19
その日の夕方、東屋に行った。
雪が積もった石の腰掛けに、二人で並んで座った。アルノの肩にルーカスの肩がマントごしに触れていた。
空が曇っていた。雪雲が低く、屋根をかすめるほどに迫っていた。しかし西の端に、細いすきまがあって、そこから夕陽が一筋、差し込んでいた。
光は白い庭に落ちて、雪を橙色に染めた。
「きれいですね」とアルノは言った。
「ああ」
「兄様にも見せたかった」
ルーカスは何も言わなかった。
「でも」とアルノは続けた。「きっとたいしたことない、という顔をしたと思います」
「……そうだったかもしれない」
「そしてまた東屋に戻ってきて、ここに座って」
「ああ」
「ただ、一緒にいたと思います」
ルーカスがアルノを見た。
アルノは橙色の庭を見ていた。
「そういう人だったんじゃないかと思います」とアルノは言った。「言葉より、ただそこにいることで、全てを伝えていた人」
ルーカスはしばらく黙っていた。
「……そうだった」と彼は言った。声が少し低くなった。「そういう奴だった」
“ここで待つ”
アルノは右の手のひらを、雪の積もった石の文字の上に置いた。冷たかった。凍るように冷たかった。
しかし、そこに文字があることは、手のひらを通じてわかった。
確かにそこにある。
夕陽が沈んだ。
庭が暗くなった。
「もう少しここにいるか」とルーカスが聞いた。
「もう少し」
二人はしばらくそこにいた。
空に最初の星が、一つだけ出た。
アルノはそれを見た。ルーカスも見たかもしれなかった。
何も言わなかった。言う必要が、なかった。




