⑩ タマム・シュッド事件
二人でそんな事を言い合っている内に、ビートルは現場に到着した。
そこには、朝焼けの光の中で、海岸の護岸堤防にもたれて座り込んだ、一人の中年男性が居るのが見えた。
1時間半後には、ここで遺体で発見される人物だ。
雪子は、ビートルを海岸に着陸させると、伯爵とともに、徒歩でその男に近づいて行った。
近づくにつれて、男の特徴がはっきりして来た。
身長は180㎝程か。
肩幅は広く、腹回りは意外にも引き締まっている。
年齢は40歳~45歳といったところか?
頭髪は赤毛に近い金髪。瞳は黄土色。
見たところイギリス人か?疲れ切っているようだ。
火の点いていない、煙草を口に咥えている。
身に着けているモノは、白いシャツに、赤・白・青の縞模様のネクタイ。
灰色と茶色のダブルのブレストコート。
茶色のズボンと先の尖った革靴。
髭はキレイに剃られており、帽子は被っていない。
当時としては珍しい事である。
ひょっとして、この時空のニンゲンではないのか?
ふと、そんな疑惑が雪子の頭をよぎる。
後々の警察の調べによると、身元を推測できるようなモノは、その他に何一つ身に着けていなかった事も、分かっている。
※ ここからの会話は、全て英語でなされています。しかし、作者の都合で日本語表記になる事をご容赦ください。
その男が、近づいてくる二人に目を向けて、弱々しく声を発した。
「ああ、やっと来てくれたのか。待ちくたびれたぞ。」
その言葉に対して、サン・ジェルマンが代表で返事をした。
「我々は貴方の事を存じ上げませんが……大丈夫ですか?」
「私の事は気にするな。少々疲れているだけだ。そんな事よりそこのキミ、手を出したまえ。」
伯爵は少しだけ躊躇したが、やがて観念して、その男に向かって手を出した。
すると件の男は、ポケットから何かを取り出し、ソレを伯爵に握らせて、こう言った。「後の事は任せたぞ。」そして男は、そのまま息を引き取ってしまったのだ。
やがて男の頭の上に、黒いモヤモヤしたモノが現れ、同時に空中に、ポッカリと穴のようなモノが出現した。
ただ、いつもと違うのは、黒いモヤモヤが、たった一人の人物から、10個程出て来た事だった。いけない!悪質な四次元人が逃げてしまう!雪子がそう思った時だった。
それまでずっと、雪子の後ろに隠れていたメジェドが、二人の前にサッと現れ、 その目からビーム光線を放ったのだ。ソレはまさに一瞬の出来事だった。
その場に有った黒いモヤモヤも、時空のポータルの穴も、アッと言う間に、全てすっかり分解されて無くなってしまったのだった。




