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冬の寒さが少しずつ和らぎ始めた頃、北の森で、また魔獣が出た。
アルノはルーカスと共に騎士たちを率いて、森へ向かうことになった。まるでテオドールの足跡を追っているようだった。
森に入ると、空気が変わった。
木々の間を抜ける風は冷たく、深く入るほど気温が落ちた。
魔の気配というのはこういうものか、とアルノは思った。背筋の奥が、ざわりと冷えた。
これは恐怖ではない。何かを認識している。
「気配がわかるか」
馬を並べながら、ルーカスが聞いた。
「......わかります。北東」
「正しい」
アルノは少し驚いた。体が答えを持っていた。頭で考える前に方角が出てきた。
そして頭で考えるより先に剣を抜いていた。
構えが自然に出た。記憶にない構えだったが、腕が覚えていた。肘の角度、重心のかけ方、呼吸のタイミング。誰かに何度も直された形が体の中に残っていた。
誰かに。
稽古場だ、とアルノは思った。
石敷きの、広い稽古場。朝の光が差し込んでいた。木剣が重かった。まだ体に合っていなかった。
何度も打ち負けて転んだ。
泣いた。悔しくて、情けなくて、何度転んでも勝てなくて、とうとう涙が出た。声を上げて泣いた。しゃくり上げると息が上手く吸えなくなって、苦しかった。
すると肩を掴まれて、引き寄せられて、広い胸の中に収められた。背中に腕が回って、ゆっくりと撫でられた。何も言わなかった。ただ撫でられた。それだけで、息が戻ってきた。泣き続けていても、苦しくなくなった。
兄様。
アルノは剣を構えたまま、一瞬、動きを止めた。
魔獣の気配が動いた。左から来る。体が先に動いた。




