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扉が開いたのは、部屋を一周してまた窓辺に戻ってきたときだった。


入ってきたのは、見知らぬ男だった。

先程鏡で見た自分よりもいくらか年上に見えた。二十半ばか。

背が高く、肩の幅が広かった。髪は黒く、少し癖があって、前髪が目にかかるかという長さで後ろはすっきりと短かった。

意志が強そうな眉をしていて、目の下に、うっすらとくまがあった。眠れていないのか、あるいは最初からそういう顔なのか判断できなかった。

仕立ての良さそうな、しかし飾り気のない黒いシャツを着ていて、それが男の全体的な印象をいっそう暗くしていた。


「目が覚めたのか」

男はそう言った。安堵しているのか怒っているのか、声からはよくわからなかった。

手には水差しを持っていた。

「三日眠っていた。医師も呼んで……異常はないと言われていたが」

「三日」とアルノは繰り返した。「それは……申し訳ありません」

「謝る必要はない」


男は水差しををテーブルの上に置いて、少し間を置いてからを振り返った。

アルノは男を見つめて口を開いた。

「名前を教えてもらえませんか」

「……俺の、名前か」

「あなたが誰なのか知らないので」

男の顔が一瞬、こわばった。それから、ゆっくりと息を吐いた。

「ルーカスだ」

「ルーカス」とアルノは繰り返した。「僕のことは分かりますか、ルーカスさん」

「……ああ」

ルーカスはゆっくりと頷いた。

「それと、俺のことはルーカスでいい」

「では、ルーカス。僕が誰なのか教えてください」

男——ルーカスはしばらく無言だった。

窓から光が差し込んで、埃が浮いているのが見えた。ゆっくり、静かに、光の中を漂っていた。


「アルノ。アルノ・フォン・エスターライン。エスターライン伯爵家の次男」

名前を聞いた。それが自分のものだと、確かにそうだと思った。しかし何も戻ってこなかった。水を注いでも砂が吸ってしまう、そんな感じだった。

「……確かに僕はアルノ・フォン・エスターラインだという、そんな気はします」

「気はする、か」

「他に何か言いようが?」

ルーカスは少し黙ってから、「いや」と言った。

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