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28話

お久しぶりです生きてます

 ――ですので私の研究所は法に乗っ取った手順を行い、そして審査が通ったのです。ですので我が社が著作を取った等とは事実無根です」






 ここ第三審で行われる場にはきらびやかな衣装を纏った体格のよい四十代頃の男性は終始にこやかに話し続けている。こちらが今回の被告であるフーリング公爵である。


 対して原告側は髪を後ろに撫で付け、神経質そうな顔が印象的な三十代男性だ。






 被告人のフーリング公爵の言い分が終わり、ラティエはバレないように周囲を見渡す。


 付添人に聞いたところによると、今日の裁判は自国の貴人、要人、一部の一般市民だけでなくソルツド帝国の友好国である大使や商人、はたまた各国の外相や王族に連なる賓客までもこの場の傍聴席に出席しており、どうやら想像よりも何十倍もこの裁判の傍聴は意義深いようだ。


 そしてどうやらこの法廷は、やんごとない身分の方々を裁く場であるが為にご丁寧に各国代表する賓客には各自に席や部屋まで設けており、場に相応しくない装飾も見られ、これではまるで観劇を見ているかのようだ。


 ちなみに私が居る場所はボックス席である。U字型の形をした法廷のボックス席は全部で10部屋。本来ボックス席は1組しか入れない仕組みだが、今回は貴人の傍聴希望者が多くボックス席に同席をと求めるほどに人が多い。

 しかしその話が私たちに来くることはなかったので二人で広々と豪華なボックス席を堪能している。


「私たちのところはこんなにも広々とボックス席を使ってもいいのでしょうかワンフルク大使」

「もちろんです。この部屋は我が国の特別枠としてご用意されている部屋でございます」


 ……自国の貴人、他国の来賓を差し置いての特別枠ってどういうことなのか私は怖くて聞けない。

 それと私の隣にいるワンフルク大使は迎えに来たときから申し訳なさそうにしているので、安心させようと微笑めばヒッと小さな声が漏れ聞こえた。いやなんでよ。






 仕方なしにラティエは来賓の為に整えられた見晴らしのよい席から裁判のやり取りを眺めているのだが…。














「ーーこのように被告側は正規の審査の末、二月三日に受理されました。従って受理されたその日から原告側の主張は無効となります。また、原告側の申請には不明瞭な所が数ヶ所見受けられます。ですので…」




 被告のフーリング公爵から彼の弁護士であるティナルドへと弁護は変わったようだ。どうやら彼はこの国では有名な凄腕弁護士のようで、第三審から担当の弁護士を変更し、彼を就けたことに公爵側は二重の意味で話題となった。


 彼の法廷での巧みな手腕、それによる勝率は彼の確かな実力を示し、彼が口を開けば傍聴席のあちらこちらから深い吐息が漏れでている。彼が大変優秀な実績を残していることで有名なのもそうだが、なんといってもティナルドの容姿だ。サイドに刈り上げられた漆黒の髪にガーネット色の瞳が眼鏡のレンズ越しに覗く。中性的な顔立ちの彼の容姿はとても整っている。傍聴席には彼を一目見ようと婦人や令嬢たちが押し寄せるそうで、彼が法廷に出るときの抽選倍率は毎度高倍率だそうだ。

 だからなのか、ボックス席にいる貴人の女性率が高い。あ、よく見たら女性陣の装飾品や私物に共通して同じカラーを身につけていることを発見してしまった。


 これはもしかして推しカラー!?

 まさかこの世界で推しカラーに出会えるとは!

 うんうん、わかるわかる。推し色って推しに会いに行く時は然り気無くでもいいから身に付けちゃうよね。

 さすがに傍聴席は抽選だからか少ないが、それでもちらほら貴人の女性と同じように推しカラーをご持参している一般枠の女性がちらほら伺える。ってここはライブ会場かい!


 ラティエは感動を覚えながらもさすがに突っ込まずにはいられなかった。


 ハッと我にかえり慌てて弁護へと聞き耳を立てる。いけないいけない、帰ったらモブに今日のことを伝えなければいけなかった。

 あのときついモブの口車に乗ってしまった私に、ワンフルク大使から事前にある程度の内容は聞いていたのだが…。


 被告フーリング公爵は事業の開発した燃料転換の特許を願い出て受理されたのだが、原告であるラジウス社が不受理申し出をしたことから始まった。一審では初めフーリング公爵側は事業開発の代表が被告として出たのだが一審では両者譲らず二審に持ち込んだ。二審で決まると思った裁判は、原告側からの思わぬ告発で新たな展開へと変わっていったのだ。

 二審での原告側はフーリング公爵の経営する事業に訴えるのではなく、公爵本人を訴えたのだ。

 当然原告側は反論したのだが、まさか相手側が公爵を訴えてくるとは考えてもいなく、証拠不十分で判決が下されないという異例の事態となった。まさかだれも二審で一般企業が公爵本人を訴えるという強行手段に出てくるとは思わぬだろ。


 そして異例の三審が行われた。自国の公爵が公の場に呼び出されるのも異例だが、公爵側も己の威信にかけて無罪を勝ち取るつもりでいかなければならない。

 反対に原告側はどう出てくるのか誰もが気になることである。


 そしてそれはそれぞれが用意した証人達にも注目視されるのだが…。



「原告側証人のヒルデハイア・ハフェルツ」


 名を呼ばれコツコツと颯爽と足音を鳴らしながら証言台へと上がる人物に、傍聴席にいる人達がざわめきだす。


 ラティエも当然その一人で、証言台に立つ人物に目を奪われたのだった。


 とてつもない美女が証言台に立ったのだ。彼女がその場に現れただけで場の雰囲気を変えてしまった。

 隣のワンフルク大使も彼女の美貌にあてられたのか、手を合わせて何やらぼそぼそ呟いていた。



 そしてざわめきをかき消すように裁判官が、傍聴席の皆さん静粛にと声を掛ければまた静粛な空気へと変わる。


 弁護士のティナルドとヒルデハイアの二人が調停内に立てば、圧巻の美男美女の姿にさながら華やかな舞踏会のような煌びやかさが一気に法廷内に漂う。



「それではヒルデハイアさん。貴女はフーリング公爵とは以前から面識がありましたよね。そこで貴女は共同事業を何度も成功させる実績がありましたよね。しかし今回は公爵家の事業ではなく別の企業に声をかけられましたよね」


 ティナルドに話しかけられたヒルデハイアは伏しみがちな瞳を真っ直ぐに見据える。一瞬だが紫色の瞳が赤みを増した気がしたのか、ラティエは確認しようと思わず前のめりになる。



「たしかにテトラ企業に声はお掛けしましたが……。私はーー」



 不意にモブが話していた言葉が脳裏に過る。

 彼女こそがフーリング公爵を公の場に引っ張り出した張本人であり……。



「フーリング公爵にもお会いしました」


 密告者であるとも。

 妖艶に微笑んだ彼女の口からでた猛毒は場を戦慄させたのだった。




















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