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河内正則・栄光への道  作者: リンダ


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106/109

ベスト4への切符、博多の挑戦

 河内正則 栄光への道

 第32話「ベスト4への切符、博多の挑戦」

 第一章 準々決勝、立ちはだかる西東京の強豪

 全国大会準々決勝。

 大阪タイタンズが千葉県代表・房総マリナーズを3対0で破り、準決勝進出を決めた翌日。

 東京の別の球場では、福岡県代表・博多リトルスターズと、西東京代表・多摩川ドラゴンズの一戦が行われようとしていた。

 多摩川ドラゴンズは、機動力と強力な投手陣を武器に全国大会を勝ち上がってきたチームだった。

 特に投手陣の能力は突出している。

 チーム防御率は1.98。

 さらに、七回制の試合で一試合平均十個の三振を奪っている。

 球威のある直球を内外角に投げ分け、打者を追い込むと厳しいコースで空振りを奪う。

 守備陣も堅く、走者を出せば積極的に盗塁を仕掛けてくる。

 そんな多摩川ドラゴンズにとっても、今回の対戦相手は特別な存在だった。

 博多リトルスターズ。

 前の札幌アンビシャス戦では、五番打者の柳川悠翔がサイクル安打を達成。

 五打数四安打、七打点。

 さらに、七回に逆転スリーランホームランを放っていた。

 多摩川の監督、小宮山恭平は、選手たちに告げた。

「博多の五番、柳川悠翔。この選手の前には、絶対にランナーをためるな」

 捕手の野上結衣がうなずいた。

「はい。前の試合の映像を見ましたけど、甘い球は全部長打にしています」

「そうだ。しかし、悠翔だけを警戒すればいいわけじゃない。三番の岸田誠一、四番の立花朋輝も強打者だ」

 先発投手の国分拓海が答えた。

「分かっています。今日は最初から全力で抑えます!」

 小宮山監督はうなずいた。

「頼んだぞ。まずは自分たちの野球をしよう」

 第二章 博多リトルスターズ、詳細分析

 一方、博多リトルスターズの控室。

 篠田正孝監督と選手たちは、スコアラーがまとめた分析資料を確認していた。

 大型スクリーンには、多摩川ドラゴンズの試合映像が映し出されている。

「まず、相手チームの基本データから説明します」

 多摩川ドラゴンズ・事前分析データ

 チーム打率.281

 チーム防御率1.98

 1試合平均奪三振10.0個

 1試合平均盗塁4.3個

 盗塁成功率84.6%

 1試合平均失策0.48個

 地方大会から全国大会三回戦までの成績を用いた作中のスカウティング資料。

 坂井雄二が驚いた。

「一試合平均十個も三振取っとると?」

 牧田和美も目を丸くした。

「七回制で十個って、相当すごかね!」

 スコアラーが説明を続けた。

「先発予定の国分拓海選手は、最高球速123km/hの本格派です。球種は直球だけですが、内角高めと外角低めへの制球力が非常に高いです」

 映像には、国分の投球が映し出された。

 鋭い腕の振り。

 高めいっぱいへの速球。

 打者のバットが空を切る。

 続いて外角低め。

 今度は打者が見送った。

 球審の右腕が上がる。

 ストライク。

「速いだけじゃなかね」

 柳川悠翔がつぶやいた。

 岸田誠一もうなずいた。

「コースがよか。簡単には打てんばい」

 篠田監督が言った。

「だから、全員がホームランを狙うような打撃をしてはいけない。相手の球をよく見て、打てる球を確実に仕留めよう」

 続いて、守備と攻撃の分析が行われた。

 多摩川ドラゴンズ・予想先発オーダー

 打順選手名守備特徴

 1三好陸斗中堅手俊足、内野安打が多い

 2岩瀬颯真二塁手バントと進塁打

 3立川蒼介遊撃手広角に打ち分ける

 4柴崎大和一塁手長打力が高い

 5野上結衣捕手選球眼と巧打が武器

 6日野瑠衣左翼手速球に強い

 7長谷川健吾右翼手俊足で走塁が巧み

 8黒沼晴翔三塁手バントと守備が得意

 9国分拓海投手速球派のエース


 篠田監督が選手たちを見渡した。

「特に警戒するのは、一番の三好、二番の岩瀬だ。この二人が塁に出ると、盗塁や送りバントで得点圏へ進んでくる」

