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14話

ブクマ、評価ありがとうございます!とても励みになり、意欲になります!

 



「フフフフフ見なさい、この努力の賜物を!」

「ラティエ、年頃の淑女が自ら腰を見ろなんて発言、ピーピーでピーピーピーよ」


 拳を突き上げ高々に宣言するラティエにツィリィア(ピーピー嬢)は、なんとも言えない表情で見ている。

 この二人すっかり仲良しだ。



「それもこれもツィリィア嬢のお陰!流石、医師監修の元で(おこな)った減量は正しかった!」

「食べないだけで痩せようなど、不要な所の肉など落ちなくってよ。食、運動、睡眠この三つをどの様に調整するかが肝よ」

「はいはい先生!先生の指示では九割程身体を使って運動をしろだったと思います!」

「なにを申してるのかしら、きちんと休憩にはダンスも入れて気分転換の時間ができたのではなくって」

「それは休みに入らない!」

「淑女の基本ですわよ。あと筋肉は裏切らなくってよ」


 ちょっと最後のそれが本音じゃない?あとギラギラ美少女から筋肉(その格言)はちょっとなぁ。ファンタジー要素ゼロのお言葉を頂いた私は、コルセットをキツく絞めずに収まった自身の腰に手をあてた。本当に頑張ったんだよぉ……もっと誉めてほしい。

 ツィリィア嬢はやはりこっち(ダイエット)もスパルタで、ギラギラとニコニコが混合した表情で、鬼のメニューを言い渡たしてきたあの日を忘れられない。あまりの凄みにひたすら顔を上下に振ることしかできなかったのがとても懐かしく感じる。

 朝から晩まで丸一日びっしりとトレーニングで埋めつくされたメニューは、余所事を考える暇を与えなかった。毎日よれよれの身体でベッドに倒れこみ、秒で意識が暗転し目が覚めれば朝になっている、の毎日の繰り返しだった。

 筋肉の過度な酷使はいけないのじゃないですか、答えてください先生……と呟きながら身体をぎゅっと抱きしめると、なんか前にも似たことあったな、と薄れる意識の中で思ったものだ。



 ちなみにモブから届く手紙の返事は何を書いていたのかさっぱり覚えていない。変なこと書いてないといいんだけど。


 はあぁモブめ……。

 声にださない、大きなため息をつく。

 リュシアン(ヒロイン)のおかげで、一度は沈んだ気持ちを盛り返したが、それでも心の底で燻っているそれは何度も煽られ大きくなっていった。

 リュシアンの次には、ツィリィア嬢だ。彼女の鬼メニューのおかげでそれの存在を忘れられていた。私の内情など知らぬ二人だが、二人のおかげで助けられていたのだ。



「それではラティエ、そろそろ会場に向かいますわよ」

「はーい」



 今日は待ちに待った卒業パーティーなのだ。

 結局、モブは間に合いそうにないみたい。約束、破られちゃったな。

 四着の贈られたドレスと共に添えられたカードを、ポーチから取り出した。


 ーー合格おめでとう。ドレスは僕からのささやかなお祝いです。卒業パーティーの場にて再び会えることを楽しみにしております。カイン・レルトリッド・ロラン。


「もっと夢をみさせるようなカードを贈れないのかしら」

「わあ!ツィリィア嬢覗き見してたの!?淑女どこいったの!」

「しゅ……今から楽しいパーティーなのに、染みっ垂れた顔をしているラティエがいけなくってよ」

「えぇ、私そんな顔してたんだ……ってああそれ!」


 こらツィリィア嬢、染みっ垂れた顔とは聞き捨てならない。というか毎回不思議なのだが、どこで覚えてきたのその台詞。目の前のツィリィア嬢をじとっと見ていたら、彼女は私からカードを素早く抜き取ると、カードをまじまじと眺め、次には口元をへの字にした。


「ところでラティエ、卒業後はどうするのかしら」

「うーん、国内で惹かれる職種もないし、だからって他国で(いち)から始める度胸もないし」

「カイン様との婚約はどうなさるの?」

「……あー」

「もしかして忘れていらしたの?貴女って人は……」


 はぁと呆れたようにカードを私に差し出してきたので、そそくさとポーチにしまった。カードをポーチにしまうとき、ほんのわずかに手が震えてしまったけど、気が付いてないよね。


