㉙ 航空機を救え
それは1995年6月15日の木曜日。時刻は10時30分ごろの事だった。
真田雪村は久しぶりに妻の弓子を連れて、名護屋テレビ塔の亜空間レストランに来ていた。二人で窓際の席を選び、眼下の久屋大通公園の緑を眺めながら、ゆっくりと、モーニングセットのコーヒーを楽しんでいた。
しかし、そんな穏やかな静寂を破るように、地下から上がって来たエレベーターのドアが開き、このサロンの主こと、サン・ジェルマン伯爵が出て来た。
「ああ、ちょうど良かった。」
彼は呟きながら。二人のテーブルに近寄って来る。
弓子は露骨にイヤな顔をした。
相手の悪意や敵意や殺意を掴み取るのに特化した、彼女の弱いテレパシー能力でも、伯爵に悪気は無くても、何らかの下心あるのが見て取れたからだ。
「何ですか?せっかくの二人の時間を、邪魔しないで下さい。」
伯爵がそれ以上何かを言う前に、思わずつっかかる弓子。
「ああ、弓子さん申し訳ない。ちょっとした人助けのために、少しだけ雪村君のチカラをお借りしたいのですが……?」
「やっぱり。そんな事だろうと思ったわ。どうする?雪村。」
「……それは、どのような案件ですか?」
「航空機の消失を阻止するんです。マレーシア航空機は救えませんでしたが、今回は、史実として、助けてもOKな案件なのです。空に出来たポータルを塞ぐだけですから、さほど危険は無い筈です。」
「……分かりました。弓子も一緒でいいなら。そうだよね?」
「ええ、まあ、彼と一緒に行けるなら。」彼女は渋々承諾した。
(まあ、空のデートだと思えばいいか。)そう思う事にした。
「よし、決まりですね。早速私の黒いビートルで行きましょう。」
伯爵はいそいそと、二人の手を取らんばかりの勢いで、エレベーターに乗って、地下駐車場に向かった。
クルマの後席に雪村と弓子を乗せると、サン・ジェルマンは運転席に収まり、センターコンソールパネルに、以下のように目的地の座標を入力した。
西暦1978年1月31日
時刻15時00分
北緯42度50分
西経02度41分
そして彼は、地下駐車場からクルマを出し、光学迷彩を掛けて垂直上昇させ、時空転移装置のスイッチを入れた。
「今から我々は、スペインのアビアコ航空機502便を、レスキューしに行きます。」
クルマを操縦しながら、伯爵が言った。
「どんな事件なんですか?」
雪村が後席から尋ねる。




