8話
少し更新が空いてしまいました。
日は暮れ、辺りはすっかり暗闇に包まれていた。空を見上げれば、あちらこちらに光る星と共に新月がこちらを照らす。
僕は新月を一瞥したあと用意された馬車に乗り込んだ。
近年馬車のサスペンションと車輪の改良が進み、揺れも少なく長距離の移動にも最適になっている。そういえば二番目の居る国では、馬を使わない馬車の案が出ているようだ。元からあの国は工業機械産業に力を入れており、潤った国の財政を元に、今度は第二の機動力開発に着眼点を置いたようだ。これは二番目が以前から着目していた事のようで、漸く国が動いてくれたと文面から嬉しさが十二分に伝わる手紙が送られてきた。
各国の流れる情報はあっという間だ。そのためここ近年の仕事は多忙を極める。だが今回は、仕事が思ったよりも早く片付いたので、私用で少しカルティロナ国に留まろうとしていたが本国からの連絡でそうもいかなくなってしまったのだ。
「(満月までに間に合えばいいけど。否、それよりも彼女は大丈夫なのだろうか)」
ラティエの屋敷から城に戻り、その際に自身の不在の間は叔母上に彼女のことをよろしく頼むと伝えたのだが、昔から人となりを見極める立場に置かれていたので、彼女の人となりをある程度把握したつもりだが、あの手のタイプはよくも悪くも突っ走る嫌いがある。
まあでも、我が家の方がよっぽどだ。あの人達は個性が塊となって歩いてるようなものだ。
ああそれと叔母上から父に言伝ても頼まれたか。
帰国してから追われる資料の山と実家の事を考えると、思わず口からはぁとため息が溢れるが、今憂いたってしょうがない。恐らく、この馬車の中が束の間の休息となるだろう。
カインは両腕を前に組み、目を瞑ったのだった。
「きいぃぃ許せないですわ!そもそも周りなんてピーピーピーで、ピーピーピーなのよ!!もうピーピーピーピーよ!」
凄い、会話の殆どが自主規制になっている。目の前でギラギラ系美少女が髪を振り乱し荒れ狂っており、あまりの怒りの険相に、今までの彼女のイメージがガラガラと音をたて壊れていく。美少女が台無しだ。
ああ、どうもこんにちはラティエ・ショコルドルです。
さて王妃陛下の防塞という名の権力のお陰で外部から遮断された状況に、これ幸いと勉学に励んでいた私ですが、この状況をどう説明すればよいのだろうか。話が長くなりますが、聞いていただけないでしょうか。
まず始めに、王妃陛下をもってしても塞ぎきれない事もあるのだと理解しました。そしてそれを体現した方が私の目の前にいるのだがーー。
「ハハハハハ!リーティクの奴、相変わらずひねくれてる!」
モブもといカイン様から渡されたノートを手元に、腹を抱えて笑うリュシュラパス殿下である。どうやら王家に王家の権力は通用しないみたいだ。
本日の王太子殿下は、白銀色の髪を一本の三つ編みにし、胸元へと横に垂らし、くすんだ色のチェックの入った柄のオーバージャケットに、シャツの襟羽根は取り付けられたタブをとめている。ジャケットとは違い、白いズボンを履き、タイトに着こなしている。絵になるお方だ。
王太子殿下の訪問には驚いたが、実は大歓迎でもあったのだ。何故ならーー。
「これは下手すると、卒業試験より難問だ」
「……ですよねぇ」
そう、リーティク様の試験対策ノートはとんでもなく難しかったのだ。おいモブ、ちゃんとこっちの方の内容を確認したのか。
自主勉も一人だけでは行き詰まり、縋る思いでノートに手をかけてみれば、こちらもとんでもない代物だったのだ。
「そうだなぁ、これを一通り解けば試験は受かるだろうが……。よければ私があの時の続きのお相手をしても?」
片目を閉じウインクする王太子殿下に、一瞬何の事かとキョトンとするが、王太子殿下はそのまま口元をにんまりし私の前へと来て手を取り組んだ。それはダンスのリードと同じ組で漸く彼女が伝えたい事を理解した。
ーーよければ私からファーストダンスの相手を紹介させてくれないかな、と。
そもそもあの夜会では、モブとファーストダンスを踊ることなく王族の方々と一緒に別室へと案内されたのだ。
だが彼女はあの時の約束を忘れていなかったのだ。律儀な殿下に表情が和らぎ自然と笑顔に変わる。
「お願いします殿下………わぁっ!」
途端殿下はニッと口角を上げ私を一回ターンさせた。そしてそのままソファへとリードし私を座らせた。私の隣に殿下が座り、机にリーティク様のノートが開かれた。
「さあさあ、この私がいるのだ。どんな難問でもラティエ嬢を導いてあげるよ。まずは、ある程度私がピックアップしたものを挑戦してみよう。これは応用編の総体集だ」
