プール後とラノベ
続き。
文香&灯花の二人を探すことはとても大変だと考えていた。
だが、現実はどうやら違ったらしく、目の前に見知った後ろ姿を発見する。
「文香ー!」
「宗谷!」
文香も少し落ち着いたみたいだった。俺の声が聞こえて逃げることはせず、逆にこちらに向かってくる。
「もう、何で最初の別れた時点で追ってこないのよ!」
「……なら「知らない!」とか言って逃げなきゃよかっただろ」
言葉で言ってくれなきゃ分からないよ。それに追ったら追ったで文句を言うだろうに。
そんな面倒くさい幼馴染は放っておいて、俺は灯花の方に向き直る。何かこの短時間でやたらとやつれているような……。
「どうしたんだ?」
「文香が面倒くさかった。人混みはあんまり好きじゃないって言ったのに、わざわざ行列に並ばさせるし、このゴミ溜めみたいなプール何十周と連れられるしで……やっぱり僕には少し文香の相手は重い……」
「そ、そうか……お疲れ様」
文香一人だけはとても楽しんでいたようだ。しかしこれで皆で周れるなぁと思った時だった。
「もう疲れたから帰らない?」
「はぁ?」「私まだろくにプールに入ってない……」
俺の小馬鹿にしたような声と、莉子のか細く消えてしまいそうな呟きが重なる。千円払ってやったことと言えば、着替えと妹の相手、それと人探しだけであった。
「ごめんごめんっ、でも疲れちゃって……私が宗谷と莉子ちゃんの分のお金返すからさ! だから、お願い!」
「まぁどうせ泳げるスペースもないから俺はいいけど……」
「文香さんのお願いなら私もいいです。私的には、お話がゆっくり出来るならそれで」
「……僕ももう疲れたから賛成。というか、もうプールは懲り懲り……」
無事にプールから退却が決まった俺達は、それぞれ着替えて外で合流する。
何しに来たんだろう……、なんて野暮なことは言いたくはないが、どうしてもそういう感情は出てきてしまう。危うくギスギスオフラインになるところだったし、灯花じゃないけど混み合ってるプールは恐い。
文香、灯花、莉子と並んで会話に華を咲かせている後ろで、俺は金魚のフン如く歩いている。
早くも莉子は灯花と打ち解けていて、どうやら今は文香の話をしているようだった。
ふとそこで、今日の体験がラノベに活かせないかと考えてみる。
幼馴染とその友達とだけプールに行く予定だった主人公だったが、色々と逆らえない妹にバレてしまう。
その主人公はどうにかその妹を行かせないようにするために、幼馴染に連絡を取る。しかし結果といえば、逆に妹が来ることを歓迎されてしまった主人公は諦めてその妹を連れて行くことに。
「頼むから大人しくしていてくれよ!」と妹に頼むものの、その妹はどこ吹く風。しかも、当日になって今回いつもよりもっと親しくなろうと画策していた幼馴染に余計なことを言って、四人で来たにも関わらず別れる羽目に。
主人公の側に残った妹は不敵に笑う。その顔を見て行き場のない気持ちを無理やり自分の中に閉じ込めて帰ってしまう主人公――――
「これじゃ駄目じゃん……しかも莉子はそんな悪女じゃないしな」
「ん~? お兄ちゃん呼んだ?」
「いや、呼んでないよ。今日の体験をラノベに使えないかって考えてたんだ」
莉子以外のところではほぼ体験どおりだ。自分が体験したことを全て話に使えるっていう職業とかは珍しいと思う。
「宗谷、今書いている作品はどういう設定なの?」
「灯花に見せたあの作品と同じく、学校生活で恋愛するって設定だよ。メインヒロインは文香がモデル。それに嫌じゃなければ灯花や莉子を出したいと思ってるんだけど」
「名前は変える?」
「そりゃ勿論。でも頑張って似通わせるつもり」
「ならいい。それにしても、メインヒロインが文香なんだね」
