26話 ソルツド帝国
目の前に広がる光景に開いた口が塞がらない。いやいや実際に口が開いてる訳ではないです、そう表現しただけですので。
さてさて私達は今どこにいるでしょうか。でんでんでんでんでーーーん。
はい、そうです!私達は遂にソルツド帝国の帝都に着いたのです。わーパチパチ。
っとまぁ一人芝居はここら辺にしときまして、と。
さて私達は今、ソルツド帝国の帝都に着いたのですが、目の前の光景をご覧ください。
何処を見渡してもレンガ調のタイルで作られた学舎や建物があちらこちらに見渡せます。
そして現在私が立っている場所はそれを一望できる場所なのですが……。
どうもラティエ・ショコルドルです。
見晴らしのいい場所からこんにちは。
何故私がここにいるかというと……。
「ソルツドの帝都は城を中心に街が作られているんだ。なんでも今ある全ての学舎は貴族住居街の跡地に建てているため、必然的に全ての学園や研究施設は城の近くに建つことになってね」
そうですカイン様に案内したい場所があるからと連れられてきたのです。此処に来るまでに入り組んだ道を歩き、階段を上らされて何処に連れられていくのかドキドキしていましたはい。
「貴族住宅街?」
「そうだよ。何故ならこの国は百年前に貴族制を廃止しているんだ」
「それなら誰が膨大な帝国の領地を担っているのですか?」
「見てごらん」
そう言ってカインはその場から一方前へ踏み出し塀に近付く。そしてラティエへと手を伸ばせばラティエは誘われるままに塀へ近付いた。
ここは帝都を一望できる。
横のカインをチラリと盗み見すればチョコレート色の瞳は未だに前を見据えたままだ。
「この国の国民だよ。百年前に彼等が勝ち取ったものがここにあるんだ」
「まさかの規模。あ、いえその……」
いけないいけない、スケールのでかい発言に思わず反射的に返してしまったが、慌てて誤魔化す。
それと盗み見みしていたことがバレてないか、と慌てて視界を四方に移し誤魔化してみるが先程から誤魔化しのオンパレードではないか。
彼の話しにどう返せばいいかと悩んでいたら澄んだ瞳と目が合う。迷いのない視線に小さく胸が高鳴るが、そんな私とは裏腹に彼の目元に影が差しこむ。
「あまり……いい話ではなかったかな」
初めは彼は何を言ってるのだろうと深みに落ちたチョコレート色の瞳を見つめる。そこには彼の瞳越しに写る私の姿に、漸く彼の言いたいことを理解した。
ああそういえば私は曲がりにも子爵家であることを彼は懸念しているのではないかと。
彼はこの国の国民と述べた。帝国の人々を貴族や庶民ではなく、偏に国民と纏めたのだ。それは一体どういう意味を示しているのか彼は勿論承知してのことだろう。何故なら彼だって貴族だ。彼の祖国だって階級社会が今も存在するこの時代に、彼はそう言ったのだ。けれど……。
「いいえ、この国の先代が勝ち取った素晴らしい国ですね。良い景色です」
私の問いに意外そうに目を真ん丸に見開いた瞳が可愛いらしくて思わず吹き出してしまった。
「ふふ。意外だと顔に書いてありますよ」
「ああいや……まあ、そうと言われれば……」
「まあ酷い!私ってそんな風に思われてたなんて」
ちょっと猫被って意地悪な言い方をしてしまったが、困ったように眉を下げる彼の姿は、私の知っているカインだったことにどこか安堵した。
とまぁほのぼのとした時間とは裏腹に目の前に差し出された紅茶を緊張した面立ちで眺める。
「お待ちしておりましたレルトリッド外相、婚約者殿。既に我が館の部屋の手配と頼まれたものは済ませおります。他にも何かご要望があれば、是非お声をお掛けてください」
「ありがとうワンフルク大使。………早速だが」
「はい」
頼まれたものとは何なのだろう。それにカインのただならぬ様子に、私達の向かいに座っているワンフルク大使は、たれ目の瞼の奥はカインに見据え、ぽわぽわした体型はほんの少し前のめりになっている。
私は場違いではないだろうか。ましてや此処にいてもよいのかとそっと隣に座るカイン様を伺うのだが。
うん、全く気にしてない様子で話しを進めているわね!
え、いいの?国絡みのやばい話しを私も聞いちゃって。
ねえ、本当にいいの?ねえ、こら、ちょっとはこっちを気にしてくれたっていいじゃないのモブーー!
「それと、我が国への出資希望はどのくらい募ったかな」
「はい。レルトリッド外相のソルツド帝国入国を聞きつけた研究学士、商会、民間企業等から面会希望があります。こちらがそのリストです」
ワンフルク大使はどこからか束ねた資料を机に置けば、モブがそれに目を通していく。
「助かります。志願者だけでなく、僕らが帝都までに辿り着くまでのそれぞれの動向まで調べて頂けるとは」
「滅相もございません。私は当然のことをしたまでです。
それとこれは何時ものでございますが……」
ワンフルク大使は封の開けられた手紙を机に起き、モブの前へと差し出す。手に取ったモブは宛先を一瞥し「さてどうしようか」と呟けば、封の中に入っていた紙を取り出し眺める。
私の危機レーダーが物騒だと反応しているのでそっと視線を反らし、用意されていた紅茶に手を付けようと伸ばしたら……。
「なるほどね。ほらラティエ嬢も見てご覧」
「え、あの……ああ!」
まさか今話を振られるなんて思いもしてなかったので、行き場を失った手にしっかりと紙を握らされてしまった。
あああラティエのお馬鹿!何で受け取っちゃったの!!なんか物騒そうじゃないこれ。
動揺した隙に握らされたそれを突き返そうとしたのだが……。
「丁度いい機会だからラティエ嬢も見に行こう。この国の歌劇が見れるからね」
「え、そうなのですね。楽しみです」
にこやかに話すモブに、ワンフルク大使が何か小さく呟いたが、生憎ラティエは気付くことなく、あらそうなのかしら、と少し緊張を緩め手元の紙を読み始めたのだが。
―第三回特許権移転裁判およびに損害賠償請求。民事訴訟。
ネーピアシュ国裁判傍聴招待。
ちょっとどういうことよモブーーーーーー!!
これのどこが歌劇なのよーー!
なにこれ裁判傍聴?特許権?
しかも第三回とか滅茶苦茶泥沼状態なんじゃないの?
どういう魂胆で彼は私にこれを勧めたの!?
紙を握る指先がぶるぶると震え、きっと私の顔色は優れないだろう。そしてこれを渡した張本人へと振り向けば……。
「楽しみだねラティエ嬢」
涼しい顔の張本人から逃れるように、思わず初対面のワンフルク大使へと助けを求めるように向けば……。
困った顔と目が合う。
あ、終わった。
皆さん、返事を返す前にきちんと確認しましょう。
ワンフルク大使「それは歌劇とは言われませんぞ……」




