24話
誤字脱字報告ありがとうございます!!自分では気付きにくく、とても助かっております!!
という訳ではウィンドリンゼル国に来たわけだけど、夜会前日にカイン様は謁見したみたいだけどどのようなやり取りかは、宿で待機していた私にはさっぱりである。けど女王陛下の様子から険悪な状況で終わったわけではなさそうで安心した。
あと結局ドラゴン騒動が公にならないのが謎すぎる。
渡されたノンアルコールの飲み物のグラスを少し傾ける。あの時は上手く話をずらされてしまった。もう一度聞き出そうにもまたはぐらかされるのではないか、と気持ちが下がり聞き出せそうにないでいた。
旅路の間でどこで用意していたのかわかないドレスはとても趣向の凝った作りでとても綺麗だ。しかしいくら綺麗なドレスでも、この気持ちを晴らしてくれるわけではない。
このモヤのかかった感情は結局張本人にしか晴らせないのではないかと思ってしまう。
「ラティエ嬢」
徐に腰を引かれ、手元のグラスを取られてしまう。近くのウェイターにグラスを渡し、何故か距離の近いモブにどうしたのだと見上げようとしたら「宰相が会場入りしたよ」と言われ、思わず肩に力が入る。
ウィンドリンゼル国の宰相は周りに見事溶け込み、何食わぬ顔であちらこちらに顔を出しているようだ。しかし……。
「気のせいでしょうか、徐々にこっちに近付いてませんか?」
「ハハハそうだね。大丈夫、僕に任せてくれればいいから」
互いに何がとは口にしない。
ちょっとこっわ!相手が少しずつこっちに近付いてきてるんですけど。しかも一度も目が合わないのが怖い。怖すぎる。
その様子にじわじわと恐怖のボルテージが上昇していく。
ちょっと宰相様!貴方のそれだるまさんが転んだのホラーバージョンみたいですから!あれ、心臓に悪いのよほんと。ホラーの映画とかであれやられると本当に無理。心臓がびくうって跳ねるし。そこから止まらない恐怖の時間~ってなるからだめだ。あれはやばいダメゼッタイ。
ドン引きしている私の様子に、触れた手から振動が伝われば、どうやらモブは笑っているようだ。どういうことだと仮面越しに笑う瞳と視線がかち合えば、何が可笑しいのだと唇を尖らせる。
この場においても飾らないモブの態度にどこか安心感を覚え、ラティエは自然と肩の力が抜けていることに気付かなかった。
「面白いからもう少し様子見しててもいいけど、こちらから動いた方が早そうだね。行こうかラティエ嬢」
「え。は、はい」
皆さん聞こえましたか!この人面白いって言いましたよ!黒です!確実に黒ですよ!(何のよ)
他国の宰相を面白いって……私は全然面白くないから!と内心突っ込みつつ、横に並ぶモブの真似して口元に笑みをうかべる。
「こんばんはノーマ宰相殿」
「これはこれはレルトリッド外相殿。そちらにいるのは」
「こちらは婚約者のラティエ嬢です。今宵は彼女と共に参加させていただいております」
「そうですか。今宵はゆっくりお楽しみください。そういえばレルトリッド外相殿は我が国の訪問は初めてですね。でしたら婚約者のラティエ様と共に我が国の各地を観光されてはいかがでしょうか。勿論道中から宿の手配全て、我が国が全面的にサポートさせていただきます」
ひいいそれって建前は観光と旅のサポートだけど、囲むき満々じゃない。我が国がサポートしますってそれって見張りですよね?
すみませーん!こちらの宰相様めちゃくちゃ物騒です!この話からしてあまり他国に情報を広めたくないみたいですし。
お願いだから私の方を見て言わないで!私今お口チャックしているの!私からは何も喋ることありませんから!
このやり取り怖いですほんと無理ですってば!