「こいつの希望でな。厚かましい幼馴染でよ」
「そ、そりゃあ少しは厚かましいかなぁって思ったけど、そ、想像しやすいと思ったんだよ!」
ええ、想像しやすいです。ありがとうございます、文香様。
さて、灯花の許可を貰った俺は、脳内で灯花がモデルのキャラクターを動かしてみる。
最初は当然面識のないところから。
ある日の放課後、幼馴染の何気ない言動から出会うことになるサブヒロインの女の子。
その女の子は少しだけ個性が強く、あまり多く喋る子ではない。だけど、自分が言いたいことをはっきり言う子で、出会った初日から主人公や幼馴染を振り回す子だ。
次の日から幼馴染を通してではなく、お互いに一対一で話すことも多くなる二人。
だが、すっかり仲良くなってしまった二人に本命の幼馴染が嫉妬してしまい、ふとした口論で少しだけすれ違いになってしまう。
落ち込む主人公。その主人公を慰めるサブヒロイン。
メインヒロインである幼馴染がいない間に募っていく二人の関係性。
やがてサブヒロインが己の中にある主人公に対する気持ちを吐露するものの、主人公はそれをやんわりと拒否。
その去り際に見せた涙を流している彼女を見て何とも言えなくなる主人公。
けど翌日にはすっかり元通りのような彼女の表の姿を見て、心を痛める――――
「灯花、こう言っちゃなんだけどさ。作品での扱いは灯花の想像通りじゃないかもしれないんだぜ? それでもいいの?」
「別にいい。それに名前が違うならそれは別人。現実は現実。それに――――」
「それに?」
いちいち溜めたからには重要なことなのかと認識して、しっかり聞く体制に入る。
「僕の胸の大きさとか、僕の下着とかは宗谷が僕を見たとしても分からない」
「そ、そりゃあそうだろっ」
「でしょ? だからキャラクターがぴったり僕の容姿と同じになるわけない。つまり、大丈夫」
「同じ見た目、同じ……む、胸の大きさ、同じ下着じゃないからいいのか?」
「そう。ただ、宗谷がそこまで僕がモデルのキャラクターを極めたいって言うのなら、見せるのも吝かではない」
「い、いいいいいいよ! 別にそんなの……」
作品に出す許可を貰えただけで十分だ。それに付き合ってるわけじゃないし、そういうことはすべきではない。本当に好き合っている相手同士だったら、それこそ吝かではないのかもしれないが……。
「じゃ、じゃあ莉子もいいよな?」
「別に私はいいよ~あ、でも~」
「ん?」
「性悪女とか悪女設定とか止めてほしいかな~って。……もしかして意味同じだったかな?」
読まれていた……。だが、作品にそういうかき乱す役も必要なわけで……。
「絶対駄目か?」
「だ~め」
「あい……」
仕方ない。生憎俺は空想のキャラクターを作るのは得意だ。帰ったら一人作ろう。
「宗谷……もしかしてメインヒロインのモデルである私も、宗谷に下着とか胸の多きさとか教えなくちゃいけないの?」
「それは灯花の冗談だっただろ! 俺をそんな目で見るなよ」
興味が無いわけじゃない。勿論異性、女性に興味津々な俺は知りたいところではあった。が、ここでそれを聞いてしまったらそれこそギスギスオフラインの再開である。
「そう? ならいいんだけど……別に私は……」
「何か言ったか?」
「な、なんでもない!」
パタパタと文香は走っていってしまう。しかし、少し走った後に後ろを振り返って「早く~」なんて意味のないことをしているあたりが、俺の幼馴染らしかった。
「灯花、今日は文香の相手をしてくれてありがとうな」
「大丈夫。文香は少しアホだから扱いが楽」
「はは、それは本人に言わないでやってな」
素直すぎる文香の友達。だけど確実に良い子なのだ。
俺が灯花と会うきっかけになった文香にも、ありがとう、と呟いた。
ありがとうございます。