 森下悠一が答えた。

「走者を出したら、僕も送球をしっかり準備します」

「頼んだぞ」

 そして、篠田監督は次の話題へ移った。

「さて、今日の先発投手だが……」

 スクリーンに一人の名前が表示された。

 岡部結菜。

 第三章 女子投手・岡部結菜の秘密兵器

 岡部結菜。

 博多リトルスターズの女子投手だった。

 体格は決して大きくない。

 球速も、男子の速球派投手ほど速いわけではなかった。

 しかし、彼女には他の投手が簡単には真似できない武器があった。

 強烈なバックスピンのかかった直球だった。

 スコアラーが投球データを表示した。

 岡部結菜・投球分析

 最高球速106

 km/h




 高回転時の回転数2,550

 rpm





 投球の特徴:強いバックスピンによって、打者の予測より球が落ちにくく、伸び上がるように見える直球。


 悠翔が驚いた。

「結菜、回転数がえぐかね!」

 結菜が笑った。

「球速はそんなに速くないけどね」

 森下悠一が口を開いた。

「でも、結菜の球、ほんとに捕りにくかとよ。普通の直球と思ってミットを出したら、予想より上に来るけん」

 篠田監督が説明した。

「実際に途中から上昇するわけではない。しかし、強いバックスピンによって落下が抑えられる。打者が予測した軌道より高いところを通るんだ」

 結菜がうなずいた。

「今日も自分の球を投げます」

 監督は微笑んだ。

「頼んだぞ。ただし、多摩川は機動力のあるチームだ。走者への注意も忘れないこと」

「はい!」

 そして、監督は全員に告げた。

「女子だから打ちやすいと思ってくる相手もいるかもしれない。しかし、結菜の投球を知れば、そんな考えはすぐに変わるはずだ」

 チームメイトたちが笑顔でうなずいた。

 結菜は拳を握り締めた。

「絶対に抑えます!」

 第四章 観客席に現れた熱すぎる母親

 試合開始まで、あと三十分。

 観客席に柳川優子の姿があった。

 前日の仕事を終え、今日も息子の応援に駆けつけていた。

「悠翔ー! 今日も頑張りんしゃいよー!」

 その声は、グラウンドまで響いていた。

 悠翔が振り返る。

「お母さん! 今日も来とる!」

 坂井雄二が笑った。

「悠翔、お母さんの声、球場の反対側まで聞こえそうやね!」

 牧田和美も笑った。

「これ、応援団の太鼓より大きかっちゃない?」

 悠翔は苦笑した。

「お母さん! 声、大きすぎ!」

 優子は満面の笑みで答えた。

「何言いよっと! 応援は熱くせないかんやろ!」

「熱すぎるったい!」

 観客席から笑い声が起きた。

 隣に座っていた男性が尋ねた。

「優子さん、今日は何か特別な応援を用意してるんですか?」

 優子は笑った。

「今日は息子がホームラン打ったら、思いっきり拍手すると!」

 男性が笑った。

「それだけですか?」

「それだけで済むかどうかは、うちにも分からんとよ!」

 一同、大爆笑。

 しかし、優子はグラウンドを見ながら、静かに祈っていた。

「悠翔、怪我せんごとね。今日も思いっきり野球を楽しんできんしゃい」

 第五章 試合開始、博多が先制

 全国大会準々決勝。

 先攻、博多リトルスターズ。

 後攻、多摩川ドラゴンズ。

 博多リトルスターズ・先発オーダー

 打順選手名守備

 1坂井雄二センター

 2牧田和美セカンド

 3岸田誠一レフト

 4立花朋輝ファースト

 5柳川悠翔サード

 6森下悠一キャッチャー

 7松本航ライト

 8神谷蓮ショート

 9岡部結菜ピッチャー


 実況は女性アナウンサーの桐生遥。

 解説は元社会人野球選手の高木理恵が担当した。

「さあ、全国大会準々決勝! 西東京代表・多摩川ドラゴンズと福岡代表・博多リトルスターズの一戦です!」

 高木が話した。

「どちらも攻守のバランスが優れています。特に多摩川の国分投手と、博多の岡部投手。この二人の投球が注目ですね」

 試合開始。

 一回表。

 博多の一番、坂井雄二。

 国分拓海の初球。

 外角低めへの直球。

 ストライク。

 二球目。

 坂井が振り抜いた。

 打球はセンター前へ抜けた。

「ヒット! 博多、先頭打者が出塁しました!」

 二番、牧田和美。

