奇襲のお時間です。
幼女から放たれる、鋼鉄すら貫かんとする威力の一撃が、俺の腕に深く食い込んだ。
あまりの衝撃に数メートル吹き飛ばされ、腰と背中を地面に強く叩きつけられる。
しかし、幼女への視線だけは決して逸らさなかった。
俺が地面に倒れ込んでも、幼女はなお追撃の機会を窺っている。
防御の体勢を取ろうとしたが、足場が悪く間に合わないことを悟った。
死の予感が脳裏をよぎったその刹那
——幼女が猪のように突き進む直線的な軌道が、真横に逸れた。
レオニダスが、重い一撃を幼女の側頭部に叩き込んだのだ。
ここでようやく立ち上がり、戦況を把握する。
数メートル先には、二メートルを超える体躯と同等の大剣を構えたレオニダスがいた。
さらに奥には荒廃した空間が広がり、
その中央のクレーターで、
ミルディンと恐らくもう一人の影が、
激しい魔法の撃ち合いを繰り広げていた。
他の騎士たちは、ミルディンの応戦が足を引っ張ると判断したのか、
肉弾戦に持ち込めそうなレオニダス側に陣形を組んでいた。
騎士たちの数は、すでに三分の一ほど減っているように見えた。
もはやこんな非常事態に、誰かを悼む暇などない。
俺はレオニダスの背後を抜け、ミルディンのもとへと急いだ。
武技を解除し、腰に携えた華奢な剣を銃のように構えて唱える。
『電磁砲』
人体の血液に混じる魔力は、心臓から全身へと送られ、体内を循環する。
その循環の途中で、指先から第二の器官のように魔力を剣の柄へ流し込む。
剣先へ到達した頃には、剣は閃光のように輝いていた。
右手で握った剣の腹を左手首に固定し、燃える瞳の先にある魔法陣のようなスコープを覗き、対象を捉える。
そこに映っていたのは、ローブを羽織った骸骨——リッチだった。
リッチに致命的な弱点はない。
俺は狙いやすい胴体へ、剣先の照準を合わせた。
『充填』
本来なら最大出力が理想だが、一刻を争う状況では最低限の出力で放つしかない。
数秒で目標とする魔力が満ちる。
再度、対象を捕捉。
『発射』
柄から剣先にかけて、大中小の魔法陣が次々と発現した。
剣先に太陽のような発光球体が生み出される。
その球体は雷鳴を伴い、対象に向かって放たれた。
音よりも速く、
銃弾よりも強く、
剣よりも鋭く
——球体は一直線に突き進む。
リッチはそれに気づいたのか、
数メートル先へテレポートして軌道から退避した。
俺はその動きを読み、即座に剣先を退避先へ向ける。
『操舵』
球体は軌道を急激に変化させ、リッチに着弾した。
直後、落雷のような轟音が戦場に響き渡る。
俺は急いでミルディンのもとへ駆け寄った。
「ミルディン!!大丈夫か!?」
「私は大丈夫ですよ!」
ミルディンはそう答えて微笑んだ。
しかし、その表情はすぐに険しく曇った。
「私は無事ですが……
騎士たちの一部は、命を落としてしまいました……」
「私が、私が非力なばかりに……」
ミルディンは小さな拳を握りしめ、俯きながら溢れんばかりの涙を必死に堪えていた。
俺は力強く言い放った。
「何、しけた面してんだよ!!
今は残った俺たちが全員無事で生き残ることに集中すべきだろ!?
お前の黒いローブは喪服か?
違うだろ、あのリッチをぶちのめすための戦闘服だろうが!!」
ミルディンは小さな手で涙を拭い、王国筆頭魔術師としての威厳を取り戻した顔を見せた。
「おっしゃる通りですね。まずは、あの骸骨野郎をぶちのめしてやりましょう!!」
そう意を決した瞬間、何かが俺の横を掠め、先ほどリッチが吹き飛ばされた場所へ飛んでいった。
振り向くと、レオニダスがこちらに向かってきていた。
「おい!!オーズ、ミルディン、お前らだけでも魔王のところへ向かえ!!」
「は? 何言ってんだ?
俺たちであの二人の相手をした方がいいに決まってんだろ!?」
レオニダスは眉間に深い皺を刻んで言った。
「その通りだ。だがな、オレたちは魔王を討つために来た。
そして、恐らく今回の奇襲が失敗すれば、人類最後の砦である王国は陥落する。
だから、お前たち二人でも奇襲作戦を遂行してこい。」
「いや、でも、ミルディンはあの骸骨と、レオニダスと騎士たちは幼女で、それぞれ実力に大差はなかった。
俺たちが抜けたら不利になるのは目に見えてるだろ!?
俺たちにお前らを見捨てろって言うのか!?」
「そうですよ!!
あのリッチは私とオーズさん、その幼女はレオニダスさんと騎士たちで戦うのが最善です。私たちが抜けたら不利になるのは明白です!!」
俺とミルディンは必死にレオニダスを説得しようとした——
しかし、レオニダスは無言で俺たちの首根っこを掴み、後方へ投げ飛ばした。
そして、静かに告げた。
「お前ら、生きて伝えろ。
アルティシマ王国の人々に。
俺たち騎士団は、祖国のために最期まで剣を構え、この命尽き果てるまで戦い抜いたと。そして、盛大に弔ってくれとな。」
レオニダスの、鍛え抜かれた鬼神のような広い背中。
そこには、騎士としての重く気高い誇りが宿っていた。
周囲の騎士たちも、その背中を追うように進んでいく。
そのうちの一人が、俺の肩に手を置いて言った。
「もう、あんな馬鹿げた訓練をしなくて済むよ」
もう一人が続けた。
「後は任せたぞ」
かつて共に訓練を耐え抜いた仲間たちが、次々と目の前の戦場へと消えていく。
俺は彼らの覚悟を、騎士としての志を、無碍にすることはできなかった。
最後の一人が俺たちの前を通り過ぎた後、立ち尽くすミルディンの手を強引に引き、再び湿地林の暗闇へと姿を消した。




