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外はいい天気で、抜けるような青い空に花壇に咲き乱れる花が朝露に濡れて輝くようだった。
僕はそれをぼんやりと窓から眺めながら、ここはどこだろうと考えていた。
なんだか頭がぼんやりしていて、自分の感情が遠くに感じた。
窓を開けると、思わず身震いするほどひんやりとした空気が暖かな室内に流れ込んできた。
花壇には白い花が咲いていた。
名前が出てこない。唇が少し動いて、形を作ろうとして、けれど音にはならなかった。
白くて小さくて、花びらが六枚あって、茎が細くて。知っているはずだ、と思う。ただ、その確信だけが残っていた。かつて知っていた、という感覚。中身の抜けた器のような記憶。
抜け出た広すぎる寝台には羽毛の詰まった白い布団がかかっていた。
部屋の調度品は立派だった。天蓋のついた寝台、壁を覆う織物の刺繍、暖炉の脇に置かれた燭台。蝋燭はすべて根元まで燃え尽きていた。
自分の手を見た。細い。節が浮いている。爪は綺麗に整えられていた。
暖炉の上の大きな鏡を覗き込む。知らない顔だった。灰色がかった茶色の髪が額にかかっていた。黄みがかった琥珀色の目が、鏡の中からこちらを見返していた。
なんだか神経質そうな顔だと思った。唇が少し開いて、また閉じた。
自分の名前は、アルノだと思った。思った、というより、そう呼ばれていた気がした。誰かに。声は覚えていない。低かったか高かったか。男だったか女だったか。ただ、アルノと聞くと、自分のことだと感じる。それだけだった。
アルノ、と声に出してみた。部屋の壁に吸われて、消えた。