 ツィリィア嬢には悪いけど、私は咄嗟に嘘をついてしまった。(モブ)に会うために当然準備してきた私だし、彼に()()をするのも今日なのだ。だけど結局、モブは間に合わなかった。

 卒業パーティーの学生側は卒業試験に合格した生徒のみの参加で、唯一生徒側で外部の者が許されるのが婚約者との参加である。そして婚約者同伴の場合、会場入りを共にするのが条件である。また限られているが、我が国の各職の上官も学園から招待されるようで、パーティーは就職斡旋の場であり、身分問わずの学園の生徒にとっては最大のチャンス(売り込み)なのである。

 よって殆どは一人で参加する生徒ばかりであり、婚約者同伴は限りなくすくない。それにともなって生徒同士で楽しんでいるのが現状だ。

 モブをぎりぎりまで待っていた私は、今さら一人で会場入りするのも心細く、参加するのをやめようかと弱気になっていた私に、ツィリィア嬢が前触れもなしに迎えにきてくれたのだ。



「ラティエ!減量経過の様子を見にきてあげましたわよ!」


 そして冒頭に戻るのである。

 減量経過なんて取って付けたような話しに、私はありがたくも便乗したのであった。だって医師の仕事をする際に、彼女は必ず身分証を携帯しているのだが、今日は鮮やかなシーグリーンのドレスを纏っており、身分証は携帯していないのだ。私を心配して来てくれた友人の姿に自然と心が温かくなり、緊張していた頬が緩んでいくのだった。



 ついに学園乙女ゲームの最後のイベントである、卒業パーティー会場に到着した。会場は王宮の会場ホールを一つ借りて行われる。そして来賓には国王陛下及び王妃陛下、王太子夫婦が参加され、卒業生一人一人が王妃陛下に名前を呼ばれ、国王陛下直々に卒業証書を受理されるとても凄いイベントなのだ。ゲームではその後ダンスパーティーが開催され、ヒロインが攻略キャラに告白されるイベントなのだが、既に婚約しているのでそのイベントは起きないだろう。というよりゲームと同じキャラはモブしかいない。



 会場に付き扉が開き視界一杯に広がるのは、正装をした生徒達の楽しそうに談笑している姿だった。ちなみに正装での参加なので、衣装が自費で揃えられない生徒は卒業生と王家が寄付した衣装を流行にそって手直し込みで借り入れる救済が施され、身分の階級差による所得差により生徒が見劣りされないようにしているそうだ。

 余談だが正装で参加なのに、頑なに学生服でパーティーに特攻した変わり者もいたとか。




「やあ二人とも、ようやく来たようだね。ドレス姿とても素敵だね」

「ごきげんようツィリィア様、ラティエさん。今夜は生徒の皆さんが主役です。是非とも楽しんでいってください。(じき)に王族の皆様がお越しになりますわ」


 ダークチョコ色のタキシードを纏い、ハニーブロンズピンクの髪を片側だけアップに上げ、反対側は編み混みを入れているリュシアン(ヒロイン)と、淡いピンク色の肘下から袖口にかけて広がるデザインをパコダスリーブにマーメイドラインのドレスはシンプルで一見控えめのように見えるが、サテン素材のドレスはとても上品である。ブルネット色の髪は緩やかに巻き横に流しているエリアーゼ様。

 本来なら王太子殿下の側近の一人であるエリアーゼ様は、本日はリュシアンの婚約者としてパーティーに参加し、今夜に関しては飽くまでも脇役の立場に徹底しているようだ。卒業した後の二人には挙式がすぐ行われる。長い婚約期間を得て、遂にその時がくるのだ。とても待ち遠しい。



「お見えになられましたね」


 彼女の一声を皮切りに会場内の雰囲気が変わった。会場内で演奏する音が違う曲を奏で、それに伴うように国王陛下夫妻の登場である。そして遅れて王太子殿下夫妻が登場し、王族の姿に会場内の熱気が一層高まった。

