⑲ フィラデルフィアエクスペリメント
「ところで、今日はどちらへ訪問するんですか?」
秘密にされているので、恐る恐る尋ねる鷹志。
「それは……お楽しみにという事で。安心したまえ。キミの嫌いな悪魔は出ないところだよ。」
ニコラ・テスラはそう言った。
「……でも、ある意味、悪魔よりも恐ろしいモノを、見る事になるかもね。」
運転席のサン・ジェルマンが、不気味な事をつけ加えて言った。
そして彼は、クルマを地下駐車場から出すと、いつものように光学迷彩を掛けて、五月晴れの空に、垂直上昇させた。
後席の鷹志が、センターコンソールパネルを覗き込むと、既に以下のような座標が入力されていた。
西暦1943年10月28日
時刻17時15分
北緯39度53分
西経75度10分
「あっ!」見た瞬間に、その座標が意味するモノを理解した鷹志は、思わず声を出してしまった。
「それでは参りましょうか。」
伯爵はそう言って、時空転移装置のスイッチを入れた。
時空転移終了とともに出た先は、とある海軍造船所に面した川の上空だった。眼下に、真新しい軍艦が浮いているのが見える。
「到着しましたよ。鷹志君。」運転席の伯爵がそう言った。
「ここは……アメリカ合衆国ペンシルベニア州の、フィラデルフィア海軍造船所ですね?そしてアレはきっと……護衛駆逐艦エルドリッジなんだ!」
鷹志は呟いた。
「ご名答。流石は鷹志君だね。」
助手席のテスラが、静かにそう言った。
「今から、例の実験が行われるのですね?しかも貴方抜きで。」
鷹志が重ねて行った。
「そうです。私抜きで……私はこの実験のリスクを訴えたのですが、その結果、計画のメンバーから外されました。」
「そして史実では、失意のままホテルで病死した事にされ……実際には、残された全ての資料を持ち逃げされて、暗殺されるはずだった。」
伯爵がつけ加えた。
「でも、伯爵が助けに来てくれた……黄色いワンピースを着たお嬢さんと、一緒にね。」
ニッコリ笑って、テスラがそう言った。
(それは多分、京子さんのことなんだな。)
鷹志には、すぐに分かった。
「……さあ、昔話はそれぐらいにして、注目しましょう。いよいよ始まりますよ。」
サン・ジェルマンが二人に声を掛ける。
三人が上空から見ていると、ブーンという鈍い音と共に、眼下のキャノン級の軍艦が、徐々に緑色の光に包まれて行く。そして光は黄色くなり、最後には眩しい白い光になったかと思うと、中の軍艦ごとパッと消えてしまったのだ。




