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雪が降った。
朝、目が覚めると窓の外が白かった。
アルノは窓を開けた。冷たい空気が流れ込んできた。雪のにおいがした。
庭の花壇は白く覆われていた。その白さの中に、一つだけ、緑色が見えた。
スノードロップの芽だった。
まだ花は咲いていなかった。ただ、細い緑の芽が、雪を押しのけるように出ていた。
アルノはそれをしばらく見ていた。
何かを思い出しそうだった。
何も思い出せなかった。しかし、それでいいような気がした。
思い出せないものは、消えたのではなく、別の形で残っているのかもしれなかった。
名前のない花を知っているその知識のように。声の気配として残っているものとして。東屋の石の文字のように。胸の内ポケットにある、薄い紙のように。
廊下に出ると、ルーカスがいた。
見回りから戻ったところらしく、外の冷気を帯びていた。黒い上着に雪が少し残っていた。
「雪が積もりましたね」とアルノは言った。
「ああ。足元が悪い。今日は外に出ないほうがいい」
「東屋には行けますか」
「行けないことはないが」ルーカスはアルノを見た。「なぜ」
「文字を見たいと思いました」
「……ここで待つ、か」
「一緒に来ますか」
ルーカスは少し間を置いた。
「行く」と言った。迷いなく。




