利用券と私が~でよかったの?
続き。
「分かった。けどそのかわりに、あんたにも私の願いを聞いてもらうわよ!」
盟ちゃんの声が一際大きく感じた。
俺に願い? 何だろうか? もしかしたら「姉ちゃんから離れて!」とかだったりするのかもしれない。
しかし……、そう灯花は立派な友達であって、俺の作品の数少ない読者でもあるのだ。
みすみす取り逃がしたくはしたくないんだが……、果たして盟ちゃんの願いとは!
「願いって?」
「あ、あんたにこの灯花姉ちゃんの口調を直すのを手伝って欲しいのよ!」
「え? あ……そういう?」
良かった。ラノベの中じゃかき乱す役に抜擢しようとしていたが、現実までそうじゃ若干複雑なところだった。だが、
「それって直さなくちゃいけないことなのか? 確かに女の子なのに僕とか言ってる姿に最初こそ戸惑ったけどさ、今となっちゃそれが灯花っていうか……」
「そ、それは昔の灯花姉ちゃんを知らないからでしょうが! 昔の姉ちゃんはねぇ! それはもう見た目に合った喋り方で可愛くて!! ……可愛かったのよ」
「そうか……じゃあ灯花さんよ、一度やってみてくれないか?」
「ん、了解した」
一度聞いてみないといまいち実感が湧いてこない。どうせ本人がここにいるんだ、そうなったら聞いてみればいい話だった。
「それでは灯花さん、どうぞ」
「分かりましたわ! んっ……僕の昔の口調はこんな感じ」
「嘘だろ! しっかりと頼むっ」
「いや、本当。だよね? 盟」
「そうっ、これよ! 小さなお姫様って感じで素敵じゃない!?」
灯花が灯花ならその妹の盟ちゃんも盟ちゃんだ。どこかズレてる。
「じゃあ文香さんの感想をどうぞ!」
「わ、私!? ……い、今の口調でも昔の口調でも、どっちでも良いんじゃないかなぁ……?」
「逃げたな」「逃げた」「逃げましたね」
三人のその言葉に文香は「うぅ……」と唸りながら俯いてしまう。
片方を選ぶのではなくどっちも立てるというところが文香らしかった。
「じゃあラノベ内の灯花モデルのキャラクターはその口調にするか」
「それがいい。現実であの口調はもうしたくない」
「えぇ……それじゃあ私の願いが叶わないじゃないの!」
「なら今から別に考えれば? 俺だって一応利用させてもらってるわけなんだし、何もしないっていうのも微妙だしさ」
「別の? ……そうねぇ……」
自分でその提案をしておきながら「しまった」と後悔してももう遅い。盟ちゃんが俺に対してどう感じているかは分かっていないが、今度こそ「姉ちゃんから――――」と言われてもおかしくはない、かもしれなかった。
「宗谷さんの一日利用券? かしら」
「一日利用券? 俺を借りてどうすんだ?」
「お、お買い物とか? も、もちろん対等な立場としてではなく、荷物持ちとしてですけどね!」
「まぁそれくらいなら別にいいよ。けど、宗谷さんって盟ちゃんから言われると照れるね」
「あっ!? っ、い、一応年上の人に相応の態度を取ろうとしただけ!」
いいね、マジいいよ盟ちゃん。そのまんま作品に使っても違和感のないレベル。
おっとりでしっかり者の姉と、その姉に寄り着く毒虫達を排除するべく、少し臆病なところを隠して強気で接する妹。……灯花はおっとりじゃないし、多分盟ちゃんも臆病じゃないだろうけど。
しかしこう見てみると、しっかりとバランスの取れた姉妹である。俺と莉子じゃこうはいかないんじゃないだろうか?