 国分の直球を慎重に見極め、四球を選んだ。

 無死一、二塁。

 三番、岸田誠一。

 高めの直球を打ち上げた。

 センターフライ。

 一死一、二塁。

 四番、立花朋輝。

 国分は外角への直球で攻めた。

 しかし、立花は簡単には手を出さない。

 フルカウントまで粘り、四球を選んだ。

 一死満塁。

 そして、五番。

 柳川悠翔。

 多摩川ベンチに緊張が走った。

 小宮山監督がつぶやく。

「いきなり、最も避けたかった場面になったな……」

 捕手の野上結衣がマウンドへ向かった。

「拓海、落ち着いて。無理に三振を狙わなくてもいいから」

 国分がうなずいた。

「分かった」

 初球。

 内角高めへの直球。

 ストライク。

 二球目。

 外角低め。

 ボール。

 三球目。

 国分が投げ込んだ直球を、悠翔が鋭く振り抜いた。

 カキーン!

 打球は右中間へ。

 センターの三好陸斗が追う。

 ライトの長谷川健吾も走る。

 しかし、二人の間を破った。

「抜けた! 右中間真っ二つ!」

 三塁走者の坂井が生還。

 二塁走者の牧田もホームイン。

 悠翔は二塁へ滑り込んだ。

「タイムリーツーベース! 柳川悠翔、初回から二点をたたき出しました!」

 2対0。

 観客席の優子が立ち上がった。

「悠翔ー! よう打ったぁぁぁ!」

 隣の観客が笑った。

「優子さん、今日も絶好調ですね!」

「うちの息子も絶好調たい!」

 その後、森下悠一は浅い内野フライ。

 松本航は三振に倒れ、追加点はならなかった。

 しかし、博多は初回から二点を先制した。

 第六章 高回転ストレート、岡部結菜の真骨頂

 一回裏。

 博多のマウンドへ、岡部結菜が向かった。

 多摩川の一番、三好陸斗。

 結菜の初球。

 外角への直球。

 三好は見送った。

 ストライク。

 二球目。

 今度は高めへの直球。

 三好が振り抜く。

 しかし、バットはボールの下を通過した。

「空振り!」

 三好は首をかしげた。

「……あれ?」

 三球目。

 結菜はもう一度高めへ投げ込んだ。

 三好が振る。

 しかし、またも空振り。

「三振!」

 実況席の桐生が声を上げた。

「岡部結菜、先頭打者を三振に仕留めました!」

 高木が解説する。

「今の球は非常に回転がいいですね。三好選手は予測した位置より下を振っていました」

 続く二番、岩瀬颯真。

 初球は外角低め。

 ボール。

 二球目。

 結菜が腕を振った。

 高めの直球。

 岩瀬は打ちにいった。

 しかし、球の下をたたいてしまった。

 打球は力のないセンターフライ。

 坂井が捕球した。

 二死。

 三番、立川蒼介。

 結菜の直球をファウルで粘った。

 しかし、最後は外角高めの直球に空振り三振。

 三者凡退。

 多摩川の小宮山監督が腕を組んだ。

「……なるほど。これは簡単には打てないな」

 捕手の野上結衣もつぶやいた。

「球速だけでは分からないタイプの投手ですね」

 小宮山監督がうなずいた。

「そうだ。球が予想以上に落ちてこない。スイングの軌道を調整する必要がある」

 多摩川は早くも対策を考え始めていた。

 第七章 多摩川の機動力が反撃を生む

 二回裏。

 先頭は四番、柴崎大和。

 結菜の直球を鋭く振り抜いた。

 打球はレフト前へ。

「ヒット! 多摩川、先頭打者が出塁!」

 五番、野上結衣。

 初球をバント。

 柴崎が二塁へ進んだ。

 一死二塁。

 六番、日野瑠衣。

 結菜の高めの直球をファウルで粘る。

 そして五球目。

 低めの直球をセンター前へ打ち返した。

 柴崎が三塁を回る。

 坂井が本塁へ送球する。

 しかし、柴崎の足が勝った。

 2対1。

 多摩川が一点を返した。

 三回裏には、さらに反撃が続いた。

 一死から一番の三好陸斗が内野安打で出塁。

 二番の岩瀬颯真が送りバントを決めた。

 二死二塁。

 三番、立川蒼介。

 結菜の高めの直球を鋭く打ち返した。

 レフト前ヒット。

 三好がホームイン。

 2対2。

 同点。

 さらに四番、柴崎大和。

 今度は内角の直球を引っ張った。

 打球は左中間へ。

 二塁打!

