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河内正則・栄光への道  作者: リンダ


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105/113

打たせて取る、その先に

 河内正則 栄光への道

 第31話「打たせて取る、その先に」

 第一章 全国八強、次なる強敵

 全国大会準々決勝。

 大阪タイタンズの選手たちは、千葉県代表・房総マリナーズとの対戦を翌日に控え、宿舎の会議室に集まっていた。

 川原監督の隣では、マネージャーの森下真央が大型スクリーンに分析資料を映し出している。

 中西莉子は選手たちに資料を配っていた。

「はい、全員分あるから取ってな。今日は結構分厚いで!」

 河内正則が資料を受け取って驚いた。

「うわっ! 何やこれ、学校のテスト勉強より多いやん!」

 加藤亜由美が笑った。

「正則、あんた、ちゃんと読まなあかんで!」

「分かっとるわ!」

 池永智雄と星野慎一も笑っていた。

 しかし、真央が説明を始めると、選手たちの表情は引き締まった。

「今日分析する房総マリナーズは、全国大会出場チームの中でも、特に三振が少ないチームです」

 スクリーンに試合映像が映し出された。

 外角低めの直球。

 打者は簡単には空振りしない。

 ファウルで粘る。

 次は内角いっぱいの直球。

 これもファウル。

「このように、追い込まれてもスイングをコンパクトにして、投手に球数を投げさせるのが特徴です」

 捕手の藤原航が質問した。

「真央、球速が速い投手に対しても同じなんか?」

「そうです。速球への対応力が非常に高く、球速だけで押し切るのは難しいと思います」

 川原監督が口を開いた。

「正則。お前の速球でも、簡単には三振しないかもしれんぞ」

 正則は資料を見つめた。

 そして、静かに答えた。

「なら、打たせて取ればええんですね」

 監督は大きくうなずいた。

「そのとおりだ。三振を取ることだけが投手の仕事じゃない」

 正則は笑った。

「よっしゃ。今日は野手のみんなに働いてもらいましょか!」

 亜由美が即座に返した。

「普段から働いとるわ!」

 会議室が笑いに包まれた。

 第二章 両チームの先発メンバー

 試合当日。

 球場のスコアボードに、両チームの先発メンバーが表示された。

 大阪タイタンズ・先発オーダー

 打順選手名守備

 1加藤亜由美セカンド

 2藤本颯太センター

 3西岡湊レフト

 4河内正則ピッチャー

 5藤原航キャッチャー

 6梶原悠真ショート

 7宮本さくらライト

 8西村奈緒ファースト

 9有村恒一郎サード


 ベンチには池永智雄、星野慎一らが控えている。

 房総マリナーズ・先発オーダー

 打順選手名守備

 1稲葉晴人センター

 2柴崎湊斗セカンド

 3沖田陸ショート

 4館山翔吾ファースト

 5高瀬俊介サード

 6木村蓮レフト

 7荒井陽向ライト

 8三好拓真キャッチャー

 9黒沢海斗ピッチャー


 実況席には女性アナウンサーの三田村沙織と、解説の沢村健司が座っていた。

「全国大会準々決勝、大阪タイタンズ対房総マリナーズ。いよいよプレーボールです!」

 第三章 正則、三振を狙わない投球

 一回表。

 房総の一番、稲葉晴人。

 正則が初球を投げ込んだ。

 外角低めへの直球。

 ストライク。

 二球目は少し球速を抑えた直球だった。

 稲葉が振り抜いた。

 しかし、タイミングが早かった。

 打球は二塁ゴロ。

 加藤亜由美が捕球して一塁の西村奈緒へ送球。

「アウト!」

 続く二番、柴崎湊斗。

 正則は初球に速い直球を投げ込んだ。

 ファウル。

 二球目は内角低めへ、少し球速を落とした直球。

 柴崎は詰まった。

 打球は三塁ゴロ。

 有村恒一郎が軽快にさばき、奈緒へ送球。

 二死。

 三番、沖田陸。

 初球は外角への直球。

 ボール。

 二球目は内角いっぱい。

 ストライク。

 三球目。

 正則は再び球速を落とした。

 沖田はタイミングを外され、センターへ力のないフライを打ち上げた。

 藤本颯太が落下点に入る。

