⑪ 託された遺志
たった今、目の前で死んでしまった男から託されたモノ。
ソレはC-typeの、USBデータ用スティックだった。
この時空では勿論の事、雪子たちにとってもオーバーテクノロジーなモノだ。
しかし、こんな事も有ろうかと、サン・ジェルマンは、未来から様々な技術を拝借していたのである。無論、ソレを読み取れるハードも持っていた。
「雪子さん、もうすぐ第一発見者が来ます。クルマに戻りましょう。」伯爵に言われるままに、彼女も急いでビートルのところに向かった。
二人がそれぞれ座席に着くと、ちょうど目の前に、この事件の目撃者が現れるところだった。
ソレは乗馬練習中の二人組だった。最初は馬上から倒れている男を見かけて声をかけ、次いで、一人が馬から降りて、直接確認する……やがて二人とも慌て出した。一人がその場に残り、もう一人が馬に乗って当局に通報に向かったようだ。
この後は、史実通りに事が運ぶのだろう。
兎に角、彼の身元を確定する、決め手になる証拠が何も無く、この変死事件は迷宮入りの筈だった。何しろ、衣服のタグまで、全て切り取られていたらしい。
恐らく彼は、自分がコレとキメた相手以外に、身元を明かす気は無かったのだろう。ソレはまるで、何処かのスパイのような振る舞いだった。
光学迷彩のおかげで、コチラが見つかる心配は無いので、伯爵は、ビートルのセンターコンソールパネルの下に、そのUSBスティックを差し込み、早速データのダウンロードを開始した。
やがてモニター画面に、以下のような文章が映し出された。
私は"悪魔ハンター"である。
"悪魔"とはヒトの魂を乗っ取り、その精神エネルギーを食い物にする存在である。
ソレは、最初の宿主が衰弱すると、次の宿主へと乗り移る、タチの悪いモノたちである。
私のチカラは、他人のカラダから、悪魔成分のみを吸い取るモノである。
しかし、10体程吸い取ったところで、私の精神エネルギーも限界に至った。
ポータルを使って、出来るだけ他人に出逢わないように、街中から外れた場所まで来たが、そろそろ限界のようだ。
私が死ぬ時、吸収した悪魔たちが、私のカラダから出る。
それを滅するチカラのある者に、 一刻も早く会わなくては……ソレが私の最後の願いだ。
ソレは、署名すらない告白の文章だった。
何の知識も無い者が見たら、妄想か戯言としてしか受け取られない事だろう。
だが、伯爵と雪子には、今日までの彼の、人知れず身を粉にした活動の意味が、良く解ったのである。




