由美はうなずいた。

「なるほどな」

正則は、再びグラウンドへ目を向けた。

「次の打席が楽しみや」

第四章 藤原航、わずかな違いを見逃さない

一死走者なし。

五番、藤原航。

岡部の初球は内角高めへの直球だった。

航は見送った。

ストライク。

二球目。

外角低め。

航が打ちにいった。

しかし、バットの先に当たった。

打球は一塁方向へのゴロ。

立花朋輝が捕球して自ら一塁ベースを踏む。

「アウト!」

二死。

大阪タイタンズは、またも簡単に走者を出せなかった。

ベンチへ戻った航は、首をひねった。

「……タイミングは合ってきたと思ったんやけどな」

有村恒一郎が尋ねた。

「何か分かったか?」

「少しだけな。見た目より球が落ちてへん。そやから、バットを出す位置をちょっと変えたほうがええかもしれん」

恒一郎がうなずいた。

「なるほど。次の打席では意識してみるわ」

航は笑った。

「せやな。でも、あの球に慣れるには、まだ時間がかかりそうや」

その言葉を聞いていた川原監督も、静かにうなずいた。

「焦らなくていい。打者は一人一人、感じたことを共有してくれ。それが次の打席につながる」

第五章 梶原悠真、チーム初安打

二死走者なし。

六番、梶原悠真。

岡部結菜は、ここまで大阪打線を完全に抑えていた。

梶原はバットを短く持ち、構えた。

初球。

外角低めへの直球。

見逃しストライク。

二球目。

岡部が投げ込んだのは、内角寄りの高回転ストレートだった。

梶原が振り抜いた。

カキーン!

鋭い打球が一、二塁間へ飛んだ。

牧田和美が横っ跳びした。

しかし、グラブの先を抜けた。

「ライト前ヒット!」

藤沢アナウンサーが声を上げた。

「大阪タイタンズ、ついに初安打! 梶原悠真がライト前へ運びました!」

ベンチが沸いた。

「悠真、ナイスバッティング!」

「よう打った!」

梶原は一塁上で小さく拳を握った。

(よし。ようやく打てた)

岡部は一度深呼吸した。

(そりゃ、簡単には終わらんよね)

森下悠一が声をかけた。

「結菜、気にせんでよか!」

「うん!」

そして、七番・宮本さくらが打席へ向かった。

第六章 宮本さくら、二死からの連続安打

宮本さくら。

準決勝の盛岡ウルブズ戦では、初回に二点タイムリーツーベースを放ち、大阪タイタンズの勝利に大きく貢献した女子選手だった。

今日は七番打者として出場している。

岡部結菜が初球を投げた。

外角への直球。

ボール。

二球目。

内角高め。

さくらは見送った。

ストライク。

そして三球目。

外角低めへの直球。

さくらは踏み込んだ。

カキーン!

打球は三遊間へ。

遊撃手の柳川悠翔が横っ跳びする。

しかし、打球はわずかにグラブの先を抜けた。

「レフト前ヒット!」

一塁走者の梶原悠真は二塁へ進む。

二死一、二塁。

大阪タイタンズ、初めての得点圏のチャンスを迎えた。

「連続安打! 大阪タイタンズ、ようやく岡部結菜を捉え始めました!」

藤沢アナウンサーの声が東京ドームに響いた。

斉藤解説者が話した。

「今の宮本選手は、球の軌道をしっかり見ていましたね。初回よりも大阪の打者が対応し始めているように感じます」

一方、博多ベンチでは篠田監督が静かに試合を見つめていた。

(やはり、対応してくるか……)

そして、次の打者を確認した。

八番、西村奈緒。

左打席に入る女子選手だった。

篠田監督は資料を見た。

奈緒は、前の試合でも長打を放っている。

決して油断できる打者ではなかった。

第七章 西村奈緒、東京ドームをどよめかせる大飛球

二死一、二塁。

打席には西村奈緒。

岡部結菜は、捕手の森下悠一からサインを受けた。

初球。

外角低めへの直球。

奈緒は見送った。

ストライク。

二球目。

内角高め。

ボール。

三球目。

岡部が投げ込んだ直球を、奈緒は鋭く振り抜いた。

カキィィン!