「ん、じゃあ僕も宗谷利用券を利用する」
「わ、私も宗谷利用券を利用させてもらおうかな!」
「二人には日々お世話になってるからな、俺に出来ることなら何でもするから、何かあったら言ってくれ」
ただ今日のところは解散だ。俺と文香は神埼姉妹と別れて帰路につく。
「盟ちゃん可愛かったでしょ?」
「うーんまぁね。でも少し接し方が難しいところがあった感じかな」
「灯花ちんと比べたらどう?」
「灯花の方が楽だ。灯花も灯花でこっちを振り回すけどね」
そう言って俺と文香は少し笑った。文香も何かと苦労させられる側だからか、どちらかと言うとその笑い顔は苦笑に近い。
「なら……私は?」
「文香が相手ならってこと? 確かに気は楽だけどたまに暴走するし……唐突に俺を責めてくるし怒るしで、時々どうしたらいいか分からなくなる」
「何それ! 私が暴力女みたいじゃん!」
「え? 自覚なかったの?」
「その真顔やめてっ、えぇ……私ってそんな印象だったの……?」
文香はすっかり自分の世界に入り浸っているようで、俺のその後の話は聞いていないようだった。
……俺的には素直に助かった気分だ。幼馴染に面と向かってそんなクサいことを言ってる顔を見られてらと思うと、軽く死ねる。
「い、今更なんだけどさ、宗谷の作品の話なんだけど……」
「ん?」
「わ、私がメインヒロイン役のモデルで良かったの? ほ、ほら! 私ってあんまり個性が強くないっていうか……その、どこにでもいる女の子みたいな? え、いや、別に自惚れてるわけじゃないんだ……だけど、そういう主役級の女の子や男の子ってこう……他とは違う、みたいな感じじゃなくちゃいけないんじゃなかったっけ?」
なるほど。文香が言ってることは確かに世間から見たら正しいのかもしれない。
実際、発売されてるライトノベルやWEB小説などを見てみれば分かることだが、中々どうして現実感のある主人公やメインヒロインはいない。
特出した力を持っている、貴族、麗しい美貌とそれに伴ったスタイル……、などなど。語彙力が無いから詳しく説明出来るわけじゃないが、現実で仮にいたとしても、身近な存在じゃないことは確かだった。
じゃあ物凄く普通の主人公を書けば人気が出るか、と聞かれればそうではない。
物凄く共感は出来ると思う。その文面の端々から「分かるわー」とか「そうそう、そうなんだよ」とはなるかもしれないが、読み終わった後は「普通だったな」で終わりそうだ。
勿論それは作者の力量次第で容易に変わってくるので、一概には言えないが……、とにかく身近にそういう人や体験が無いからこそ、この画面の向こうや本の中に求めるのかもしれない。
つまり何が言いたいのかと言うと、それは世間での話であって、俺の作品には当てはまらないということだった。……最初に結論を出す、それが重要だったことを忘れていたが、それもまた俺の作品には当てはまらないってことだ。
「いいんだよこれで。どうせ俺達しか読まないんだから。だったら現実感が湧くこのスタイルの方がいいだろ? 読んだ時「あ~こんなこと言ってたな~」ってなるのがいいんじゃないか」
「そ、宗谷がいいなら私的にはいいんだけど……少し不安になっちゃってさ。灯花ちんや盟ちゃんを見てると、私って個性が弱いっていう感じがして」
「そうか? ……まぁ文香には立派な幼馴染っていう肩書があるんだから気にすんなよ。主人公を起こしに来る、それだけでも立派なメインヒロインなんだぜ? それにさ、個性って自分で気にすることじゃないと俺は思うんだよな」
個性なんて言ったら俺なんて何も無いぞ。大体、個性って何だよ……、個性個性言ってた割にはそこら辺りがあやふやだった。
恐らく外国から来た外国人さんの方がしっかりと日本語の意味を理解していると思う。日本人は昔から日本後に触れてきて、と言うよりも、聞いていただけの言葉の方が多かったから。
……真面目に勉強している方とかには申し訳ないが、少なくても自分はそうだった。
「宗谷と幼馴染の関係で良かった」
「俺もだよ」
そのおかげで俺は一人にならずに済んだのだから。
文香がどういう思いでそう言ったのかは分からないが、少なくても俺にとっては大切な存在だった。
ありがとうございます。




