6話
うきうきで書いてます。
昼夜問わずラティエは部屋に籠り勉強に明け暮れていた。
仮にも婚約をしている年頃の令嬢の、乙女らしからぬ風貌に、絶賛面会謝絶状態だ。
あれからもラティエに手紙は届くが、勉強机から遠く離れた部屋の隅の机に、山積みになっている。正直部屋にも入れたくないが、両親の必死の頼みで渋々隅に置かれた机の上に置くことで承諾した。最早誰からだろうと絶対に見ない。現代で例えるならスマホ禁止だ。
そういえば最後に手紙を書いたのはモブだったような。最早何を書いたのかさえ覚えていない。生憎今は勉強脳なのだ。
そんなところにドアを数回ノックしたあとに侍女の声が聞こえた。
ラティエお嬢様、カイン・レルトリッド・ロラン様がお越しです。
却っっっっ下!!!!
ラティエは走って部屋のドアに鍵を掛けた。それはとんでもない早業であった。
「無理よ無理、お帰りいただいてちょうだい!」
「ですがお嬢様、本日のお越しは、既にお嬢様と手紙のやり取りで、決められていたそうではないですか。それを無化にされるのはお嬢様の立場だけでなく、先方にも失礼にあたりますよ。なので開けてくださいませ!」
ドアを叩く音を効果音に私は急いで部屋の隅に置かれた手紙の山に駆け出した。ああだめ、見てしまう……という葛藤も漫ろに、急いで宛先を確認していく。そしてモブからは5通ほど手紙が届いていたようで身体が急激に冷えていく。
いけないいけないと首を振り、一先ず日付けが一番古い手紙を開封する。
こんにちはラティエ嬢。
先月の手紙には少しばかり驚かされました。
一先ず、僕からの手紙は目を通していただけるようで安心です。
学業に身を置かれるラティエ嬢の立場に尊重いたします。
こちらはーー。
そこから世間話が少しだけ書かれているだけだったので次の手紙へと手を伸ばす。そこには特に変哲のない内容だったので、3通目へと手を伸ばす。
こんにちはラティエ嬢。
以前の手紙を貰うまで、茶会への誘いが頻繁にされていたと知り、こういったものは全て王妃陛下を介して行うようにしました。貴族から何か困ったことがあったら王妃陛下が力になってくれます。
そういえばーー。
手紙の内容に目を見張った。え、ちょ、王妃陛下?!ただの子爵家の小娘への招待に王妃陛下を介してとか、いくらそれなりに爵位がある者でも、無理だ。実質接触禁止状態だということだ。
モブこわっ、こっっっわ!!そのあと何事もないかのように会話してるけど、前半の内容が不穏すぎて全く内容が頭に入らない。怖いわよ!
これでまだ3通目なのだ。ということは残り2通にやり取りがあったのだろうか。恐る恐る4通目の封を開けた。
こんにちはラティエ嬢。
実は思ったより早く帰国が決まりそうで、ラティエ嬢の卒業パーティーまでに滞在出来るかどうか定かではありません。
ですので一度、ラティエ嬢とお話をする機会を頂けないでしょうか。
日付けはまた折り入って連絡します。それではまた。
カイン・レルトリッド・ロランより。
慌てて最後の手紙の封を破いた。丁度二日前の手紙だ。
こんにちはラティエ嬢。
ショコルドル卿にも話を伺っていると思いますが、二日後の午後にてお会いしましょう。
それでは。
カイン・レルトリッド・ロランより。
お父様ーー!そんなこと聞いてませんって!というかやけに昨日辺りからそわそわして私を伺っていらしたけど、まさかこれのことじゃなかったのですか……。
嫌そもそも、ご飯中にも行儀悪くも猛勉強していたので、ピリピリしている私に話し掛けることに、気が引けていたのかもしれない。反抗期の娘の反応次第で嫌われるのではと声を掛けるのに躊躇する父親か!
