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いつか  作者: ryo
7/24

徹夜と新たなる妹

続き。

 のんびりのんびりと文章を書き続けていく。

 数文字書いて手を止め、また数十文字書いたら違うことを考えたり違うことをする。それが俺の執筆しっぴつスタイルだった。

 今日の体験を忘れない内に記しておきたい。その思いで書きはじめ早くも十分が経とうとしていた。……というか、十分くらいしか経ってなかったという事実。

「駄目だぁ……」

 あまりにも集中出来ない。と言うよりも、対象の観察不足が出ているのか、上手く動かすことが出来ない。

 問題は性悪女や悪女じゃなくなった妹の扱いと、そのかき乱す役をどう自然に混ぜるかどうか、だった。

 メインヒロインと妹は元からの知り合いだ。そして、そのメインヒロインとサブヒロインである友達は友達という設定になっている。

 だからこそ、その新キャラクターとどうからませるかを悩んでいるのだ。

 仮にそのサブヒロインの弟や妹にしてしまって、姉に近づく男を排除する、みたいな設定にしたとしたら……。結構良い感じになる可能性もある、かもしれない。

 俺は文香にまた電話をかける。

『もしもし?』

「俺だけどさ、灯花についてなんだけど」

『……やけに宗谷は灯花ちんが気になってるようだね』

「あぁ、そりゃあな。だってラノベに出すんだし」

『本当にそれだけ?』

「うん」

『……そ。それで?』

「いや灯花に妹か弟がいないかなって」

『いるよ? 妹ちゃん』

 まじで!? これまでの人生でこれほど上手くいった試しが会っただろうか? いや、ない。

「じゃあ灯花に明日の放課後連れてくるよう言っておいてくれ!」

『え? どうして妹ちゃんを――――』

 一方的に電話を切って、パソコンに向き直った。

 先程までのやる気の無さは何とやらだ。明らかに執筆スピードが違う。

「よっしゃぁ! 今日は書けるっ、書けるぞぉ!」

 止まらない。途中で妹が「も~うるさいよ~」などと文句を言ってきても止まることはなかった。

 だからだろうか? こんなことになったのは。

「え……? 朝?」

 時刻は既に七時を超えている。耳を澄ましてみれば、家族も起きてきたのか話し声が聞こえてきた。

「おーにーちゃーん、学校遅れるよ~?」

「お、おーう!」

 どうやら夢でも時計が壊れたわけでもないようだ。書き続けていたラノベを保存して、俺はパソコンを閉じる。

 その後、一階に降りて朝食を胃に詰め込んで家を出た。

「うぅ……朝日が効くぜぇ……」

 今日に限ってその空は一面青に染まっている。いつも雨や曇りの日に文句を言ってごめんなさい。だから今日は是非! せめて曇りにと願ってみたが、その空は少しも陰ることはなかった。

「おはよ~」

「あ、あぁ……文香さん」

「ど、どうしたの!? なんか凄い弱々しく見えるよ!?」

「昨日お前に電話したじゃん? その電話の前に「もし灯花に妹か弟がいたら」って考えてたんだよ。で、結果はいるってなって、もう止められなくて」

 でもあの集中の仕方は我ながら恐いなぁ。そう考えて一人引いていると、文香も少し引きながら、

「ラノベのことなんだろうけどさ……文面だけ見ると、完全にヤバい人だよそれ……」

「皆まで言うな。俺でも分かってるよ」

 なんせ自分の友達に妹がいるってことを聞いて興奮してる男が目の前にいるんだから。

「と、とりあえず灯花ちんには頼んでおいたからっ、放課後会えると思うよ」

「おう、ありがとな文香さんや」

「少し気になったんだけど、灯花ちんと宗谷はメールアドレスとかLINとか交換してるんでしょ? だったら自分から言ったら良かったんじゃないの?」

「……考えてみろ。あの人をからかうのが好きな灯花のことだ。そんなこと聞いたら「僕が満足したら教えてあげる」とか言い出すだろ」

 おまけにその後「残念だが妹はあげない」とか言い出しそうだ。それでその妹も「うわ、こいつキモ」って目で見るであろう――――

「うわ、なんかこいつガン見してくるんだけど……」

 あれー? どうしてこうなった? というか、時間トリップしてないか?