 立川が一気にホームへ帰ってきた。

 2対3。

 多摩川ドラゴンズ、逆転。

 実況席の桐生が興奮気味に叫んだ。

「多摩川ドラゴンズ、三回裏に二点を奪って逆転しました!」

 高木が解説する。

「岡部投手の直球は確かに素晴らしいですが、多摩川の打者も対応してきましたね。予測より高い位置を通る球に、少しずつバットを合わせています」

 結菜はマウンドで悔しそうに唇をかんだ。

 森下悠一が声をかけた。

「結菜、大丈夫たい! まだ一点差やけん!」

 結菜はうなずいた。

「うん。ありがとう!」

 そして、続く野上結衣を三塁ゴロに打ち取り、追加点を許さなかった。

 第八章 悠翔、三打席目の反撃

 四回表。

 博多リトルスターズの攻撃。

 先頭の立花朋輝が左中間への二塁打で出塁した。

 続く五番、柳川悠翔。

 前の三回表の第二打席では、センターフライに倒れていた。

 ここまで二打数一安打、二打点。

 多摩川ベンチから小宮山監督が声をかけた。

「国分、低めを徹底しろ!」

 国分がうなずいた。

 初球。

 外角低め。

 ボール。

 二球目。

 内角直球。

 ストライク。

 三球目。

 悠翔が踏み込んだ。

 カキーン!

 鋭い打球が一、二塁間を抜けた。

「ライト前ヒット!」

 二塁走者の立花が三塁を回る。

 長谷川健吾が本塁へ送球する。

 しかし、間に合わない。

 3対3。

 博多、同点!

 悠翔は一塁上で小さくガッツポーズをした。

「よし!」

 観客席の優子が叫んだ。

「悠翔ー! ナイスバッティングたい!」

 周囲の観客も拍手した。

 その後、森下悠一がセンターフライ。

 松本航は三振。

 神谷蓮も遊撃ゴロに倒れ、追加点はならなかった。

 しかし、試合は振り出しに戻った。

 第九章 五回、博多が勝ち越し

 五回表。

 博多リトルスターズは、二番の牧田和美が四球を選び、三番の岸田誠一が送りバントを決めた。

 一死二塁。

 四番、立花朋輝。

 国分の直球を鋭く振り抜いた。

 打球はセンター前へ。

 牧田が三塁を回る。

 三好陸斗が素早く本塁へ送球する。

 しかし、牧田の足がわずかに早かった。

「セーフ!」

 4対3。

 博多リトルスターズ、勝ち越し!

 篠田監督は大きく拍手した。

「よし! みんなでつないだ一点だ!」

 一方、多摩川ベンチ。

 小宮山監督が選手たちに告げた。

「まだ一点差だ。焦る必要はない!」

 選手たちはうなずいた。

 多摩川の国分拓海は、その後も力強い直球を投げ続けた。

 しかし、球数は既に多くなっていた。

 博多の打者たちは三振を喫しながらも、四球や安打で何度も走者を出し、投手を苦しめていた。

 小宮山監督は投手交代を決めた。

 救援投手の池田晴翔がマウンドへ向かった。

「晴翔、頼むぞ」

「はい!」

 第十章 六回、再び迫る多摩川

 六回裏。

 多摩川ドラゴンズの攻撃。

 博多リトルスターズは、岡部結菜に代えて黒木海翔をマウンドへ送った。

 結菜は五回を投げ、三失点。

 篠田監督は彼女に声をかけた。

「結菜、よく投げたぞ」

 結菜は少し悔しそうだった。

「三点も取られてしまいました……」

 監督は首を横に振った。

「相手も全国八強の強豪だ。簡単に抑えられるわけじゃない。お前の投球は、十分チームに貢献している」

 結菜はうなずいた。

「ありがとうございます!」

 しかし、多摩川も最後まで粘った。

 六回裏。

 先頭の七番、長谷川健吾がセンター前ヒット。

 続く八番、黒沼晴翔が送りバントを決めた。

 一死二塁。

 九番には代打の矢島奏多が送られた。

 矢島は黒木の直球を右方向へ打ち返した。

 打球はライト前へ。

 長谷川が三塁を回る。

 松本航が本塁へ返球した。

 しかし、間に合わない。

 4対4。

 多摩川ドラゴンズ、再び同点!

