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夜、ルーカスが部屋に来た。
扉を軽く叩いて、アルノが返事をすると入ってきた。
燭台を一つ持っていた。部屋の中ほどまで進むと燭台をテーブルに置いて、窓の近くに立った。
アルノはベッドの端に腰掛けていた。微かな月明かりがアルノの細い髪を縁取っていた。
「帰らないんですか」とアルノは聞いた。
「帰るよ。お前が眠ったら」
「僕はヴィルヘルムの話を考えていました」
「何の話だ」
「記憶を手放したんじゃないか、という話」
ルーカスは少し黙った。
「……そう思うか」
「わかりません。でも、怖かったのかなと思いました、あの頃の僕が」
「何が」
「兄様がいなくなるのが?」
ルーカスは窓の外を見た。静かな夜だった。
「俺も怖かった」とルーカスは言った。声が少し低くなった。
「テオドールが逝くのが。そしてその後、お前が倒れて、目が覚めたら別人みたいになっていて」
「別人みたいでしたか」
「別人そのものだった」
「それは……大変でしたね」
「大変だった」とルーカスは即答した。珍しく迷いなく言った。
蝋燭の炎が揺れていた。風が窓の隙間から吹き込んでいた。
「兄様は」
アルノが話し始めた。ルーカスが振り返った。
「どんな声でしたか」
ルーカスはしばらく考えた。
「低い声だった。あまり大きな声を出すことはなかった。でも、怒るときは」
少し間があった。
「怒るときは?」
「怒鳴ったりはしなかった。でも声がだんだん低くなっていく。それが一番、恐ろしかった」
アルノはうなずいた。なぜかよくわかる気がした。
「笑うことはありましたか」
「……あった。めったになかったが」
「どんなときに」
ルーカスが少し目を細めた。その表情が、何かを抑えているように見えた。
「お前と一緒のときに」
アルノは膝の上に手を置いた。
「それは」と言った。「少し、よかった」
「何が」
「僕が兄様を笑わせることができたなら。それは、よかった」
ルーカスは何も言わなかった。しかし、部屋を出ていくことはしなかった。
二人でしばらく、揺れる炎を見ていた。