 俺は放課後灯花に連れられてきたその妹とやらに対面していた。だが、

「な、なぁ灯花さんや? 少しばかりおたくの妹が僕に対して厳しいんですが……」

「宗谷なんかしたの? めいはいつもこんな感じじゃない」

「何で俺がしでかした流れになってんの!? こちとら完全な初対面だよ!」

「声うるさい……姉ちゃん、こいつ友達なの?」

「友達……かもしれない」

 灯花さん、そこはしっかり断言してほしいところです。が、対する俺はこの灯花の妹、盟ちゃんの存在が丁度良かった。

 かき乱す役にするとしてだ、灯花の妹がとても奥ゆかしく清楚せいそな子だったとしたら、その役にするには少し気後れするところだ。

 だが、現実は違う。

 この俺を見る盟ちゃんの目つき、そしてそれに付随ふずいする態度。願ってもない、これに文句を言うのは違うと思う。

「め、盟ちゃん、ちょっと」

「はぁ!? 気安く名前呼ばないでくれるっ?」

「ご、ごめん。それじゃあ今言っておくけど、作中での扱いは悪くなると思うから謝っておくね」

「作中? なんの話してんのよ!」

「灯花、頼む!」

 灯花の肩を掴んて必死に説得。本当のとこは、そんなことをする前に灯花は盟ちゃんに向き直った。

「盟、宗谷はライトノベルっていう本屋さんで売っているような物を趣味で書いてる。そして、その昨日のモデルが僕達ってこと。メインヒロインがここにる文香で、サブヒロインが僕。そのサブヒロインである僕の妹として、盟を起用したいってこと」

「ふ~ん、あんたそのライトノベルって物を書いてるってことは、そういうのを目指してるってこと?」

「いや俺の場合は本当に趣味だよ。それで今日盟ちゃんを連れてきてもらった訳ってのはそのことなんだ。ほら勝手にモデルとして利用するのは駄目だろ? だから許可を貰いたくて……」

「だ、だから名前呼ぶなし! どうして私があんたの作品のモデルにならないといけないわけ!?」

「どうしてって……俺にはここにいる文香と灯花、そして君しか話せる友人がいないんだ。つまり……分かるだろ?」

「うぅ……あなたは悲しい人生を送っているのね……し、仕方ないからそれぐらいは許可してあげるわ!」

 うわぁ……、小学生に同情されてる高校生って……。

「ぷーっ、中学生に同情されてる高校生って初めて見た!」

「はぁ? 何言ってんだよ文香さんよ。どう見ても小学生じゃ――――」

「誰が小学生じゃこらー!! 私はれっきとした中学三年生だ!」

「えぇ! そ、そんな発育が悪い中学三年生がいるの!? あ、でもそう考えると灯花の妹だな、うん」

「「死ねぇ!!」」

「うぉ!? 灯花もどうしたんだよ急に……」

 姉妹だからか謎の連帯感を発揮し、盟ちゃんは前、灯花は後ろからクロスチョップの体勢たいせいで責めてきた。

 とどのつまりヒヨッコの俺は喰らったわけだったが、盟ちゃんの攻撃はポト、灯花のそれはもう攻撃と呼べるものではない。

「発育が悪いって言って悪かったよ」

「宗谷はデリカシーがない」「本当よっ!」

 おうふ……、最高のジト目と睨みをいただいた。自分がMだったらこの視線を嬉しいのかもしれないが、生憎俺はノーマルだ。

 灯花の好感度は少し下がったのかもしれない。盟ちゃんは最初から最低ラインだったが、こうして許可をくれたことを考えるに、良い子なのかもしれないと考えられる。

「宗谷さ――――宗谷だったっけ? あんたの名前」

「うん、宗谷」

「分かった。けどそのかわり、あんたにも私の願いを聞いてもらうわよ!」


ありがとうございます。

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