 謁見の間にて国王陛下が会場内をぐるりと見回した。誰もが国王陛下を注視している。



「ここにいる学園の生徒達よ、王家を代表しておめでとう。さて我々王家は卒業証書の授賞を受け持っている。是非とも受け取ってほしい」

「ツィリィア・ユイット・ギュンターリッド参りなさい」


 王妃陛下の高らかな声に思わず背筋が伸び、どうやらそれは私だけではないようだ。隣の彼女(ツィリィア)も緊張した面立ちを一瞬見せたが、そこは公爵家令嬢、直ぐ様笑みを浮かべ謁見の間へと歩み寄った。そして王族の前で一度カーテシーする姿は見惚れる程にとても美しかった。

 そして次にはリュシアンの名前が呼ばれ、ボウ・アンド・スクレープと呼ばれる、貴族社会での伝統的な男性のお辞儀をした。そして次には成績優秀な平民出身の生徒が次々と呼ばれていく。おそらく貴族の男女二人を先に呼んだのは、後に呼ばれる生徒に向けて、王族の前で行う最上礼の見本として呼ばれたのだろう。


 身分、年齢共に我が国のトップに、公式の場である謁見の間でお伺い出来るなど、余程の事がない限り未成年の立場で体験することはないだろう。子爵令嬢の私だが、王族との縁は全くなかったし雲の上の方々であるのだ。それがまあモブに求婚されてからは嘘のようなことばかり起きているが……。それでも身分とはあまりにも高い壁なのだ。



「ラティエ・ショコルドル」


 名前が呼ばれ謁見の間に続く階段へと歩いていくなか、周囲が私に向けるその目がどんなことを語っているのかが理解できる。皆が皆、私ではなくその向こう側にいる存在を探ろうとしている。

 これはまだお茶会に呼ばれていたあの時と同じだ、ただの子爵令嬢が短期間で王家の者と親密に交流をしているのは何故か、と好奇心、野心、妬みが渦巻いた瞳を忘れていたのに思い出してしまった。

 何故このときに貴方は傍にいてくれないの?どうしていないのよモブ。



「ラティエ嬢」


 小さくだが暖かい声は王太子殿下で、彼女に呼ばれハッとし、謁見の間にたどり着いた私は慌ててカーテシーをした。王太子殿下が国王陛下に勲章を乗せた賞状盆を差し出せば、国王陛下はそれを手に取り「前へ」と声かけた。国王陛下の前で緊張した面立ちで立つ私とは違い貫禄のある落ち着いた態度の国王陛下は私へと勲章を差し出した。


「卒業おめでとう。これを我が王家よりそなたに」

「ありがたき頂戴いたします」



 謁見の間を降り、片手で収まるくらいの小さな勲章を両手で受け取り、まじまじと手元の中の勲章を眺めた。これは私が学園で生活した証しなのだと実感した途端、走馬灯のように過ごした三年間の記憶が、流れるように蘇ってきた。



「ラティエ、卒業おめでとう。ここにいたんだね」

「ラティエさん、卒業おめでとうございます」


 胸元に同じ勲章を付けたリュシアンが、エリアーゼ様と共に私の元へと来てくれた。


「ラティエ、卒業おめでとうですわ」


 ツィリィア嬢もドレスの胸元に同じく勲章を付けてラティエの元に来てくれた。このメンバーを見た途端、口元がわなわなと震え、視界が緩みそうなのをなんとか耐えようとしたのだが。



「可笑しいな、三年間過ごした学園なのに、思い出す事は二人の事ばっかだよ」


 学園生活の三年間で思い出す事は一年にも満たない二人との過ごした時間ばかりだった。人と深く関わることなく一人で勉強に明け暮れていた思い出ではなく、二人と過ごした短い学園生活ばかり思い出が何度も振り返っては胸が締め付けられ、そして温かくなる。


