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戦争理由 3

「和平だと……」


 プーは目の前の異形の言葉に思わず口を開いた。

 和平などは戦争において、当事者の全てが戦争継続に国益を見いだせなくなった場合に生じる、いわば落としどころを探すためのものだ。確かに、戦争が始まっていくらか月日が過ぎたが、それでも、互いの戦力や指揮が衰えるまでには至っていない。何より、戦争を仕掛けられた側がこうも早期に和睦を提案してくるなどあるのだろうか。

 だが、考えがめぐる前に、目の前の異形は言葉を紡ぐ。

 

「どうやら大使殿は困惑されていらっしゃる。無理のないことです。ですが、我々としてはこれ以上の戦争は望むところではありません。我々の目的は今後とも平穏な生活を続ける、ただ一つだけなのです。現状において我々の損害は軽微であり、和平を行うにあたっての障害は多くはないと考えております」


「戦争を望まぬと言ったが、それは第六大陸側の理由であって、我が国が戦争を終わらせる理由にはならないと思うが。そもそも、我々五大国は第六大陸を攻めているとは考えていない。我々は『未だ誰も手付かずの土地』を我先にと占領しようとしているに過ぎない。貴様らの存在は認識しているが、それは些末な問題であり、考慮などしていない」


 そう言って、彼は煙草の煙を吐き出した。

 煙は漂い、メゲゴゼと名乗る異形の周りをしつこく這いまわる。


「存じております。五大国側が持つ我々に対する認識も、この戦争がどのような理由で起こったものなのかも。そして……」


――大使の国の事情も。


 最後の言葉に、彼の眉が歪む。


「私の国の、事情だと……。貴様、あまり調子に乗るなよ。異形の魔物ごとき、すぐにでも消炭にできるのだぞ」


 キィン、という小さな音と共に、空気が、熱を帯びる。

 その瞬間、漂う紫煙が意思でも持ったかの如く、ピタリと、動かなくなった。


 宙に浮く水の塊がわずかに震え、そして静寂が訪れた。


「—―失礼いたしました、大使。非礼をお詫びいたします」


 その言葉に満足したのか、彼は煙草を灰皿に落とした。

 煙が再び動き始める。今度は先ほどよりもいやらしく、蛇が絡むかのように。



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