② 見える者、見えざる者
香子が、自分のクラスの黒板の前に立った時、ソレが隣に現れた事もあった。
その時も、クラスの児童たちの中には、誰一人、騒いだり指を差したりする者は居なかった。
やはり彼等にも、ソレが見えていないようだった。
ソレはモノ珍しそうに、いつも児童たちの事を眺めていた。
調理室で、家庭科の授業をしていた時も。
理科室で、実験をしていた時も。
音楽室で、歌っていた時も。
体育館で、スポーツテストをしていた時も。
運動場で、ドッジボールをしていた時も。
プールで、泳いでいた時も。
保健室で、身体測定をしていた時も。
……ただいつも黙ってそこに居て、ソレは眺めていた。
後でサン・ジェルマンに訊いたところ、多分ソレは、香子の事を、見守っているつもりだったのだろう、という事だった。
キモ可愛い、押かけ守護神という訳だ。
ソレの正式な名称は、メジェドというのだそうだ。
香子は一度だけ、メジェドを叱った事があった。
あれは確か、国語の授業中だった。
彼女が、子どもたちに背を向けて黒板に文章を書いている時に、男子児童の一人が、イタズラで紙を丸めて投げたのだった。
それが彼女の背中に当たる寸前に、彼女の隣に居たメジェドが眼から光線を出して、一瞬で灰にしてしまったのだった。ジュッと音がした。
それを気配で察した香子は、メジェドにその場で注意をした。
「今のはダメよ。危ないわ。子どもたちに当たったらどうするの?もうここでは、同じ事を二度としないでちょうだい。良いわね?」
メジェドはしょんぼりしている……ように見えた。
まあ、実際には顔色は窺えないのだ。
そしてその様子を見ていた児童たちには、香子が、何も居ない空間に向かって、説教をしているように見えた事だろう。少しばかりザワザワした。
彼女はその場を誤魔化すのが大変だったのを覚えている。
誰よりも、イタズラした男子本人が、一番目を丸くして驚いていたのだが……何が起こったのかは、多分、理解出来なかった事だろう。
そんな事が色々有った後の、1994年3月27日の日曜日。
時刻は午前10時を回った頃。
真田香子は久しぶりに、名護屋テレビ塔の亜空間レストランにやって来た。
そこにはこれまた久しぶりに、サン・ジェルマン伯爵のチームの、オールスターキャストが集まっていた。
真田雪村、弓子、杉浦鷹志、由理子、村田京子、カグヤ・イシュタル、成雪、ジャンヌ・ダルク、それにサン・ジェルマン本人と、何故かフルカネルリ卿まで居た。




