㉗ 南極ゴジラ
その日、南極観測船"宗谷"は、南極大陸の東部、リュッツォ・ホルム湾の付近を航行中であった。スクリュウを破損したため、アメリカ沿岸警備隊の砕氷艦バートン・アイランドに先導してもらいながら、ゆっくりと氷の海の中を進んでいた。既に夜になっていたが、白夜のため、まだまだ辺りは明るかった。
船橋には、船長・航海士・機関長・総舵手らが居た。皆、海に詳しいスペシャリスト。航海のベテランだ。だから、何かを見間違うなどという事は、まず無いメンバーであった。そんな彼らが、おかしなモノを見かけたのだ。
最初にソレが現れたのは、宗谷の前方300m程の海面だった。何かしらの黒い物体が浮いているのが見えたので、先行するバートン・アイランドが投棄したドラム缶かと思われた。しかし徐々にソレに近づき、皆でよく観察すると、ソレは生物の頭だった。
ソイツは顔を宗谷の方に向けており、眼や尖った耳、身体全体に生えた焦げ茶色の毛が判別出来た。どちらかと言えば牛に似た顔で、頭の長さは70~80cmはありそうに見えた。その後ろに続く背中は、長さが最低でも15m以上有り、ノコギリの刃のような形のヒレが縦に並んでいたのである。
ソレはおよそ30秒間程見えていたが、機関長がカメラを取りに行っている間に、氷海に潜ってしまった。しばらくして、皆、我に返ると、今見たモノについて、口々に自説を言い合い、船橋内は大騒ぎになった。
「ゴジラだ……あれはまるで、南極のゴジラみたいだ。」思わず船長が呟いた。
その一部始終を、上空を飛ぶ黄色いビートルの中から、成雪とカグヤは観察していた。もちろん光学迷彩は透明モードのままだから、見つかる心配は無い。
「追いかけましょう。」
成雪はそう言うと、カグヤの返事も待たず、迷わずビートルで、冷たい海の中に突っ込んだ。このクルマは特別仕様で、水深100mまでなら、水圧に耐えられる設計なのだ。
幸いな事に、件の怪獣はそう深くは潜っておらず、すぐ前方の水中を悠々と泳いでいた。毛の生えた巨体を、左右にくねらせている。その泳法は、哺乳類よりも爬虫類寄りだった。まるで大きなイグアナだ。ただし、イグアナはこんなに巨大ではないし、全身に毛は生えていない。
そんな感想を抱きながら、フロントウインドウを凝視する成雪とカグヤの間から、ニュッと顔を出したモノが居た。ソレは、毎度お馴染みとなった小柄な神様、メジェドだった。
「わあっ!?」お約束の驚きを見せる二人。
メジェドはしれっとしている。そして彼は真剣に前方の怪獣に注目していた。