 捕球。

 三者凡退。

 三田村アナウンサーが実況する。

「河内正則、三者凡退の立ち上がり! しかし、三振は一つもありません!」

 沢村解説者がうなずいた。

「今日は明らかに投球スタイルを変えています。強い直球で押すのではなく、球速とコースを変えて打たせていますね」

 ベンチへ戻った正則を藤原航が迎えた。

「正則、ええ感じやで!」

「せやな。これならいけそうや」

 亜由美が笑った。

「正則、今日の球、守りやすいわ!」

「頼むで!」

 第四章 房総、初安打。しかし得点ならず

 二回表。

 先頭は四番、館山翔吾。

 正則の初球を見送った。

 ストライク。

 二球目の内角直球を打つ。

 しかし、バットの根元に当たった。

 打球は一塁方向へ。

 西村奈緒が捕球し、自ら一塁ベースを踏む。

 一死。

 続く五番、高瀬俊介。

 正則は外角低めへの直球を投げ込んだ。

 高瀬は打ち返したものの、打球は二塁手の正面。

 亜由美が捕球し、一塁へ送球。

 二死。

 六番、木村蓮。

 初球は外角直球。

 見逃しストライク。

 二球目。

 正則が内角へ投げ込んだ直球を、木村はコンパクトに振り抜いた。

 打球はセンター前へ。

「ヒット! 房総マリナーズ、初安打です!」

 二死一塁。

 正則は落ち着いていた。

「しゃあない。次や」

 七番、荒井陽向。

 正則は初球から内角を攻めた。

 荒井が引っ張る。

 打球は遊撃手の梶原悠真の正面へ。

 梶原が捕球し、奈緒へ送球した。

 スリーアウト。

 二回を終えて、正則は被安打一本、無失点。

 房総のベンチでは、選手たちが首をかしげていた。

 館山が言った。

「おかしいな。河内って、もっと速い球で押してくると思っとったのに」

 沖田もうなずいた。

「なんか、全部タイミングが合わへん」

 房総の立石監督が腕を組んだ。

「完全に打たされているな……」

 そして、選手たちに告げた。

「三回から作戦を変える。際どいコースを無理に打つな。球を見極めろ。相手はこちらのタイミングをずらしてきている」

 選手たちはうなずいた。

「はい!」

 第五章 伝家の宝刀、おちょくりスローボール

 三回表。

 八番、三好拓真。

 初球は外角低めへの直球。

 ストライク。

 二球目も外角への直球だったが、三好は見送った。

 ストライク。

 三球目は低めに外れた。

 ボール。

 航はマウンドの正則を見た。

 打者が明らかに球を見極めようとしている。

 その後、正則は内角への直球を打たせ、三好を二塁ゴロに仕留めた。

 一死。

 航がマウンドへ歩み寄った。

「正則、相手、作戦変えてきたぞ」

「ああ。際どい球には手を出さんようになったな」

 航がニヤリと笑った。

「ならば、あれ、解禁するか?」

 正則も笑った。

「……あれか?」

「せや。もっと分からなくしてやろうぜ」

 正則はグラブで口元を隠した。

「よっしゃ!」

 その秘密兵器こそ、伝家の宝刀。

 おちょくりスローボール。

 速い直球を主体とする正則が、極端に球速を落として投げる超スローボールだ。

 変化球ではなく、投球速度の差を利用した直球だった。

 九番、黒沢海斗。

 正則は初球に力強い直球を投げ込んだ。

 ストライク。

 二球目。

 正則が腕を振った。

 しかし、白球は驚くほどゆっくりと放たれた。

 ふわり。

 高い弧を描きながら、ストライクゾーンへ向かう。

 黒沢は思わず目を丸くした。

「えっ?」

 打とうとしたが、完全にタイミングが合わない。

 打球は三塁方向へ、ぼてぼてのゴロとなった。

 恒一郎が素早く前進して捕球。

 一塁へ送球。

 アウト!

 実況席がざわめいた。

「今の球は何でしょうか!」

 沢村が笑った。

「これはすごい球速差ですね。打者は完全にタイミングを外されました!」

 続く一番、稲葉晴人。

 正則は初球に速い直球を投げた。

 ファウル。

 二球目は、再びおちょくりスローボール。

 稲葉は今度こそ打とうと待ち構えた。

 しかし、待ちすぎてしまった。

 打球は力のない遊撃ゴロ。

 梶原悠真が捕球して一塁へ送球。

 アウト!