大きな金属音が東京ドームに響いた。

打球はレフト方向へ高々と舞い上がった。

「大きい!」

藤沢アナウンサーが叫んだ。

「西村奈緒、レフトへ大きな当たり!」

左翼手の岸田誠一が後退する。

さらに後退。

打球はぐんぐん伸びていく。

フェンスが迫る。

岸田は振り返りながら、落下点を探した。

大阪ベンチから声が飛ぶ。

「いけー!」

「奈緒! 入れー!」

正則も立ち上がった。

「いったか!?」

しかし、岸田はフェンス際で足を止めた。

グラブを伸ばす。

そして。

パシッ!

「捕った!」

レフトフライ!

三アウト!

東京ドームがどよめいた。

藤沢アナウンサーが声を張り上げた。

「捕りました! 岸田誠一、フェンスぎりぎりで捕球! 大阪タイタンズ、同点のチャンスを逃しました!」

斉藤解説者が感心した。

「これは大きな打球でしたね。あと少し伸びていれば、長打になっていたでしょう。しかし、岸田選手が最後まで打球をよく見ていました」

一塁走者のさくらも、二塁走者の梶原も、足を止めた。

三アウト。

奈緒は悔しそうにバットを握り締めた。

「……あと少しやったのに」

ベンチへ戻ると、亜由美が笑顔で迎えた。

「奈緒! 惜しかったな!」

奈緒は苦笑した。

「うん。ちょっとだけ届かんかった」

正則も声をかけた。

「でも、よう打ったで! 岡部の球をあそこまで飛ばしたんやから!」

奈緒はうなずいた。

「次は絶対に打つわ」

一方、博多ベンチ。

岡部結菜は大きく息を吐いていた。

「……危なかったぁ」

森下悠一が笑った。

「ほんと、危なかったね!」

岸田誠一もベンチへ戻ってきた。

「フェンスが近づいてきたけん、めちゃくちゃ緊張したばい!」

悠翔が笑った。

「誠一! よう捕った!」

岸田は照れくさそうに笑った。

「いやぁ、ほんとにギリギリやった!」

篠田監督がうなずいた。

「いい守備だった。しかし、今の打球を見る限り、大阪は少しずつ結菜の球に対応し始めているな」

選手たちは真剣な表情でうなずいた。


第八章 二回裏、正則が見せた修正能力

二回裏。

博多リトルスターズの攻撃。

先頭は七番、松本航。

大阪のマウンドには、引き続き河内正則。

初回に三十六球を投げた正則だったが、二回からは明らかに投球スタイルを変えていた。

初球。

外角低めへの直球。

ストライク。

二球目。

松本が打ち返した。

打球は遊撃手の梶原悠真の正面へ。

梶原が捕球し、一塁へ送球。

アウト。

わずか二球で一死。

続く八番、村瀬杏奈。

準決勝でスリーランホームランを放った強打者だった。

正則は初球から内角を攻めた。

ストライク。

二球目。

外角への直球。

杏奈が振り抜いた。

しかし、バットの先に当たった。

打球は三塁方向へ。

有村恒一郎が前進して捕球。

一塁へ送球。

アウト。

二死。

九番、岡部結菜。

打者としても練習を重ねてきた結菜だったが、正則の球威に簡単には対応できなかった。

初球は外角低め。

ストライク。

二球目。

内角への直球。

ファウル。

三球目。

正則が少し球速を抑えた直球を投げ込んだ。

結菜は打ちにいった。

しかし、タイミングが早かった。

打球は力のない二塁ゴロ。

亜由美が捕球し、一塁へ送球した。

「アウト!」

三者凡退!

二回裏、終了。

藤沢アナウンサーが話した。

「河内正則、二回裏はわずか七球で三者凡退! 初回の三十六球とは、まったく違う投球内容です!」

斉藤がうなずいた。

「これは見事な修正ですね。博多の打者が球数を投げさせようとしていることを見抜き、早いカウントから打たせて取っています」

博多ベンチでは、悠翔がその投球をじっと見つめていた。

「……やっぱりね」

篠田監督が尋ねた。

「悠翔、何か分かったか?」

「正則君、投球の組み立て方を変えとる」

「そうだな」

「初回は三振を狙って厳しいコースを攻めとったけど、今は早めにストライクを取って打たせとるね」

監督はうなずいた。

「そのとおりだ」

悠翔は少し笑った。

「ほんと、頭のよかピッチャーやね」

そして、マウンドの正則を見つめた。

(次の打席、どげんな球を投げてくるんやろうね)