冷や汗が止まらない私を他所に、隣のモブは表情変わらず口元に笑みを浮かべ、口を開いた。
「それは実に興味深いですね。ですが申し訳ないことに既にこちら側で旅立つ準備が済んでおりましてね。貴国に寄ることには先方からの了承の手紙を頂いておりますが、なるべく期限内に間に合うようにと思いましてね」
モ、モブーーーー!表情は笑顔に、しかしモブを掴む指には力がぎゅっと入れるのを忘れない。なんてことを言っているの貴方。言わせてもらうけど、貴方は平気かもしれないけど、隣にいる私は断じて平気ではない。誰よりも物騒な人物が今まさに真横に居たなんて無茶苦茶だ。
えーと、つまり彼の言いたいことはこうだ。
貴方の国には先方から正式に許可貰って寄っただけで、用件は済んだのでさっさと退散します。あ、もう準備は済んでるからここで強行手段で止めても先約に連絡がついてるから僕たちが間に合わなかったり何かあれば貴方の国が一番に疑われてバッシングきますよ~と。あと興味深いって言っただけで行くとは言ってない。
てきなニュアンスだろう。
モ、モブ、これを笑顔で言い切るとか……ほら宰相様も口元がひきつってるよ!
「失礼ながら先方とは」
「ラムダク大国です」
「そうですか。でしたら次回、我が国に訪れる時はこの件を是非ともご検討くださいませ」
「今回は残念ですが、機会があれば是非」
副音声で「やるとは言ってないけどね」と聞こえたような気がした。
それにしてもラムダク大国の名が出た途端の宰相様の引き際が早すぎることが気になりながらも、不意にモブとばっちり目が合う。
「ん?どうかしたかな」
「貴方に任せておいたら私の心臓がもたなそうです」
他国の宰相と話している時も一貫した態度でいるモブは、やはり只者じゃない。
私には政のドロドロはまだまだ早いのでお手柔らかにお願いします。
私の物言いにモブは一度目を瞬かせ、フッと息を吐き、次にはいつものようにチョコレート色の瞳が私を映しこむ。
「こんなことまだまだ序の口だよ。さてと、重鎮への挨拶はあっという間に済んでしまったことだし、ラティエ嬢はどうする?まだこの会場でやり残したことはあるかい?」
そう言われ私は会場内をぐるりと一瞥し、この光景を記憶に止めながらゆっくりと息を吐く。
「帰りましょうかカイン様」
つい最近まで普通の学生だった私に政の腹芸はお腹パンパン。出来れば関わりたくないなぁ。モブもこう言ってくれることだし、厄介なことに絡まれる前にさっさと退散といきましょうか。
目の前の仮面を付けたパートナーに向けて、意地悪そうに笑うのだった。
「帰りましょうかカイン様」
悪戯そうに微笑む彼女にどうも調子が狂うのを誤魔化すように、セットされた髪を撫で付けるように触れる。
ラティエ嬢にも了承得たし、面倒事からはさっさと退場しよう。そもそも正式な挨拶は昨日済んでいることから、今夜の挨拶は律儀に全員と行わないでいい。今夜限りだけどね。
会場内を見回し側近のへクターも上手い具合に切り上げられそうだし、僕たちが先に退場してもそうそう悪目立ちすることはないだろう。
あちら側も漸く現地と連絡が付いたようだし、余所者の僕らは面倒事に巻き込まれる前に、さっさとこの国を出るに越したことはない。まああちらからしたら国家機密を握る僕らを易々国外から出したくないのは分かるけど、こちら側はあくまでも少し立ち寄っただけだ。
会場内には宰相が来ていた他に軍事連中も不自然のないように数名は参加していたようだが、周囲にバレないように僕らをマークしているようだからさっさと撒かせてもらおう。
それにこの国には悪いけど、僕らにも急ぐ理由がある。
