11話
4番目はカインでしたごめんね!カインとこの5番目です!本人カウントしてなかったよごめんねヒーロー!
カルティロナ国の王城内には宮殿と王殿の区間がある。
ここは王族のみ立ち入る事が許される、王殿の隠された一室に二人はいた。
「お待たせしました母上」
白銀の髪をシニョンに纏め、黒の燕尾のジャケットに黒のフィッシュテールシルエットのスカートを合わせた王太子はニコヤかに席についた。
そして向かいには袖が膨れ全体的にゆったりとしたドレスを着た王妃陛下が先程まで読んでいた新聞を置く。そして目の前に差し出された封筒に焦点を合わせる。
リュシュラパスは封筒を手に取り、顔の横に翳し、わざと目の前の人物に見せ付けるようにする。
「これ、何かお分かりですよね」
「さあ、なんのこと」
平淡な答えを返す母親の姿を白金色の瞳が爛々と捉え、相手の一挙一動を逃さない。
相手が動かないようなので、こちらから一手打つとするか、と封の切られた封筒をチラリと一瞥し、口元を吊り上げる。
「実はこれ、今年の卒業試験問題集です。私も興味があったので拝借させてもらったのですが、良くできてると思います」
「ならそろそろ院を設けるのも良さそうね。リーティクに留学先から優秀な人材を引き抜く手配をしてもらいましょう」
新たに別の新聞に目を遠し始める母上に、私は先程置かれた新聞を見た。このままでは私の話もこの新聞のように済んだ事にされてしまう。確かに母上の話にも一利ある。母上の作られた学園の創立はまだ浅いが、それでもこの国の最高教育機関といっても過言ではない。
しかし学園の体制に意欲のある者や不安を持つ者もいる。卒業の先に目を向ければ専攻に特化した環境、就職先などがまだまだ限りなく少なく、整っていないのだ。そうなれば若者は次第に他国へと目を向け、留学或いは就職し我が国に帰国せずそのままそこで在住する者もいる。否、意欲、知識欲の強い者ほどおおかたそちら寄りだ。
これでは幾ら身分問わずの学園にしても、優秀な平民出身者が他国に流れていってしまう。貴族はそれなりに縛りがあるから早々他国に流れることはない。しかし縛りがない者はどうだろう。彼等はこの平和なご時世、どこまでも自由を選択できるのだ。王太子として目下の課題でもあるのだ。
と、いけないいけない。母上と話すとこうも話が飛躍し過ぎてしまう。回りくどい言い回しじゃ目の前の傍若無人な母上は真っ向に勝負してくれない。ならば私は私の駒を使うべきだ。
「カインが帰国する際に仮の婚約者であるラティエ嬢を気にかけるように頼まれましてね」
「あのこったら彼女の後見人は私なのに」
「今回については、片手で数えるくらいしか手を貸してませんよ。それでですね、彼女に直接指導した際に、時間が限られているので粗方絞って教えたのですが……」
言いかけながら用意した封筒から数枚紙を取り出し、母上の目の前に広げた。
「残念ながら私の教えた箇所は、当てが外れたようです。問題は全体的に私の受けた時より難易度が向上したこと。特に図面系が難解でこれを見てください、この図の該当から選べの絵の解読が特に難しく、これは馬?羊?なのかさっぱりでした」
「失礼ね兎よ」
「……試験間際になって王家が試験問題を代える暴挙など前例がないよ母上」
「ズルをしたのはどちらが先か」
澄ました顔で新聞を畳む母上にうーんと頬を掻く。
「確かに私のしたことはほぼ答えを教えるようなもの。ですが教えるだけで試験が合格できるなど、母上が作られた学園はその程度なのでしょうか……おっと」
わざと挑発的に話す私に、母上は持っていた新聞でぽんと叩こうとしたのでヒョイと避けた。これがカインのとこの五番目だったら避けれなかっただろう。母上が武闘派でなくてなによりだ。
「ここ最近ウィンドリンゼル国でキナ臭い噂を耳にするのよ」
「あの国は近隣の帝国と親和国でしたよね。そして帝国には直系の二番目がいたはずです」
「実は二番目から新雪の茶会を欠席すると連絡が来たのよ」
母上の言葉に私はピタリと動きをとめ、組んでいた足をゆっくりと地面につけた。
「なるほど、母上は彼女を国に留めておいた方が良いとそう判断したのですね」
「ロラン家直系に嫁入りする娘は二通り。血統、教養、戦術、このどれかの地盤がしっかり培っている娘と………血を知らない平凡な娘のどちらかよ。なのにお前ときたら、あんな大勢の前で高らかと……」
「私はあの時はアレで良かったと思いますよ」
「はぁ、またいつものソレ。言い出したら引かないのだから、彼女がこの国にいる間は貴女が最後まで責任を持ちなさい」
「勿論です。それでは母上失礼します」
私の返答に満足したのか、また違う新聞を取り出し読み始めた母上に仕方ないとばかりに広げた問題集を集め封筒にしまいその場を後にする。
部屋を出た途端、廊下がうねりその中をコツコツと足音を鳴らし歩いていく。