第九章 三回表、大阪タイタンズも三者凡退

三回表。

博多リトルスターズの先発、岡部結菜。

この回が、予定されていた最後のイニングだった。

篠田監督は、三回の投球を見て交代する方針を伝えていた。

「結菜、あと一回だ。思い切って投げてこい」

「はい!」

結菜は力強く答えた。

九番、西岡湊。

初球。

外角低めへの直球。

ストライク。

二球目。

高めの直球。

西岡が振り抜いた。

ファウル。

三球目。

岡部が投げ込んだ直球を打った。

しかし、打球は一塁方向へのゴロ。

立花朋輝が捕球して一塁ベースを踏んだ。

一死。

続く一番、加藤亜由美。

これが二打席目だった。

一回の打席では二塁フライに倒れている。

亜由美は、打席へ向かいながら岡部の投球を見つめた。

(さっきより、ちょっとだけ分かってきた気がする……)

初球。

外角高めへの直球。

ボール。

二球目。

内角への直球。

亜由美は見送った。

ストライク。

三球目。

岡部の直球を鋭く打ち返した。

カキーン!

打球は二塁方向へのライナー。

牧田和美が素早く反応した。

グラブを伸ばす。

捕球!

「アウト!」

二死。

亜由美は悔しそうだった。

「……あかん。今度は捉えたと思ったんやけどな」

しかし、ベンチへ戻ると正則が声をかけた。

「亜由美、今のはええ当たりやったで!」

亜由美はうなずいた。

「せやな。次は絶対に抜いたる!」

続いて二番、藤本颯太。

初球は外角低め。

ストライク。

二球目。

内角高め。

ボール。

三球目。

岡部が投げ込んだ直球を、藤本は打ち返した。

しかし、打球はセンター方向へのフライ。

坂井雄二が落下点へ入る。

捕球!

三アウト!

三回表、終了。

大阪タイタンズは三者凡退。

岡部結菜は、三回までを無失点に抑えた。

藤沢アナウンサーが声を張り上げた。

「岡部結菜、三回を投げ切って無失点! 大阪タイタンズの強力打線を、ここまでわずか二安打に抑えています!」

斉藤も感心した。

「見事ですね。二回には二死から連打を許しましたが、最後は外野の好守にも助けられました。三回も落ち着いて投げていました」

ベンチへ戻った結菜を、チームメイトたちが拍手で迎えた。

「結菜! ナイスピッチング!」

「よう投げたばい!」

結菜は笑顔を見せた。

「ありがとう!」

しかし、篠田監督は静かに声をかけた。

「結菜、お疲れさま。予定どおり、ここまでだ」

結菜はうなずいた。

「はい!」

「素晴らしい投球だったぞ」

「ありがとうございます!」

結菜の表情には、達成感が浮かんでいた。

だが、試合はまだ終わっていない。

ここから先は、後続の投手陣へ託されることになる。

第十章 三回裏、正則の粘り

三回裏。

博多リトルスターズの攻撃。

先頭は一番、坂井雄二。

初回に八球粘ってセンター前ヒットを放った打者だった。

正則はマウンドで大きく息を吐いた。

(今度は簡単には粘らせへんで)

初球。

外角低めへの直球。

ストライク。

二球目。

坂井はファウルで粘った。

三球目。

正則が内角へ直球を投げ込んだ。

坂井が鋭く振り抜いた。

打球はセンター前へ。

「ヒット!」

坂井雄二、二打席連続安打!

一塁上で小さく拳を握った。

(よし。ここからや)

続く二番、牧田和美。

正則は初球から低めへ直球を投げ込んだ。

ボール。

二球目。

牧田が振り抜いた。

打球はライト前へ。

「連続安打!」

坂井が二塁へ進む。

無死一、二塁。

博多リトルスターズ、追加点のチャンス。

東京ドームが大きく沸いた。

実況席の藤沢アナウンサーが話した。

「博多リトルスターズ、またしても上位打線が連続安打! 大阪タイタンズ、ピンチです!」

斉藤がうなずいた。

「一番と二番が非常に厄介ですね。正則君は初回からこの二人に苦しめられています」

しかし、正則は落ち着いていた。

(まだ無死一、二塁や。ここから抑えたらええ)

三番、岸田誠一。

正則の初球。

外角への直球。

ストライク。

二球目。

岸田がバットを振り抜いた。

打球は二塁方向への強烈なゴロ。

亜由美が捕球する。

素早く遊撃手の梶原悠真へ送球。

二塁アウト!

