㉘ 怪獣とメジェド
やがて南極ゴジラは泳ぐ速度を上げて、黄色いビートルから離れて行った。水中ですっかり見失ってしまったかと思ったその時、その怪獣がコチラに戻って来るのが見えた。しかも大きく口を開けている。マズイ事に、このクルマを獲物と認識したようだ。
「確かこの辺に、迎撃用の魚雷スイッチが……。」
などと言いながら、成雪がアタフタした時、どうやって車外に出たのか不明だが、メジェドが怪獣とビートルの間に割って入った。
そして尚も近づいて来る怪獣に向かって、彼が火球を発射したのだ……しかも、水中で!その火球は見事に怪獣の口の中に命中し、ショックを受けたソイツは、慌てて逃げて行ったのである。
次の瞬間にはもう、メジェドはビートルの後席に戻っていた。しかも不思議な事に、小柄なその身体を覆う白い布は、少しも濡れていないのだった。
「えっ?今のは一体どういう……?」
呟きながらカグヤが振り返るが、当のメジェドは涼しい顔をしていた……ような気がした。
まったくいつもながら、人智を超えた振る舞いだ。もしかしたら、神々の中でも、最強クラスなのではないか。彼女には、そんな風に思えてならなかった。
それに先程の攻撃は、明らかに手加減していた。恐らくあの程度の怪獣など、眼からビームを放てば一撃で倒せる相手だったはず。それを敢えて、小さな火球を撃って怯ませたチカラの微調整。無駄な殺生はしないという事か。どうやら小技も効かせられるようだ。
「……ところで成雪。」
「はい。何ですか?カグヤ。」
「貴方の目的は、あの南極ゴジラだったのね?」
「はい。実はボク、ゴジラの大ファンで……もしもホンモノが居るなら、是非見てみたいと思ってたんです。」
成雪はニコニコしながらそう言った。
それを聞いたカグヤは少し呆れた。
「そんな無邪気な理由で……まあ、いいわ。で、満足したのかしら?」
「はい。お陰様で。ありがとうございます。」
運転席の彼はペコリと頭を下げた。
「メジェド君も、危ないところを助けてくれてありがとう。」
成雪は律儀に、後席に向かって再度頭を下げた。
メジェドは少し照れている……ように見えた。
「でも、アレはまるで、大きなウミイグアナでしたね。」
「大方この近辺で、どこかの大国が、水爆実験でもやったんでしょうよ。その影響の突然変異で、巨大化したんじゃないかな。」
「冷たい海水に適応するために、羽毛までボーボーに生えちゃって……何だか可哀そうでしたね。一応、伯爵にも報告しなくちゃですね?」
「そうね。まあとにかく、メジェド君が手加減したって事は、アレが悪魔ではないらしいから良かったわ。」
カグヤは取り敢えず何処かホッとした気分だった。
こうして、二人のニンゲンと一柱の神様が乗った黄色いワーゲンビートルは、無事に名護屋テレビ塔の地下駐車場を目指して、帰路に就いたのである。




