⑯ モケーレ・ムベンベ
「やっぱり、大型草食恐竜は、可愛いわよねえ。」
運転席の由理子がしみじみと言った。
ちょうどその時、「ブモーッ」としか表現出来ないような大きな声で、その竜脚類が鳴いた。まるで牛みたいだな。鷹志は思った。
岸辺を見ると、当然のように、先程のカメラマンが、必死な様子で、ビデオカメラを向けていた。そりゃあそうだろう。コレは、一世一代の大スクープなのだ。でも、アレ?おかしいぞ。僕は今までに、モケーレ・ムベンベ発見のニュースを、聞いた事が無い……。
鷹志がそんな事を考えていると、隣の由理子が、何やらゴソゴソ、運転席周りのスイッチを押している。するとビートルの、フロントトランクのフタが少し開いて、中から細長い、銃口のようなモノが現れた。
コンソール付近には、操縦桿のような形をした、何かの発射スイッチのようなモノが現れ、スピードメーターの上に、ヘッドアップディスプレイ型の照準器まで現れた。彼女は明らかに、今から何かしらの武器を使おうとしているようだ。
「ユリちゃん、一体何を……?」
鷹志が何か言いかけたその時、またモケーレ・ムベンベが「ブモーッ」と一声鳴いて、その首を水中に沈めてしまった。一部始終を撮り終えたカメラクルーたちが、機材の点検を始める。そこには、スチルカメラのメンバーも居るようだった。
由理子がおもむろに、空中でホバリング中のビートルの向きを調整し、銃口を地上の探検隊に向ける。そして、照準が安定すると、何かの発射スイッチを押した。
別に目に見えるモノは、何も発射されなかった。しかし、思わず探検隊の一行を心配する鷹志。彼らは無事のようだ。いや、待て。何か大騒ぎをしている。すっかりテンヤワンヤだ。
「これはね……。」由理子が喋り出した。
「……単一指向性電磁波発生装置なの。」
「えっ?」
彼女の口からは、珍しいとも思えるような単語が飛び出し、面食らう鷹志。
「この武器は、あらゆる磁性データを無効化するの。フィルムに刻まれた、アナログデータも壊せるのよ。」
「……さては伯爵だな。」
「そう。私が頼んで作ってもらったの。だって未確認生物は、未確認のまま居させてあげたいじゃない?」
「……でも、このまま森林伐採や土地開発が進めば、焼け石に水。発見されるのも、時間の問題だけれどね?」
「分かっているわよ。そんな事……それでも、見つかる事を、少しでも先延ばしにしてあげたいのよ。」
由理子は真剣な顔で、そう言ったのである。