 三者凡退。

 房総の立石監督はベンチで腕を組んだ。

「今度はあんな遅い球まで使ってきたか……」

 コーチが尋ねた。

「どうしますか?」

「厄介だな。速い球を意識すると遅い球が来る。遅い球を待つと、今度は速い直球が来る。しかも、どちらもストライクゾーンへ投げてくる」

 沖田がつぶやいた。

「こんなん、どうやって打てばいいんだ……」

 立石監督は選手たちに声をかけた。

「慌てるな。自分のスイングを崩すな。それが相手の狙いだ!」

 第六章 三回裏、さくらが突破口を開く

 三回裏。

 大阪の先頭打者は、七番・宮本さくら。

 房総の先発、黒沢海斗の初球。

 外角低め。

 ボール。

 二球目は内角直球。

 さくらが振り抜いた。

 カキーン!

 鋭い打球が三遊間を抜けた。

「レフト前ヒット! 大阪タイタンズ、先頭打者が出塁しました!」

 さくらは一塁上で笑顔を見せた。

「よし!」

 続く八番、西村奈緒。

 左打席に入った。

 黒沢は外角への直球を投げ込んだ。

 初球はストライク。

 二球目は内角低め。

 ボール。

 そして三球目。

 奈緒は踏み込んだ。

 カキィィン!

 強烈な打球が三塁線を破った。

「抜けた! レフト線を破る長打!」

 左翼手の木村蓮が懸命に追いかける。

 しかし、打球はフェンス際まで転がった。

 一塁走者のさくらが二塁を蹴る。

 三塁へ向かう。

 三塁コーチが腕を回した。

「回れ! 回れ!」

 さくらがホームへ突っ込んだ。

 奈緒は二塁を蹴り、三塁へ。

「さくら、ホームイン! 大阪タイタンズ先制!」

 1対0。

 そして奈緒も三塁へ滑り込んだ。

「セーフ!」

 タイムリースリーベースヒット!

 ベンチから正則が叫んだ。

「奈緒、ナイスバッティング!」

 亜由美も拍手した。

「さくらもよう走ったで!」

 なおも無死三塁。

 九番、有村恒一郎。

 房総の捕手、三好拓真がマウンドへ向かった。

「黒沢、落ち着いていこう」

 黒沢はうなずいた。

「分かった」

 一方、大阪ベンチ。

 川原監督がサインを出した。

 恒一郎が小さくうなずいた。

 スクイズ。

 黒沢が投球動作へ入った。

 その瞬間、三塁走者の奈緒がスタート。

 恒一郎がバントの構えを取った。

 コンッ!

 打球は一塁方向へ、絶妙な勢いで転がった。

 一塁手の館山翔吾が前進する。

 しかし、奈緒はすでに本塁へ向かっていた。

 館山は本塁への送球を諦め、一塁へ送球した。

 恒一郎はアウト。

 だが、奈緒がホームイン!

 2対0。

 大阪タイタンズ、追加点!