「寂しいよぉ」

「ハハハ、今生の別れじゃないんだから」

「そうですわ。手紙でのやり取りだって可能ですし、事前に連絡さえ取り合えば会うことも出来ますのよ」

「なにこの二人、ドライだな!」


 やだこの二人、少しは卒業式の感動を噛み締めるくらいしてもいいんじゃない?ほら感傷に浸るって言葉辞書にひきなよ!こら、笑ってないでそこは泣くとこじゃん!目の前の三人の笑いが済んだところでリュシアンがところで、と話をきりだした。



「二人の卒業後どうするかはきちんと聞いてなかったんだよね。僕らは挙式をした後エリアーゼが長期休暇を取ってくれたから、新婚旅行を満喫するつもりだよ」

「私は大国のトラッドルサ国にて今研究している医療の精進すべく、医療機関に属しますわ。今はまだ不可能ですが、実証が済んだら……二人の力を貸して頂きたくて」

「ん?僕のお菓子で革命起こしちゃう?なんてね、このメンバーなら面白そうだし力になるよ」

「私に出来ることなら勿論だよ!」


 私達の迷いない答えに目元が潤み咄嗟に顔を背けてしまったツィリィア嬢だけど、次に振り向いた時にはギラギラした瞳が私達を見定めた。



「もう後戻りはできなくってよ!」

「はいはい」

「ハハハ、おや曲が変わったね」


 リュシアンは頷くようにエリアーゼ様を見た後、互いに手が離れ二人は向かい合うようにしてお辞儀をした。

 そのワンシーンだけでも絵になる二人は一歩近付き互いの手へと触れリュシアンは手の甲にキスを贈った。エリアーゼ様の手の甲にキスをした体勢のまま、リュシアンは輝かしい笑顔を上目遣いの体勢で目の前の()へと向けた。



「随分待たせてしまったねエリアーゼ」

「待つのはもう懲り懲りです」

「ハハハそうだね、僕もだよ。ラティエ、ツィリィア嬢、卒業パーティーの始まりだ。僕たち夫婦は踊ってくるね」

「はいはい戻ってこなくていいから、また後日でいいから」

「行こうかエリアーゼ」

「はい。ツィリィア様、ラティエさん、また後日お茶会の招待をしますね」

「楽しみにしてますわ」

「お茶菓子と紅茶はさっぱり系でお願いします!」



 リュシアンとエリアーゼ様の婚約期間は彼が学生まで。曲が変わったということは、今この場にいる生徒全てが王族の謁見を終え、生徒としての立場を卒業したのだ。

 重圧感ある空気が賑やかな空気へと一転し、卒業パーティーが開催された。そしてはれて夫婦となった二人はダンスの輪へと消えていった。二人の踊る姿はとても幸せそうだ。


 私の知る学園乙女ゲームの告白とは全くもって違う二人のやり取りであったが、それでも二人の築きあげてきた時間での二人のやり取りなのだ。二人の幸せそうな顔を見れば、どの答えが正解なのかなど関係ないのだ。彼等には彼等のストーリーがある。それはやり直しの効かない一度きりの選択だ。



「ラティエ、メイクが落ちてしまいますわよ。一度一緒に会場から外れましょう」

「ううん、私ばかりツィリィア嬢を独占できないよ。さっきから色んな人に声を掛けられているでしょう?私は一人で大丈夫。メイクが崩れるのだけは死守するから!」



 これは感動で涙腺が弱まっただけだから!と力説する私に、眉を下げ「絶対ですわよ?」と釘を指してから何度か後ろを振り返るツィリィア嬢に手を振った。



 ラティエは会場内をぐるりと見回せば、ダンスを踊る者、友人、来客と談笑する者、会場の料理に舌鼓する者、疲れたのか椅子に座る者と本当にさまざまな光景である。今私が見ているこの景色はゲームのエンディング後の景色になるのだろうか。



「一緒に見てくれたっていいじゃない」


 ポツリと溢したそれはとても小さく、会場の音に書き消された。この光景を目に焼き付けながら、ラティエは後ろを振り向きパーティー会場を後にしようとした時に()()を見た。










ーー続きをしますか?

ーーはい/いいえ




 ゲーム画面上の選択のように()()は目の前に表示されていた。













不穏

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