 実況席の桐生が声を張り上げた。

「またしても同点! 多摩川ドラゴンズ、機動力とつなぐ打撃で追いつきました!」

 その後、三好陸斗はセンターフライ、岩瀬颯真は二塁ゴロに倒れ、追加点はならなかった。

 試合は4対4のまま最終回へ向かった。

 第十一章 六回表、もう一つの得点

 多摩川が同点に追いつく前、六回表の博多の攻撃でも、一つの大きな場面があった。

 岸田誠一が先頭打者として二塁打を放ち、立花朋輝が続いて適時打を放ったのである。

 これで博多は一時5対3とリードを広げていた。

 その後、悠翔は第四打席で内野ゴロに倒れ、走者を進めることはできたものの、追加点にはつながらなかった。

 しかし、六回裏の多摩川の反撃は一点だけでは終わらなかった。

 矢島奏多の適時打で5対4としたあと、さらに三好陸斗が安打でつなぎ、一死一、三塁。

 岩瀬颯真の犠牲フライで三塁走者の矢島が生還し、5対5となった。

 黒木海翔は続く立川蒼介を遊撃ゴロに打ち取り、ようやく三アウトとなった。

 七回表を迎える時点で、スコアは5対5。

 決着は最終回へ持ち越された。

 第十二章 七回表、悠翔の豪快な一発

 七回表。

 多摩川ドラゴンズの救援投手、池田晴翔がマウンドに立っていた。

 博多リトルスターズの一番、坂井雄二。

 初球を打ったが、二塁ゴロ。

 一死。

 二番、牧田和美。

 高めの直球を打ち上げた。

 ライトフライ。

 二死走者なし。

 三番、岸田誠一。

 池田の外角直球を鋭く打ち返した。

 センター前ヒット!

 二死一塁。

 四番、立花朋輝。

 池田は慎重に攻めた。

 初球、ボール。

 二球目もボール。

 三球目はファウル。

 しかし、四球目と五球目が外れた。

 フォアボール。

 二死一、二塁。

 そして、五番。

 柳川悠翔。

 多摩川ベンチが静まり返った。

 小宮山監督は腕を組んだ。

「また、この場面で悠翔か……」

 捕手の野上結衣がマウンドへ向かった。

「晴翔、落ち着いて。絶対に甘い球を投げないで」

 池田がうなずいた。

「分かってる」

 一方、観客席の優子は、両手を握り締めていた。

「悠翔……お願い……」

 初球。

 外角低めへの直球。

 悠翔は見送った。

 ボール。

 二球目。

 内角高め。

 見逃しストライク。

 三球目。

 外角いっぱいへの直球。

 ファウル。

 カウント1ボール2ストライク。

 池田は大きく息を吐いた。

 四球目。

 内角低めへの直球。

 悠翔が踏み込んだ。

 カキィィィィン!

 凄まじい金属音が球場に響いた。

 打球は左中間へ。

 レフトの日野瑠衣が追う。

 センターの三好陸斗も後退する。

 しかし、打球は二人の頭上を越えた。

 フェンスが迫る。

 さらに伸びる。

 そして。

 白球は左中間スタンドへ飛び込んだ。

「入ったぁぁぁぁ!」

 実況席の桐生が絶叫した。

「ホームラン! 柳川悠翔、勝ち越しスリーランホームラン!」

 岸田がホームイン。

 立花もホームイン。

 そして、悠翔が一塁を回る。

 二塁を回る。

 三塁を回る。

 ベンチの仲間たちが両手を上げて迎えた。

「悠翔ー!」

 悠翔がホームベースを踏んだ。

 8対5。

 博多リトルスターズ、三点勝ち越し!

