㉕ 私たちのスタンス
クルマを移動させて、上空から発信機の信号を追跡すると、すぐ近くの森の中に反応が有った。そこで由理子は、モニターを赤外線モードに切り替える。
森の中央付近に、5個の生体反応が出ていた。家族のようだ。
「……つまりチュパカブラは、生殖能力が有るって事ね?」
それを確認した京子が、由理子に同意を求める。
由理子も頷いた。
「多分アレは、人為的かそうでないかは別にして、何らかの生き物の、突然変異体のようです。家畜が襲われるのは、確かに迷惑だけど……悪魔でもない訳だから、私たちの討伐対象ではありませんね。」
「それで、メジェド君も見逃してあげたのね?」
京子が、後席を振り返ると、メジェドも頷いた……ように見えた。
「じゃあ、帰りましょうか?」
由理子が意外な程あっさりと、京子にそう言った。
京子にも異議は無かった。
帰りの時空転位中に、由理子が京子に語る。
「チュパカブラの心の中は、家族への心配の気持ちや愛情で、いっぱいでした。」
「……そうなんだ。」
「アレはそのために、家畜を襲っていたのです。地域住民からしたら、確かに害獣ですが、私たちとしては、これ以上、関わる事は出来ませんよね?」
「そうね。どんな生物にも、生きる権利が有るものね?……だからと言って、悪魔たちがニンゲンの魂を食う行為は、許せないけど。この三次元世界での生き方としては、それを認める訳には行かないわ。」
京子は厳しい表情でそう言った。
「メジェドも"そう思う"って言ってますよ。」
由理子がそう言ったので、京子が後席を振り返ると、白い小柄な神様は、ジッとこちらを見つめ返していた。京子も見つめ返してみる。
「……う〜ん、やっぱり私に、テレパシーは無理だわあ。」
弱音を吐く京子。
「お姉様は、そんなの無くてもイイんですよ。だって、あんな素敵な雪女のチカラを、持っているんですから。」
そんな事を言う由理子。
「そう言えば最近、チカラを使わない事が増えたわね。何だか肩透かしを食らうような案件が多くて……少し物足りないかも。」
京子がふと、そんな事を言う。
「イイんじゃないですか?だって、平和が一番ですから。」
運転席の由理子が、そう言って笑った。
「さあ、帰ったら伯爵と鷹志に、報告しなくっちゃ。"チュパカブラは悪魔ではありませんでした。メジェド君もスルーしました"ってね?」
由理子はそう言うと、赤いビートルのハンドルを握り直した。