もうこの状況をどうすることも出来ないのね。
諦めたようにふらふらとドアへと歩み、ドアの鍵を開けドア越しに外にいる侍女に声を掛けた。
「……1時間、1時間だけ支度の時間を頂けないかと伝えて……」
勉強時間を削って、腹を括って会うしかない。ドアを開けたら侍女達が急いで支度をするために、部屋に雪崩れ込んできた。
こんな姿で仮にも婚約者に会うわけにはいかないからね。
そこで思い出したのだ。モブに最後に送った手紙を。どのような内容の手紙を送ったのかを。
今忙しいからほっといて!のニュアンスで書いた気がする。
ちなみにその後手紙も送ってないし、もらった手紙を確認もしていないので完全にお縄だ。気まずい。
「こんにちはラティエ嬢。久しぶりだね」
「こんにちはカイン様」
開口一番が手紙と同じ言葉だとか、現実逃避したくなる中なんとか言葉を返す。
応接間にはカイン様の相手をしていたお父様、執事、そしてカイン様の側近だろう方がいた。
部屋では私とモブ以外が退室し向かい合うように座っている。何か話をしようにもどれも気まず過ぎで自身から話題を振る事が出来ない。
けれども気まずい空気を簡単に消し去るようにモブがチョコレート色の瞳を緩ませた。
「試験勉強を中断させる形になって申し訳ないね」
「いえ、そもそも私の方から一方的に断りを入れてしまい、本当にすみませんでした」
「僕だって卒業試験を経験した者だ。気にしないよ。寧ろ大事な時期だったのに、こちら側の配慮が足りなくて申し訳ないね」
あああ申し訳ないを2回も言わせてしまった……。どうあっても私の方が悪いのにモブ、モブ貴方って人は……!!
思わずうるうるしそうになってしまったが、そこは気合いを入れてなんとか堪えた。
「お詫びにこれを差し入れしたくてね」
そう言ってモブは、一つは少し古ぼけたノート、もう一つは封筒に入っている用紙を私の目の前に差し出した。
触れてもいいみたいなので、ノートと封筒に手を伸ばし中を確認しようとしたらーー。
「それ、リーティクが使ってた試験対策ノート。4年前だから少し今と内容が変わっている箇所もあるかもしれない。それと、封筒が卒業試験答案用紙「いりません!!!」
慌てて手離したために、思わず机に叩きつけてしまったじゃない。
とんでもない爆弾を持ち込みやがったなモブゥゥゥ!!
このモブ、人畜無害そうな顔してやることが恐ろしかった。
え、待って、お詫びがリーティク殿下のノートと試験の答案用紙ってどういうことなの??明らかに桁が振りきれている。しかも答案用紙って誰かが書いたのよね?え、回答用紙じゃなくて答案用紙なの?意味がわからない。
待って、私可笑しくないわよね、目の前のモブが可笑しいのよね……?というか私が卒業試験に向けて猛勉強してるって話したっけ?
「というのは冗談。こっちはリュシュラパスにある程度、今回の試験の山を張ってもらったものだよ。あれの予想が外れることは滅多にないから安心して」
結局とんでもない物だった。リュシュラパスもとい、我が国の王太子殿下直々とか、一体モブは何者なのよ。いや従兄弟だけど。
どちらにせよ、受け取ったら最後、物が物だけに、とんでもない要求をされるのではないかと戦慄し、二つを然り気無く遠ざける。よし、こんな物騒な物はさっさと返品しよう。
「申し訳ないのですが、こちらは私にはもて余す代物です。カイン様のお気持ちは充分伝わりました。お気持ちだけお受け取りします」
モブの目の前に二つをUターンさせた。然り気無く遠ざけていた物を、完全に遠ざけることに成功した。よし、完璧じゃないこれ?
「そうか、力になれず申し訳ないね。手紙には人生の及第点だと書かれてたから、どうしても力になりたくてーー」
や め て!!お願いだから手紙の内容を蒸し返さないで!!
「だけど二人には既に渡したと伝えてしまっている」
チョコレート色の瞳が困惑したように私の姿を写し出す。だが瞳の奥底に燻るその感情をラティエは見逃している。
「ーー困ったな」
ラティエ、完敗する。
地味に答案用紙って怖くないですか?誰がどこからくすねて書いたの?とまあ違ったからいいのですが。
次回に続きますっっ!