一族からの情報だと、ドラゴンの流出はこの国だけではない。それに例え姿を認識出来なくとも移動したドラゴンの群れにより及ぼす影響は計り知れない。そもそもドラゴンの存在そのものを知らない国の方が多いのだから。隣にいる彼女の祖国が良い例だ。あの国は叔母上が嫁ぐ前は外交が閉鎖的で、大国側と比較すると文明が遅れていた。戦争などに合えば武器の格差であっけなく落ちるだろう。カルティロナ国周辺も同じくらいであったがためにそれなりに均衡がとれていたのだろうが。
その地にドラゴンが押し寄せたらどうなるか。ドラゴンの生態を熟知している国でも敬遠すべき対象と現状を維持しているほどなのに。
ドラゴンは人の手には持て余す生き物だ。人がどれだけ文明を進歩させようが、彼らに敵うことはない。
未だにドラゴンに関して唯一出来ることとすれば、遥か昔に交じわしたドラゴンとの契約を、名義を連ね、血縁のみの変更により、なんとか繋がりを保てているだけである。
それをして初めて認識できるんだけどね。
監視を巻くためのらりくらりと彼女をエスコートしながら彼女について考える。
隣の彼女についてはそのどれもが当てはまらないのだ。
だとすれば彼女に当てはまるのはもう一つだけ。彼女は僕の――。
「カイン様?」
「どうしたのかな」
「この道先程も通りませんでしたか」
「おやバレてしまった。このまま帰るの惜しいから少し寄り道をして楽しんでいたんだ。ラティエ嬢のドレス姿をもう少し堪能したいからね」
「(うぅ、サラッと言った!)」
実は監視を撒くために、あちこち歩いていたなんてことは言わず、嘘が口からすらすらと出る。ああでもこちらが用意して着飾らせた彼女をもう少し見ていたいのは本当だよ。そしてちょうど立ち止まった場所に掛けられた絵画へと顔を向ければ、彼女もつられるように絵画へと目を向ける。ああこれか。
「これはウィンドリンゼル王家の肖像画だね。三世紀前のだね」
「どうして分かるのですか?」
「この王族の胸に掲げる紋章が今と違うからさ。現在の王色は赤色で二又の葉に四枚の羽が重なってる。逆にこの絵画には蔦と三つの矢じりが書いてある。この矢じりはウィンドリンゼル国の山脈を表していると言われているんだ」
「紋章が時代の証拠になるのですね」
ラティエの思わぬ返答に虚を付かれたカインはふむと顎に手をあてる。
「今でこそ紋章は紋章法という規定が設けられてはいるけど、昔は皆好き勝手にしていたんだ」
「ということはこれも含まれることなのですか?」
「先に進もうか」
ラティエを促し歩き出したカインに、彼の異変に気付いたラティエは不安げな表情をする。
「(……足取りは先程と同じなのにどこか違和感を感じる。まるで先程の会話の続きを誰にも聞かれたくないような。どういうことなのかしら)」
そのまま二人はどちらともなく無言で歩き、ついに会場外に出ると先に連絡したおいた馬車が二人を出迎えた。御者がカイン達に礼を取れば素早くドアを開く。
「ラティエ嬢、気を付けて」
「ありがとうございます」
カインのエスコートの元、ステップバーに足を掛け馬車に乗り込み、ドレスに皺が付かないように座りこめば後からカインが乗り込んできた。
向か合うように座れば馬車が動きだす。それを口火に目の前に座るカインが話し出した。
「今でこそ紋章は個人、家系の象徴、組織、軍など様々なことを指し示しているんだ。けれどね、成り立ちはもっと簡易的なんだ」
「簡易的とは」
「己の認識、手柄を主張する自分の旗印だよ」
僕の言葉にラティエ嬢は目を瞬き「なるほど」と腑に落ちた表情をするので逆にこちらが引っ掛かりを感じる。
「その様子だと理解したようだね」
「……はい。何事も綺麗事では済まないのですね」
「そうだね。戦ほど混乱に応じてその場の虚偽を丸み込みやすいものはないからね」
「(言い方が物騒だなぁ……)」
カインは顎に指をつけ、どこまで説明しようか思案しながら口を開く。
