⑨ 次の目的地は……
「きゃっ!」
雪子はうかつにも、久しぶりに少女のような声を出してしまった。
彼女の見た目は、相変わらずの女子高生だが、実年齢は30歳に届くのだ。
「どうしました雪子さん?うわっ!」
つられて後ろを見たサン・ジェルマンまで、変な声を出してしまった。
彼の見た目は永遠の35歳。実年齢は……本人にももう分からない。
ここのところ、メジェドの行動は、ますます神出鬼没になって来た。
もうそこに香子が居なくても、自由に現れるようになっていたのだった。
多分彼が本格的に、皆をファミリーと認識した事の表れだろう。
そう理解していても、こんな暗がりで、白い布を頭からスッポリと被った彼に突然出くわすと、やはり誰しもギョッとするものである。それは例え、歴戦の勇者たる二人であっても、例外では無かった。
(ひょっとして、悪戯心から、ワザとやっているのか?)
伯爵はふと、そんな風に疑ってみたりした。
「いやだ、もう、びっくりさせないでよね!」
雪子がそんな感じに声を掛けても、メジェドは当然無言だった。
(この子、もう少し愛想が有れば、見ようによっては可愛いのに……。)
彼女は、そんなことを思ったりもした。
「……じゃあ、行きましょうか?」
どちらからともなくそう言って、二人は、メジェドに構わず出発する事にした。
雪子が、今回の目的地の座標を、以下のようにセンターコンソールパネルに入力する。
西暦1948年12月01日
時刻05時00分
南緯35度00分
東経138度31分
彼女はクルマを地下駐車場から出し、いつものように光学迷彩を掛けて垂直上昇させ、時空転移装置のスイッチを入れた。
「これから向かうのは、南オーストラリア州アデレード近郊の、ソマートン・パーク海岸よ。」雪子がそう言うと、サン・ジェルマンは、「ああ、例のタマム・シュッド事件ですね?」と、すぐに調査対象を言い当てた。
「さすが、伯爵。やっぱり目をつけていたんですね?」
「タマム・シュッド(終わった)と、ペルシャ語で書かれた本のページの切れ端を、ズボンの隠しポケットに忍ばせて、死んでいた謎の男の事件ですよね?この時刻に合わせたという事は、生前の彼に会うつもりなんですね?」
「そうよ。私の予想が間違っていなければ、そこで歯ごたえの有る敵に、出会えそうなの。」
「……雪子さん、そういうの、お好きですよねえ?」
「イヤな言い方しないでよ。私を何だと思ってるの?」
「……超時空の魔女。」
「もう、その名は返上したい気分だわ。身内に私なんかより遥かに凄い、バケモノが多すぎるんだもの。恥ずかしいったらありゃしない。」




