5話
今回は三回場面が変わります。
誤字報告にて及第点を岐路と指摘がありまして、人生の岐路に立たされるって言葉があったではないかと気付きました。ですが、折角なのでモブに突っ込んでもらう形にしてもらいました!うまみモブモブ!
うう、食べすぎた。胃薬をもらいソファに横になる。少しでも油断すれば、淑女らしからぬ事をしでかしそうでなんとか堪える。自棄なんて起こすべきでない……。
ちなみにリュシアンはあの後さっさと帰っていった。薄情者め……。
それにしても皆が口にするロラン家。
乙女ゲームでは少ししか触れられていなかった筈の名前が、現実でこうも頻繁に耳にするとは。否、あの夜会でからかしら。ロラン、ロランと……。そういえばロラン一族は、二親等の孫まで、ロランの生家を名乗ることが許可されているみたい。ここで少し複雑なのが何処からの立場でカウントするかってこと。一親等を王妃陛下の父君とし、嫁がれた王妃陛下、及び孫である王太子殿下並びにそのご兄弟にのみ名乗る事が許されているってことね。
「ややこしいわね。それにしてもなぜその世代までって決まっているのかしら」
他の人に仄めかして聞いてみるのだが、ロラン家についてはどこか話を逸らされたり、歯切れの悪い返事ばかりなのだ。
ならばと身内であるお父様とお母様に聞くが、我が家の子爵家はそもそも爵位が低いので王妃陛下の生家の情報について知る伝手がないのだ。
というか、政権については一歩引いた位置に立つ……というか滅多に領地から出ないため、どこか世情に疎い両親なのだ。
そもそも、領地から今の王都に来ているのだって、私の学園の卒業間近だからである。
そこで私は慌ててソファから起き上がった。
「卒業試験忘れてたーーーー!!」
ラティエの絶叫が屋敷中に響き渡った。
「カイン様、どうかされましたか」
紙を手にしたまま、いつもとは様子が違う上司に、補佐官であるヘクターが尋ねる。
「…………及第点?岐路に立たされるじゃなくて?ああいや、大丈夫だが。うーーん」
大丈夫だと言いながらも渋い顔をする上司に、ヘクターは手にしている紙が何だったかとチラリと一瞥する。書類の類ではなく手紙の部類のようだ。カルティロナ国の王妃陛下や王太子殿下、王族の方々からかと考えたが、それらしい文を渡した身に覚えがない。ならばその手紙は……。
「婚約者であるラティエ・ショコルドル嬢からのですか?」
否定がないので恐らくそうだろう。仮にも上司の婚約者からの文を覗き見するのもどうかと考えたが、婚約者は特に咎める様子ではないので、横から拝借してみた。
「??」
そこには他愛もない挨拶も漫ろに、理解に悩む文章が続いていた。
ーー今まさに私の人生の及第点が迫っております。事が終わるまでお返事が途切れたりしても、お気持ちを悪くされないでください。尚、頂いた手紙には目を通しております。それではごきげんよう。
「カイン様、フラれましたか?」
「ううううぐすっ、ぐすっ、卒業試験があるのを忘れてたぁーー」
私、ラティエ・ショコルドルは今絶体絶命のピンチに陥っている。
机の上には、本が何冊も積み重なり、紙にひたすら文字を書いていく。何時間も手を止めずに書いた文字は震えているのか、はたまた涙で視界が上手く認識されていないのか。とにかく彼女は勉強していた。
学園に入学してからヒロインと関わるまでラティエは青春の学園生活をどうしていたのか。それは……
落第しないよう、勉強尽くめの学園生活だった。青春もなにもなかった。
ここの世界の学園は、乙女ゲームの世界とはやはり違った。乙女ゲームの主人公達が通う学園は、元は貴族のみが通う学園だったのだが、王太子殿下が産まれた代から身分問わず成績の優秀な者だけが通う学園に変わったのだ。王妃陛下の一言で。
「おままごとの学園はもう結構。実力ある者が自身の腕で這い上がれる場をこの国でも作り上げてみなさい」
暗に王妃陛下は貴族だけの学園は愚直だと申したのだ。身分問わず優秀な者達が集まれる場を作れと。その場に乙女ゲームの舞台が選ばれたのだ。きゃっきゃうふふの恋愛学園ではなく、高度な技術、育成をもたらすハイスペック学園へと変貌したのだ。乙女ゲームどこいった。
これに反発したのは当然貴族である。王妃陛下の懐妊の発表から、王太子となるお子の側近に自身の子息達を宛がうべく有力貴族や並みの貴族までも乗っかり、王国中がベビーブームになっていたのだ。
ちなみに、王太子殿下とラティエの年齢は8歳も離れているので、貴族のベビーブームはとうに過ぎ去り、ラティエの同世代は少ないのだ。てんでラティエの両親は、世情や政情とは無関係の環境に身を置いていたようだ。
そして当時から、優秀だと言われている王太子殿下の頃のこの学園は倍率が一番えぐく、王太子殿下に続こうと、優秀な者達が決められた定員数を奪い合う様は、狭き門を通り越して地獄の振るいと言われるほどの伝説となっている。
逆にラティエの年代では、ラティエが毎日死に物狂いで勉強してギリギリ、ギリギリで受かったので、狭き門ではあるが、狙う数が全盛期と比べれば落ちているのだ。ギリギリ受かった者だから当然授業に付いていくのも必死だった。入学してからも毎日を必死で勉強していたのだ。折角乙女ゲームの舞台(恋愛は跡形もなく無くなったが)に入学出来たのに、青春のせも送ることがなかった。
そんな彼女だったが三年の後半になって転機という名の爆撃が訪れた。
それがヒロインだ。
話は省略するが、リュシアンとも仲良くなりずっ友となった私であったが、そこからどうしてこうなったのか。
あの夜会やお茶会の誘いが引っ切り無しにあり、本来するべき事をすっかり忘れていたのだ。
「嫌ぁーー!!このままじゃ卒業おろか、落第、留年しちゃうーーー!!!」
彼女は学生なのだ。
今の学園は休暇期間。期間を終えれば地獄の試験期間突入に入るのである。
ラティエ、地獄に嵌まる。