梶原から一塁の奈緒へ転送!

「アウト!」

ダブルプレー!

二死三塁。

大阪タイタンズのベンチが沸いた。

「亜由美! ナイスプレー!」

「悠真もようやった!」

正則はマウンドで拳を握った。

(よし! あと一人や!)

四番、立花朋輝。

正則は慎重に攻めた。

初球。

外角低め。

ボール。

二球目。

内角高め。

ストライク。

三球目。

立花が振り抜いた。

ファウル。

四球目。

正則が投げ込んだ直球を、立花が打ち上げた。

打球はライト方向へ。

宮本さくらが落下点へ入る。

捕球!

「アウト!」

三アウト!

三回裏、終了。

博多リトルスターズ、無死一、二塁の好機を生かせず。

正則は大きく息を吐いた。

「ふぅ……」

藤原航が駆け寄った。

「正則、よう抑えた!」

「ありがとう、航!」

亜由美も近づいてきた。

「正則、さっきのダブルプレー、助かったやろ!」

正則が笑った。

「めっちゃ助かったわ!」

「ほな、次は打線が頑張る番やな!」

「頼んだで!」

三人は笑い合った。


第十一章 三回終了、両チームの明暗

全国大会決勝・3回終了

チーム123計

大阪タイタンズ0000

博多リトルスターズ1001

大阪 0-1 博多

3回終了



三回を終えて、試合は1対0。

博多リトルスターズが、初回に柳川悠翔のタイムリーヒットで奪った一点を守っていた。

大阪タイタンズは、二回に梶原悠真と宮本さくらの連続安打でチャンスをつくったものの、西村奈緒の大飛球がレフトフェンス際で捕球され、得点できなかった。

そして三回は三者凡退。

両チームとも、守備で大きなミスはなかった。

実況席の藤沢アナウンサーが話した。

「斉藤さん、ここまでは博多が一点リードしていますが、まだまったく分かりませんね」

「そうですね。岡部結菜投手は三回を無失点に抑えました。ただし、二回の大阪打線を見ると、少しずつ球に対応し始めている印象もあります」

「一方の河内正則投手も、初回こそ三十六球を投げましたが、二回以降は打たせて取る投球へ切り替えています」

「ええ。非常に見応えのある試合です。ここからの投手交代や代打の起用が、勝敗に大きく影響してくるかもしれません」

第十二章 大阪ベンチ、新たな攻略法を探る

大阪タイタンズのベンチ。

川原監督は、選手たちを集めていた。

「岡部はここまで素晴らしい投球をしている。しかし、二回には連続安打を放っている。決して打てない相手ではない」

正則がうなずいた。

「はい!」

「重要なのは、次の投手が誰になるかだ」

池永智雄が資料を見た。

「黒木海翔、坂本大地、神谷颯……どの投手も特徴が違いますね」

川原監督はうなずいた。

「そうだ。岡部の球に慣れたからといって、次の投手にも同じ打ち方で対応できるとは限らない」

亜由美が言った。

「また一から球を見極めなあかんわけですね」

「そういうことだ」

川原監督は続けた。

「ただし、次の投手が出てきたら、最初の打者ができる限り多くの情報を持ち帰ってくれ。球速、コース、球の伸び、制球の状態。何でもいい」

亜由美が力強く答えた。

「任せてください!」

正則も笑った。

「よっしゃ。次は絶対に点取ろうや!」

選手たちはうなずいた。

第十三章 篠田監督、決断のとき

一方、博多リトルスターズのベンチ。

岡部結菜は、グラブを手にしたままベンチに座っていた。

篠田監督が近づいてくる。

「結菜、今日は本当によく投げたな」

「ありがとうございます!」

「三回無失点。十分すぎる働きだ」

結菜は少し照れた。

「でも、二回は危なかったです」

「そうだな。しかし、あそこで踏ん張れたのは大きい」

篠田監督は、選手たちを見渡した。

「ここからは継投で勝負する」

森下悠一がうなずいた。

「はい!」