「当時はユーモアな紋章で溢れてたみたいだよ。上級ならまだしも下級の兵達までありとあらゆる紋章を作ってしまって、逆に混乱が起きてしまったこともあってね。……と、話を戻そう。よく覚えておいてくれラティエ嬢、これからは流れの変化を見逃さないことが生き抜くすべだよ」
「流れの変化とは?それに生き抜くとはどういうことですか?」
「紋章が変わるとはつまりね、時代が変わることになるんだ。絵画だけでは伝わりきれないことが沢山あるんだ」
「よく、わからないです……」
「そうだね。でも事実とは、最後に残った者だけ好き勝手に語れるんだ。事実を述べるもよし、虚偽や話をねじ曲げたりもできる」
僕の話に完全に言葉を失ってしまった彼女に我ながら大人げないなと思いながらも、彼女の油断は、これから僕と旅路を同伴する行く末を考えれば、釘をさしといた方が彼女の為にもいいはずだ。
そもそも紋章を変える動機なんて、碌なことがない。彼女が知らなくていい事実を態々介入させるなど不要だ。
先程の絵画だってウィンドリンゼル国の旧王族から現王族の政権が変わった時代だと言われているが、真実は次期王配は同じ血縁者内だが、王政に付く際に民に向けて前王政の腐敗した政の印象を払拭するべく、新たに紋章を変え、新王政の印象を良くするべく取った政策の一つである。なのでいざ蓋を開ければ腐敗した上層部はそのまま鎮座し、同じ王族内で政権移行したにすぎないのだ。このことは歴史書には書かれていない。否、真実は闇に葬られたのさ。
まあそれが穴にもなったんだけどね。
お飾りの王の最後の思いきりには驚いたものだ。腐っても重役を担う者達の契約名義を除名してしまったのだから。その事態を当時のロラン家当主が大層面白おかしく記述していたので、この件では間違いなく彼は黒だろう。
そして当時の見切り戦法によって、ドラゴンを見ることが出来る者は現在ウィンドリンゼル国内にはたったの八名のみ。なので今回の確認にも国は時間がかかってしまったのだ。ああこっちも国家機密だよ。というわけで面倒事に巻き込まれる前にさっさと退散するべし(本日二度目の発言)であるのだが……。
そこでカインは目の前に座り、幼さの残る顔立ちをし、口元は今は口を閉ざしている少女を気付かれぬように視界に止める。
とりあえず目的地にて用件をさっさと済ませ次第、言いくるめて実家に居てもらったほうが安全なんだよね。いやでも実家だと癖の強い兄弟がいつ訪れて彼女に何を吹き込むか分かったものでもないし。……身内が絡むと頭を悩ませる。やるせない思いで指で顳顬に触れようとしたらカツンと金属のほんの小さな音が馬車の中に響く。そうだった今はこれを付けていたんだ。その音に気付いた彼女はゆっくりと僕を見て、瞳がかち合う。
さてどうしたものか。困ったように微笑めば、僕の表情にホッと安堵した彼女の様子に、ああそうかと思考を踏み切る。
「少し意地悪な事を言ってすまなかった。それに慣れない場所は疲れただろう」
「いえ、私も至らない所があったので」
眉を下げ困ったように話す彼女に僕はそこから話を変えるように少しおどけた口調へと変えた。
「今日も、明日も慌ただしくなるばかりだ。帰国後は暫しゆっくりさせて貰えると思いきや、次から次へと新たな仕事が舞い込んで来る。一度自国にいる時間と他国で過ごしている時間の方のどちらが多いか計算してみたくらいなんだよ」
「ふふふ、確かにカイン様はいつも慌ただしくしてますものね」
「部署は違うが同僚の殿下には、おお今日は居たのかと面と向かって言われるくらいだ」
「ふふ……それは……!」
「それにね――」
僕の話をクスクスと笑う彼女の声は馬車が止まるまで続いたのだった。
明日この国を出国する。そして僕達はラムダク大国へ向かわなければならない。