こうしてラティエは最強の助っ人の元、勉学に取り組んだのだった。殿下の教え方は文章を噛み砕いたり、定理を基礎と照らし合わせたりする教え方で、あんなに難しいと思われた問題が殿下の一言二言で簡略化されあっという間に解けてしまった。
そして殿下のサポートの元、殿下がピックアップされた対策ノートは粗方済んできた頃にーー。
「実は、私の方から学園にも声を描けていてね。卒業試験に向けて生徒のために特別授業を提案したんだよ。既に希望者が集まっているみたいだ」
「わ、私も参加したいです」
「すでにラティエ嬢のエントリーは済ませているよ。実を言うと今回は私は来れたが、次回からは難しそうでね」
私まで構うと贔屓だと言われてしまうかもしれない。口にはしないが、そう続きが聞こえそうで私は納得してしまった。確かに王太子殿下の行いは、当事者以外が見れば、よく映らないだろう。
そうこうしてるうちに、殿下との勉強会は終了の時刻になった。沢山の護衛騎士に囲まれた馬車が主のお出迎えをしていた。圧巻の光景に、この気さくな方は王太子殿下なのだと身を引き締めた。
馬車に乗り込む直前に殿下は私の方へと振り返った。
「充実した時間を過ごせたよありがとう」
「いいえ、私の方こそ大変助かりましたありがとうございます」
「それにあのリーティクのノートが見れてとても楽しかったよ。カインのやつ、私も知らないのを本人不在の中、どうやって手に入れたのだろうね……。良い結果を待ってるよ」
「が、頑張ります!」
「まずは君が卒業しなくては、あいつは婚約すら進めないからね」
「!」
私にしか聞こえない声量で不穏な言葉を残し、ニッと意地の悪い顔で話す殿下に色々物申したいが、あいつとは誰なのか一瞬で理解した私は顔が赤く染まった。
おや、と声が聞こえた気がするが頭の中で駆け巡る言葉に気を取られ相手の様子に気付かなかった。
「それじゃあ、卒業試験後のパーティーで会おうラティエ嬢」
「は、はい!」
殿下の話の内容に慌てて顔を上げれば、王太子殿下は手を挙げ馬車へと颯爽と乗り込んでいった。ううう去り際までキラキラしてる、さすが攻略者の一人。
なーんて見当違いなことを考えていた私は、あの時がボーナスステージならこの場はどうだろうか。
王太子殿下の提案した特別授業には希望人数以上に参加希望者が募り、結果定員数が越えたが学園側は希望者全て参加可能の体制に変えた。なので学園内はそれなりに生徒で賑わっていた。それだけじゃなく、夜会の話を聞き付けた貴族階級の生徒達は、ちらちらとこちらを伺っている。王妃陛下のお陰で声を掛けられたりはしないが、流石に休憩時間は教室に居づらかった。漸く本日分は済み、人通りが少なくなってからこそこそ帰宅しようとしていたらーー。
「そこの貴女、お待ちになって」
淡いブルーの髪色を綺麗に結い上げ、ニコリと笑顔を貼り付けた美少女令嬢が私を呼び止めた。
「えっと、あの」
「ごきげんよう。私、ツィリィア・ユイット・ギュンターリッドですわ」
「ごきげんよう。ラティエ・ショコルドルです」
やばい、公爵令嬢だ。学園生活の中で関わる事のなかった貴い位の方が私に話し掛けてきた。
皆さん、この二つ名に身に覚えはないだろうか。以前耳にしたことがあるはずだ。
そう、あの夜会の時にモブの両サイドにいた殿方なのだ。そしてこの方は当主のご兄妹に当たる、あの有名なツィリィア嬢なのだ。
現ギュンターリッド公爵が長女、次男はユイットの姓で伯爵位をもらい、そして末がツィリィアだ。ちなみに夜会でモブの隣にいた公爵は婿の立場となる。そしてもう一つ重要なのが、位を譲られた前公爵は現陛下の叔父にあたる方だ。つまり、この方は現陛下の従姉妹になられる。
「貴女カイン様の婚約者なのよね?」
「そ、そうです」
仮だが。
お、揉め事?修羅場か?と少し倦厭していた私だったのだが
「あの野郎ピーピーでピーピーピーピー」
「!?」
大変だ、あの野郎は聞き取れたのだが、そこから自主規制が入りツィリィア嬢が何を話しているのか全く分からない。というかピーピーってどこから鳴ってるのよ。音の出所を探れば物陰で笛を吹く男性と目があったがそっと反らされた。
一瞬で彼の置かれる立場を理解しあ、お疲れ様です……と視線を送った。
「あ、あの取り敢えずあちらの部屋を使いましょうか」
取り敢えずギラギラさせる美少女を避難させるべく提案すれば、大人しく着いてきてくれたのでホッ胸を撫で下ろした。まさかあの有名なツィリィア嬢が、こんな風にギラギラ美少女に変わるなんて誰が思ったのだろうか。才色兼備の彼女を賢崇する生徒の夢を打ち砕かぬよう、急いで茶会で使用される部屋に案内したのだが、ギラギラは成りを潜めるどころか露見するばかりだ。
やばい、どうしよう。
今回も濃いキャラが登場しましたね。皆展開についてきてるかーい?




