㉒ 京子と由理子
1995年2月15日の水曜日。時刻は午後3時を回った頃。
名護屋テレビ塔の亜空間レストランで、村田京子と由理子が、同じテーブルについて、ティータイムを過ごしていた。
少し離れたテーブルでは、サン・ジェルマンと杉浦鷹志が、先月起きた阪神・淡路大震災の被害を踏まえて、来たるべき東南海地震に備えるために、何やらヒソヒソ話し合っている。
大方、以前、安倍晴明から学んだ結界術か、或いは何かしらの、物理的な対策についてのアイデアの交換でも、しているのだろう。
「あ〜あ。お互い、パートナーが研究熱心だと、ヒマよねえ?」
京子が由理子に話し掛ける。アッチのテーブルに聞こえるように、大声だ。
「そうですねえ……そうだ、今から二人で、どこかへ出かけましょうか?」
「あら、良いわね、賛成!どこにする?」
少しテンションの上がる京子。
「私の気になる案件に、付き合ってもらってもイイですか?」
「いいわよ。面白い生き物が居る所なんでしょ?」
「……まあ、そうなんですけど。そのビジュアルがちょっと、悪魔っぽいので、鷹志を誘いにくいんです。」
「いいわ。私はそういうの平気だから、むしろウェルカムよ?……行きましょう!」
「やったあ!嬉しいです。」
じゃあ、二人でちょっと出かけるから。そう言って伯爵と鷹志に手を振り、彼女たちはエレベーターに乗った。地下駐車場に着くと、由理子が赤いビートルに乗り込む。京子も助手席に収まった。
由理子は念のために、後席を振り返った。今のところ、誰も居ない。しかし、メジェドはいつ現れるかの分からない。心の準備はしておく事にした。
「メジェドの事を気にしているのね?」
その様子を見ていた京子が言った。
「はい……いつも急に現れて、ドキドキさせられるので。」
「悪い子じゃないのよね……もう少し、コミュニケーションを取れるといいのにねえ?」京子も同感だった。
「さあ、準備しますね。」
由理子が気を取り直して、センターコンソールパネルに座標を入力した。
西暦1995年2月15日
時刻15時00分
北緯18度22分
西経65度53分
「あら、日付は今日のままなのね?」
京子が不思議そうに言う。確かにこのままなら、タイムマシンと言うよりも、単なるスピードの速い、航空機のような使い方になる。
「入りたてホヤホヤの、ホットな情報なんです。」
得意げに由理子がそう言った。
「じゃあ、出発しますね?」
由理子はクルマを地下駐車場から出すと、いつものように光学迷彩を掛けて垂直上昇させ、時空転移装置のスイッチを入れた。
目指すは、カリブ海に浮かぶ島。
プエルトリコ北東部の村、カノバナスだ。




