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戦争理由2

 瞬間、男の脳内に電流が走った―――。

 部屋には自分しかおらず、隠れられるところもないはずであるのに、誰かいる。

 その確信が男にはあった。


「面白い意見だな」


 ギシリと、男はソファーに腰掛ける。煙草に火をつけ、軽く吸い、吐く。

 窓から差し込む月明りが、ユラユラと漂う紫煙を照らし、男の周りに消えることなく在り続ける。


「確かに、第六大陸の戦力は五大国全軍と比べても遜色ないと思える。戦略的に考えれば五大国からは第六大陸を攻め込むには広大な海を渡る必要があるので補給が著しく制限され、その上、海中から大きな邪魔が入るため、艦隊の運用も単なる輸送任務ではなく、しっかりとした防御態勢を取る必要が生じる。侵攻は困難を極めるだろう」


「それはありがたい。いろいろと使える時間が増えることは良いことですからね」


 男以外に誰もいないはずの部屋に、別の誰かの声が響く。


「だが、体制さえ整えられれば大蛸の存在など取るに足りない。水中戦などはどこの国も行ってこなかったが、対応をが不可能というものではない。魔法による索敵範囲を海中まで広げ、早期発見に務めれば対処はいくらでも可能だ」


「そうですか、それは困りものです」


 男の放ったこの言葉は嘘であった。

 海底に偽装された大蛸を魔法によって見分けるのは難しく、水中戦の経験など皆無であるため、対応には相応の時間と労力が必要になる。現状としては対処が難しく、今後敵の大蛸と遭遇した場合、補給艦を最低でも一隻は犠牲にする必要があるとの報告が参謀本部から出されていた。そしてこの報告を、彼は一時間前に受けたばかりであった。


 わずかに汗がにじむ。

 軍に席を置いてから十数年。自国の領土内の自分の私室で、敵の刺客と相対する経験など、普通はないことだろう。


――目的は暗殺か、拉致か。それとも……。


 状況を正しく認識するだけの時間も情報ないまま、彼は未だに姿を現さない敵に問いかける。


「君は先ほど第六大陸と我が国とで手を組むと言ったか? だが、それを行う意味が我が国にあると思うかね。我がジーリック連邦は他国との協力を欲しているほど、弱い国ではない」


 そう言って男はまた、煙草を吸う。チリチリと赤い光を強めながら燃える煙草は、彼の心を表しているかのようである。


「さて、そろそろ姿を見せたらどだね。私だけが姿を晒すのは不公平だ。なにより……」


 男が言い終わるその前に、目の前に『何か』が現れた。


「失礼しました。ジーリック連邦政府アスカロン・プー特命全権大使」


 彼の目の前に現れたのは、人とも、魔物とも、神とも呼べぬ、極めて異形なものだった。


「私、第六大陸から大使との交渉で参りました。メゲゴゼと申します」


 それは、宙に浮く水の塊だった。


「和睦と安全保障についてお話したくございます」

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