 観客席の優子が立ち上がった。

「やったぁぁぁ! 悠翔! よう打ったばい!」

 隣の観客が笑った。

「優子さん、今日もすごい応援ですね!」

「だって、うちの息子が打ったっちゃもん!」

 周囲が大笑いした。

 しかし、優子の目には涙が浮かんでいた。

「ほんとに……よう頑張ったね……」

 第十三章 最後の守備、博多がベスト4へ

 七回裏。

 博多リトルスターズは三点リード。

 しかし、多摩川ドラゴンズは最後まで諦めなかった。

 先頭打者の三番、立川蒼介がセンター前ヒット。

 無死一塁。

 続く四番、柴崎大和。

 黒木海翔の直球を鋭く打ち返した。

 打球は三塁方向へ。

 悠翔が横っ跳びした。

 グラブに収める。

 素早く二塁へ送球。

 牧田和美が捕球し、一塁へ転送!

「ダブルプレー!」

 二死走者なし。

 観客席の優子が大きく拍手した。

「悠翔! 守備も最高たい!」

 続く五番、野上結衣。

 黒木の直球をファウルで粘った。

 しかし、最後は高めの直球を打ち上げた。

 センターフライ。

 坂井雄二が落下点に入る。

 捕球!

「試合終了!」

 桐生アナウンサーが叫んだ。

「博多リトルスターズ、勝利! 多摩川ドラゴンズを8対5で破り、全国大会準決勝進出です!」

 球場が大歓声に包まれた。

 しかし、篠田監督はスコアボードを見つめながら、静かにうなずいた。

「最後まで苦しい試合だったな……」

 そして、選手たちを集めた。

「よくやった。みんなで勝ち取ったベスト4だ!」

 選手たちは声をそろえた。

「はい!」


 第十四章 またしても爆笑インタビュー

 試合終了後。

 柳川悠翔はヒーローインタビューを受けていた。

 女性インタビュアーの宮原彩子がマイクを向ける。

「柳川選手、準決勝進出おめでとうございます!」

「ありがとうございます!」

「今日は五打数三安打、六打点。最後は勝ち越しスリーランホームランでした。今のお気持ちは?」

 悠翔は笑顔で答えた。

「めちゃくちゃうれしかです!」

 観客席から拍手が起きた。

 宮原が続けた。

「前の試合ではサイクル安打。今日は六打点。まさに絶好調ですね」

 悠翔は少し考えた。

 そして、満面の笑みで答えた。

「今日は博多とんこつラーメンみたいな試合でした!」

 宮原の表情が止まった。

「……博多とんこつラーメン、ですか?」

 実況席でも桐生アナウンサーが首をかしげた。

「えっ? 今度はラーメン?」

 悠翔は真剣に説明を始めた。

「まず、最初の二点はスープたい。じっくり煮込んで、しっかり味を出すとです」

 宮原が必死に理解しようとする。

「ええと……つまり?」

「四回の一点はチャーシュー。五回の一点がネギ。六回の一点がキクラゲたい!」

 宮原が吹き出した。

「ちょっと待ってください! じゃあ、最後のスリーランホームランは何なんですか?」

 悠翔は即答した。

「替え玉です!」

「替え玉!?」

「そうたい! 最後に替え玉三玉追加して、合計八点たい!」

 宮原は腹を抱えた。

「三玉も替え玉するんですか!」

「もちろんたい! 全国大会やけん、替え玉も豪快にいかんと!」

 実況席が大爆笑となった。

 桐生アナウンサーは机に突っ伏した。

「だ、駄目です……また料理の話になっています!」

 高木解説者も笑い崩れていた。

「前回は筑前煮で、今回はとんこつラーメン……! 次はいったい何が出てくるんでしょうか!」

 観客席の優子も腹を抱えていた。

「悠翔ー! あんた、ほんとに誰に似たとねー!」

 隣の観客が即答した。

「優子さんでしょう!」

「なんで分かるとー!」

 周囲がさらに大爆笑となった。

 第十五章 大阪タイタンズにも届いた爆笑速報

 その夜。

 大阪タイタンズの宿舎。

 河内正則、加藤亜由美、池永智雄、有村恒一郎、藤原航たちは、テレビで全国大会の結果を見ていた。

 画面に大きな文字が映し出された。

『博多リトルスターズ・柳川悠翔、二試合連続大活躍! 準決勝進出!』