「相手は大阪タイタンズだ。これから先、簡単には抑えられないだろう。しかし、こちらにも準備してきた投手がいる」

黒木海翔。

坂本大地。

神谷颯。

それぞれがベンチで出番を待っていた。

篠田監督は、スコアブックと投球データを確認した。

そして、次の投手の名前を告げようとした。

「四回からは……」

そのとき、悠翔が監督へ声をかけた。

「監督」

「何だ?」

「大阪は、次の回から本気で打ちに来ると思います」

篠田監督がうなずいた。

「そうだろうな」

悠翔は続けた。

「でも、僕たちも負けんよ。追加点を取って、ピッチャーを楽にしてあげたいです」

監督は微笑んだ。

「その意気だ」

そして、選手たちに告げた。

「ここからが本当の勝負だぞ」

全員が力強く答えた。

「はい!」


第十四章 母が見つめる、息子たちの真剣勝負

観客席。

優子は、スコアボードを見つめていた。

大阪0。

博多1。

三回終了。

優子は静かに息を吐いた。

「ほんと……すごい試合やね」

隣に座っていた女性が尋ねた。

「優子さん、緊張しますか?」

「そりゃするよ。だって、あの子たち、みんな一生懸命やもん」

そして優子は、グラウンドへ視線を向けた。

大阪ベンチでは、正則と亜由美が何かを話していた。

博多ベンチでは、悠翔と結菜が笑顔で言葉を交わしている。

勝ちたい。

日本一になりたい。

その気持ちは、どちらのチームも同じだった。

優子は微笑んだ。

「でもね、私はこの試合を見られて、本当にうれしかよ」

「どうしてですか?」

「だって、全国から集まった子どもたちが、こうして本気で野球をしているんやもん。誰かが勝って、誰かが負ける。でも、ここまで頑張ってきたことは、みんな同じくらい価値があると思うとよ」

隣の女性は静かにうなずいた。

「そうですね」

優子はもう一度グラウンドへ目を向けた。

そして、いつもの笑顔に戻った。

「でも、やっぱり勝ってほしかね!」

女性が笑った。

「そうですね!」

優子は両手を口元に添えた。

「みんなー! 最後まで頑張りんしゃいよー!」

その声が、東京ドームの観客席に響いた。

悠翔がベンチから振り返った。

「お母さん! また声が大きかって!」

優子が笑った。

「決勝やけん、仕方なかろうもん!」

周囲の観客から笑いが起きた。

しかし、悠翔はすぐにマウンドへ目を戻した。

次の回が始まろうとしていた。

大阪タイタンズと博多リトルスターズ。

日本一を懸けた戦いは、まだ中盤に差しかかったばかりだった。


次回予告

第38話「継投策、そして反撃の始まり」

全国大会決勝。

三回を終えて、博多リトルスターズが1対0とリード。

先発の岡部結菜は、三回を投げて被安打二本、無失点。

高回転ストレートを武器に、大阪タイタンズの強力打線を封じ込めた。

しかし、篠田監督は予定どおり、四回から投手交代を決断する。

「結菜、よく投げた。ここからは次の投手に任せよう」

一方、大阪タイタンズ。

河内正則は初回の三十六球から投球を修正し、二回以降は打たせて取る投球へ切り替えていた。

しかし、博多の打線も簡単には打たされない。

柳川悠翔は、正則の配球が変わり始めたことに気づいていた。

「正則君、次はもっと違う攻め方をしてくるやろうね」

一方、大阪の打者たちも、博多の継投策に対応するため、新たな作戦を考え始める。

加藤亜由美が笑った。

「正則、次は絶対に点取ったるで!」

正則がうなずく。

「頼んだわ!」

そして、両チームのベンチでは、勝負どころを見極めるための駆け引きがさらに激しくなっていく。

次回、第38話「継投策、そして反撃の始まり」。

一球の判断が、一つの打球が、そして一つの守備が勝敗を分ける。全国大会決勝は、いよいよ中盤の攻防へ突入する。

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