23話
どこの国でも幼い王族が公の場に参観する際は、それぞれお目付け役もとい保護者となる者を同伴させるのだけれど……。
ちょっと待って。
保護者は保護者だけど、そっちの保護者登場ってどういうこと。
保護者違いですよ!って女王陛下こそが正真正銘の保護者か。
んんんややこしい!
にしても、いきなりすぎない?
ちょっとモブ、私たちへの挨拶は後半だっていったじゃない。なんでこんなにも早く登場しちゃったの?
え、当初と聞いてた話が違う。待ってどういうことなの。
慌ててモブの掴む指先に力を入れ、視線を投げ掛けるのだが、こちらからは涼しい横顔が見えるだけ。
その横顔だけで私はピンときてしまった。
もしかして知ってた……?
「これはこれは女王陛下、今夜の夜会、さっそく楽しませて頂いてます。こちらは僕の婚約者、ラティエ・ショコルドル嬢です。今宵は彼女と同伴させていただきました」
「ラティエ・ショコルドルと申します」
モブの紹介により女王陛下の視線が、傍にいるヘンリー王太子殿下を見てから私へと向けられた。
「ヘンリーとのダンスとても楽しそうでしたね。突然のダンスの申し込みでしたが、受けてくれてこの子もとても喜んでいるわ。」
「こちらこそとても楽しい時間でした、ありがとうございます」
私の言葉にヘンリー王太子殿下が嬉しそうにはにかんだので、私も自然と笑みを浮かべた。
「そういえばラティエ嬢はカルティロナ国出身でしたよね。私もあの有名なリュシアン伯爵のお菓子を好んで取り寄せたりしているのよ。それなりに日持ちするものを取り寄せるけど、いつか貴女の祖国に出向き、本場のお菓子を口にしてみたいわ」
「女王陛下もお取り寄せされいるのですね。彼のお店に並ぶ商品はどれも素晴らしく一級品です。きっとお二人の御眼鏡にかなう商品に出会えます」
「そうね楽しみにしているわ。それでは私達はこれで。今夜はゆっくりと楽しんでくださいね」
そう言って女王陛下はヘンリー王太子殿下を連れて会場の輪へと戻られていかれた。
しかし一息付く間もなく、隣にいるモブが私をリードして歩き出した。
「この場所は一目に付くからね。少し離れたほうがいいかなと」
「でしたらお料理を見てもいいですか?」
「この国のお菓子が気になるんだね。いいよ、折角だし行こうか。今宵の僕たちはお客様だからね」
夜会で用意された料理はどれも一級品だ。もちろんデザートもしっかり目を通していく。
「あ、これリュシアンが公開してるレシピを参考にオリジナルを作ったのね」
「見た目だけでわかるのかい?」
「彼に鍛えられましたから」
「鍛え……?」
どういうことだと首を捻るモブに、誤魔化すようにデザートの一つを皿に乗せ手渡した。
まずは食べてみてほしい。
「!」
一口サイズにカットされたケーキを口に運べば、仮面越しに瞳が一度瞬く。そして納得したように私へと振り向いた。
「お酒で漬け込んで干した無花果に他の果物が入ってるね。あとはリンゴ、レモン、レーズン、他はなんだろう?それらをケーキのスポンジでサンドしてあるね。無花果の食感だけでなく様々な食感が楽しめてとても美味しいね」
「正解です!」
私も同じものを口にすれば、想像していた通りの味にうんと頷く。
実は干し無花果はゲームの世界の攻略者から入手するアイテムの一つである。もちろんこのことは心の内に留めているけど。
「あり!きっとこのレシピを考えた人は生地にあえてデコレーションを少なめにして、サンドしてある果物を味わってほしいみたい」
「そうなんだね。あと三ヶ月程経てば、この国は桃や葡萄が盛んな産地になるよ」
「桃と葡萄!ああ残念だなぁ……このお菓子を作ったシェフはその果物で何を作るのか食べてみたかったです」
色とりどりのデザートを眺めながら呟く私に、彼は思い出したように呟いた。
「ウィンドリンゼル国は標高が高く、昼夜の、寒暖差が激しいんだ。この気候に特に適しているのが桃と葡萄の生産でね。逆にこのデザートに使われている無花果は温暖な気候の産地に適している。無花果の原産国では生果用が主な生産だったんだけど、乾果産業を取り組ませることに成功してね。こうして遥か遠くにあるウィンドリンゼル国にまで輸入することが可能になったんだ。交易はどんどん変化していく。ほんと面白いよね」
