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夏が来た。
暑い日が続いた。庭の花が変わった。背の高い、紫色の花が咲いた。
ルーカスと、初めて街に出た。
屋敷から丘を下ると、城壁の内側に街が広がっていた。
市場があって、人が多くて、騒がしかった。
アルノは人混みの中を歩きながら、おそらくこういうところに来たことがあるのだろうと思った。記憶はなかったが、足が自然に動いた。
焼き菓子の屋台の前で、アルノは足を止めた。
蜂蜜のにおいがした。
「食べたいのか」とルーカスが隣で言った。「蜂蜜の菓子」
「わからない。でも、買いたいと思います」
「買えばいい」
アルノは屋台の老婆から菓子を一つ買って、口に入れた。甘かった。おいしかった。
「好きでした。たぶん」
「テオドールは嫌いだった。甘いものが全般的に」
「一緒に来たことがありますか、ここに」
「何度も」とルーカスは言った。
「お前が屋台に寄るたびに、テオドールは少し後ろで腕を組んで待っていた」
「付き合いがよかったんですね」
「付き合わされていた、というほうが正確だと思う」
アルノはもう一口、菓子を食べた。
「兄様は何も買わなかったんですか」
「……たまに、お前の分を余分に買っていた。お前が気づかないうちに」
アルノは菓子を持ったまま、少し止まった。
「それを知っていましたか、僕は」
「知らなかったと思う」
「兄様は黙っていたんですか」
「ああ」
「なぜ」
「さあ」とルーカスは言った。「あいつはそういうことを言わない奴だったから」
アルノは前を向いた。
人混みの向こうに、城壁が見えた。古い石造りの壁に、蔦が絡まっていた。
笑いたい気持ちがあった。泣きたい気持ちもあった。両方が同時にあって、どちらにもなれなかった。
「……損な性格ですね」
「テオドールがか」
「言えばよかったのに」とアルノは言った。「買ってやったぞ、と」
ルーカスは少し黙った。
「言えなかったんだろう」と彼は言った。「そういう奴だったから」