 実況の三田村が叫んだ。

「見事なスクイズ成功! 宮本さくらのヒット、西村奈緒のタイムリースリーベース、そして有村恒一郎のスクイズ! 大阪タイタンズ、三回裏に二点を先制しました!」

 続く一番、加藤亜由美は二塁フライ。

 二番、藤本颯太はセンターライナーに倒れ、三アウトとなった。

 それでも大阪は、数少ない好機を確実に得点へ結びつけた。

 第七章 四回、房総打線のフォームが崩れる

 四回表。

 二番、柴崎湊斗。

 正則の初球は外角低めへの直球。

 ストライク。

 二球目は内角への速球。

 ファウル。

 三球目。

 再びおちょくりスローボールが投げ込まれた。

 柴崎は打とうとしたが、上体が前へ突っ込んだ。

 打球は力のない二塁ゴロ。

 亜由美が捕球して一塁へ。

 アウト。

 三番、沖田陸。

 初球は速い直球。

 見逃しストライク。

 二球目は少し球速を落とした直球。

 沖田が振り抜いた。

 しかし、タイミングが合わない。

 打球は三塁ゴロ。

 恒一郎が捕球して一塁へ。

 二死。

 四番、館山翔吾。

 房総が誇る主砲だった。

 正則の初球。

 外角直球。

 ボール。

 二球目は内角への速い直球。

 ファウル。

 三球目。

 正則が再びスローボールを投げ込んだ。

 館山は待ち構えた。

 しかし、球が思ったより遅い。

 スイングのタイミングが崩れた。

 打球は力のないレフトフライ。

 西岡湊が落下点に入って捕球した。

 三者凡退。

 三田村が実況する。

「四回終了時点で、河内正則は被安打わずか一本! 奪三振はゼロですが、完全に房総打線を封じ込めています!」

 沢村が解説した。

「これは見事な投球術です。打者は球が見えていても、自分のタイミングで振れなくなっている。打撃フォームまで崩されていますね」

 房総の立石監督は、選手たちへ繰り返し指示を出していた。

「自分のフォームを思い出せ! 相手に合わせるな!」

 しかし、房総の打者たちは苦しんでいた。

 第八章 五回、正則を支える堅守

 五回表。

 五番、高瀬俊介。

 初球の直球を打ち返した。

 打球は左中間へ大きく伸びた。

 しかし、左翼手の西岡湊が追いついた。

 捕球。

 一死。

 六番、木村蓮。

 正則の三球目を鋭く引っ張った。

 打球は一、二塁間へ。

 亜由美が横っ跳びした。

 グラブの先で捕球。

 素早く立ち上がって一塁の奈緒へ送球。

「アウト!」

 観客席が沸いた。

「加藤亜由美、ファインプレー!」

 続く七番、荒井陽向。

 今度は三塁線へ鋭いゴロを放った。

 しかし、恒一郎が逆シングルで捕球。

 素早く一塁へ送球。

 アウト!

 またも三者凡退。

 正則がベンチに戻ると、亜由美が笑った。

「正則、今日は野手が大忙しやで!」

「ほんまに助かるわ!」

 藤原航もうなずいた。

「今日は投手と野手が一つになっとるな」

 智雄が笑った。

「正則、三振ゼロで完封したら、ある意味すごいで」

 正則は笑った。

「ほんまやな。でも、まだ終わっとらんで!」

 第九章 六回裏、亜由美の豪快な一発

 六回裏。

 大阪の攻撃。

 先頭は九番、有村恒一郎。

 房総の黒沢海斗は、疲れを見せながらも丁寧に直球を投げ込んでいた。

 恒一郎は三塁ゴロに倒れた。

 一死。

 続く一番、加藤亜由美。

 ここまで二打席凡退。

 しかし、亜由美の目は落ち着いていた。

 初球。

 外角低め。

 ストライク。

 二球目。

 内角直球。

 ボール。

 三球目。

 外角への直球をファウルにする。

 カウント1ボール2ストライク。

 黒沢が四球目を投げた。

 外角低め。

 ボール。

 2ボール2ストライク。

 そして五球目。

 黒沢が内角へ直球を投げ込んだ。

 しかし、わずかに高く入った。

 亜由美が踏み込んだ。

「ここや!」

 カキィィィン!

