⑬ 鷹志の葛藤
「ねえ、鷹志。」
「何だい、ユリちゃん?」
「また、久しぶりに、一緒に調査に出掛けない?」
「僕はもう、みんなのバックアップのための、研究に専念するって決めたんだよ。」
「悪魔とかは現れない、危険のない場所に行くから!」
「ええ~?」
「ねえ、お願~い。デートの代わりだと思って!だって最近、伯爵と研究ばかりして、全然私の事を、全然構ってくれないじゃない?」
「ああ、う~ん。」
「埋め合わせしてよね!」
「……分かったよ。一回だけだよ?」
「やったあ!伯爵と雪子さんが戻って来たら、早速行きましょう!」
「そんな、急に……伯爵の許可が無いと。」
「善は急げよ。帰って来た伯爵が、ウンと言ったら行くから!」
雪子と一緒に帰って来た伯爵は、あっさりウンと言った。レストランの留守番は、雪子さんと二人でやるから、気にしないで、行ってらっしゃいと。まるでソレが、予定通りの事のような対応だった。
由理子は、いささか当惑気味の鷹志の手を引いて、彼の気が変わらない内にと、急いでエレベーターに向かった。
地下駐車場に着くと、彼女は当然のように、赤いビートルに乗り込んだ。
続いて鷹志は、助手席に収まる。
そして鷹志の目の前で、由理子が目的地の座標を、以下のように、センターコンソールパネルに打ち込んだ。
西暦1997年3月13日
時刻22時00分
北緯33度26分
西経112度01分
「それじゃあ、行きましょう!」ウキウキ顔の由理子。
「……って、どこへ?コレ、未来の日付だよね?」不安顔の鷹志。
「そうよ。伯爵のお勧めの場所なの。鷹志と行くなら、ここがイイって!」
「へえ、そりゃあ、楽しみだ。」言葉とは裏腹に、ますます不安になる鷹志。
そんな彼の気持ちを知ってか知らずか、由理子はただちに、赤いビートルのエンジンをスタートさせた。クルマを駐車場から出すと、いつものように光学迷彩を掛けて垂直上昇させる。そして、時空転移装置のスイッチを入れた。
伯爵が僕にお勧めする場所って、何処なんだろう?
鷹志には、全く見当がつかなかった。
まあ、悪魔が居ないのなら、いいか。
彼は出来るだけ、気楽に構えることにした。
到着した時空は、夜遅い時間帯だった。
赤いビートルは、光学迷彩を透明モードにしたまま、上空を飛び続ける。
「ここは、アメリカ合衆国、アリゾナ州のフェニックスよ。そして今回の調査対象はアレなの。」由理子がそう言って指を差した。
鷹志がそちらを見ると、夜空の比較的低いところに、大きなV字型を描いて、七つの光が浮かんでいた。それをよく見ると、北西から南東に向かって、ゆっくりと移動しているようだった。