 正則が目を丸くした。

「また打ったんか!」

 智雄も驚いた。

「五打数三安打、六打点って……!」

 亜由美は資料を見直した。

「前の試合はサイクル安打。今日もスリーランホームラン。ほんまにすごい打者やな」

 航が真剣な表情で言った。

「もし決勝で当たったら、悠翔の前に走者をためたらあかんな」

 恒一郎もうなずいた。

「せやな。あの長打力は怖いで」

 正則はテレビ画面を見つめた。

 そこには、悠翔の勝ち越しスリーランホームランが映っていた。

「おもろいやん」

 亜由美が顔を向ける。

「何が?」

「こんな強い打者と勝負してみたいやん」

 智雄が笑った。

「正則、また燃えとるな」

 しかし、次に映し出されたのは、悠翔のヒーローインタビューだった。

『今日は博多とんこつラーメンみたいな試合でした!』

 正則たちは一瞬、固まった。

「……は?」

 悠翔が、スープやチャーシュー、ネギ、キクラゲについて熱弁する。

 そして最後に。

『替え玉三玉追加して、合計八点たい!』

 亜由美が吹き出した。

「ちょっと待って! 何で野球のインタビューで替え玉の話しとるん!?」

 智雄も笑い出した。

「前は筑前煮やったやろ! 今度はラーメンかいな!」

 恒一郎は腹を抱えた。

「意味が分からへん!」

 航も笑い崩れた。

「正則、もし決勝で勝っても、あんなインタビューしたらあかんで!」

 正則が笑いながら答えた。

「するかいな!」

 亜由美がさらに突っ込んだ。

「でも正則、あんたもたまに変なこと言うからな!」

「言わへんわ!」

 部屋は笑い声に包まれた。

 しかし、川原監督が会議室へ入ってくると、選手たちは表情を引き締めた。

「みんな、ちょうどいいところにいたな」

 監督は資料を机に置いた。

「準決勝の対戦相手が決まった」

 正則が顔を上げた。

「どこですか?」

 川原監督は答えた。

「東北代表の強豪、盛岡ウルブズだ」

 選手たちは資料を手に取った。

 そこには、これまでの対戦相手とは異なる特徴が記されていた。

『チーム防御率、全国大会出場チーム中トップクラス。失策数も極めて少ない』

 亜由美がつぶやいた。

「また守備の堅いチームか……」

 監督はうなずいた。

「そうだ。しかも打線は一発の長打力がある。簡単には勝てない相手だ」

 正則は資料を見つめた。

 そして、静かに笑った。

「最高やないか!」

 亜由美がすかさず返した。

「最高とか言うとる場合ちゃう! 次の試合、ちゃんと勝たなあかんで!」

「分かっとるわ!」

 選手たちの笑い声が会議室に響いた。

 しかし、その表情には確かな闘志が宿っていた。

 日本一まで、あと二勝。

 大阪タイタンズと博多リトルスターズ。

 二つのチームは、ついに全国大会準決勝へ進んだ。


 次回予告

 第33話「決勝への最後の壁」

 全国大会準決勝。

 大阪タイタンズの対戦相手は、東北代表・盛岡ウルブズ。

 全国屈指の防御率と守備力を誇る強豪だ。

 河内正則は、準々決勝で奪三振ゼロの完封勝利を達成した。

 しかし、次の相手は一発の長打力を備えた打線を持つ。

「正則、今日みたいに打たせて取るだけでは危ない場面もあるぞ」

 川原監督の言葉に、正則はうなずいた。

「なら、相手に合わせて投球を変えていきます」

 一方、博多リトルスターズも準決勝へ進出。

 柳川悠翔は、二試合連続で大量打点を記録し、全国大会でも屈指の強打者として注目を集めていた。

 しかし、その活躍は、次の対戦相手からの警戒をさらに強める。

「柳川悠翔には、絶対に甘い球を投げるな」

 その指示が、相手ベンチで徹底され始めていた。

 そして、大阪タイタンズの選手たちも、博多リトルスターズとの決勝対決を少しずつ意識し始める。

 次回、第33話「決勝への最後の壁」。

 全国制覇まで、あと二勝。決勝の舞台に立つためには、最後の壁を乗り越えなければならない。

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