17
秋の終わりに、アルノは屋敷の地下に下りた。
石の階段を下りると、薄暗い部屋があって、棚に古い書類が並んでいた。古い家の記録だった。
テオドールの書き物もあった。
几帳面な字だった。規則正しく、正確で、感情の乗らない文字だった。
領地の記録、費用の計算、外交の記録。どれも実務的な内容ばかりだった。
最後の棚の一番奥に、別の紙があった。
折り畳まれた、小さな紙だった。公的な書類とは違う、薄い紙だった。
開いた。
文字は少なかった。
眠っているとき、お前は子供の顔をする。それだけのことが、ずっと言えなかった。お前が大人になろうとするほど、
日付はなかった。宛先も書かれていなかった。
アルノはその紙を、石の床に膝をついて、長い時間、見ていた。蝋燭の炎が揺れた。
兄様、と思った。
あの絵の男ではなく、パンを乱暴に引きちぎっていた手の持ち主が。
植物図鑑を取り寄せた人間が。声がだんだん低くなる人間が。東屋にここで待つと刻んだ人間が。気づかれないように菓子を余分に買っていた人間が。
言えなかった。
ただそれだけのことが。
アルノは紙を折り畳んだ。胸の内ポケットに入れた。
立ち上がって、燭台を持って、階段を上がった。
胸の中の重さが、少しだけ形を変えた。
水を含んだ布ではなくて、もっと違うものになった気がした。
地下から上がってくると、広間にルーカスがいた。
暖炉の前に立って、火を見ていた。アルノが来たことに気づいて振り返った。
「何かあったか」
「地下に行っていました」
「一人でか。暗かっただろう」
「燭台を持っていきました」
ルーカスはアルノの顔を見た。何かを読み取ろうとしているような目だった。
「何を見ていた」
「兄様の書き物を」
ルーカスは少し目を細めた。何も聞かなかった。
アルノは暖炉に近づいた。
「ルーカス」
「ああ」
「兄様は、僕に言えないことがありましたか」
ルーカスはしばらく黙った。
「……たくさん、あったと思う」
「あなたに対して?」
「俺に対しても。お前に対しても。誰に対しても」とルーカスは言った。「そういう奴だった」
アルノは炎を見た。
「損な性格ですね」とまた言った。
「二度目だぞ」
「二度言うほど、そう思います」
ルーカスは火の方を向いて、小さく笑った。今度はアルノに見えた。
「……以前のお前にもよくそう言われていた」
「僕が?」
「しょっちゅう。損な性格だ、兄様は、と」
「怒りませんでしたか」
「怒らなかった。少し、嬉しそうな顔をしていた」
アルノは炎を見ていた。
「そうですか」と言った。
それだけ言って、それ以上は言わなかった。




