入学のお時間です。
目を腫らし、涙が出尽くした頃、
俺はギルガメッシュに一連の物事の核心に迫る問いを投げる。
「なぁ、
幼女はお前じゃない誰かに命令されてこの村を襲ったと言ってたよな……?
幹部すら洗脳し、魔王に成り代われる存在なんて俺には一つしか思い付かない」
「察しの通り、我ではない元の邪神によるものだろう」
「お前は一体、どこまで知っていたんだ?おかしいと思ってた。
奇襲作戦が漏洩していたとして、
その情報を使って命令を下したのは間違いなくお前だ。
ただ、その魔王はなぜか本来の邪神と今は敵対している。
お前と二人三脚でやっていくなら、隠し事は無しだ」
「別に隠していたわけではない。ただ、この秘密を打ち明けるべき時ではなかった。いいだろう。お前にこれまでと、これからを明かす。これで、晴れてお主も共犯者だな」
――そう、ギルガメッシュ、いやギルと、この日を境に俺たちは利用し合う関係から仲間へと変わった。
「新入生代表スパルタクス・トラキア、こちらの壇上にて、代表の挨拶をよろしくお願いします」
俺は人生で二度目となる入学式に参加している。
前との違いは新入生代表であることと、
見に来てくれる両親も家族もいないということだ。
数万人という新入生たちは俺の名前を聞き、荘厳なホールにざわめく声が響く。
俺はそんなのをお構いなしに、堂々とした足取りで登壇する。
壇上は顔がよく見えるように、顔をしかめてしまうほどに眩しい。
俺はあの村の襲撃から約六年が経過し、十五歳となった。
典型的な挨拶をべらべらと話しながら、これまでを振り返る。
村が無くなった後、俺は湿地林を抜け、地方都市へ向かった。
そこの領主とは昔から村と特殊な関係があった。
よく考えてみれば合点がいく話だが、
俺の生まれた、
正確にはギルに転生先に選ばれたこの村は、かなりイレギュラーな場所だった。
まず、俺の村は領主がいない。
理由は単純で、誰も湿地林があり物資の供給が容易でなく、魔族との戦線になりやすいあの地に住みたがらないからだ。
住み着く住民がいなければ、領主を置く意味がない。
しかし、そんな村にある時から住み着く者たちが現れた。
それは魔族との混血として新たに誕生した種族である獣人族だった。
獣人族は主に二つに分けられた。
一つは、俺たちの祖先に当たる獣人としてではなく、より人間に近くなろうと、戻ろうとした一族。
それがトラキア族だ。
二つは、獣人として生きることを誇りに、魔族としての血をより濃くしたウェルシペリス族だ。
あの二度も俺を襲った幼女はこの血統らしい。
トラキア族はそのままあの土地に残り、ウェルシペリス族は各地に散らばった。
中には魔王の軍門に下る者、
戦闘能力の高さを買われ兵士という名の駒とされる者、
そして奴隷に落とされる者など。
様々だ。
中には盗賊になる者も案外多い。
一方でトラキア族は混ざり者だと過酷な差別に晒され続けていたが、
あの土地は前述したように戦線になりやすい。
そのため、魔族の襲撃から村を、一族を守るために追い返し続けた。
その結果、時代の変遷と共にトラキア族は蔑称ではなく、
高い武力を誇る一種の権威ある一族へと世論は好転していった。
これが先の地方都市の領主との関係性に繋がる。
誰も住み着かない領地である国の最前線を一族が守り続けたと、周囲は思うようになった。
そのことが国王から評価され、特例でトラキア族として自治権を得た。
湿地林とあの村一帯は全てトラキア族の自治領となり、族長が実質的な貴族でいう当主となった。
そして、俺の先代はこの先、自給自足では厳しいと感じたらしく、
一族としての格が上がったこのタイミングで、近くの辺境伯にとある交渉を持ち出した。
その交渉とは、
[トラキア族は自治領を守るためとはいえ、辺境伯様は我々によって間接的には守って貰っている。
それにも関わらず、そちらは我々に何もお返しをして下さっていない。
金銭は要求しません。
もし、我々が戦争関連以外の危機的な状況に陥ったら、今度はそちらが我々を守ってほしいのです]
といったものだった。
結局、この約束を要求することは長きに渡ってなかった。
しかし、その約束を守ってもらう時がきた。
トラキア村が滅んだ。
身寄りの無い俺は、ギルに約束を使うよう促され、身柄を確保して貰ったのだ。
そして、俺は辺境伯の養子となった。
トラキア村が滅んだ事実は公には伏せられた。
理由は、魔王軍にトラキア族の抑止力が無くなったと伝われば、
辺境伯領が危険に晒されるからだ。
それから、俺は十五歳になるまで辺境伯領内でスパルタクス・トラキアの名を捨て、九歳から下等教育学校に通っていた。
そうして、俺が十五になるタイミングで辺境伯領の軍事が整い、
トラキア村の滅亡を公表することになった。
だから、俺は自分の名で、
一族の名でこのアルティシマ王立魔法学院に入学することが叶った。
以上が俺のこれまでだ。
「――以上、新入生代表スパルタクス・トラキア」
俺は深々と一礼し、壇上を降りる。