私が彼女の家に訪問し、終えて直ぐに母上は試験問題の改変を行いだしたのだ。私の能力は一族同士では相性が悪い。それに意地が悪いのが、私は既に作られている試験内容を言い当てているだけであって、そこからまた違う未来を身内から提示されれば前言撤回なんてことは茶飯事なのだ。身内さえ絡まなければ私の勘は必ず外させない。
あの日以降彼女の元に通うこともできぬまま、次の手を考えていた私だったが、そこで事前に学園へ特別授業を持ちかけていたのが功を成した。
ある日教師側のやる気が一変し凄まじくなったそうだ。恐らく母上の作り上げた試験問題が露見した頃だろう。
そして私は時間をもて余していたツィリィアに、彼女の勉強を見てもらうように頼んだのだ。ツィリィアの性格上、問題を絞るのではなく手広く教えるだろうと見込んでいたのが正解だった。
お陰でラティエ嬢は偏った知識を持たずに試験に挑めただろう。
「あとはカインだけだね」
うねりが消え王殿の王族だけが入ることが許される中庭廊下に繋がり視界が鮮明に写し出される。そのまま歩みを緩めずに進み続けたのだった。
今ラティエの目の前には卒業試験の結果用紙が裏返しに置かれている。
こんにちはラティエ・ショコルドルです。本日は魔の卒業試験が終わりその結果を紙にて知らされーー。
「ほらラティエ、さっさといっちゃいなよ」
「なにをちんたらとしているのラティエ。そんなことでは将来夫婦のピーピーピーもピーピーピーになるわよ」
「ツィリィア嬢落ち着いて。ほらほら~ラティエ~」
「仕方ありませんわ、今回は例年より難問ばかりと聞きましてよ。不安になるようなら特別に私が渇を入れてさしあげてよ」
「聞こえてる?糖分が足りてないのかな、ほらキャラメルだよ食べて食べて」
「……あああふぉい!!」
キャラメルを2、3個口元に詰められたところでいい加減にしろとぶちギレたラティエであった。
ほんとこの二人キャラ濃いな!!ちょっとはセンチメンタル気分でいさせてほしいし、ちょっとは心で呟く余裕がほしい。私の持ち味を殺すな!
口の中のキャラメルをもちゅもちゅ食べながら目の前の騒がしい二人をじろりと恨めしく見つめた。
この二週間ばかりの間に何故か目の前の二人が仲良くなっていた。そして当時の二人の会話がーー。
「いや~ラティエの他に学園でこんな愉快な子がいたなんて知らなかったよ」
「男女二人でいるなんて変な噂の的になってよ!仕方ないから私が同伴してあげなくもなくってよ」
ーーである。思いがけない二人のタッグに危うく思考が飛びそうになった。本来のゲームでは、卒業パーティーイベントを残し他のイベントがないのだ。なのになんかヒロインとピーピー嬢の友情イベントっぽいのが起きてる。今まで全く接点がなかった二人なのに。やっぱりここはゲームとは違うのだ。
そして現実は卒業試験を逃れることが出来ないのだ。
試験が開始され問題集を解き進めて、次の問題用紙に手を掛けざっと目を通した時だった。
「にしても、あの絵はなんだったのでしょう」
「うーん、野菜に顔が書かれて羽根もついてる」
なんか変な絵が書かれている。しかもその一問だけではなくあと四問もあるのだ。一瞬で不気味な絵が脳内を占拠した。そして今は試験中だとハッとし、慌てて問題を解いていくのだが、あの絵をもう一度見たら絶対勉強した記憶が吹き飛ぶと警鐘がなり、絵の書かれた問題を最後にすっ飛ばし問題を解いていった。
そして時間ギリギリまでその絵が答えのどれに該当するのかで頭を悩ませた。この現象が試験科目全てにあった。なんとか全部の試験が終了するが、私だけでなく周囲の生徒はみんなげっそりしていた。
今回内容がとてつもなく難しかっただけでなく、あの絵により掛けられるストレスが半端なかった。試験が終わっても周囲の会話が絵についてばかりである。おいあの絵を書いた張本人出てこいと。
そして自己採点をするが、絵についてはどれが答えなのか辿り着く事ができなかった。とんだ番狂わせだ。あと時々夢に出てきて魘されるという噂を聞く。
伏せられた結果用紙に手を掛けると、親友のヒロインと目が合う。にこりと微笑む姿は本当にヒロインだ。
「それでラティエ、自信は?」
その一言にこの試験勉強期間の記憶が一気に駆け巡っていく。
親友のヒロイン、王太子殿下、ピーピー嬢ことツィリィア嬢、応援してくれた家族、そして………チョコレート色の彼。短い期間で沢山の人に助けてもらった。今まで学園では一人で頑張ってきたのに。一人きりの私は何を見てきたのだろう。
ーー「それなら、試験が終わったらもっと見聞を広げてみないかい」
彼の言葉を思いだし、まるで先を見透かされているような気分だ。ムッとなり思わず口元を尖らせてしまった。
「わかるかボケーー!」
勢い良く紙を表にしたのだった。
ちょっと魔道杯してて遅れました