 乾いた金属音が球場に響いた。

 打球はレフト方向へ高々と舞い上がった。

 左翼手の木村蓮が後退する。

 さらに後退。

 フェンスが近づく。

 しかし、打球は勢いを失わない。

 そして。

 白球はレフトスタンドへ飛び込んだ。

「ホームラン!」

 実況の三田村が叫んだ。

「加藤亜由美! レフトスタンドへのソロホームラン! 大阪タイタンズ、貴重な追加点です!」

 3対0。

 亜由美は笑顔でダイヤモンドを一周した。

 ホームベースを踏むと、正則が真っ先に迎えた。

「亜由美! 最高や!」

 亜由美は笑った。

「正則、これでちょっと楽になったやろ!」

「めっちゃ助かったわ!」

「ほな、最後までちゃんと抑えてきいや!」

「任せとけ!」

 二人は拳を合わせた。

 その後、二番の藤本颯太は遊撃ゴロ。

 三番の西岡湊はセンターフライに倒れ、三アウト。

 大阪タイタンズは3対0とリードを広げた。

 第十章 七回、最後の三つのアウト

 七回表。

 マウンドには、引き続き河内正則。

 捕手は藤原航。

 先頭は八番、三好拓真。

 正則は初球から外角を攻めた。

 ストライク。

 二球目。

 三好は直球を右方向へ打ち返した。

 しかし、打球は二塁手の正面。

 亜由美が捕球して一塁へ送球。

 一死。

 続く九番、黒沢海斗。

 初球は内角への直球。

 ファウル。

 二球目は外角低め。

 ボール。

 三球目。

 正則が投げ込んだのは、再びおちょくりスローボールだった。

 黒沢は待っていた。

 しかし、思ったより打球が上がらない。

 打球は浅いセンターフライ。

 藤本颯太が前進して捕球した。

 二死。

 そして、一番、稲葉晴人。

 房総の主力打者が、最後の望みをつないで打席へ向かった。

 立石監督が声をかける。

「晴人! 最後まで諦めるな!」

 稲葉はうなずいた。

 初球。

 外角低め。

 ボール。

 二球目。

 内角いっぱいへの速い直球。

 ストライク。

 三球目。

 少し球速を落とした直球。

 稲葉が振り抜いた。

 カキーン!

 打球は三塁方向へ。

 恒一郎が前進する。

 打球を捕球した。

 素早く一塁へ送球。

「アウト!」

 三アウト!

 試合終了!

 三田村アナウンサーが叫んだ。

「大阪タイタンズ、勝利! 河内正則、七回を被安打一本、奪三振ゼロで完封しました!」

 球場が大歓声に包まれた。

 正則はマウンドで拳を握り締めた。

「よっしゃ!」

 航が駆け寄った。

「正則! よう投げた!」

「航! 今日はほんまにありがとう!」

 亜由美も笑顔で駆け寄った。

「正則、今日はうちらがよう守ったやろ!」

「めっちゃ助かったわ!」

 さくらと奈緒も近づいてきた。

「正則、お疲れさま!」

「ナイスピッチング!」

 正則は仲間たちを見渡した。

「みんな、ほんまにありがとう!」

 大阪タイタンズ。

 全国大会準決勝進出。

 日本一まで、あと二勝。


 第十一章 奪三振ゼロの完封勝利

 全国大会準々決勝・最終結果

 チーム1234567計

 房総00000000

 大阪002001×3

 大阪タイタンズ 3-0 房総マリナーズ

 準決勝進出



 河内正則・投手成績

 項目成績

 投球回7回

 打者数22人

 被安打1本(木村蓮)