「それは……。いえ、これとかもいかがですか?」
「そうだねいただくよ」
その話だとまるで貴方が介入していたかのような思わせぶりだ。
いまだに彼の真意に辿り着けないでいる私は、目の前のモブを然り気無く観察する。
彼を知れば知るほど、わからなくなってしまう。だって彼はゲームではモブとして登場していたのだから。それなのに目の前の相手は……。
鉄製のべネチアンマスクを掛ける彼の姿に、自然と鼻と目元へ注目する。
すらりと伸びた鼻に少し薄い唇が開きデザートを口にする。その動作は品があり、人から見られることに意識している所作は、全てにおいて美しく隙がない。
外相を担う彼の手腕は、短い旅の間でも十分に知ることができた。
不意にここまで来るあいだに、あの時馬車の中で彼と交わした会話を思い出す。
「ラティエ嬢はドラゴンが飛んでいるのになぜ誰も驚かないのだと思う?」
「頻繁に遭遇するから、とこの状況からみてそういう訳ではなさそうですね。」
モブが聞いた少ない情報を何度か心のなかで復唱してみる。群れ、首輪、ドラゴンの世界規定……。ちょっと待って、その前に彼はウィンドリンゼル国について話していなかったっけ。かの国は要塞と武力により国家が成り立っていると。そう、モブは軍人力ではなく武力と表現した。では武力とは何を示すのか……。
ウィンドリンゼル国の武力はドラゴン……?ドラゴンを武力の一つとしているのかしら。日常の光景なのかしら、それならドラゴンを見ても騒ぎにはならないけど、モブが私に質問してきている段階でその可能性は消える。
ならなぜドラゴンの群れが上空を飛んでいても騒ぎが起きないのか……。
あと可能性としては首輪、かな。
「首輪に何か施してあるのですか?」
「首輪にはその個体、所有者情報が入っているね」
「まさかのハイテク機能」
ますますわからなくなった。
「うーーん渡り鳥ならぬ渡りドラゴン?」
「ハハハ、降参する?」
当てずっぽうに答えてみたら笑われてしまった。ちょっと傷付いた。
モブの降参する?の言葉に思わずジト目になる。
彼って時々意地悪な気がする。
今私の脳内では降参とヒントがぐるぐる循環している。
どうするラティエ、ここはヒントでももらっちゃう?いやそれよりもドラゴンてファンタジー要素が急に現実で起きるなん……て。
あれ、ちょっと待って。
眉を寄せ考え込むラティエに、カインは下手に話に踏み込ませぬ前にここまでにしとこうと切り上げようとしたときだった。
「そもそも、ドラゴンの世界規定とはいつから取り決めたの何ですか?」
彼女はただ疑問を口にしただけだろうその質問は、僕に対して限りなく真意をついてくるものだった。内心苦心してるのを隠しながら、何気ないように口を開いた。
「そうだね……今より四世紀頃それは議定されたよ」
「今とそれまでは内容は変わることなく継続したのですか?」
「根本は変わらないが、時代の変化には順応していったみたいだよ」
時代の変化。それでも変わらず彼らがドラゴンに拘る理由はなんだろう。首輪をしてまで国で管理する理由があのドラゴンの群れにあるのだろうか。それはあんまりじゃないか。
「ドラゴンは、人の手で管理されるべき存在なのですか?」
「まさか。人間にドラゴンを使役するなんて、一生出来きるわけがない」
「使役でも共存でもなさそう。それなら後は……」
絡んだ糸があと少しでほどけそうになりながら、ふと馬車内に貼られた地図が目に止まる。
そして何気無くウィンドリンゼル国の地形を眺める。そして先ほどモブが指先で辿って場所を記憶を辿りながらそこに行き着いた。
「!」
彼の国は高山と広い川に囲まれた要塞だと言われたが、実はそうではないのではないか。
つまり……。
「人がドラゴンの住まう土地を利用し、後から国の国境を作った……?」
ならばそれは……。
慌ててカイン様へと振り向けば、チョコレート色の瞳が曇りなく私を見つめる。
「だから人間は首輪で所有を示したくなるんだよ。彼の国にとっては緊急事態だろうね。我々は急がなくてはならないんだラティエ嬢」
モブの論点ずらしずるい




