20話 朝の時間。
準備が終わって時計を見ると、大体六時半だった。
食堂が開くのは七時だから、あと三十分暇を潰さないといけない。……何をしよう?
「あ、そうだ。外に出て絵でも描こう。ちょうど良い題材が外で満開の事ですし。」
「そう言えば、コトハって絵上手だよね〜。初めて会った時から思ってたけど。」
「あはは、お世辞でも誉めてくれてありがとうございます。…その言葉に便乗すると、私の絵は好きこそ物の上手なれってやつですね。好きだから上手くなりたいと思うんです。」
「分かる!僕もお母さんやお父さんみたいに研究したり、機械をバババッて弄ったり、いろんな物を作ってみたいんだけど、中々上手くいかなくて…。手製の簡単なオルゴールとかしか作れないんだよね。」
「それも十分凄いと思いますよ?」
そ、その年で手製のオルゴールを作ったとか……手先が器用ってレベルじゃねぇぞ。やっぱりメイさんの遺伝なのか?
「(コレも気にしたら負けなのか…。)じゃあ、スケッチブックに…色鉛筆だけ持っていきますか。そんなに凝った絵を描くわけでもありませんし。」
「僕も絵描きたいなぁー。でも、スケッチブックないし…。」
…コレは、遠回しに貸してと言っているのか?
「良ければ、スケッチブック一冊差し上げましょうか?」
「え!?悪いよ!一冊丸々貰うなんて!僕はノートで描くから、……その、色鉛筆の方を貸してくれると嬉しい。」
モジモジと俯くルナさんを、抱き締めてしまったのは、仕方ないと思うんだ。(だってこんなに可愛いんだもの!)
「ふぅ~、まだ朝方は冷えますねぇ。」
ほんのり白く染まった息を見て、私は呟いた。
「ローブの中にセーター着てくれば良かったかも…ブルル!」
「そうですねぇ。でも日中になると暑くなって脱いで、結局帰りに荷物になるんですよね…。日向にいるのに寒ィ…。」
春って過ごしやすいけど、気温が不安定だから苦手よ…。
「ワフッ!」
「ぬおぉ!」
「あ、ワンちゃんだ!」
近くに、白くてモッフモフの犬が来た。
犬、実は苦手なんですけど…。
…『私』の時、チワワか何かの小型犬種に指を噛まれかけて…それ以来、犬が近づくとトラウマ…て言うか怖いんだよね、たまに見える牙とか特に。(可愛い顔して、やるときはやる凶暴性を持っているからな、犬ってやつは。…お前らは必殺する仕事人か!必殺なんてしないで悩殺でもしてよ!顔は良いんだから!!)
「(こっち来ないでぇ~!!)」
あ゛あ゛、どうすりゃ良いのよこの状況!何、祈るしかないの?こっち来ないでって祈るしかないの?
「ワンちゃん~、おいでおいで!」
ルナさんお願いだから空気読んでぇ~!!
私めっちゃ拒否ってるからね!見たら分かるくらい、分かりやすく怖がってるからね!?
「コトハも触らないの?この子、凄く毛並みがよくてモフモフだよ!」
モフモフでしょうなぁ!(ヤケクソになるくらい犬が苦手なんだよ!)
「クゥン?」
だからこっち来ないでって言ってるだろうがぁぁあ!
いや、そんないつぞやの猫モドキの様にキラキラした目で見られても…。
「このワンちゃん、コトハの事好きなんだね。」
「ワフッワフッ!」
「犬、全否定してますよ?…と言うか、言葉理解できてるんですね。」
ファンタジー使用ってやつですか?
「って、うぁあ!」
い、犬が足に体を擦り付けてきた!?…く、くすぐったい!今日はソックスにしてきたから尚更膝周りが!
そぉっと犬の顔を窺ってみると、……て、照れてるのか?何か顔辺りが赤い気がしてきた。(気がするだけで、実際は違うのだけど…。)
「ワ、ワフッ!ワンワン!」
……犬、あんたまさか…、ツンデレなのか!?
「(可愛いんだけど、怖いんだよ!何度も言うけど私犬苦手なんだよ!全力で苦手なんだよぉ!)…なでなで。」
は、可愛いものを見ると頭撫でたくなる癖で、つい撫でてしまった!
「…!!クゥ~ン!」
懐くなぁ!……は、コレも人酔い体質と同じて治さないといけないのか?……でも…怖ぇ。
「おーい、アイン~?飯の時間だよー!!」
何時間か犬と戯れていたら(犬が一方的に私に絡んできて私が逃げ回るのを、ルナさんが楽しそうに眺めつつ絵を描いていた。……眺めていないで助けてよ!)、遠くから椛さんの声がした。
「ワフッ!」
すると、犬は椛さんの声がした方へ走っていった。……助かった。
「わ、私生きてますよね?」
「何言ってるのコトハ。犬と遊んだぐらいで人は死なないよ?」
「……気分的な問題です。」
絵を描く気が精神的疲労のせいでなくなったので、とりあえず部屋に戻ることにした。
「あ、そだそだ。…コトハ見て、さっきのワンちゃん描いてみたの!」
「……ルナさん、絵スゲェ上手いじゃないですか。」
何この子、本当に小学生?(私が言うのも何だけど。)