 与四球0

 奪三振0

 失点0

 自責点0

 試合終了後。

 正則と亜由美がヒーローインタビューへ呼ばれた。

 女性インタビュアーの大島佳奈がマイクを向ける。

「河内選手、完封勝利おめでとうございます!」

「ありがとうございます!」

「今日は奪三振ゼロでしたが、被安打一本の素晴らしい投球でした。どんなことを意識したのでしょうか?」

 正則は笑った。

「今日は三振を取ろうとは思ってませんでした。打たせて、野手のみんなに守ってもらおうと思ったんです」

「途中から、とても遅い球を投げていましたね?」

「ああ、あれですか」

 正則はニヤリと笑った。

「おちょくりスローボールです!」

 大島は一瞬、固まった。

「……おちょくり?」

 観客席が笑いに包まれた。

「名前はふざけとりますけど、ちゃんと練習しとるんですよ!」

 続いて亜由美へマイクが向けられた。

「加藤選手、六回のホームラン、お見事でした!」

「ありがとうございます!」

「貴重な追加点でしたね」

 亜由美は笑った。

「正則がよう投げてくれとったんで、何とか点を取ってあげたかったんです」

「河内選手とは幼なじみだそうですね?」

「そうなんです。でも、昔から野球になると、すぐ熱くなるんですよ」

 正則が口を挟んだ。

「亜由美もやろ!」

「うちは冷静や!」

「どこがやねん!」

 会場は大爆笑。

 大島も笑いながら尋ねた。

「最後に、準決勝への意気込みをお願いします」

 正則は表情を引き締めた。

「ここまで来たら、絶対に決勝へ行きたいです。でも、一試合ずつ大事に戦います」

 亜由美もうなずいた。

「私も、みんなと最後まで野球を楽しみたいです。そして、日本一になりたいです!」

 観客席から大きな拍手が送られた。

 第十二章 敗れた房総マリナーズ

 一方、房総マリナーズの控室。

 立石監督は選手たちを集めた。

「みんな、お疲れさま」

 主将の沖田陸が悔しそうに言った。

「監督……今日は完全にやられました」

「そうだな」

 稲葉晴人もうなずいた。

「速い球を打つ練習は、ずっとしてきました。でも、今日は思うように打てませんでした」

 館山翔吾も続けた。

「途中から自分のフォームが崩れてしまいました」

 立石監督は静かに答えた。

「河内は、速球だけの投手ではなかったということだ」

 そして、選手たちを見渡した。

「でも、今日の経験は必ず今後の野球に生きる。悔しい気持ちは忘れなくていい。しかし、負けた相手の素晴らしさも認めよう」

 選手たちは静かにうなずいた。

 房総マリナーズの全国大会は終わった。

 しかし、選手たちの野球人生は、まだ続いていく。

 第十三章 準決勝へ

 夕方。

 大阪タイタンズの宿舎。

 川原監督は選手たちを集めた。

「今日の試合は、非常に価値のある一勝だった」

 正則がうなずいた。

「ありがとうございます」

「正則は速球だけに頼らず、打たせて取る投球をした。そして航は、相手の作戦変更を見抜いて配球を変えた」

 航も笑顔を見せた。

「正則がちゃんとコースへ投げてくれたからです」

 監督は続けた。

「さらに、さくら、奈緒、恒一郎、亜由美。打線も少ない好機を確実に得点へつなげた」

 亜由美が笑った。

「今日はみんなで勝った試合ですね!」

「そのとおりだ」

 監督は全員を見渡した。

「そして、いよいよ準決勝だ」

 選手たちの表情が引き締まった。

「日本一まで、あと二勝」

 正則が静かにつぶやいた。

「あと二勝……」

 亜由美が隣で笑った。

「正則、緊張しとるん?」

「いや、めっちゃ楽しみや!」

「ほんま、あんたらしいな」

 正則は窓の外を見つめた。

 全国大会も、いよいよ終盤。

 そして、同じように勝ち進んでいるチームがある。

 博多リトルスターズ。

 柳川悠翔を中心とした強力打線。

 正則は前の試合の映像を思い出した。

 サイクル安打。

 逆転スリーランホームラン。

 そして、あの謎の筑前煮インタビュー。

 思わず笑ってしまった。

「……何やねん、あの筑前煮って」

 亜由美が振り返った。

「正則、まだそれ言うとるん?」

「いや、思い出しただけや!」

「決勝で会うかもしれん相手のこと、笑っとったらあかんで!」

「分かっとるわ!」

 二人は笑い合った。

 しかし、その表情には確かな闘志が宿っていた。

 日本一を目指す戦いは、いよいよ終盤へ向かっていた。


 次回予告

 第32話「ベスト4への切符、博多の挑戦」

 大阪タイタンズは、房総マリナーズを3対0で破って準決勝進出を決めた。

 河内正則は、奪三振ゼロながら被安打一本の完封勝利。

 投球術の幅を広げた正則は、新たな自信を手にした。

 一方、博多リトルスターズも準々決勝を迎える。

 札幌アンビシャス戦でサイクル安打を達成した柳川悠翔への警戒は、さらに強まっていた。

 相手チームのスコアラーは、悠翔の打撃を徹底的に分析する。

「柳川悠翔の前には、絶対にランナーをためるな」

 しかし、博多リトルスターズの強さは悠翔一人だけではない。

 坂井雄二、牧田和美、岸田誠一、立花朋輝、森下悠一、大原颯真。

 それぞれが役割を果たすことで、強力なチームが成り立っている。

 篠田監督が選手たちに告げる。

「一人だけを警戒する相手には、チーム全員で勝負しよう」

 悠翔が笑った。

「そうたい! 野球は九人でやるとやけん!」

 次回、第32話「ベスト4への切符、博多の挑戦」。

 全国制覇への道は、一人の天才だけでは切り開けない。仲間を信じ、それぞれの力を発揮したチームだけが、最後の舞台へ進むことができる。

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