㉚ アビアコ航空502便
「この日、いつものようにシュド・カラベル10-R機は、バレンシア空港からビルバオ空港までのルートを、飛行していました。」
伯爵の事情説明が始まった。
「パイロットは、1万1500時間以上の飛行経験を持つベテラン機長、カルロス・ガルシア・ベルムデスでした。目的地のビルバオ空港に接近した時には、視界不良だったため、管制塔から進路変更の指示が出されました。代替目的地は100km程離れたサンタンデール空港でした。それは15分で行ける距離だったので、問題ありませんでした。まあ当時こういう事は、よく有ったらしいでのす。」
その時、ちょうど黒いビートルは、目的地の時空に出た。
正に目の前を、アビアコ航空502便が飛んでいた。
「それで……どうなったんですか?」
続きが気になった弓子が尋ねる。
「ここはビルバオ空港から、35km程飛んだ地点です。そこで、アレに遭遇します。」
伯爵がアレと言って指差したモノに、雪村と弓子は注目した。
ソレはレンズ雲だった。ただし、通常より遥かに巨大で、何故か雲そのものが光り輝いて見える。見るからにヤバイ物体だ。しかし、件の機体は迷うことなく、その雲の中に突入して行ったのだ。
「我々も、後を追いましょう。」
伯爵はそう言うと、後席の二人の返事を待たずに、ビートルで雲に突っ込んで行った。
雲の中には一見、何も見当たらなかった。これがスタジオジブリのアニメなら、龍の巣の中に"天空の城"を見つける下りだろう。いや、目を凝らしてよく観察すると、その機体の行く手に、円く口を開けた光り輝くポータルが見えて来た。
いけない!このままではアビアコ機が飲み込まれてしまう。ビートルに乗った誰もがそう思った時だった。航空機とポータルの間に小さな白い何かが現れ、ソイツがポータルに向けて、何かしらの光線のようなモノを発射したのだ。するともともと輝いていた円いモノが、さらに明るい光線に包まれ、やがて消えて行った。それと同時に、あれほど大きかったレンズ雲も消えてしまったのである。
まるで何事も無かったかのように、すっかり快晴になった空を、その小さな白い何かが、アビアコ機の真上を通過して、フワフワこちらへやって来る。
ソレは、白い布を頭の上からスッポリと被った小柄な神、メジェドだった。
メジェドはビートルのフロントガラスをすり抜け、助手席にチョコンと座って、"終わったぞ"とでも言いたげに、運転席のサン・ジェルマンの顔を見たのだった。




